【基本から】従業員の死亡退職金・弔慰金規程 作る5つのチェック項目
社員が急に亡くなった朝、総務担当者のもとに、ご遺族から電話が入る場面があります。
「会社から、何か出るものはありますか」。
就業規則を開いても、死亡時の退職金や弔慰金の定めが見当たらない。社長に聞くと「前例に合わせよう」と言うが、前例を知る人もいない。
法人保険の相談では、こうした「従業員の死亡退職金・弔慰金制度を整えたい」というお話をよくいただきます。
規程があれば、悲しみの中にあるご遺族にも、残された従業員にも、会社の考えを落ち着いて伝えられます。
この記事では、死亡退職金・弔慰金規程を作るときの5つのチェック項目と、備え方を場面ごとに解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- まず規程で「誰に・いつ・いくら」を決め、そのあとで原資の備え方を考えます。順番を逆にすると、備えだけが先に増えます。
- 備えが足りないと、万一のときに会社が払い切れません。備えが多すぎると、毎月の保険料が資金繰りを圧迫します。
- 税務の個別判断と経理処理は税理士の領域です。就業規則の整備は社会保険労務士にも確認します。
この記事で分かること
- 死亡退職金と弔慰金の違い、相続税での扱いの考え方
- 規程に盛り込む5つのチェック項目
- 備えが足りない場合と多すぎる場合の、具体的な失敗の場面
- 今週中にできる現状確認の3ステップ
1. 従業員の死亡退職金・弔慰金規程がない会社で起きる3つの場面
規程がない会社では、万一の日に「社長の一存」で決めることになり、あとから困る場面が3つあります。順に見ていきます。
1-1. 口頭の約束が、他の従業員との不公平になる
たとえば、現場の中堅社員が亡くなった日に、社長がご遺族へ「会社として、できる限りのことをします」と伝えたとします。
数か月後、総務担当者が支給額を決める段になって、前例も算式もないことに気づきます。
金額を決めても、次に別の従業員に万一があったとき、同じ扱いにするのかどうかで揉めます。
規程がないと、金額の根拠を説明できません。口頭の約束は、会社の約束として重く残ります。
1-2. 支給するお金の用意がなく、資金繰りが急に苦しくなる
規程を作って金額を決めても、原資の用意がなければ同じことが起きます。
たとえば、決算月の直前に、従業員に万一があったとします。規程どおりの死亡退職金を支払うと、納税資金と重なって月末の資金が足りなくなります。
金融機関へ急いで相談しても、すぐに間に合うとは限りません。
支給の約束と、支給するお金の備えは、セットで考える必要があります。
1-3. 受取人が決まっておらず、手続きが止まる
死亡退職金は、誰が受け取るのかを決めておかないと、手続きが進みません。
たとえば、独身の従業員で、両親と離れて暮らす兄弟が連絡先に残っていたとします。誰に連絡して、誰に支払うのかを、総務担当者が一人で判断することになります。
受取人の範囲と順位を規程で決めておけば、担当者が迷う場面は減ります。
誰が受け取るかは、相続税の非課税枠が使えるかどうかにも関わります(後の章で解説します)。
要するに、規程がないと「約束」「資金」「受取人」の3つで会社が困ります。
2. 経営者が死亡退職金・弔慰金の整備を先送りしてしまう背景
先送りは、怠慢ではなく、考えにくいテーマだからです。背景を2つ整理します。
2-1. 「元気な従業員のことを縁起でもなく考える」心理
従業員の死を前提に制度を作ることに、抵抗を覚える経営者は少なくありません。
ただ、規程は「万一を望む」ものではありません。家族を残して働く従業員に、会社の考えを示す福利厚生です。
採用や定着の面でも、制度の有無は、従業員の安心感の違いとして現れます。
2-2. 「うちには保険があるから大丈夫」という思い込み
もうひとつ多いのが、「法人で保険に入っているから、何か出るはず」という整理です。
たとえば、経営者の事業保障として入った保険は、従業員の死亡には使えません。契約の目的と被保険者が違うためです。
