先代から会社を引き継ぐことが決まった、五十代の後継者を思い浮かべてください。株の話も、役員の話も、少しずつ前に進んでいます。

そこへ、取引金融機関の担当者がこう切り出します。「代表が替わるので、保証の契約も新しくしましょう」。後継者は、自分も連帯保証人になるのか、先代の保証はどうなるのか、すぐには答えが出ません。

経営者保証は、社長の交代のタイミングで見直しの話が出やすいテーマです。国にも、事業承継の場面に絞ったルールがあります。ただし、それは法的な拘束力のない自主ルールで、外れることが決まっているわけではありません。

この記事では、中小企業庁・金融庁・全国銀行協会などが公表している「経営者保証に関するガイドライン」と、事業承継時に焦点を当てた特則について、確認できた範囲に絞って整理します。

解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

結論

  • 特則では、事業承継のときに前の経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることは、原則として行わないとされています。ただし例外があります。
  • 押さえる注意点は4つです。二重の保証の原則と例外、後継者への扱い、外れるかどうかの判断、解除までの間の備えです。
  • ガイドラインに法的な拘束力はなく、最終的な判断は金融機関が行います。個別の結果は断定できません。契約内容の判断は弁護士、税務は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 社長交代のとき、経営者保証で悩みやすい3つの場面
  • ガイドラインと特則の位置づけ
  • 4つの注意点と、金融機関との話の進め方
  • 備え不足と備えすぎの失敗場面、今週できる確認

1. 経営者保証が代替わりで問題になる3つの場面

代替わりでは、先代の保証・後継者の保証・解除までの空白期間の3つで、悩みが出やすくなります。順に見ていきます。

1-1. 先代の保証が残ったまま、社長が替わる

社長を退いた先代が、そのまま連帯保証人として残っていることがあります。経営からは離れたのに、借入金の責任だけが続く形です。

1-2. 後継者が、当然のように保証を求められる

後継者が代表になると、金融機関から新しく保証を求められる場面があります。後継者にとっては、会社を継ぐ決断に、個人の責任が加わることになります。

経営者保証が事業承継の妨げになることは、国の側でも課題とされてきました。特則は、事業承継の場面に絞って、金融機関の対応を示したものとされています。

1-3. 保証が外れるまでの間の備えがない

保証の見直しは、すぐには終わりません。見直しの間に、先代や後継者に万一があったらどうなるか、という不安が残ります。

たとえば、保証が先代と後継者の双方に残っている期間に、先代が他界したとします。借入金の返済と、会社の運転資金の見通しを、短い期間で組み直すことになります。

要するに、先代の保証・後継者の保証・見直しまでの空白の3つが、代替わりの悩みどころです。

2. 経営者保証の代替わりが後回しになりやすい理由

後回しになる理由は、株や役員の話が先に立つことと、特則が知られていないことの2つです。整理します。

2-1. 株と役員の話が先に進む

事業承継では、自社株の移し方、役員の体制、従業員への説明といった話題が目立ちます。金融機関との保証の話は、契約の更新の時期まで動かないことがあります。

2-2. 特則そのものが、知られていない

特則は、経営者保証に関するガイドライン研究会が、令和元年(2019年)12月に策定し、2020年4月から適用されているものです。(出所:全国銀行協会が公表する特則、中小企業庁、J-Net21)

要するに、承継の他の話に隠れることと、特則が知られていないことが、保証の見直しを遅らせます。

3. 経営者保証の代替わりと特則で押さえる4つの注意点

注意点は、二重の保証の原則と例外・後継者への扱い・外れるかどうかの判断・解除までの備えの4つです。まず全体を表で整理します。

注意点 特則で示されていること 社長側で確かめること
1. 二重の保証 前の経営者と後継者の双方から二重に求めることは原則しない。例外は理由の説明が必要 今回の借入で、二重になっていないか
2. 後継者への扱い 後継者に当然に引き継がせない。保証を求めない対応ができないか、柔軟に検討する 後継者に保証を求める理由の説明があったか
3. 外れるかの判断 法人と個人の分離などを踏まえて検討。法的な拘束力はなく、最終判断は金融機関 財務の整理と情報開示の準備ができているか
4. 解除までの備え (特則の対象外)見直しの間の万一の資金は、会社側で見通す 借入金の残高と運転資金の月数

(出所:全国銀行協会が公表する「経営者保証に関するガイドライン」特則、中小企業庁)

3-1. 注意点1|二重の保証は原則しない。ただし例外がある

特則では、前の経営者と後継者の双方から、二重に保証を求めないことが原則とされています。例外として二重に求めることが真に必要な場合は、その理由や、保証が提供されない場合の融資条件などを、双方に十分に説明し、理解を得ることとされています。(出所:中小企業庁、全国銀行協会が公表する特則)

例外として認められる場合は、特則の中で限られた事例として列挙されています。どの事例に当たるかは、会社の返済状況や前の経営者の関わり方で変わります。当てはまるかどうかは、特則の原文や金融機関の説明で確認し、迷うときは弁護士に相談します。

3-2. 注意点2|後継者の保証は、当然には引き継がれない

後継者の保証は、事業承継の妨げになることを踏まえて、慎重に判断するものとされています。金融機関には、後継者に保証を求めない対応ができないか、真摯かつ柔軟に検討することが求められています。(出所:中小企業庁、特則)

これは、後継者の保証がなくなると決まっている、という意味ではありません。法的な拘束力はなく、結果は会社の状況と金融機関の判断で変わります。

前の経営者の保証についても、金融機関には、保証契約を適切に見直すことが求められています。どのような見直しになるかは、個別の事情で変わります。

3-3. 注意点3|外れるかどうかは、要件と金融機関の判断で決まる

ガイドラインは、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で設立した研究会が、2013年12月に策定したものです。法的な拘束力はありませんが、関係者が自発的に尊重し、守ることが期待されています。(出所:中小企業庁、全国銀行協会)

