【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え
「社長が倒れたら、この会社は3か月もたない」。こう言われて反論できる中小企業の社長は、どれくらいいるでしょうか。主要な取引先の窓口は社長、価格と納期を決めるのも社長、金融機関に業績を説明するのも社長。この形の会社では、社長に万一のことがあった瞬間に、売上・資金・信用の3つが同時に揺らぎます。
影響は会社だけにとどまりません。従業員は雇用の不安を抱え、取引先は条件の見直しを求めます。そして社長の家族は、家計の柱だった役員報酬が止まるうえに、会社の立て直しに巻き込まれます。本記事では、保険代理店で10年・1,100名のご相談に向き合い、現在は中小企業診断士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士として法人支援150社以上に携わる松本昌史が、社長が売上を支える会社に必要な「事業保障」の考え方と、従業員と家族を守る5つの備えをまとめて解説します。借入金と連帯保証の問題は、姉妹記事で別に扱います。
結論
- 事業保障とは、社長に万一のとき会社が事業を続け、従業員の雇用と取引先への支払いを守り、家族に負担を残さないための資金の備え
- 社長の営業力・人脈・信用で売上が立つ会社は、社長不在の最初の半年で資金が細り、信用が揺らぎやすい
- 備えは必要資金の見える化 → 属人化を減らす → 法人保険で財源 → 家族を守る役割分担 → 毎年の点検の5つ
この記事で分かること
- 社長に万一のとき、取引先・金融機関・従業員・家族に何が起きるか
- 必要資金の積み上げ方(固定費・買掛金・死亡退職金・弔慰金・後継体制)
- 社長への依存(属人化)を減らす実務
- 法人保険で財源を用意するときの契約の形と税務の留意点
- 会社の備えと家族の備えをどう分けるか
- 長期療養・社長交代の場面で事業保障がどう変わるか
1. 社長に万一のとき、会社と家族に起きること
結論として、影響は取引先・金融機関・従業員・家族の4方向に、ほぼ同時に広がります。
1-1. 取引先は条件の見直しで反応する
社長が主要な取引先との関係を一人で担っている会社では、社長が不在になった瞬間に取引先が不安を抱きます。「新しい担当で品質は保てるのか」「納期は守れるのか」。その不安は、取引条件の変更という形で表れます。支払サイトの短縮、発注量の減少、場合によっては現金取引への変更。売上が減る前に、資金が先に細ります。
1-2. 金融機関は「誰が説明できるか」を見る
金融機関との関係も社長個人に乗っている会社が多くあります。業績の説明、資金繰りの見通し、返済計画の相談を社長だけが担っていると、不在になった途端に会社の中に金融機関と話せる人がいなくなります。既存の借入金の返済は続き、新たな融資の相談は慎重に扱われます。借入金と連帯保証が家族に及ぶ問題は、姉妹記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】借入金と連帯保証から家族を守る事業保障 6つの備え
1-3. 従業員は雇用と士気の両方で揺れる
従業員にとって社長の不在は、給与が払われ続けるかという直接の不安です。受注が減れば仕事が減り、優秀な人から先に転職を考えます。退職が連鎖すると、残った取引先への対応力まで落ち、立て直しがいっそう難しくなります。従業員の雇用を守るには、売上が回復するまでの給与の原資が必要です。
1-4. 家族は収入と立て直しの両方を背負う
社長の役員報酬が家計の柱である家庭では、社長の万一は収入の停止を意味します。さらに、株主である配偶者が急に代表就任を求められる、会社の状況を知らないまま従業員と取引先への説明を迫られる、といった事態が起こります。相続財産の多くが自社株や社長から会社への貸付金で、現金化しにくいことも家族の負担になります。家族を守るとは、生活費を渡すことに加えて、会社の立て直しの負担を家族に押し付けない仕組みを作ることです。
1-5. リスクは認識されているが、備えは後回しになっている
一般社団法人日本損害保険協会の「中小企業のリスク意識・対策実態調査2023」では、事業活動を行ううえで何らかのリスクを認識している中小企業は86.4%にのぼります(出所 日本損害保険協会)。リスクを認識している会社が大半でも、社長自身の万一を資金の問題として備えている会社は限られる、というのが相談の現場での実感です。
要するに、社長の万一は取引先・金融機関・従業員・家族の4方向に同時に広がり、最初の半年の資金と信用をどう守るかが分かれ目になります。
2. 経営者が事業保障の備えを先送りしてしまう背景
