【税務調査が気になる方へ】法人保険を調査の前に整える4つのチェック項目
たとえば、社長が、同業の経営者の会合で、税務調査の時に法人保険の書類を一通り見せてほしいと言われた、という話を聞いたとします。自社にも保険の契約がいくつかありますが、どの書類がどこにあるのか、社長はすぐには思い浮かびませんでした。
見直しのご相談では、保険の契約そのものより先に、契約の書類と帳簿が合っているかを確かめたい、という声を伺うことがあります。
法人保険は、契約の種類や時期、加入の範囲によって、保険料の経理の扱いが変わります。契約を続けている間に担当者が替わると、書類と帳簿のつながりが見えにくくなります。
この記事では、法人保険の目的のうち「見直し・税務の整理」を扱います。税務調査の前に、法人保険で整えておきたい4つのチェック項目と、つまずきやすい場面を説明します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。
この記事は、保険への加入や解約をお勧めするものではなく、税務調査への対応を代わりに行うものでもありません。税務の判断、申告、経理処理の確定、税務調査への立ち会いは税理士の領域です。
結論
- 契約の一覧と帳簿の一致
- 加入の範囲と規程の一致
- 契約の時期と種類ごとの経理の区分
- 解約・名義変更・保険金の受け取りの記録
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
この記事で分かること
- 今週できる3ステップ
- 法人保険で整える4つのチェック項目
- 書類と帳簿で起こりやすい3つのずれ
- FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
1. 税務調査の前に分かる、法人保険の書類と帳簿の3つのずれ
ずれは3つあります。どれも、契約の時の扱いが、その後の担当者の交代や役員の異動で引き継がれないことから起こります。
1-1. 2019年7月8日以後の契約を、それより前の扱いで処理している
2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険と第三分野保険は、最高解約返戻率に応じて保険料の扱いが決まります。最高解約返戻率が50%を超える契約は、一定の少額の契約を除き、保険料の一部を資産に計上します(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。
2019年7月7日以前の契約は、それまでの取扱いが続きます。同じ会社の中に、扱いの違う契約が混在していることがあります。
たとえば、前任から経理を引き継いだ経理担当者が、新しく加わった、資産計上の対象になる定期保険も、それまでの契約と同じ仕訳で保険料を処理していたとします。中途で入社した経理課長が、保険会社から届いた契約内容のお知らせと帳簿の保険積立金を並べ、新しい契約の資産計上の額が帳簿に載っていないと気づきます。
経理課長は、決算の前に顧問税理士と、過去の期の扱いを直す方法を決めました。
1-2. 役員と部長だけを、遺族が受取人の保険の対象にしている
死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、役員や部課長など特定の人だけを被保険者にしている場合は、保険料(養老保険では損金にできる2分の1の部分)が、その人への給与として扱われる場合があります(法人税基本通達9-3-4・9-3-5。出所:国税庁)。職種・年齢・勤続年数などの合理的な基準で、全員に同じように設けた差は、特定の人だけの扱いになりません(法人税基本通達9-3-4の注。出所:国税庁)。
たとえば、社長が、部長への昇格を祝う席で、部長以上だけを対象に、遺族が受取人の保険に入ると決めたとします。就業規則の点検に来た社会保険労務士が、弔慰金規程は全従業員を対象にしているのに、保険の対象は部長以上だけで、規程と保険の対象がずれていると指摘します。
社長は、保険の対象の決め方を、職位ではなく勤続年数の基準に書き直す案を、取締役会に出しました。
1-3. 退任する役員への名義変更を、解約返戻金の額だけで考えている
会社の保険を、退職金の一部として役員個人へ名義変更することがあります。2021年7月1日以後に保険契約の権利を支給する場合、支給の時の解約返戻金が、支給の時の資産計上額の70%に満たない契約(9-3-5の2の適用を受けるものに限る)は、資産計上額で評価します(所得税基本通達36-37。出所:国税庁)。
たとえば、社長が、退任する専務への退職金の一部として、専務が被保険者の保険を名義変更すると決め、評価は解約返戻金の額で考えていたとします。名義変更の書類の準備を頼まれた保険の担当者が、支給の時の解約返戻金と資産計上額の差を確かめ、評価の額が解約返戻金と違う場合があると社長に伝えます。
社長は、退職金の総額の内訳を見直し、株主総会の議案を差し替えました。
要するに、契約の時期の扱いの混在、加入の範囲と規程のずれ、名義変更の評価の見落とし、の3つが起こりやすいずれです。
2. 経営者が法人保険の書類の整理を後回しにしてしまう背景
背景は3つです。契約が長く続くこと、担当者の交代、保険の書類が経理の書類と別に置かれることです。
2-1. 契約が長く続き、加入の時の事情が分からなくなる
法人保険には、保険期間の長い契約があります。加入した時に、何の目的で、誰の判断で決めたのかが、時間がたつと分からなくなります。
2-2. 経理と保険の担当者が、それぞれ替わる
