決算の打ち合わせで、社長と経理担当者が保険料の支払い一覧を見ている場面があります。

「この契約は、ずいぶん前に入ったものだな。もっと条件のよい保険に乗り換えられないか」。社長がそう話すと、経理担当者が心配そうに聞きます。「いまの契約を先に解約して、あとから新しい契約を申し込むのでしょうか。その間に何かあったら、どうなりますか」。

法人保険の相談では、こうした「法人保険の見直し・乗り換えは、どのように進めればよいか」というお話が少なくありません。

乗り換えは、手順を間違えると、保障がない期間ができたり、新しい契約の保険料が重くなったりします。一方で、目的に合わなくなった契約を放置するのも、資金を使い続けることになります。

この記事では、法人保険を乗り換える前に確かめる4つのチェック項目を、現場で起きやすい失敗の場面とあわせて解説します。

解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 乗り換えの前に確かめるのは、目的・保障の空白・いまの契約の損益と税務の区分・新しい契約の負担の4つです。
  • 新しい契約の保障が始まるのを確認する前に、いまの契約を解約してはいけません。告知の結果によっては、新しい契約に入れないことがあります。
  • 保障を削りすぎれば万一のときの資金に空白が生まれ、保険料を重ねれば資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 法人保険の乗り換えで、保障の空白が生まれる3つの場面
  • 乗り換えが先送りされる、または急ぎすぎる背景
  • 乗り換えの前に確かめる4つのチェック項目
  • 削りすぎと過剰の両面で起きる失敗の場面
  • 今週中にできる確認3ステップ
タップできる目次

1. 法人保険の乗り換えで保障の空白が生まれる3つの場面

乗り換えで困る場面は、解約の順番・告知・保険料の3つに分かれます。順に見ていきます。

1-1. 先に解約して、新しい契約が成立していない

新しい契約は、申し込んだ日から保障が始まるとは限りません。保障が始まる日は、保険会社の審査や手続きのあとに決まります。

たとえば、社長が営業担当者の説明を聞いて、いまの契約を先に解約したとします。そのあと、新しい契約の審査が長引くと、その間は保障がありません。

解約の連絡は、新しい契約の保障が始まったことを書面で確かめたあとに行います。

1-2. 告知の結果、新しい契約に入れない

生命保険では、契約の申し込みのときに、健康状態などを正しく伝える告知の義務があります。(出所:保険法第37条)

故意または重大な過失で事実と異なる告知をすると、保険会社が契約を解除できる場合があります。(出所:保険法第55条)

たとえば、前の契約に入ったころは健康だった社長が、数年のあいだに通院を続けていたとします。新しい契約では、その通院が告知の対象になり、加入を断られたり、条件が付いたりすることがあります。

いまの契約を解約してしまうと、元に戻せません。

1-3. 同じ保障なのに、保険料が重くなる

被保険者の年齢が上がると、同じ保障でも新しい契約の保険料は高くなる傾向があります。

「新しい契約のほうが条件がよい」と聞いて乗り換えても、毎月の保険料が増え、会社の資金繰りを圧迫することがあります。

保険料の負担は、月額だけでなく、払い込みの期間を通じた総額で比べます。

要するに、乗り換えは「解約の順番」「告知の結果」「保険料の負担」の3つで、保障の空白や資金の圧迫が生まれます。

2. 経営者が法人保険の乗り換えを先送りする、または急ぎすぎる背景

先送りも急ぎすぎも、背景は「いまの契約の目的を思い出せない」ことにあります。

2-1. 契約したときの目的を、誰も覚えていない

法人保険は、契約から長い年数が過ぎると、何のために入ったのかが分からなくなりがちです。

契約を勧めた担当者が退職していたり、前の経理担当者が持っていた資料が引き継がれていなかったりします。

目的が分からなければ、乗り換えるべきかどうかも判断できません。先送りの背景は、ここにあります。

2-2. 「新しい商品のほうが得」という説明に押される

一方で、乗り換えを急ぎすぎる会社もあります。

新しい契約の説明は、よい点が中心になりがちです。いまの契約の損益や、税務上の区分の違いまでは、説明に含まれないことがあります。

決算前の忙しい時期に、「今期のうちに」と急がされて、確認が不十分なまま契約する場面もあります。

2-3. 保険・税務・資金繰りの担当が分かれている

分野 乗り換えで見るところ 主な担当
保険 保障の内容・保障が始まる日・告知の結果 保険担当者
税務 いまの契約の解約時の損益、新しい契約の保険料の経理 顧問税理士
資金繰り 保険料の負担、借入金や退職金の備えとの関係 社長・経理担当者

