【FP1級監修】社長の必要保障額 会社の万一資金を出す4つのポイント
社長の還暦を過ぎたころ、保険の更新案内が届き、経理担当者が社長に尋ねる場面があります。
「この保障額は、いまの会社に合っているのでしょうか」。
社長は答えに詰まります。契約したのは十数年前で、なぜその金額にしたのか、覚えている人がいないのです。
法人保険の相談では、こうした「社長に万一があったとき、会社にはいくら必要なのか」というお話をよくいただきます。
保障額が少なすぎれば、万一のときに会社が立ち行かなくなります。多すぎれば、毎年の保険料が資金繰りを圧迫します。
この記事では、経営者の必要保障額を会社の側から積み上げる4つのポイントを、場面ごとに解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 必要保障額は、会社が背負うお金を積み上げ、すでにある備えを差し引いて考えます。
- 積み上げる項目は、借入金・当面の固定費・後任の体制づくりの費用の3つ。差し引くものは、預貯金などの手元資金と既存の保障です(退職金の原資など、使い道が決まっている分は除きます)。
- 金額は一度決めて終わりではなく、借入金や事業の変化に合わせて年に1回見直します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 必要保障額の根拠が曖昧な会社で起きる3つの場面
- 会社が背負うお金を積み上げる4つのポイント
- 契約者・被保険者・受取人の決め方と、税務の考え方
- 今週中にできる確認3ステップ
1. 経営者の必要保障額の根拠が曖昧な会社で起きる3つの場面
根拠のない保障額は、増えても減っても、あとで会社を困らせます。3つの場面を具体的に見ます。
1-1. 借入金が減ったのに、保障額が据え置かれている
たとえば、創業期に多額の借入れをした社長が、その返済に合わせて保険に入ったとします。
十数年が経ち、借入金は大きく減りました。しかし保障額は契約当時のままで、経理担当者は毎年同じ保険料を払い続けています。
この間に、設備更新や賞与に回せたはずの資金が、保険料に流れていました。
保障が過剰な状態では、保険料が毎年の資金繰りを圧迫します。
見直さなかった理由として、「毎年の更新で、特に連絡がなかったから」という場面は想像しやすいものです。
保険は、動かさなければ、そのまま続きます。会社の状況が変わっても、自動では合わせてくれません。
1-2. 借入金が増えたのに、保障が足りていない
反対の場面もあります。
たとえば、新工場の建設で借入れが増えたのに、保険は見直されないままだったとします。
この時期に社長に万一があると、会社に入る保険金は、借入金の残高に届きません。
金融機関から返済条件の見直しを求められ、残された経営陣が、事業の立て直しと資金の説明を同時に抱えることになります。
保障が不足する状態は、万一のときの保障の空白になります。
この場面で苦しくなるのは、社長ご本人ではなく、後を継ぐ幹部や、ご家族です。
だからこそ、増えた借入金に合わせて、保障の見直しを検討する意味があります。ただし、足りないからと保険料を増やしすぎると、1-1の過剰に戻ります。
1-3. 受取人が会社になっておらず、会社にお金が届かない
もうひとつは、契約の形に関わる場面です。
たとえば、社長個人が加入した保険の受取人が、ご家族になっていたとします。会社の事業を守るための備えとして考えていたのに、保険金は会社に入りません。
経理担当者が証券を見て、受取人がご家族だと気づくのは、万一のあとの請求手続きのときかもしれません。
ご家族の生活資金としては役立ちますが、会社の借入金や固定費の支払いには、直接使えません。
備えの目的が「会社」なのか「ご家族」なのかを、先に決めておく必要があります。
要するに、根拠のない保障額は「過剰」「不足」「届かない」の3つの形で、会社を困らせます。
2. 経営者が必要保障額を決めきれない背景
決めきれないのは、判断の材料が社内に散らばっているからです。背景を2つ整理します。
2-1. 保険担当者に任せきりになっている
契約の際に、保険担当者が提案した金額をそのまま受け入れた、という会社は少なくありません。
金額の根拠が、担当者の頭の中にしかないと、担当者が替わった時点で説明できる人がいなくなります。
必要保障額は、会社の数字から出すものです。保険の提案書ではなく、決算書と借入金の一覧が起点になります。
「保険担当者から更新の案内は来るが、中身を一緒に見たことがない」という声を、ご相談の現場で聞くことがあります。
案内を受け取る経理担当者も、金額の妥当性までは判断できません。結果として、誰も根拠を確認しないまま、毎年の更新が通り過ぎていきます。
2-2. 「自分に万一があったら」を、数字にする抵抗感
自分が亡くなったあとの会社を、数字で考えるのは、気が重い作業です。
そのため、「だいたいこのくらい」と感覚で決めてしまい、あとから見直すきっかけを失います。
ただ、数字にすることは、会社と従業員、ご家族を守るための準備です。縁起の話ではなく、経営の話として捉えると進めやすくなります。
要するに、材料を会社の数字に集め、保険担当者任せから経営者の判断に戻すことが出発点です。