保証を付けない融資や、保証の見直しの検討では、次の3つが基準として示されています。

  • 法人と個人の分離:資産や経理を、法人と経営者個人で明確に分ける
  • 財務基盤の強化:法人の資産と収益力で、返済を見込める状態にする
  • 情報の開示:財務の状況を、金融機関へ適時に正確に示す

3つのうち全部または一部を整えることで、見直しの可能性が生じるとされています。ただし、解除するかどうかの最終判断は、金融機関が行います。

個別の金融機関との交渉の結果は、この記事では断定しません。契約書の内容は、弁護士に確認します。

3-4. 注意点4|解除までの間の備えを、会社側で見通す

特則は、金融機関の対応を定めたルールで、見直しの間の万一の資金までは扱っていません。ここは、会社が自分で見通す部分です。

確かめることは、次の3つです。

  • 借入金の残高:保証の対象になっている借入金の合計と返済日
  • 運転資金:月の支払額に対して、預金で何か月つなげるか
  • 万一の資金:先代や後継者に万一があったとき、返済と運転資金をつなぐ手当てがあるか

万一の資金の手当てに保険を使うかどうかは、数字を並べてから決めます。保険を使わずに、預金や借入の組み直しで対応する選択肢もあります。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

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要するに、二重の保証の原則、後継者への扱い、外れるかの判断、解除までの備えの4つを、順に確かめます。

4. 経営者保証の代替わりで起きやすい失敗|備え不足と備えすぎ

失敗は、何も整えずに契約を更新する場合と、備えを重ねて平時が苦しくなる場合の、両方向で起きます。対にして見ていきます。

4-1. 備えが薄かった場面

  • 説明を聞かずに署名する:たとえば、後継者が、更新の書類をそのまま受け取り、保証の理由を確かめずに署名したとします。あとから特則の存在を知っても、話し合いが難しくなります。
  • 財務の整理が間に合わない:たとえば、会社と社長個人のお金が混ざったまま、承継の直前を迎えたとします。保証の見直しを相談する材料がそろいません。
  • 万一の資金がない:たとえば、先代の保証が残る間に、先代が他界したとします。返済と運転資金のつなぎを、急いで組み直すことになります。

4-2. 備えが重すぎた場面

  • 固定の支出が膨らむ:たとえば、保証の不安から万一の備えを何本も持ったとします。毎月の払込みが運転資金を圧迫し、取引先への支払いに余裕がなくなります。
  • 預金に偏りすぎる:たとえば、保証を外す条件を満たそうと、現金を厚く抱えたとします。設備や人への投入が止まり、収益力が落ちると、金融機関との話し合いでも不利に働きます。

備えの目安は、借入金の残高、月々の支払い、保証人が誰かを並べて立てます。契約の更新や決算のたびに置き直します。

要するに、備えが足りなくても、抱え込みすぎても、特則の適用を待つだけでも、会社は守りにくくなります。

5. 経営者保証の代替わりに備える今週の確認チェックリスト

今週中に、次の5つを確認します。

  • 借入金ごとに、保証人になっている人と、契約の更新の時期を一覧にした
  • 先代と後継者の双方に、保証を求められていないかを確かめた
  • 会社と社長個人のお金が混ざっていないか、経理担当者と点検した
  • 決算書などを、金融機関へ適時に出せる体制か確かめた
  • 毎月の支払いを、預金で何か月分まかなえるか数字にした

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要するに、保証人・更新時期・財務・資金の4つを一覧にすれば、金融機関と話す準備が始まります。

6. よくある質問

Q1. 経営者保証ガイドラインは、守らないと罰せられますか。

ガイドラインに法的な拘束力はありません。関係者が自発的に尊重し、守ることが期待される自主的なルールです。(出所:中小企業庁、全国銀行協会)

Q2. 社長を交代したら、保証は外れますか。

外れると決まっているわけではありません。解除するかどうかの最終判断は金融機関が行い、会社の状況によって結果は変わります。特則は、見直しの検討を促すルールです。(出所:中小企業庁)

Q3. 先代と後継者の両方が保証人になることはありますか。

特則では、原則として二重には求めないとされています。ただし、真に必要な場合は、理由を双方に説明して理解を得る例外が認められています。(出所:全国銀行協会が公表する特則)

Q4. 特則はいつから使えますか。

令和元年(2019年)12月に策定され、2020年4月から適用されています。(出所:中小企業庁、J-Net21)運用の最新の状況は、中小企業庁の案内で確認してください。

Q5. 保証を外すために、会社は何を整えればよいですか。

ガイドラインでは、法人と個人の分離、財務基盤の強化、財務状況の適切な開示が基準として示されています。(出所:中小企業庁)整えても結果は断定できないため、金融機関と顧問の税理士に相談してください。

Q6. 保証を巡る相談は、どこにできますか。

金融機関のほか、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な窓口があります。支援の仕組みは見直されてきたため、最新の窓口は中小企業庁や中小機構の案内で確認してください。契約の内容は弁護士の領域です。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 特則では、事業承継のときに前の経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることは、原則として行わないとされています。例外には説明が必要です(出所:中小企業庁、特則)。
  • ガイドラインに法的な拘束力はなく、外れるかどうかの最終判断は金融機関が行います。外れるとは言い切れません。
  • 押さえる注意点は、二重の保証・後継者への扱い・外れるかの判断・解除までの備えの4つです。
  • 備えは、足りなくても重すぎても会社の負担になります。契約内容の判断は弁護士、税務は税理士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。借入金と保証人の一覧をもとに、解除までの間の資金面を一緒に整理します。

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筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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