経理の担当者も、保険の担当者も、年月とともに替わります。引き継ぎでは帳簿は渡されても、契約ごとの経理の考え方までは伝わらないことがあります。
2-3. 保険の書類が、経理の書類と別の場所にある
保険証券は社長の机や金庫に、帳簿は経理の部屋に、と置き場所が分かれがちです。並べて見る機会がないと、ずれに気づきにくくなります。
要するに、長い契約、担当者の交代、書類の置き場所の分かれ、の3つが背景です。
3. 税務調査の前に、法人保険で整える4つのチェック項目
チェック項目は4つです。契約の一覧と帳簿、経理の区分、加入の範囲と規程、解約や名義変更の記録の順に確かめます。まず次の表で全体を見ます。
| チェック項目 | 中身 | 確かめる資料の例 |
| 1. 一覧と帳簿 | 契約の数と保険積立金の額の一致 | 保険証券・総勘定元帳 |
| 2. 経理の区分 | 契約の時期・種類・最高解約返戻率 | 契約内容のお知らせ |
| 3. 加入の範囲と規程 | 対象者・受取人と規程の一致 | 退職金規程・弔慰金規程 |
| 4. 解約・名義変更の記録 | 手続きの日・金額・決議 | 議事録・保険会社の通知 |
3-1. チェック項目1 契約の一覧と、帳簿の保険積立金が合っているか
最初に、会社が契約者の保険をすべて一覧にします。契約者・被保険者・受取人・保険の種類・契約日・保険料を書き出し、帳簿の保険料と保険積立金の額と並べます。
帳簿と書類の保存期間も確かめます。法人税の帳簿書類は、確定申告書の提出期限の翌日から7年間、欠損金が生じた事業年度などは10年間保存します(法人税法施行規則第26条の3・第59条。出所:国税庁)。
3-2. チェック項目2 契約の時期と種類ごとに、経理の区分が合っているか
次に、契約ごとに、2019年7月8日以後の契約か、定期保険・第三分野保険か、最高解約返戻率はどの区分か、を確かめます。最高解約返戻率は、保険会社の資料や契約内容のお知らせで確かめられる場合があります。
養老保険は、定期保険の通達とは別の扱いです(法人税基本通達9-3-4。出所:国税庁)。種類ごとに、帳簿の処理が契約に合っているかを見ます。
3-3. チェック項目3 加入の範囲と受取人が、規程と合っているか
退職金規程や弔慰金規程の対象者と、保険の被保険者の範囲を並べます。受取人が会社か遺族かも確かめます。規程の支給額と、保険金額の大きさが釣り合っているかも見ます。
3-4. チェック項目4 解約・払済・名義変更・保険金の受け取りの記録があるか
最後に、過去に解約や払済、名義変更、保険金の受け取りをした契約について、手続きの日、金額、決めた会議の議事録がそろっているかを確かめます。
解約返戻金を受け取ると、資産に計上していた額との差額が益金または損金になります。払済にした時は、原則として、その時の解約返戻金の額と資産計上額との差額を、益金または損金に算入します(法人税基本通達9-3-7の2。出所:国税庁)。
4つの項目がそろっていると、税務調査の時だけでなく、保険の見直しや役員の退任の時にも、判断が早くなります。
要するに、一覧と帳簿、経理の区分、加入の範囲と規程、手続きの記録、の4つを順に確かめます。
ここまでで、税務調査の前に法人保険で整える項目の要点を解説しました。法人保険の見直しについて、全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】法人保険の見直し 全体像を整理する5つの手順
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4. FP1級が見る、法人保険の書類と帳簿の点検項目
見る点は4つです。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険証券よりも、契約ごとの「なぜ入ったか」です。目的が分かると、規程や帳簿との関係が整理しやすくなります。
4-1. 契約ごとの目的が、一言で言えるか
事業保障、役員退職金の準備、従業員の福利厚生など、契約ごとの目的を書き出します。目的が言えない契約は、整理を考える価値があります。
4-2. 目的が重なる契約がないか
同じ人を被保険者にした、同じ目的の契約が重なっていないかを見ます。重なっていると、保険料が資金繰りを圧迫する原因になります。
4-3. 決めた時の記録が残っているか
加入、解約、名義変更を決めた時の議事録や、検討した資料が残っているかを見ます。記録があると、担当者が替わっても経緯を説明しやすくなります。
4-4. 相談先の役割分担が決まっているか
経理処理と税務調査への対応は顧問税理士、規程は社会保険労務士、保険の手続きは保険の担当者です。FPは、契約の一覧・規程・帳簿を1枚に並べ、ずれている所を整理する役割で関わります。
要するに、契約ごとの目的、目的の重なり、決めた時の記録、相談先の役割分担、の4つを見ます。
5. 今週できる、法人保険の書類と帳簿を整える3ステップ
今週できるのは3ステップです。書類を整えるために、保険を急いで解約したり、新しく契約したりする必要はありません。
5-1. 保険証券と契約内容のお知らせを、1か所に集める
社長の机、金庫、経理の部屋に分かれている保険の書類を、1つのファイルに集めます。契約ごとに、最新の契約内容のお知らせを添えます。
5-2. 契約の一覧を作り、帳簿と並べる
契約者・被保険者・受取人・種類・契約日・保険料・目的を一覧にします。帳簿の保険料と保険積立金の額と並べ、合わない所に印を付けて、顧問税理士に見てもらいます。
5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる
