社長の書斎の引き出しを開けると、保険の証券が何通か出てきました。ところが、どの契約が今も続いているのか、保険料はどこから引き落とされているのか、誰が窓口なのか、家族にも会社にも分かりません。

社長は元気なうちは、すべて頭の中で把握しています。ところが、万一のときには、その頭の中の情報が取り出せなくなります。契約があること自体に気づけなければ、請求の連絡もできません。

特に経営者は、個人で入った契約と、会社が契約者になっている契約の両方を持っていることがあります。社長だけが全体を把握している状態が、いちばん危うい形です。

この記事では、社長の保険契約を、会社と家族が把握できるようにしておく備えを、4つの方法に整理します。あわせて、生命保険協会の生命保険契約照会制度の趣旨と、できること・できないことも説明します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 社長の保険契約は、契約一覧・保管場所・窓口と連絡先・共有の4つを整えて、会社と家族が見つけられる状態にしておきます。
  • 生命保険契約照会制度は、家族の側が契約の有無を調べるための制度です。自分の証券をなくしたときの再確認のための仕組みではありません。
  • 制度は、備えの代わりにはなりません。社長が元気なうちに自分で一覧を作るのが、最も確かな方法です。

この記事で分かること

  • 社長の保険契約が見つからないと、会社と家族が困る3つの場面
  • 契約一覧・保管場所・窓口と連絡先・共有の4つの整え方
  • 生命保険契約照会制度の趣旨と、使える場面の目安
  • 備え不足と備え過剰の失敗場面、今週できる確認

1. 社長の保険契約を家族が把握できていないと起きる3つの場面

契約が見えないと、請求の遅れ・資金繰りのずれ・不要な保険料の支払いの3つが起きます。

1-1. 請求の連絡が遅れる

契約の存在を知らなければ、請求はできません。保険金の請求には、時効があります。長く気づかないままだと、請求できる期間が過ぎるおそれがあります。

たとえば、社長が個人で入っていた契約を、家族が誰も知らなかったとします。数年後に書類の整理で見つかり、請求を急ぐことになります。

1-2. 会社の資金繰りの見通しが狂う

会社が契約者の保険は、万一のときの資金の柱になります。ところが、専務や経理担当者が契約の内容を知らなければ、入金の時期も金額も読めません。

たとえば、借入金の返済の計画を、保険金の入金を見込んで立てていたとします。入金が遅れたり、見込んでいた契約が実は解約されていたりすると、資金繰りが崩れます。

1-3. 不要な保険料の引き落としが続く

反対に、すでに役目を終えた契約が、気づかれないまま保険料を払い続けている場合もあります。会社の口座から引き落とされていても、誰も内容を説明できない状態です。

たとえば、会社の通帳に毎月の引き落としがあるのに、経理担当者が「前からあるもの」としか答えられない場合があります。内容を把握できていない支払いは、見直しの機会を失います。