逆に、従業員向けの保険に入っていても、規程がなければ、受け取った保険金を何に、いくら、誰に支払うのかが決まりません。
保険は「原資」であり、規程は「支払いのルール」です。どちらか一方だけでは、制度になりません。
要するに、先送りの背景には「考えにくさ」と「保険があるという思い込み」があります。
3. 死亡退職金・弔慰金規程の作り方|5つのチェック項目
規程づくりは、5つの項目を順に決めれば進みます。まず全体を表で確認します。
| 項目 | 決めること | 主な確認先 |
| 1. 対象者 | 正社員のみか、パートも含むか。役員は別規程にするか | 社会保険労務士 |
| 2. 支給事由と金額 | 業務上と業務外の区分、算式か定額か | 社会保険労務士・税理士 |
| 3. 受取人と順位 | 遺族の範囲と、受け取る順番 | 税理士 |
| 4. 原資の備え | 会社の資金か、保険か、その組み合わせか | 税理士・保険担当者 |
| 5. 周知と見直し | 従業員への説明、年1回の点検 | 社会保険労務士 |
3-1. チェック項目1|対象者を決める
まず、誰を対象にするのかを決めます。
- 正社員だけにするのか、契約社員やパートも含めるのか
- 勤続年数の条件を付けるのか
- 役員は別の規程(役員退職慰労金規程)にするのか
退職手当の定めをする場合、対象となる労働者の範囲や、決定・計算・支払いの方法、支払いの時期は、就業規則に記載する事項とされています。(出所:労働基準法第89条第3号の2。常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成と届出が必要です)
就業規則への落とし込みは、社会保険労務士にも確認してください。
3-2. チェック項目2|支給事由と金額の決め方
次に、金額の決め方です。ここは、死亡退職金と弔慰金を分けて考えます。
- 死亡退職金:在職中に亡くなった従業員の退職金を、遺族に支払うもの
- 弔慰金:亡くなった従業員のご遺族への、お悔やみとしての支給
相続税では、この2つの扱いが違います。死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、相続税の課税対象です。ただし、相続人が受け取る場合は「500万円×法定相続人の数」まで非課税とされています。(出所:国税庁 タックスアンサー No.4117)
弔慰金は、業務上の死亡であれば普通給与の3年分(賞与を除く月額給与の36か月分)、業務上の死亡でなければ半年分(同6か月分)までが弔慰金として扱われ、相続税がかかりません。これを超える部分は退職手当金等として扱われ、死亡退職金と同じ非課税枠の計算に含まれます。(出所:国税庁 タックスアンサー No.4120、相続税法基本通達3-20)
この区分があるため、規程では「業務上の死亡」と「業務外の死亡」を分けて金額を決める会社が多くあります。
金額は、勤続年数や役職に応じた算式にする方法と、一律の定額にする方法があります。算式なら、勤続が長い従業員の遺族に、より手厚く届きます。
個別の税額や、損金にできるかどうかは、顧問税理士の判断が必要です。
3-3. チェック項目3|受取人と順位を決める
受取人は、遺族の範囲と順位で定めます。
たとえば、「配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹の順」のように決める方法があります。
前の項目で触れたとおり、死亡退職金の非課税枠は、相続人が受け取る場合の話です。相続人ではない人が受け取った場合や、相続を放棄した人が受け取った場合は、非課税の適用がありません。(出所:国税庁 タックスアンサー No.4117)
規程の順位と、法律上の相続人が食い違うことがあります。食い違いが出そうな場合は、税理士や弁護士に事前に確認します。
業務上の死亡の場合は、労災保険から遺族補償給付(年金または一時金)や葬祭料が別に支給される場合もあります。(出所:厚生労働省「労災保険給付の概要」、労働者災害補償保険法)会社の支給と労災の給付は、別の制度として並べて整理します。
3-4. チェック項目4|原資をどう備えるか