結論として、先送りの原因は、属人化を強みと感じる心理と、必要額が見えないことの2つです。
2-1. 「自分がいるから回っている」は強みであり弱み
社長の人脈と判断で受注が決まる会社は、社長にとって手応えのある会社です。だからこそ、その強みが同時に最大のリスクであることに気づきにくい。元気なうちは「倒れたら」を想像する機会も無く、備えは後回しになります。
2-2. 必要額が分からないから動けない
「いくら備えればよいか」が分からないと、保険の提案を受けても判断できず、何もしないか、提案された金額をそのまま受け入れるかになります。必要額は、固定費・買掛金・退職金の積み上げで自分で計算できます。計算できれば、過剰も不足も見えてきます。
2-3. 会社の備えと家族の備えが混ざっている
社長個人の生命保険で会社の運転資金まで備えようとしたり、会社契約の保険で家族の生活費まで賄おうとしたりすると、どちらも中途半端になります。会社の資金は会社契約で、家族の生活費は個人契約と死亡退職金で、と役割を分けると設計が明確になります。
要するに、属人化への無自覚と必要額の不明と役割の混同が、事業保障の先送りを生んでいます。
3. 従業員と家族を守る事業保障 5つの備え
結論として、次の5つを順に進めれば、会社と家族の両方を無理なく守れます。
3-1. 備え1 必要資金を見える化する
社長に万一のとき、会社に必要な資金を項目ごとに積み上げます。
| 項目 | 考え方 |
| 固定費の数か月分 | 賃料・給与・リース料など。売上回復までの期間を見積もる(目安として半年から1年) |
| 買掛金・支払手形 | 取引条件が現金取引に変わった場合の増加分 |
| 売上減少の穴埋め | 社長が担っていた取引先の売上のうち、失う可能性のある部分 |
| 死亡退職金・弔慰金 | 規程に基づく支給額。遺族の生活費の原資になる |
| 社長からの借入金 | 相続財産になるため、返済して遺族に現金で渡せるようにする額 |
| 後継体制の整備費 | 外部人材の登用、顧客引継ぎの期間の費用 |
| 借入金の返済 | 残高と連帯保証の有無を確認(姉妹記事で詳述) |
この合計から、会社の現預金と売掛金で賄える額を引いた不足分が、保険などで備える金額の目安です。
3-2. 備え2 社長への依存(属人化)を減らす
資金の備えと同時に進めるのが、社長に集中している情報と関係の分散です。保険は資金を用意しますが、取引先との関係は用意できません。
- 顧客情報の文書化 主要取引先ごとの担当者・取引条件・経緯・注意点を社内で共有できる形にする
- 複数名での接点 主要取引先と金融機関には、社長以外にもう1人、顔の見える担当を置く
- 権限の委譲 見積・発注・支払の承認権限を段階的に分け、社長不在でも日常業務が止まらないようにする
- 後継候補の明示 社長の万一のとき誰が代表を務めるかを、株主と役員の間で決めておく
属人化が減れば、必要な保障額そのものが下がります。資金の備えと組織の備えは、両方を進めるほど互いの負担を軽くします。
3-3. 備え3 法人保険で財源を用意する
事業保障の財源として最も一般的なのは、会社を契約者、社長を被保険者、死亡保険金の受取人を会社とする法人契約の生命保険です。社長に万一のとき、会社が保険金を受け取り、固定費・買掛金・死亡退職金の支払いに充てます。会社が受け取った保険金は使途が自由で、取引先と金融機関に「資金は確保されている」と示したうえで、後継体制を整える時間を作れます。
税務の面では、2019年(令和元年)の法人税基本通達9-3-5の2の改正により、保険期間3年以上の定期保険と第三分野保険は2019年7月8日以後の契約から(解約返戻金のない短期払いの定期保険・第三分野保険は2019年10月8日以後の契約から)、最高解約返戻率が50%を超える契約では返戻率の区分に応じて保険料の一部を資産計上する取扱いになっています(出所 国税庁 法人税基本通達)。「保険料は全額損金」と一般論で考えず、保障額と保険料の水準を目的から決め、経理処理は顧問税理士に確認します。会社が受け取った保険金に益金が発生する場合は、退職金の支給などで損益を調整できるかも税理士と検討します。
ここまでで必要資金の積み上げと財源の考え方を解説しました。ご自身の会社の必要額を具体的に計算したい方は、ご相談ください。売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いませんので、まずは固定費と主要取引先の一覧をお持ちください。
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3-4. 備え4 家族の生活を守る役割分担を決める