要するに、契約が見えないと、請求の遅れ・資金繰りのずれ・支払いの放置の3つが起きます。

2. 社長の保険契約が把握されにくい理由

把握されにくいのは、情報が社長一人に集まっていることと、契約が複数の場所に散らばっていることが原因です。

2-1. 契約の情報が社長一人の頭の中にある

経営者は、保険を長い年月のなかで少しずつ加えていることが多くあります。いつ、どの目的で入ったのかは、本人の記憶に頼りがちです。

社長が元気なうちは問題になりません。ところが、記録がなければ、後から経緯を知る人は誰もいません。

2-2. 個人の契約と会社の契約が混ざっている

個人の契約の証券は自宅に、会社の契約の証券は会社の金庫に、とバラバラに保管されていることがあります。担当者が異なれば、連絡先もそれぞれ別です。

家族は会社の契約を知らず、会社は個人の契約を知らない。そうなっていると、全体の姿は誰にも見えません。

要するに、情報の一極集中と、保管場所の分散が、契約を見えにくくします。

3. 社長の保険契約を把握する4つの整え方と生命保険契約照会制度

備えの中心は、社長自身が作る契約一覧です。4つの整え方を表で整理します。

整え方 具体的な内容 担当の目安
1. 契約一覧 個人と会社の契約を、保険会社名・契約番号・契約者・被保険者・受取人で一覧にする 社長と経理担当者
2. 保管場所 証券や通知書の場所を決め、一覧に書く 社長
3. 窓口と連絡先 保険会社の窓口と、担当者の連絡先を書き出す 社長と専務など
4. 共有と更新 誰に、どこまで伝えるかを決め、年に1度更新する 社長と家族、会社

3-1. 整え方1|契約一覧を作る

書き出す項目は、保険会社名、契約番号、契約者、被保険者、受取人、保険料の支払い方法の6つが基本です。契約者が個人か会社か、保険料を誰が負担しているかも並べます。

金額などの内容は、証券を見ながら書きます。うろ覚えの数字を書くより、証券の保管場所を書いておくほうが、後から確かめやすくなります。

3-2. 整え方2|保管場所を決める

証券・保険会社からの通知・保険料の領収書は、1か所にまとめます。会社の契約と個人の契約は、ファイルを分けたうえで、一覧からたどれるようにします。

電子のデータで契約内容を管理している場合は、その入口の情報も、一覧に書いておきます。パスワード自体を書面に残すかどうかは、会社の情報管理の方針で決めてください。

3-3. 整え方3|窓口と連絡先を書き出す

契約している保険会社の連絡先と、担当者の連絡先を、一覧の隣に書きます。担当者が替わっていることもあるため、保険会社の代表の窓口も併記します。

万一のときに最初に連絡する人は、専務など、決められた人にしておきます。連絡の流れは、別の記事(保険金請求の流れ)で詳しく解説しています。

法人保険の保険金請求の流れと時効

3-4. 整え方4|共有と更新のルールを決める

一覧の存在と保管場所を、家族と会社の担当者の両方に伝えます。中身をどこまで見せるかは、社長が決めます。

契約は、更新・解約・受取人の変更などで変わります。年に1度、決算のときや誕生日など、決まった時期に見直して、一覧を更新します。

3-5. 生命保険契約照会制度の趣旨と位置づけ

一般社団法人生命保険協会には、生命保険契約照会制度があります。契約者や被保険者に万一があったときなどに、家族などが、どこの生命保険会社に契約があるかを、協会を通じてまとめて調べられるとされている仕組みです。

解説では、利用できる場面は、家族などの他界、医師が診断した認知判断能力の低下、災害時の他界や行方不明などとされています。調べられるのは、契約の有無が中心で、契約の種類などの詳しい内容や請求の手続きは、各社に確認することになります。(出所:一般社団法人生命保険協会の生命保険契約照会制度の案内)

この制度は、本人が自分の証券を紛失したときに契約を調べ直すための制度ではありません。

対象の範囲、照会できる人、利用料、申請方法は、この記事では書きません。変更されることもあります。法人が契約者になっている契約が対象に含まれるかは、確認できていません。利用を考えるときは、生命保険協会の公式の案内で、最新の内容を確かめてください。

制度は、契約が分からなくなった後の「最後の手段」です。契約一覧を前もって作っておくことが、先の備えになります。

この記事では要点に絞って解説しました。受取人の決め方から契約の管理まで、全体像をまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】法人保険の受取人|保険金の行き先と契約管理

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要するに、契約一覧・保管場所・窓口と連絡先・共有と更新の4つを自分で整え、照会制度は最後の手段として位置づけます。

