【まず確認】団体定期保険と弔慰金規程 従業員の万一に備える4つの手順
従業員の訃報が入った日の夜、社長が一人で事務所に残り、遺族への連絡をどうするか考えている場面を思い浮かべてください。
弔慰金の規程はなく、お見舞いやお香典の金額も決まっていません。社員一人ひとりに対する会社の姿勢が、そのとき初めて形になります。金額をその場で決めると、前に亡くなった従業員の場合と差が出るのではと、社長は迷います。
従業員の福利厚生の相談では、「万一のときの支払いを、規程にも財源にもしていなかった」という声を伺います。団体定期保険は、この財源を準備する方法のひとつです。ただ、保険に入ることよりも先に、決めておくことがあります。
この記事は、従業員の万一に備える仕組みを作りたい経営者に向けて、規程と団体定期保険を組み合わせる手順を整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
加入をお勧めする記事ではありません。規程、財源、加入範囲を順に決めて、会社に合うかどうかを確かめるための記事です。筆者は、社長が守るのは家族だけでなく、従業員とそのご家族だと考えています。
結論
- 従業員の万一に備えるときは、規程、財源、加入範囲と受取人、保険料の点検の4つの手順を順に進めます。保険の加入は、規程を決めた後です。
- 団体定期保険は、弔慰金や死亡退職金の財源を準備する選択肢のひとつです。預金で備える方法もあり、どれが合うかは会社の資金繰りで決まります。
- 備えを削りすぎると遺族への支払いが会社の預金を圧迫し、厚くしすぎると保険料が固定費として積み上がります。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 従業員の万一に備えていない会社で起きる3つの問題
- 規程と財源の準備が後回しになる経営者の背景
- 団体定期保険と弔慰金規程で備える4つの手順と、加入範囲の考え方
- 今週できる規程と財源の確認3ステップ
- 足りない場合・重すぎる場合・加入範囲を誤る場合の3つの失敗の場面
1. 従業員の万一に備えていない会社で起きる3つの問題
備えのない会社には、大きく3つの問題が起きます。支払いを会社が自力で用意すること、金額が人によってばらつくこと、残された従業員の信頼への影響です。
1-1. 遺族への支払いを会社が預金から自力で用意する
従業員に万一があったとき、会社は遺族に弔慰金や死亡退職金を支払うことがあります。財源を決めていないと、その月の運転資金から払うことになります。
資金に余裕のある時期ならまかなえます。ただ、仕入れや賃料の支払いが重なる月に起きると、その資金繰りへの影響は小さくありません。
1-2. 金額が、そのときの社長の判断で変わる
規程がないと、金額は事案ごとに社長が決めることになります。勤続年数が同じでも、前回より少ない、あるいは多いという差が出ると、社内に不公平感が残ります。
金額の目安を規程に書いておけば、社長が一人で迷わずに済みます。遺族への対応も、同じ基準で進められます。
1-3. 残された従業員の信頼に影響する
従業員は、同僚の万一に会社がどう対応したかを見ています。そのときの対応が、自分に何かあったときの会社の姿勢として受け止められます。
採用や定着の場面でも、福利厚生の中身は比べられます。万一の備えがあることは、従業員にとって会社を選ぶ理由のひとつになる場合があります。
要するに、備えがないと、支払いの資金、金額の公平さ、従業員の信頼の3つが、その場の判断に左右されます。
2. 規程と財源の準備が後回しになる経営者の背景
備えが後回しになる背景には、日々の経営の忙しさと、順番の分かりにくさがあります。代表的なものを3つ挙げます。
2-1. 元気な従業員の万一を想像しにくい
従業員が若く、元気に働いているうちは、万一の場面を具体的に思い描きにくいものです。「そのときに考えよう」と先送りになり、そのまま年月が過ぎます。
2-2. 保険と規程のどちらが先か分からない
担当者から団体定期保険の話を聞いて、保険に先に入ってしまう会社があります。ところが、規程がないと、保険金が出ても遺族へどう支払うかの基準がありません。
順番は、規程が先、財源が後です。支払いの基準を決めてから、その財源に何を使うかを選びます。
2-3. 保険料の負担が気になる
全員を被保険者にすると、保険料の総額が気になります。雇用が増えるほど負担も増えるため、ためらう経営者もいます。
備えの方法は保険だけではありません。支払いの規模や会社の資金に応じて、預金で備える方法と組み合わせることもできます。
要するに、備えが後回しになるのは、万一を想像しにくいこと、保険と規程の順番の分かりにくさ、保険料への不安が重なるためです。
3. 団体定期保険と弔慰金規程で備える4つの手順
備えは、次の4つの手順を順に進めます。保険を選ぶのは、手順1で規程を決め、手順2で財源を比べた後です。
3-1. 手順1:弔慰金と死亡退職金の規程で支給の基準を決める
最初に、誰に、どんなときに、いくら支払うかを書面で決めます。業務上の死亡と、それ以外の死亡で金額を分ける会社もあります。
