①生命保険

【経営者必見】事業承継で生命保険はどう使う?自社株・納税資金・退職金

「そろそろ事業承継を考えたい」と動き始めた経営者が、金融機関や保険の担当者から必ずといっていいほど勧められるのが生命保険です。しかし、「なぜ会社の引き継ぎに保険が関係するのか」「本当に自社に必要なのか」が分からないまま話だけが進み、戸惑う——そんな声を多くいただきます。

資金繰りも現場も背負う経営者ほど、根拠のあいまいな提案に大切な会社の資金を投じることには慎重になるはずです。ですが結論からお伝えすると、事業承継で生命保険が役立つのは事実です。ポイントは「どの課題に、どう使うか」を正しく理解することにあります。

【この記事の結論】

  • 事業承継の資金問題の核心は「換金しにくい自社株に高い税金がかかる」こと
  • 生命保険が活きる場面は「納税資金・役員退職金・争族対策」の3つ
  • 契約者・被保険者・受取人の組み合わせでかかる税金が変わる。目的から逆算して設計する

本記事では、事業承継における生命保険の役割を、中小企業診断士・1級FP技能士の視点で、特定の商品名を出さずに整理します。読み終えるころには、自社に保険が必要かどうかを判断する土台ができているはずです。

この記事で分かること

  • なぜ事業承継で生命保険が必要になるのか(自社株という財産の特殊性)
  • 「とりあえず保険」に入るとつまずく理由
  • 生命保険が活きる3つの場面(納税資金・役員退職金・後継者への配慮)
  • 契約形態(契約者・被保険者・受取人)で税金が変わる仕組み
  • 保険に頼りすぎず、事業承継全体を設計する進め方
タップできる目次

1. なぜ事業承継で生命保険が必要になるのか

事業承継で生命保険が問題になる根っこには、「自社株」という財産の特殊性があります。まず、その全体像を3つの視点から見ていきます。

1-1. 自社株は「換金できないのに高く評価される」財産

非上場の中小企業では、社長が自社の株式(自社株)の大半を持っているのが一般的です。この自社株は市場で売買できず現金化が難しいのに、相続税や贈与税の計算では会社の利益や純資産をもとに評価され、業績が良い会社ほど高く評価される傾向があります。つまり「売れないのに税金だけは高くかかる」財産なのです。

非上場株式の評価では、会社の規模などに応じて「類似業種比準方式」(同業の上場企業と比べて評価する)や「純資産価額方式」(会社の純資産をもとに評価する)などが使われます。いずれの方式でも、利益や資産が積み上がっている優良企業ほど評価額は大きくなりがちで、後継者が引き継ぐ際の税負担も重くなります。会社を頑張って成長させたことが、そのまま税負担として跳ね返るという構図が、事業承継を難しくしているのです。

1-2. 相続税は「現金・10か月以内」という重い制約がある

後継者が自社株を相続すると、その評価額に応じた相続税を、原則として現金で、10か月以内(相続開始を知った日の翌日から)に納める必要があります。相続財産の多くが自社株や事業用資産で、現預金が少ないと、後継者は納税資金の工面に苦労します。

1-3. 放置すると後継者が会社の資産を手放しかねない

納税資金が足りなければ、後継者は自社株や会社の資産を売って現金を作らざるを得ず、経営が不安定になります。ここで、経営者に万一のことがあったときにまとまった保険金が現金で支払われるようにしておけば、その資金を納税に充てられます。「必要なときに、まとまった現金を用意できる」ことこそ、生命保険が事業承継で使われる最大の理由です。

要するに、事業承継の資金問題の核心は「換金しにくい自社株に高い税金がかかる」ことであり、その現金を備える手段の一つが生命保険だ、ということです。

2. 「とりあえず保険」でつまずく3つの理由

「事業承継といえば保険」と、まず加入から入る経営者は少なくありません。しかし目的を決めずに入ると、かえって遠回りになります。その理由を3つに整理します。

2-1. 目的があいまいなまま加入してしまう

同じ生命保険でも、納税資金の準備、役員退職金の準備、後継者以外への配慮では、必要な保険金額も契約の形もまったく異なります。「誰の・何のためのお金か」を決めないまま加入すると、いざというときに使いにくかったり、金額が過不足になったりします。

【ありがちなすれ違い】

  • 納税資金のつもりで加入 → 契約形態のせいで受取人に所得税がかかり、手元に残る額が想定より目減り
  • 目的があいまい → 金額が過大で保険料が資金繰りを圧迫、または過小で納税に足りない

目的を先に定め、その目的から逆算して金額と契約形態を決める——この順番が何より大切です。

2-2. 契約形態を誤ると、かかる税金が変わる

生命保険は「契約者(保険料を払う人)」「被保険者(保障の対象)」「受取人(保険金を受け取る人)」の組み合わせによって、保険金にかかる税金の種類が相続税・所得税・贈与税と変わります。この設計を誤ると、想定外の税負担が生じることがあります。詳しくは3章で表にまとめます。