会社契約の保険金は会社のものです。家族の生活費には、会社から遺族に支払う死亡退職金・弔慰金と、社長個人の生命保険を充てます。遺族が受け取る死亡退職金は、相続税の計算上「500万円×法定相続人の数」まで非課税とされています(出所 国税庁 タックスアンサー No.4117)。弔慰金は、業務上の死亡では普通給与の3年分、業務外の死亡では普通給与の半年分に相当する額まで、相続税の対象とならない取扱いがあります(出所 国税庁 相続税法基本通達3-20)。死亡保険金にも同様の非課税枠が別にあります(出所 国税庁 タックスアンサー No.4114)。
これらを踏まえ、死亡退職金・弔慰金規程に支給額と受取人を明記し、家族が受け取る金額を先に決めておきます。さらに、家族が会社の立て直しを背負わないよう、代表を引き継ぐ人と株式の扱いを決めておくことも家族への備えです。会社は会社契約と後継体制で守り、家族は死亡退職金・弔慰金と個人契約で守る。この分け方が、過不足の無い設計の基本です。
3-5. 備え5 毎年1回、点検する
売上の構成、主要取引先の数、従業員数、社長の年齢は毎年変わります。決算のたびに、必要資金の表と保障額を見比べ、属人化が減って必要額が下がっていれば保障を減額し、事業が拡大していれば増やします。社長交代のときは、被保険者が前社長のままの契約を見直し、新社長の保障を先に確保してから整理します。
要するに、必要資金を見える化し、属人化を減らし、法人保険で財源を作り、家族の備えを分けて設計し、毎年点検する。この5つが事業保障の全体像です。
4. 死亡だけではない、長期療養・事業承継と事業保障の関係
結論として、事業保障は社長の死亡だけでなく、長期の療養と社長交代の場面でも必要になります。
4-1. 社長が長期療養に入ったとき
社長が亡くなるより頻度が高いのは、病気やケガで数か月から1年以上、経営の現場を離れる事態です。この間も社長の役員報酬を続けるのか、営業を代行する人材の費用をどう賄うのか、金融機関への説明を誰がするのか。死亡保険金は支払われず、売上は落ち、固定費は続きます。会社を受取人とする就業不能や重い病気に備える法人契約の保険を事業保障に含めておくと、療養中の資金の空白を埋められます。給付の条件は保険の種類で異なるため、どの状態で支払われるかを契約前に確認します。
4-2. 事業承継の場面での被保険者の切替
後継者が決まり社長が交代すると、事業保障の対象は新社長に移ります。前社長を被保険者とする契約を残したまま新社長の保障が無い期間を作らないよう、交代の前に新社長の契約を確保し、そのうえで前社長の契約を退職金の財源や整理に回します。後継者が自社株を買い取る資金や、先代の死亡退職金の財源も、この切替のときに合わせて設計します。
4-3. 個人契約と法人契約の役割比較
| 項目 | 法人契約(受取人 会社) | 個人契約(受取人 家族) |
| 保険料の負担 | 会社。税務上の扱いは契約の種類と最高解約返戻率で異なる | 社長個人。生命保険料控除の対象 |
| 保険金の使途 | 固定費・買掛金・死亡退職金・後継体制の整備 | 家族の生活費・教育費・住宅ローン等 |
| 保険金の税務 | 会社の益金。資産計上額との差額が課税対象になる場合がある | 相続税の対象だが死亡保険金の非課税枠あり(出所 国税庁 タックスアンサー No.4114) |
| 向いている目的 | 会社を守る | 家族を守る |
会社契約の保険金は会社に入り、家族へ直接渡す仕組みはありません。家族に渡るのは、会社が規程に基づいて支給する死亡退職金・弔慰金です。この流れを理解したうえで、会社の分と家族の分を別の契約で用意するのが、過不足の無い設計です。
要するに、事業保障は死亡・長期療養・社長交代の3つの場面を想定し、法人契約と個人契約の役割を分けて設計します。
5. 中小企業診断士とファイナンシャル・プランナーが一緒に見る事業保障の設計
結論として、事業保障は保険の金額の問題ではなく、会社の資金繰りと組織の設計、そして家族の生活設計の問題です。
5-1. 資金繰り表から保障額を決める
当社は中小企業の経営改善を専門とし、資金繰りの立て直しに多く携わってきました。事業保障のご相談では、保険の資料より先に、月次の固定費と主要取引先ごとの売上を伺います。そこから「社長が不在になった月から半年間の資金繰り表」を作ると、必要額が具体的な数字になります。この数字があれば、保険の提案を受けても過剰か不足かを自分で判断できます。
5-2. 家族の側に立って考える
保険代理店での10年間、1,100名のご相談で痛感したのは、社長の万一のあとに最も困るのは、会社の事情を知らないご家族だということです。取引先は誰で、金融機関との約束は何で、保険金はどこに入り、何に使うのか。この情報を1枚にまとめて家族と後継候補に共有しておくだけで、万一のときの混乱は大きく減ります。