金額を決めるときの目安のひとつに、遺族側の相続税の取扱いがあります。業務上の死亡では普通給与の3年分、業務上以外の死亡では普通給与の6か月分までは、弔慰金として相続税の対象にしない取扱いがあります。(出所:国税庁、相続税法基本通達3-20)これを超える部分は、退職手当金等として扱われます。
この取扱いは、遺族が受け取る側の相続税の目安です。会社が払う弔慰金の経理処理は、顧問税理士に確認します。規程の作り方は、従業員の死亡退職金・弔慰金規程の作り方でも詳しく整理しています。
3-2. 手順2:財源を決める
支給の基準が決まったら、その財源を決めます。預金で備える方法、団体定期保険で備える方法、両方を組み合わせる方法があります。
団体定期保険は、会社が契約者となり、従業員を被保険者とする死亡保障が中心の保険です。1年ごとに更新する契約が多く、貯蓄性のある商品とは仕組みが違います。内容は商品ごとに異なるため、保障の範囲は契約内容で確かめます。
業務上の災害で従業員が亡くなった場合は、労災保険から遺族に給付が行われる場合があります。(出所:厚生労働省)会社の備えは、公的な給付で足りない部分に何が必要かを考えて決めます。
3-3. 手順3:加入範囲と受取人を決める
被保険者になる従業員の範囲と、保険金の受取人を決めます。従業員を被保険者にするには、本人の同意が必要です。契約者以外の人を被保険者とする死亡保険契約は、被保険者の同意がなければ効力を生じません。(出所:保険法第38条)
受取人が被保険者の遺族で、役員や部課長など特定の使用人だけを被保険者としている場合は、保険料がその人への給与として扱われます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5)一部の人だけを加入させると、福利厚生ではなく給与の扱いになる場合があるため、加入範囲は税理士に確認します。
受取人が会社か遺族かで、保険金の使い道と税務の扱いが変わります。会社が受け取って規程に基づき遺族へ払う形か、遺族が直接受け取る形かを、規程と保険金の流れが合うよう契約前に決めます。団体定期保険は、加入できる範囲や加入割合に条件がある場合があるため、保険担当者に確認します。
3-4. 手順4:保険料と更新時の条件を点検する
保険料の総額が、いまの資金繰りの中で払える範囲にあるかを確かめます。従業員が増えたり、年齢構成が変わったりすると、更新時の保険料も変わることがあります。
更新のたびに、従業員の入退社に合わせた被保険者の入れ替えと、規程の金額が保険金と合っているかを確かめます。
| 手順 | 決めること | 確かめる相手 |
| 手順1:規程 | 誰に、どんなときに、いくら支払うか | 経営者、顧問税理士 |
| 手順2:財源 | 預金、団体定期保険、両方の組み合わせ | 経営者、保険担当者・FP |
| 手順3:範囲と受取人 | 被保険者の範囲、本人の同意、受取人 | 経営者、顧問税理士 |
| 手順4:点検 | 保険料、更新時の条件、規程との整合 | 経営者、経理担当者 |
ここで触れた税務は、いずれも一般的な考え方です。個別の損金・給与の判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。
要するに、規程、財源、加入範囲と受取人、保険料の点検の4つを、この順に決めます。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る従業員の万一への備えの点検項目
専門家と点検する価値は、規程、財源、税務を同じ机で見られることです。経営者が一人で見ると、どれかが抜けやすくなります。
4-1. 書類で確かめる4つの項目
- 弔慰金・死亡退職金の規程があり、金額と対象者が書かれているか
- 保険を使う場合、規程の金額と保険金額が大きくずれていないか
- 被保険者の範囲と、本人の同意の記録があるか
- 入退社に合わせた被保険者の入れ替えが、更新のたびにされているか
この4つを、規程と契約書類の両方で確かめます。規程だけ、契約だけを見ると、ずれに気づきにくくなります。
4-2. 経営者・税理士・保険担当者の役割
| 立場 | 主に見ること |
| 経営者 | 誰にどんな備えをしたいか。支払える範囲。最終の判断 |
| 顧問税理士 | 保険料や弔慰金の損金・給与の判断、経理処理 |
| 保険担当者・FP | 契約内容、保障の過不足、更新時の条件 |
4-3. 筆者が大切にしていること
筆者は、商品の話より先に、誰を守りたいのかを伺うようにしています。従業員を大切にしたいという社長の想いが形になるのは、規程という書面と、それを支える財源です。
保険に頼らず預金で備えるほうが合う会社には、正直にそうお伝えします。
要するに、点検は、規程と契約書類の突き合わせ、三者の役割分担、守りたい人の確認の3つで進めます。
5. 今週できる規程と財源の確認3ステップと、備えで起きる失敗
今週できる一歩は3つです。どれも、契約をしなくてもできます。あわせて、備えを決めるときに起きやすい失敗を3つの場面で整理します。
5-1. 今週中にできる3ステップ
- 就業規則や退職金規程に、弔慰金・死亡退職金の定めがあるかを確かめる
- すでに団体定期保険などの契約があれば、被保険者の範囲と保険金額を書き出す
- 規程の金額と、会社が用意できる財源を見比べて、足りない場面に印を付ける
この3つで、規程と財源のずれが見えてきます。保険に入るかどうかは、その後に決めます。