4. 社長の保険契約の整理でありがちな失敗場面

整理が足りない場合と、整理が重すぎる場合の両方に、失敗の形があります。

4-1. 備えが足りない場面

  • 一覧がない:たとえば、社長が「自分が分かっているから十分」と考えていたとします。万一のあと、家族と会社が契約の有無を探すところから始めることになります。
  • 証券の場所を誰も知らない:たとえば、証券が社長の個人の金庫にだけあったとします。会社の担当者も家族も開けられず、確認が止まります。
  • 連絡先が古い:たとえば、担当者の連絡先が昔のままだったとします。連絡が取れず、保険会社の窓口を探すところから始まります。

4-2. 備えが重すぎる場面

  • 全員に全情報を渡す:たとえば、契約の内容や金額を、社内の全員に共有したとします。個人の情報が広く知られ、社長の意図しない憶測を呼びます。
  • 制度に頼り、一覧を作らない:たとえば、「困ったら協会に照会すればよい」と考えたとします。照会は契約の有無を調べる制度で、内容の整理や社内の資金計画の代わりにはなりません。
  • 管理のために契約を増やす:たとえば、把握しきれないまま新しい契約を重ねたとします。管理する対象が増え、かえって全体が見えなくなります。

共有する範囲は、「存在と保管場所」と「中身」で分けて考えます。存在と保管場所は広く、中身は必要な人にだけ伝えます。

要するに、一覧を持たない失敗と、広く共有しすぎる失敗の両方を避けます。

5. 社長の保険契約を把握するために今週できる確認

次の5つを、今週のうちに進めます。

  • 自宅と会社にある保険の証券・通知書を、いったん1か所に集めましたか。
  • 保険会社名・契約番号・契約者・被保険者・受取人を、1枚の表に書き出しましたか。
  • 保険料の引き落とし口座を、通帳で確かめ、一覧と照らしましたか。
  • 保険会社と担当者の連絡先を、一覧の隣に書きましたか。
  • 一覧の保管場所を、家族と専務など会社の担当者に伝えましたか。

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要するに、証券を集め、表にし、引き落としと照らし、連絡先を書き、保管場所を伝える5つが入口です。

6. よくある質問

Q1. 社長の保険契約は、誰が把握しておくとよいですか。

社長自身が一覧を作り、家族と会社の担当者に、存在と保管場所を伝えておくのが基本です。中身をどこまで共有するかは、社長が決めます。

Q2. 生命保険契約照会制度とは、どんな制度ですか。

契約者や被保険者に万一があったときなどに、家族などが、生命保険協会を通じて、会員の生命保険会社に契約の有無をまとめて照会できるとされている制度です。調べられるのは、契約の有無などが中心です。詳しい内容は各社に確認します。

Q3. 自分の保険証券をなくしたときに、この制度で調べられますか。

この制度は、本人の証券の紛失を調べ直すためのものではありません。証券が見つからないときは、契約先の保険会社に連絡して確認する方法を考えます。

Q4. 会社が契約者の保険も、照会制度で調べられますか。

この記事では、確認できていません。対象は個人保険契約と説明している資料が多いものの、法人契約の扱いは生命保険協会の公式の案内で確かめてください。

Q5. 契約一覧には、何を書けばよいですか。

保険会社名、契約番号、契約者、被保険者、受取人、保険料の支払い方法、証券の保管場所、連絡先を書きます。金額などの細かい数字は、証券で確かめられるようにしておきます。

Q6. 一覧は、どのくらいの頻度で更新しますか。

年に1度、決算のときや誕生日など、時期を決めて見直すと続けやすくなります。契約の変更や解約があったときも、その場で書き換えます。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 社長の保険契約は、契約一覧・保管場所・窓口と連絡先・共有と更新の4つを整えて、会社と家族が見つけられる状態にします。
  • 生命保険契約照会制度は、契約の有無を調べる制度です。自分の証券を紛失したときの再確認のための制度ではありません。
  • 制度は最後の手段で、備えの代わりにはなりません。まずは自分で一覧を作ります。
  • 契約の評価や税務の扱いなど、個別の判断は専門家の領域です。

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筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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