2-3. 2019年の税制改正で「税負担の軽減ありき」は通用しにくい

かつては保険料の大部分を損金にしながら高い返戻率を得る法人保険の設計がありましたが、2019年の税制改正で損金算入のルールが見直され、そうした手法は難しくなりました。税務上の効果だけを狙った加入は、制度改正で前提が崩れるリスクがあります。

要するに、保険は「入口」ではなく「設計」が先であり、目的・契約形態・税制の前提を押さえずに加入すると失敗しやすい、ということです。

3. 生命保険が活きる3つの場面と契約形態

事業承継で生命保険が活きる場面は、大きく3つあります。順に見たうえで、最後に「契約形態と税金」の関係を表で整理します。

3-1. 自社株の相続税・納税資金を準備する

最も代表的なのが納税資金対策です。経営者を被保険者として契約しておけば、万一のときに支払われる保険金を、後継者が相続税の納税に充てられます。会社の資産を切り崩さずに納税できる点が狙いです。

個人が受け取る死亡保険金には、相続税の計算上、次の非課税枠があります。

【死亡保険金の非課税枠】

  • 500万円 × 法定相続人の数

(例)法定相続人が3人なら 1,500万円まで非課税(要件があります)

この枠を踏まえて金額を検討すると、納税資金を効率よく準備できる場合があります。

3-2. 役員退職金の原資を準備し、自社株評価の引き下げにつなげる

「役員退職金 生命保険 メリット」と検索されるように、退職金の準備と事業承継対策は関係します。会社を契約者とする生命保険で、解約時の返戻金などを役員退職金の原資に充てる考え方があります。

さらに、役員退職金を支給するとその分だけ会社の利益や純資産が減り、結果として自社株の評価額が一時的に下がることがあります。株価が下がった時期に後継者へ株式を渡せば、税負担をおさえられる可能性があります。ただし過大な退職金は損金と認められないことがあり、金額の妥当性には基準がある点に注意が必要です。

【役員退職金の準備で意識したいこと】

  • 適正額の目安:最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
  • 出口の設計:支給予定時期と解約返戻金のピークを合わせる
  • キャッシュフロー:保険料の支払いが本業の資金繰りを圧迫しないか

なお、経営者が在任中に万一のことがあった場合の死亡退職金にも、相続税の非課税枠「500万円 × 法定相続人の数」が、死亡保険金とは別枠で使えます。

3-3. 後継者以外の相続人に配慮する(争族対策)

相続財産の多くが自社株の場合、後継者に株式を集中させると、他の相続人が受け取る財産が少なくなりがちです。民法には最低限の取り分(遺留分)があり、これを主張されると後継者は代わりのお金(代償金)を用意しなければならないことがあります。

経営者が生命保険に加入し後継者を受取人にしておけば、その保険金を代償金に充てられます。保険金は原則として受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象から外れるため、自社株は後継者へ集中させつつ、他の相続人へは現金で配慮するという両立が図りやすくなります。

3-4. 契約形態(契約者・被保険者・受取人)で税金が変わる

最も間違えやすいのが契約形態です。経営者を被保険者とする代表的なパターンを整理すると、次のように税金の種類が変わります。

契約者(保険料負担) 被保険者 受取人 かかる主な税金
経営者本人 経営者 後継者・相続人 相続税(非課税枠が使える)
後継者 経営者 後継者本人 所得税(一時所得)
後継者 経営者 後継者以外の家族 贈与税
会社(法人) 経営者 会社 会社が受取(退職金原資に活用)

3-5. 納税資金を準備する他の方法と生命保険の位置づけ

自社株の納税資金を準備する手段は、生命保険だけではありません。代表的な方法と比べると、生命保険の特徴がはっきりします。

手段 特徴 留意点
延納 相続税を分割で納める 利子税がかかる。担保が必要な場合がある
物納 現金の代わりに財産で納める 要件が厳しく、非上場株は認められにくい
金庫株(会社による買取) 後継者が株を会社に売り資金を得る 会社に買取資金と分配可能額が必要
生命保険 万一の際にまとまった現金を確保 保険料の負担が続く。目的に合った設計が必要

延納や物納は相続が「起きてから」の対応で、選択肢が限られます。これに対し生命保険は「起きる前」に現金を準備しておく事前の備えです。どれか一つを選ぶというより、自社の財産構成に応じて組み合わせて考えるのが現実的といえます。