税務調査の前の法人保険の整理で失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、契約の書類の処分の3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。
削りすぎの場面
たとえば、社長が、税務署から調査の事前の連絡を受け、保険の契約を少なくしておこうと考え、借入金の返済に備えて入っていた、社長が被保険者の定期保険を解約したとします。翌月の融資の相談で、取引銀行の担当者が、社長に万一があった時の返済の備えを尋ね、社長は、備えがなくなっていると気づきます。
解約した契約は元に戻せず、保障はその時点でなくなります。社長は、返済の備えを説明できず、融資の額が希望より減りました。
過剰の場面
たとえば、社長が、新しい契約に入った時に、古い契約の扱いを決めないまま、目的が重なる2つの契約を払い続けていたとします。翌期の予算を話し合う会議で、工場長が、同じ社長を被保険者にした事業保障の契約が2つあり、その保険料のために設備の修繕の予算が組めないと指摘します。
社長は、目的が重なる古い契約を払済にして、以後の保険料の支払いを止めました。払済にできるかどうかは契約によって異なり、その時の経理処理は法人税基本通達9-3-7の2に沿って決まります(出所:国税庁)。
契約の書類を処分していた場面
たとえば、総務担当者が、事務所の移転の片付けで、すでに解約した保険の証券や、契約の時の設計書をまとめて処分していたとします。社長に頼まれて契約の一覧を作っていた時に、以前に解約した契約の解約返戻金と資産計上額の内訳が分からず、社内に資料が残っていないことが分かります。
総務担当者は、保険会社に、解約した契約の履歴と金額の証明を出してもらうよう依頼しました。
要するに、書類を1か所に集める、一覧を帳簿と並べる、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。
6. 税務調査と法人保険のよくある質問
Q1. 税務調査では、法人保険の何を確かめられますか。
確かめられる内容は調査によって異なります。一般的な整理としては、契約の内容と保険料の経理処理が合っているか、加入の範囲や受取人が規程と合っているか、解約や名義変更の処理が合っているか、などがあります。調査への対応は顧問税理士に相談します。
Q2. 2019年より前の契約は、どう扱いますか。
2019年7月7日以前に契約した定期保険などは、それまでの取扱いが続きます。2019年7月8日以後の契約は、最高解約返戻率の区分に応じて扱いが決まります(解約返戻金のない短期払いの一部は2019年10月8日以後の契約から。法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。どちらの扱いかは、契約日で確かめます。
Q3. 保険の書類は、何年保存すればよいですか。
法人税の帳簿書類は、確定申告書の提出期限の翌日から7年間、欠損金が生じた事業年度などは10年間保存します(法人税法施行規則第26条の3・第59条。出所:国税庁)。解約した契約の書類も、解約した事業年度の書類として保存しておくと、内訳を確かめやすくなります。
Q4. 役員だけを対象にした保険は、問題がありますか。
死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、役員や部課長など特定の人だけを被保険者にしている場合は、保険料(養老保険では損金にできる2分の1の部分)が、その人への給与として扱われる場合があります(法人税基本通達9-3-4・9-3-5。出所:国税庁)。受取人が会社の契約とは扱いが異なります。個別の判断は税理士に確かめます。
Q5. 保険を役員に名義変更した時の評価は、どう決まりますか。
2021年7月1日以後に保険契約の権利を支給する場合、支給の時の解約返戻金が、支給の時の資産計上額の70%に満たない契約(9-3-5の2の適用を受けるものに限る)は、資産計上額で評価します(所得税基本通達36-37。出所:国税庁)。それ以外の契約は、原則として解約返戻金の額で評価します。
Q6. 調査の前に、保険を解約したほうがよいですか。
調査を理由に解約する必要はありません。解約すると保障はなくなり、解約返戻金と資産計上額の差額は、その事業年度の益金または損金になります。目的が合っている契約は続け、目的が重なる契約があれば、時期と経理処理を顧問税理士に確かめてから整理を考えます。
7. まとめ|税務調査の前の法人保険は、一覧と帳簿をそろえることから
- 契約の一覧と帳簿
- 規程と加入の範囲
- 税務と経理は税理士の領域
- 契約の時期と種類ごとの区分
- 解約・名義変更・払済の記録の保存
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
筆者は駆け出しのころ、保険料が上がると相談に来られた方に、背景を伺わないまま保障を減らす話をして、納得いただけなかったことがあります。それ以来、契約ごとに、誰を守るために入ったのかを先に伺うようにしています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。契約の一覧を作るところから、一緒に進めます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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