3. 経営者の必要保障額を会社の側から積み上げる4つのポイント
必要保障額は、「会社が背負うお金」から「すでにある備え」を差し引いて考えます。まず考え方を表で整理します。
| 区分 | 項目 | 見る資料 |
| 積み上げる | ポイント1 借入金(社長の連帯保証があるもの) | 借入金の一覧・返済予定表 |
| 積み上げる | ポイント2 立て直すまでの固定費 | 決算書・月次の試算表 |
| 積み上げる | ポイント3 後任の体制づくりの費用 | 組織図・採用や引継ぎの計画 |
| 差し引く | ポイント4 手元資金・既存の保障(使い道が決まっている分は除く) | 預貯金・保険証券 |
数字は、会社ごとに大きく違います。ここでは考え方だけを示し、金額の例は挙げません。
3-1. ポイント1|借入金と、社長の連帯保証がある分を洗い出す
まず、借入金の一覧を作ります。金融機関ごとの残高、返済期限、社長の連帯保証の有無を並べます。
万一のときは、その時点で残っている連帯保証の債務が、相続の対象となる可能性があります。相続の扱いは個別の事情で変わるため、弁護士や金融機関にご確認ください。会社の借入金を保険金で返せるかどうかは、会社だけでなく、ご家族の暮らしにも関わります。
個人の保証に頼らない融資を後押しする「経営者保証に関するガイドライン」もあります。(出所:経営者保証に関するガイドライン研究会〔日本商工会議所・全国銀行協会〕、中小企業庁・金融庁の周知資料)借入先ごとに、保証の条件が見直せるかを、金融機関に相談する手もあります。
この章で拾うのは「社長に万一があったとき、返済の見直しを求められる可能性のある分」です。
連帯保証の債務は、保険で返せるかどうかだけでなく、金融機関と事前に話せているかが大切です。
たとえば、社長が不在になったあと、後任の代表者が保証を引き継げるかどうかは、金融機関の判断によります。事前に話し合っておくと、万一のときの対応が早くなります。
3-2. ポイント2|立て直すまでの固定費を、期間で考える
次に、社長が不在になったあと、会社が立て直しを終えるまでの固定費です。
人件費・家賃・リース料など、売上が落ちても出ていくお金を、決算書から拾います。
何か月分を見込むかは、会社ごとに違います。社長の営業力や人脈で売上が立つ会社ほど、立て直しに時間がかかります。
たとえば、社長が主要な取引先を一人で担当している会社なら、引き継ぎに要する期間を長めに考えます。
期間の長さは、後継者や幹部の状況と合わせて、専門家と相談して決めます。
固定費は、毎月の試算表から拾うと、実態に近い数字が出ます。決算書は年間の合計なので、季節で変わる支出が見えにくいためです。
この項目を軽く見ると、後任の代表者が就任した最初の数か月に、給与・家賃・リース料の支払いが続き、保険金が先に尽きる場面が出ます。保険金は、借入金の返済だけでなく、立て直しの期間を支えるお金でもあるからです。
3-3. ポイント3|後任の体制づくりに必要な費用を見込む
社長の仕事を、誰が、いつまでに引き継ぐのかを考えます。
幹部がいない場合は、外部から人を採用する費用や、引継ぎのための顧問契約の費用が必要になるかもしれません。
社内に後継者の候補がいる場合も、育成の期間は一時的に生産性が落ちます。その間の人件費の穴を見込みます。
この項目は、数字にしにくい部分です。完璧を求めず、範囲で見積もります。
たとえば、社長が営業の中心だった会社では、後任が取引先との信頼を築くまでの間、売上が下がることがあります。その間の人件費や家賃は、会社が払い続けます。
こうした「立て直しの時間」を、お金の形で見込んでおくことが、後任の体制づくりの費用の考え方です。
3-4. ポイント4|差し引くものと、契約の形を決める
積み上げた額から、次を差し引きます。
- すぐに使える手元の預貯金
- すでに入っている保険の保障(法人契約のもの)
死亡退職金など、すでに使い道が決まっている預貯金や、その原資にする保険金は、差し引く手元資金・既存の保障から外して数えます。
残った額が、保険で備える必要保障額の目安です。
ここにも両面の注意があります。借入金の全額を積み上げて備えると、保険料が資金繰りを圧迫します。逆に、経理担当者が預貯金の全額を「使える手元資金」として差し引き、そのまま保障を縮めたとします。万一が決算期の納税や賞与の月に重なると、預貯金が先に出ていき、保険金だけでは足りなくなります。
契約の形は、会社が契約者と受取人、社長が被保険者という組み合わせがよく使われます。保険契約者以外の人を被保険者とする死亡保険契約は、被保険者本人の同意がなければ効力を生じません。(出所:保険法第38条)
会社が受け取った保険金は、会社の収入として法人税の計算に入ります。保険料の経理処理も、契約の種類で変わります。
2019年(令和元年)の通達改正後は、定期保険・第三分野保険(2019年7月8日以後の契約)で、最高解約返戻率が50%を超える場合に保険料の一部を資産計上する整理になりました。一定の例外もあります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2。終身保険などは別の取扱いです)