5-3. 事業保障で起こりやすい3つの注意点
- 保障額の根拠が無い 創業時に勧められた保険金額のまま10年が過ぎ、従業員は3倍、固定費は倍になっているのに保障は変わっていない。必要資金の表を作り、毎年見直します。削りすぎれば売上回復までの給与が払えず、保障の空白が雇用の喪失に直結します。
- 重ね持ちによる資金繰りの圧迫 反対に、不安から保障を積み増し、年間の保険料が利益を超えて賞与や設備投資の原資を削る。保障は必要額の範囲に収め、属人化が減れば減額します。削りすぎと増やしすぎの両面を見ます。
- 保険だけで備え、属人化を放置する 保険金で半年の資金は確保できても、取引先の窓口が誰もおらず、半年後に売上が戻らない。顧客情報の文書化と複数名での接点づくりを、保険と同時に進めます。
要するに、資金繰り表から保障額を決め、家族と後継候補に情報を共有し、根拠の無い保障・重ね持ち・属人化の放置の3つを避けることが設計の要です。
6. 今週中にできる3つの一歩
結論として、最初の一歩は保険の見直しではなく、事実を集めることです。
- 主要取引先の一覧を作る 取引先ごとの年間売上・担当者・社長以外の接点の有無を1枚に書き出します。
- 月次の固定費を書き出す 賃料・給与・リース料・返済額の合計を出し、半年分と1年分を計算します。
- 家族と後継候補に共有する準備をする 保険証券の保管場所、顧問税理士と金融機関の連絡先、万一のときの代表者を一覧にします。
要するに、取引先・固定費・連絡先の3つを揃えれば、必要資金の計算は専門家と一緒に短時間で終わります。
7. 事業保障のよくある質問
Q1. 事業保障にはいくら必要ですか
固定費の半年から1年分、買掛金の増加分、失う可能性のある売上の穴埋め、死亡退職金・弔慰金、社長からの借入金の返済額を積み上げ、会社の現預金で賄える額を引いた不足分が目安です。会社ごとに異なるため、資金繰り表から計算します。
Q2. 取引先を社長しか知らない会社は、何から始めればよいですか
主要取引先ごとの担当者・取引条件・経緯を文書にし、社長以外にもう1人の接点を置くことから始めます。属人化が減れば、万一のときに失う売上が小さくなり、必要な保障額も下がります。
Q3. 社長が長期入院したときの備えはありますか
会社を受取人とする就業不能や重い病気に備える法人契約の保険があります。療養中は死亡保険金が支払われず、売上は落ちて固定費は続くため、死亡の備えとは別に検討します。給付の条件は保険の種類で異なるため、契約前に確認します。
Q4. 会社が受け取った保険金に税金はかかりますか
会社が受け取る死亡保険金は益金になり、資産計上していた保険料との差額が課税対象になる場合があります。死亡退職金の支給などで損益を調整できるかを含め、経理処理は顧問税理士にご確認ください。保険料の損金算入は2019年の通達改正後、最高解約返戻率が50%を超える契約では返戻率の区分に応じて一部が資産計上されます(出所 国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)。
Q5. 相談すると保険を勧められますか
売り込みは一切ありません。固定費と主要取引先の一覧から必要資金を一緒に計算するところから始め、既存の保険で足りているという結論になることもあります。
8. まとめ|従業員と家族の両方を守る事業保障
- 社長の万一は取引先・金融機関・従業員・家族の4方向に同時に広がり、最初の半年の資金と信用が分かれ目になる
- 特に備えが必要なのは、社長の営業力・人脈・信用で売上が立つ会社
- 備えは、必要資金の見える化 → 属人化を減らす → 法人保険で財源 → 家族を守る役割分担 → 毎年の点検
- 会社は会社契約と後継体制で、家族は死亡退職金・弔慰金と個人契約で守る。非課税枠を踏まえて規程に明記する
- 根拠の無い保障額、重ね持ち、属人化の放置の3つを避ける
社長に万一のとき、従業員と家族のどちらも守れる形は、事前の備えでしか作れません。主要取引先と固定費の一覧を作るところから始めましょう。ご相談いただいても売り込みはなく、お断りいただいて構いません。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
\経営者さま向け 法人保険のご相談/
「社長交代を機に保険を見直したい」「役員・従業員の退職金や福利厚生を整えたい」「万一のときの資金繰りが心配」――会社を守る備えについて、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)がお話を伺います。