要するに、生命保険は「納税資金・役員退職金・争族対策」の3場面で活き、目的ごとに契約形態を変える必要がある——設計次第で効果が生きも死にもする、ということです。

4. 保険に頼りすぎない:専門家と組む事業承継設計

生命保険はあくまで手段の一つです。事業承継を成功させるには、保険単体ではなく全体の設計が欠かせません。押さえるべきポイントを3つに整理します。

4-1. 「現状把握 → 方針 → 手段」の順で進める

事業承継の対策は、次の順で進めます。

  1. 現状把握:自社株の評価額・相続税の概算・後継者の有無を確認
  2. 方針決定:誰に・いつ・どう引き継ぐかを決める
  3. 手段の選択:生前贈与・持株会社・事業承継税制・生命保険などを組み合わせる
  4. 実行と見直し:税制改正や業績変化に合わせて点検する

保険は③の一部にすぎず、①を飛ばすと必要額すら決まりません。

4-2. 税務の最終判断は税理士・専門家と確認する

契約形態による課税の違いや、事業承継税制の適用可否は、個々の事情で大きく変わります。生命保険は「事業承継税制で株式の納税を猶予したが、要件を満たせなくなった場合の備え」としても使えます。制度は改正されるため、実行前に税理士・弁護士など専門家に確認することが欠かせません。

4-3. 財務・事業承継・保険を横断できる相談先を選ぶ

保険の担当者は保険に、税理士は税務に強い一方、事業承継は財務・事業・税務・保険が絡み合う総合的なテーマです。KICKコンサルティングは、中小企業診断士・1級FP技能士の視点で、自社株評価の把握から資金繰り、保険を含む手段の選択までを横断して整理します。特定商品の販売ありきではなく、経営全体の観点から必要な備えを一緒に考えます。

ご相談では、たとえば次の点を一緒に確認します。

  • 自社株のおおよその評価額と、相続が起きた場合の相続税の概算
  • 後継者の有無と、後継者以外の相続人とのバランス(争族リスク)
  • 役員退職金の想定額と、その原資・支給時期の見通し
  • すでに加入している保険が、事業承継の目的に合っているか

こうした現状を数字で「見える化」することで、保険を含めた備えの過不足がはっきりします。漠然とした不安を、具体的な打ち手のリストに変えることが、最初の一歩です。

要するに、生命保険は事業承継全体の設計の中で使ってこそ活きる——現状把握から手段選択までを横断できる専門家と組むのが確実だ、ということです。

5. まとめ:まず自社株の評価と納税額を把握する

事業承継における生命保険は、正しく使えば経営者の大きな支えになります。最後に要点を振り返ります。

〜〜〜この記事のまとめ〜〜〜

◎ 事業承継の資金問題の核心は「換金しにくい自社株に高い税金がかかる」こと

◎ 目的・契約形態・税制の前提を決めずに「とりあえず保険」は失敗のもと

◎ 生命保険が活きる場面は「納税資金・役員退職金・争族対策」の3つ

◎ 契約者・被保険者・受取人の組み合わせで、かかる税金が変わる

◎ 保険は手段の一つ。まず現状把握から、専門家と全体を設計する

「自社株がいくらに評価されるのか」「うちは何から手をつければよいのか」——迷いの正体は、多くの場合現状が数字で見えていないことにあります。自社株の評価額と相続税の概算が分かれば、必要な備えの大きさが具体的に見えてきます。

KICKコンサルティングでは、自社株評価の把握から事業承継の設計、資金繰りまでをワンストップでお手伝いします。まずはお気軽に無料相談からお問い合わせください。

参考(一次情報)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘を行うものではありません。税制・制度は改正される場合があり、税務上の取扱いは個々の状況によって異なります。実行にあたっては、税理士・弁護士等の専門家に必ずご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 事業承継の生命保険は、個人契約と法人契約のどちらがよいですか?

目的によります。納税資金や代償金の準備は経営者個人の契約、役員退職金の準備は会社(法人)の契約が使われることが多いです。契約形態で税金の種類が変わるため、税理士に確認しながら決めると安全です。

Q. 生命保険に入れば相続税は必ず安くなりますか?

必ずではありません。保険金には「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠がありますが、契約形態や他の財産の状況で効果は変わります。あくまで納税資金を用意する手段と考えてください。

Q. 役員退職金の準備で自社株の評価は本当に下がりますか?

退職金の支給で会社の利益や純資産が減れば、自社株の評価額が一時的に下がることがあります。ただし過大な退職金は損金と認められない場合があり、金額の妥当性には基準があります。実行前に専門家の確認が必要です。

Q. すでに事業承継税制や生前贈与を進めています。保険も必要ですか?

併用が一般的です。たとえば事業承継税制で納税を猶予しても、要件を満たせなくなった場合の備えとして保険が役立つことがあります。全体設計の中で要否を判断しましょう。

Q. まず何から始めればよいですか?

自社株の評価額と、相続が起きた場合の相続税の概算を把握することです。金額の輪郭が見えて初めて、保険をいくら・どの形で使うかを検討できます。まずは現状の整理からをおすすめします。

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