個別の経理処理と、受け取った保険金の税務は、税理士の領域です。契約の前に確認してください。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】借入金と連帯保証から家族を守る事業保障 6つの対策
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要するに、「借入金・固定費・後任の費用」を積み上げ、「手元資金・既存の保障」を差し引くと、目安が見えてきます。
4. 必要保障額を一緒に見る専門家の組み方
必要保障額は、財務・税務・保険の3つの目で見ると、抜けが減ります。役割を整理します。
4-1. 誰が何を担当するか
| 立場 | 主な役割 |
| 経営者 | 立て直しの期間と、守りたいものの優先順位を決める |
| 金融機関 | 借入条件・保証の扱いの確認 |
| 税理士 | 保険料と受け取る保険金の個別の税務判断・経理処理 |
| 保険担当者 | 契約内容・保障額・契約者と受取人の確認 |
| FP1級 | 会社の数字から必要額を積み上げ、全体を整理する |
保障額を決めるときは、財務の数字・税務の取扱い・保険の契約内容が、同時に動きます。どれか1つだけで決めると、後から修正が必要になりがちです。
4-2. 全体をつなぐ意味
私は、保険代理店で10年・1,100名のご相談をお受けしてきました。保障額の根拠が説明できない会社を、数多く見てきました。
FP1級の視点で、借入金と固定費を整理し、保障を整えます。特定の商品をお勧めするためではありません。
4-3. 相談前に用意しておくとよい資料
- 直近2〜3期分の決算書と、借入金の一覧
- 法人名義の保険証券の一覧
- 社長が担っている仕事の洗い出し(取引先・決裁・採用など)
完全に揃っていなくても構いません。分かる範囲で、現状をお聞かせください。
要するに、財務・税務・保険を同じテーブルで見ると、保障額の根拠を説明できる状態になります。
5. 今週中にできる必要保障額の確認3ステップ
金額を決める前に、現状を一覧にすることが最初の一歩です。
確認の順番は、借入金→保険証券→差、の3つです。順番を守ると、迷わず進められます。
5-1. ステップ1|借入金と保証の一覧を作る
金融機関ごとの残高・返済期限・社長の連帯保証の有無を、1枚にまとめます。
経理担当者に頼めば、短時間で作れる場合が多い資料です。
5-2. ステップ2|保険証券の保障額と目的を書き出す
法人名義の保険について、被保険者、受取人、保障額、契約の目的を書き出します。
目的が思い出せない契約があれば、印を付けておきます。
5-3. ステップ3|借入金と保障額を並べて、差を見る
借入金の合計と、保障額の合計を並べます。
保障が上回っているなら、過剰の可能性があります。下回っているなら、不足の可能性があります。
この段階では、結論を出さなくて構いません。差を見える形にしておくだけで、相談が進みやすくなります。
要するに、「借入金」「保障額」「差」の3つを並べるだけで、見直しの優先順位が見えてきます。
6. 経営者の必要保障額のよくある質問
Q1. 経営者の必要保障額は、どう計算しますか。
会社が背負うお金(借入金・立て直すまでの固定費・後任の体制づくりの費用)を積み上げ、手元資金や既存の保障(使い道が決まっている分は除く)を差し引いて考えます。会社ごとに数字が異なるため、決算書から出します。
Q2. 必要保障額は、どのくらいの頻度で見直しますか。
年に1回、決算のあとに確認する方法があります。借入金の増減や、後継者の状況の変化があったときも見直しのきっかけです。
Q3. 借入金の全額を、保険で備える必要がありますか。
全額とは限りません。手元資金、事業の売却可能性、後継者の状況によって変わります。備えすぎは保険料が資金繰りを圧迫します。目的と負担のバランスで決めます。
Q4. 社長の死亡保険金は、会社の収入になりますか。
会社が受取人であれば、会社が受け取る保険金は、法人税の計算で収入として扱われます。個別の経理処理は税理士にご確認ください。
Q5. 従業員を被保険者にするときは、同意が必要ですか。
必要です。保険契約者以外の人を被保険者とする死亡保険契約は、被保険者本人の同意がなければ効力を生じません。(出所:保険法第38条)
Q6. 相談すると、保険を勧められませんか。
必要額の整理が先です。特定の商品を前提にした相談ではなく、ご相談後にお断りいただいても問題ありません。
7. まとめ|経営者の必要保障額は、会社の数字から出す
- 根拠のない保障額は、過剰・不足・届かないの3つの形で会社を困らせます。
- 必要保障額は、借入金・固定費・後任の費用を積み上げ、手元資金と既存の保障を差し引いて考えます。
- 保障が不足すれば万一のときに会社が苦しくなり、過剰なら保険料が資金繰りを圧迫します。
- 保険料と保険金の個別の税務判断は、税理士の領域です。
- 最初の一歩は、借入金と保険証券を並べて、差を見ることです。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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