5-2. 規程も財源もなく、業務中の事故で支払いが重なる場面
たとえば、現場作業のある会社で、社長が「元気な従業員ばかりだから、備えは後でよい」と判断していたとします。
ある日、作業中の事故で従業員が亡くなり、社長は遺族への弔慰金を、その場の判断で決めて支払います。労災保険の給付があっても、会社の弔慰金は別に決めておく必要があります。同じ月に、仕入れの支払いと賃料の引き落としが重なり、運転資金が不足して、銀行から追加で借り入れることになります。規程も財源もないまま従業員の万一が起きると、遺族への支払いと会社の運転資金が同じ月に重なり、資金繰りが苦しくなります。支払いの基準と財源は、起きる前に決めます。
5-3. 備えを厚くしすぎて、保険料が固定費に積み上がる場面
たとえば、社長が「従業員を大切にしたい」と考えて、全員に高めの保険金額を設定したとします。
採用が増えた期に、経理担当者が資金繰り表を作ると、保険料が人数に応じて増え、賃料や給与に次ぐ固定費になっています。売上が落ちた年に保険料の引き落としが重荷になり、契約を急にやめると、従業員への備えが一度になくなります。備えを厚くしすぎると、保険料が固定費として増え続け、売上が落ちた年に契約を維持できなくなります。経理担当者が保険料の総額を資金繰り表に重ねて社長に報告し、社長は保険金額の抑え方を保険担当者と相談します。
5-4. 一部の役員だけを加入させて、給与の扱いになる場面
たとえば、社長が「まずは幹部だけ」と考え、役員と部長の数人だけを対象に定期保険を契約し、受取人を各人の家族にしたとします。
決算の確認で、税理士から、保険料が役員や特定の使用人への給与として扱われる可能性を指摘されます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5)給与になると、本人の源泉徴収の対象にもなり、従業員に説明した福利厚生の内容とも食い違います。一部の人だけを被保険者にして遺族を受取人にすると、保険料が給与として扱われ、福利厚生の目的と合わなくなります。加入範囲は、契約の前に税理士に確かめます。
要するに、備えが足りないと支払いが預金を圧迫し、厚すぎると保険料が固定費になります。加入範囲は契約の前に税理士へ確かめます。
6. 団体定期保険と弔慰金規程のよくある質問
Q1. 団体定期保険に入れば、弔慰金規程は不要ですか。
規程は必要です。保険金は財源のひとつにすぎず、誰にいくら支払うかを決めるのは規程です。規程がないと、保険金が出ても遺族への支払いの基準がありません。
Q2. 弔慰金の金額は、いくらにすればよいですか。
会社の資金力や規模で変わるため、一律の金額はありません。遺族側の相続税の目安として、業務上の死亡は普通給与の3年分、業務上以外は6か月分までは弔慰金として扱われます。(出所:国税庁、相続税法基本通達3-20)会社が払う金額の処理は、税理士に確認します。
Q3. 従業員の同意は必要ですか。
必要です。契約者以外の人を被保険者とする死亡保険契約は、被保険者の同意がなければ効力を生じません。(出所:保険法第38条)加入の目的と範囲を説明して、同意の記録を残します。
Q4. 一部の従業員だけを加入させてもよいですか。
受取人が遺族で、役員や特定の使用人だけを被保険者とする場合は、保険料がその人への給与として扱われます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5)加入範囲は、事前に顧問税理士に確認します。
Q5. 保険料が負担になったとき、どうすればよいですか。
保険金額を見直す、預金での備えと組み合わせる、といった方法があります。やめる場合は、従業員への備えが一度になくなるため、規程の金額と財源を確かめてから決めます。
Q6. 税務の扱いは、どうなりますか。
保険料や弔慰金の損金・給与の判断は、契約の内容と受取人によって変わります。個別の判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。2019年(令和元年)の通達改正は、定期保険・第三分野保険の保険料の扱いに関わるため、契約した時期も確認します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)
7. まとめ|従業員の万一への備えは、規程から決める
- 従業員の万一に備えていないと、支払いの資金、金額の公平さ、従業員の信頼が、その場の判断に左右されます。
- 備えは、規程、財源、加入範囲と受取人、保険料の点検の4つを、この順に決めます。
- 備えが足りないと預金を圧迫し、厚すぎると保険料が固定費になります。一部の人だけの加入は給与の扱いになる場合があります。
- 税務の個別判断は税理士の領域です。経営者・税理士・保険担当者の三者で全体を見ます。
筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。従業員とそのご家族のために、まず規程という書面から整えます。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
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