それぞれが自分の分野しか見ていないと、「保障は足りているが、保険料が重い」「税務は問題ないが、告知で入れない」といった抜けが出ます。

要するに、目的が分からないまま、保険・税務・資金繰りの担当がバラバラに動くことが、先送りと急ぎすぎの両方を生みます。

3. 法人保険の乗り換えの前に確かめる4つのチェック項目

乗り換えの前に確かめるのは、目的・保障の空白・いまの契約の損益・新しい契約の負担の4つです。順に確かめます。

3-1. チェック項目1:契約した目的がいまも続いているか

いまの契約の目的を、事業保障・役員退職金・福利厚生・承継や相続の資金のどれかで言い表します。

目的が続いているなら、乗り換えではなく、保険金額の見直しだけで足りることもあります。目的が終わっているなら、解約や払済も選択肢になります。

解約・払済・減額の違いは、別の記事で扱っています。この記事では、乗り換えの手順に絞ります。

3-2. チェック項目2:保障の空白が生まれないか

確かめるのは、新しい契約の保障が始まる日と、告知の結果です。

  • 新しい契約の申し込みと告知を済ませる。
  • 保険会社から契約の成立と、保障が始まる日の連絡を書面で受ける。
  • そのあとで、いまの契約の解約を連絡する。

この順番を守ると、新しい契約に入れなかった場合でも、いまの契約が残ります。

3-3. チェック項目3:いまの契約の損益と税務の区分

いまの契約を解約すると、受け取った解約返戻金は会社の収益になります。(出所:法人税法第22条第2項)

これまで保険料の一部を資産に計上していた場合は、解約のときにその資産を取り崩します。解約返戻金と、取り崩した資産計上分との差額が、その期の損益に影響します。

契約の時期によって、税務の取扱いが異なります。2019年7月8日より前に契約した定期保険・第三分野保険は、改正前の取扱いが続きます。新しく契約する保険は、2019年(令和元年)の通達改正後のルールで扱われます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)

改正後は、最高解約返戻率の区分によって、保険料の一部が資産計上になる場合があります。「全額が損金になる」とは限りません。

確認すること どこで確かめるか
いまの契約の契約日 保険証券・契約内容の通知
資産計上している額 経理の帳簿・顧問税理士
解約したときの返戻金の見込み 保険会社への照会
新しい契約の税務上の区分 保険担当者の説明資料・顧問税理士

個別の経理処理や申告は、税理士の領域です。解約の時期も、決算や資金繰りと合わせて顧問税理士に確認します。

3-4. チェック項目4:新しい契約の保険料の負担

新しい契約の保険料を、いまの契約の保険料と並べて比べます。

月額だけでなく、払い込みが終わるまでの総額と、会社の資金繰りへの影響を見ます。借入金の返済や役員退職金の準備など、ほかの支払いと重なる時期がないかも確かめます。

要するに、4つのチェック項目は、目的を確かめ、保障の空白を防ぎ、いまの損益を知り、新しい負担を比べることです。

この記事では要点に絞って解説しました。社長の万一に備える事業保障の全体像を知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え

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4. FP1級が見る法人保険の乗り換えの注意点と専門家の役割

現場の失敗は、保障を削りすぎる場合と、保険料を重ねすぎる場合の2つに分かれます。

4-1. 削りすぎで起きる失敗の場面

1つ目は、先に解約した場面です。社長が決算前に、いまの契約を解約してしまいます。その後に新しい契約の審査が長引き、保障がない期間ができます。この間に万一があると、借入金の返済や遺族への死亡退職金の原資がありません。

2つ目は、告知で入れなかった場面です。社長が先にいまの契約を解約したあと、新しい契約で健康状態の告知が通らず、加入を断られます。解約した契約は元に戻せず、保障がなくなります。

3つ目は、保険金額を下げすぎた場面です。社長が保険料を減らそうと、乗り換えと同時に保険金額を大きく下げます。数年後に借入金が増えても、保険金額を見直さなかったため、万一のときに借入金を返しきれません。

4-2. 過剰で起きる失敗の場面

1つ目は、保険料が重くなった場面です。社長が「条件がよい」と聞いて乗り換えますが、被保険者の年齢が上がっているため、保険料が増えます。経理担当者が毎月の支払いを見て、資金繰りの圧迫に気づくころには、ほかの備えに回すお金が減っています。

2つ目は、古い契約を残したまま重ねた場面です。新しい契約の保障が始まったあとも、社長が古い契約の解約を決めず、両方の保険料を払い続けます。経理担当者が帳簿を見て、同じ目的の契約が2つあると気づきます。