規程で約束した金額を、いつでも支払える状態にしておく必要があります。備え方は、主に次の3つです。
- 会社の内部資金(預金など)でまかなう
- 法人保険で備える
- 内部資金と保険を組み合わせる
法人保険で備える場合、従業員を被保険者にするには、本人の同意が必要です。(出所:保険法第38条)
従業員向けの保険には、団体で加入する定期保険や、養老保険の福利厚生としての使い方などがあります。
養老保険を福利厚生に使う場合、保険料の経理処理は、加入の仕方で変わります。たとえば、役員や特定の従業員だけを被保険者にすると、その保険料が給与として扱われる場合があります。(出所:法人税基本通達9-3-4)
2019年(令和元年)の通達改正後の取扱いは、定期保険・第三分野保険(2019年7月8日以後の契約)で、最高解約返戻率が50%を超える場合に、保険料の一部を資産計上する整理になっています。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2。終身保険などは別の取扱いです)
商品の選び方や、保険料の経理処理は、税理士と保険担当者に確認してください。
ここで、備えの量にも両面の注意があります。
- 備えが足りない場合:たとえば、総務担当者が保険料の負担を理由に従業員向けの契約を解約・減額した翌年、在職中の従業員に万一があったとします。規程の金額との差を会社の預金から払うことになり、資金繰りが急に苦しくなります
- 備えが多すぎる場合:たとえば、経理担当者が「全員分を手厚く」と保険料を積み上げた結果、毎月の保険料が資金繰りを圧迫し、設備投資を見送る年が出ます
目安は、規程の金額と、会社の資金繰りの両方から決めます。保険料が毎月の負担として重すぎないかを、決算書と資金繰り表で確認します。
3-5. チェック項目5|周知と、年1回の見直し
規程は、作って終わりではありません。
- 従業員に説明する(就業規則の周知)
- 入社・退職・結婚・出産などで、受取人や被保険者に変更がないか、年1回確認する
たとえば、退職した従業員の契約がそのまま残り、保険料を払い続けている会社があります。総務担当者が替わり、引き継がれなかったことが理由です。
年1回、決算前に証券の一覧と規程を並べて見る習慣をつけると、こうした抜けを防げます。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】中退共だけで足りる?従業員退職金を上乗せする4つの手順
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要するに、「対象者・金額・受取人・原資・周知」の5項目を順に決めれば、規程の骨格ができます。
4. 従業員の福利厚生を一緒に見る専門家の組み方
規程づくりは、税務・労務・保険の3つにまたがるため、窓口が分かれていると抜けが出ます。役割を整理します。
4-1. 誰が何を担当するか
| 立場 | 主な役割 |
| 経営者 | 制度の目的と、支給の考え方を決める |
| 社会保険労務士 | 就業規則・退職金規程への落とし込み |
| 税理士 | 支給時と保険料の個別の税務判断・経理処理 |
| 保険担当者 | 契約内容・保障額・被保険者の確認 |
| FP1級 | 規程・原資・資金繰りを結び、全体を整理する |
4-2. 全体をつなぐ意味
私は、保険代理店で10年・1,100名のご相談をお受けしてきました。規程の金額と保険の金額が合っていない会社を、何度も見てきました。
FP1級の視点で、会社の資金繰りと保障をあわせて整理します。特定の商品をお勧めするためではありません。
お話を伺い、必要があれば、顧問の税理士・社会保険労務士とも連携して進めます。
4-3. 相談前に用意しておくとよい資料
- 現在の就業規則・退職金規程(死亡時の定めがあるか確認できるもの)
- 法人名義の保険証券の一覧
- 従業員数と、おおまかな年齢・勤続の分布
完全に揃っていなくても構いません。分かる範囲で、現状をお聞かせください。
要するに、税務・労務・保険を同じテーブルで見ると、規程と原資の食い違いが早く見つかります。