3つ目は、税負担の軽減を目的に乗り換えた場面です。社長が決算期前に勧められるまま乗り換え、数年後に経理担当者が保険料の負担と解約返戻金の扱いを確認して、目的と合っていないと気づきます。この記事は、税負担の軽減を目的に加入や乗り換えを勧めるものではありません。

4-3. 専門家の役割分担

専門家 得意な分野
顧問税理士 解約時の損益・保険料の経理処理の確定・申告
保険担当者 新しい契約の内容・告知・保障が始まる日の確認
金融機関の担当者 借入金の残高と返済の予定
FP1級 目的・保障・保険料・資金繰りを並べた全体の点検

FP1級の立場では、特定の商品を勧めず、乗り換える場合と乗り換えない場合を並べて比べます。税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、税理士の領域です。

点検では、次の4つの問いを順に確かめます。

  • 目的:いまの契約の目的が、いまも続いているか。
  • 保障の空白:新しい契約の保障が始まるのを確認してから解約する流れになっているか。
  • 損益:解約したときの損益を、顧問税理士と確かめたか。
  • 負担:保険料の総額が、会社の資金繰りに収まるか。

要するに、保障の削りすぎと保険料の重ねすぎの両方を、目的・保障の空白・損益・負担の4つの問いで防ぎます。

5. 今週中にできる法人保険の乗り換え前の点検3ステップ

乗り換えの判断は、すぐに決めなくて構いません。次の3つを、今週のうちに進めます。

  1. 証券を集める:加入中の法人保険の証券を集め、契約日・保険金額・保険料を1枚に書き出します。
  2. 目的を言葉にする:契約ごとに、何のために入ったのかを一言で書きます。分からない契約には印を付けます。
  3. 理由を書く:乗り換えを考えた理由を、保険料・保障・条件のどれかで書きます。

証券を集めると、契約日から税務の区分を確かめる手がかりが得られます。目的を言葉にすると、乗り換えの必要があるかどうかが見えます。

3つのステップのあとは、次の流れで進めます。

  • 解約したときの損益と税務の区分を、顧問税理士に確認します。
  • 新しい契約を検討する場合は、告知の結果と保障が始まる日を保険担当者に確認します。
  • 保険料の総額と資金繰りへの影響を、社長と経理担当者で確かめます。

要するに、証券を集め、目的を言葉にし、理由を書く3つが、乗り換えの判断の入口です。

6. よくある質問

Q1. 法人保険の見直し・乗り換えは、どのように進めればよいですか。

目的の確認、保障の空白の確認、いまの契約の損益の確認、新しい契約の負担の確認の順に進めます。新しい契約の保障が始まったことを確かめてから、いまの契約を解約します。

Q2. 先にいまの契約を解約してもよいですか。

おすすめしません。新しい契約の審査が長引いたり、告知の結果で入れなかったりすると、保障がない期間ができます。新しい契約の成立を書面で確かめてから解約します。

Q3. 告知を間違えると、どうなりますか。

故意または重大な過失で事実と異なる告知をすると、保険会社が契約を解除できる場合があります。(出所:保険法第55条)告知は、申し込みの時点の健康状態を正しく伝えます。

Q4. 解約したときの解約返戻金は、会社の収益になりますか。

受け取った解約返戻金は、会社の収益として扱われます。(出所:法人税法第22条第2項)資産に計上している額がある場合は、解約返戻金との差額が、その期の損益に影響します。個別の経理処理は、顧問税理士に確認してください。

Q5. 古い契約のほうが税務上有利ですか。

一概には言えません。2019年7月8日より前に契約した定期保険・第三分野保険は、改正前の取扱いが続きます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)有利かどうかは契約ごとに異なるため、顧問税理士に確認してください。

Q6. 乗り換えずに、保険金額だけを見直すことはできますか。

契約の内容によっては、減額や払済などの方法があります。目的が続いているなら、乗り換えよりも保険金額の見直しで足りることがあります。取扱いは契約ごとに違うため、保険担当者に確認します。

Q7. 保険料を下げるためだけに乗り換えてもよいですか。

保険料を下げたい理由が、目的の終わりなのか、資金繰りの圧迫なのかで判断が変わります。保障を削りすぎると、万一のときの資金に空白が生まれます。目的と保障の額を確かめてから決めます。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 乗り換えの前に確かめるのは、目的・保障の空白・いまの契約の損益・新しい契約の負担の4つです。
  • 新しい契約の保障が始まったことを書面で確かめてから、いまの契約を解約します。
  • 保障を削りすぎれば万一のときの資金に空白が生まれ、保険料を重ねれば資金繰りを圧迫します。
  • 税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、顧問税理士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。保険証券をもとに、乗り換える場合と乗り換えない場合を並べて整理します。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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