5. 今週中にできる死亡退職金・弔慰金規程の現状確認3ステップ
大きな制度改定の前に、現状を知ることが最初の一歩です。
5-1. ステップ1|いまの規程に、死亡時の定めがあるか確認する
就業規則と退職金規程を開き、「死亡」「遺族」「弔慰」の言葉を探します。
定めがあれば、対象者・金額・受取人が書かれているかを見ます。なければ、「規程なし」と記録します。
5-2. ステップ2|法人名義の保険証券を並べる
従業員を被保険者にしている契約があるか、受取人は誰か、保険金額はいくらかを一覧にします。
退職した従業員が被保険者のまま残っていないかも、あわせて確認します。
5-3. ステップ3|「規程の金額」と「備えの金額」を並べて差を見る
規程があるなら、その金額と、保険や内部資金で用意できる額を並べます。
差が大きい場合は、備えが足りないか、規程の金額が会社の体力に合っていない可能性があります。
この段階では、結論を急がなくて構いません。差を見える形にしておくだけで、専門家との相談が進みやすくなります。
要するに、「規程」「証券」「差」の3つを並べるだけで、整備の優先順位が見えてきます。
6. 従業員の死亡退職金・弔慰金規程のよくある質問
Q1. 死亡退職金と弔慰金は、どう違いますか。
死亡退職金は在職中に亡くなった従業員の退職金、弔慰金はご遺族へのお悔やみとしての支給です。相続税の扱いが異なるため、規程では分けて定める会社が多くあります。
Q2. 従業員の死亡退職金には、相続税がかかりますか。
死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、相続税の課税対象です。相続人が受け取る場合は、500万円に法定相続人の数を掛けた額まで非課税とされています。(出所:国税庁 タックスアンサー No.4117)個別の判断は税理士にご確認ください。
Q3. 弔慰金は、いくらまで相続税がかかりませんか。
業務上の死亡であれば普通給与の3年分(賞与を除く月額給与の36か月分)、業務上の死亡でなければ半年分(同6か月分)までが弔慰金として扱われ、相続税がかかりません。(出所:国税庁 タックスアンサー No.4120、相続税法基本通達3-20)超える部分は、退職手当金等として扱われます。
Q4. 従業員が数名の小さな会社でも、規程は必要ですか。
小さな会社ほど、一人の万一が資金繰りに与える影響が大きくなります。常時10人未満で就業規則の作成義務がない場合でも(出所:労働基準法第89条)、支給の考え方を文書にしておくと、迷いが減ります。
Q5. 従業員を被保険者にするとき、本人の同意は必要ですか。
必要です。会社以外の人(従業員)を被保険者とする死亡保険契約は、被保険者本人の同意がなければ効力を生じません。(出所:保険法第38条)
Q6. 規程を作ると、保険に入らなければなりませんか。
入らなければならないわけではありません。内部資金でまかなう方法もあります。保険で備えるかどうかは、規程の金額と資金繰りから、あとで考えます。
Q7. 相談すると、保険を勧められませんか。
規程の整理と、現状の把握が先です。特定の商品を前提にした相談ではなく、ご相談後にお断りいただいても問題ありません。
7. まとめ|従業員の万一に備える死亡退職金・弔慰金規程
- 規程がないと、約束・資金・受取人の3つで、万一の日に会社が困ります。
- 規程は「対象者・金額・受取人・原資・周知」の5項目を順に決めます。
- 死亡退職金と弔慰金は、相続税の扱いが違います。出所は国税庁です。
- 備えが足りないと資金が不足し、多すぎると保険料が資金繰りを圧迫します。
- 税務の個別判断と経理処理は税理士、就業規則は社会保険労務士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。規程と備えの両方から、一緒に整理できます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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