【徹底解説】会社を畳む・譲る時の法人保険 出口の4つのチェック項目
たとえば、後継者がいない社長が、顧問税理士から「数年のうちに会社を畳むか、どこかに譲るかを決めましょう」と言われたとします。社長は、事業の整理や従業員のことを考えながら、ふと、これまで会社で入ってきた保険のことが頭に浮かびます。
保険証券は金庫に何通かあります。ただ、どの契約が何のためのもので、いま解約するといくら戻り、その戻りが決算にどう響くのか、社長はすぐに答えられません。経理担当者に尋ねても、契約の一覧はなく、資産の残高と保険の資料が結びついていません。
この記事では、会社を畳む、または譲るときに、法人保険をどう扱うかを、契約の棚卸し、残す・解約する・移すの選び方、解約したお金の税務上の扱い、退職金や借入返済との順番の4つのチェック項目で整理します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
この記事は、法人保険への加入や解約をお勧めするものではなく、出口を迎える前に、契約の現状を点検するためのものです。税務の個別の判断や申告は税理士の領域、会社の解散や株式の譲渡の手続きは、税理士や弁護士などの専門家の領域です。
結論
- 会社の出口で法人保険を扱うときのチェック項目は4つです。契約の棚卸し、残す・解約する・移すの選び方、解約したお金の税務上の扱い、退職金や借入返済との順番です。
- 解約すると、会社に解約返戻金が入ります。会社の帳簿に資産として載せている額との差が、その年度の損益に影響する場合があります。税額は当期の損益や繰越欠損金で変わるため、金額の大小だけで解約するかどうかを決めません。
- 出口を意識して急いで解約すると、社長の万一や従業員への備えが空白になることがあります。逆に、目的が終わった契約を放置すると、保険料が資金繰りを圧迫し続けます。
この記事で分かること
- 会社を畳む・譲るときに、法人保険で起きやすい3つの問題
- 契約を残す・解約する・移すときの考え方と、税務上の整理の入口
- FP1級が見る点検項目と、現場で起きやすい失敗の場面
- 今週できる3ステップ
1. 会社を畳む・譲るときに法人保険で起きる3つの問題
出口の場面で法人保険を放置すると、3つの問題が起きます。順に見ていきます。
1-1. 契約の目的が終わっているのに、保険料を払い続ける
借入金への備え、役員退職金の準備、従業員の弔慰金の財源など、契約には始めたときの目的があります。会社の出口が見えてくると、その目的が先に終わっている契約が出てきます。
たとえば、社長が事業の縮小を決めたあとも、借入金がほとんど残っていない状態で、借入に備えた保険の保険料を、毎月の口座から払い続けていたとします。経理担当者は、決算のたびに同じ金額を処理しているため、疑問に気づかないまま過ぎます。社長は、廃業の資金計画を立てる段になって、はじめてその金額の大きさに気づきます。
1-2. 解約返戻金の入り方と税金を、出口の資金計画に入れていない
法人保険を解約すると、会社に解約返戻金が入ります。帳簿に資産として載せている額と、戻ってきた額との差は、その事業年度の益金または損金になります。出口の年は、事業譲渡や閉店に伴う損益など、ほかの動きも重なります。
たとえば、解散する年に、複数の保険を一度に解約したとします。戻ってきたお金で退職金や借入を返せると考えていたところ、顧問税理士から「帳簿の残高との差が益金になるため、その年度の納税額も見ておいてください」と言われます。社長は、解約のお金を使い道に割り振る前に、税理士へ試算を頼む必要があると気づきます。
1-3. 会社を離れる社長が、被保険者のまま契約が残る
たとえば、会社を譲った後も、前の社長が被保険者のまま、会社が契約者・受取人の契約が残っているとします。買い手の経理担当者が、譲渡後の最初の決算で保険料の支払いに気づき、買い手の社長が前の社長に確認します。保険料を誰が負担するか、契約を誰に移すかは、買い手との協議事項になります。前の社長の側でも、自分の万一に対する保険金が、自分の家族に渡る形になっていない場合があります。
契約を残すのか、解約するのか、個人に移すのかは、会社を譲る前の段階で、買い手や専門家と話し合って決めておく事項です。
要するに、目的の終わった契約の保険料、解約返戻金と税金の見落とし、会社を離れる社長の契約の宙ぶらりんの3つが、出口で起きやすい問題です。
2. 出口の保険の整理が先送りになる背景
先送りになる背景は、会社の整理を優先してしまうこと、保険の資料が散らばっていること、相談先が分かれていることの3つです。順に整理します。
2-1. 事業の整理や従業員への説明が先になる
会社を畳む、または譲る場面では、取引先への説明、従業員の雇用、設備や在庫の処分と、やることが多くあります。保険は、後回しになりやすく、最後まで残りがちです。
2-2. 証券と帳簿が結びついていない
保険証券は社長の手元や金庫に、帳簿上の資産の残高は経理担当者の側にあります。どの証券がどの勘定の残高にあたるのか、対応表がない場合が少なくありません。対応が分からないと、解約したときの差額も見積もれません。
2-3. 相談先が分かれている
解約の方法は保険の担当者、税金は顧問税理士、会社の解散や株式の譲渡の手続きは弁護士や司法書士と、相談先が分かれます。それぞれが自分の領域を中心に見るため、全体の順番を決める人がいないまま時間が過ぎます。
要するに、会社の整理の優先、証券と帳簿の不一致、相談先の分断が、保険の整理を遅らせます。
3. 会社を畳む・譲るときの法人保険、4つのチェック項目
チェック項目は4つです。まず次の表で全体を見ます。
| チェック項目 | 確かめること | 主に相談する相手 |
| 1. 契約の棚卸し | 契約ごとの目的、被保険者、受取人、保険期間、解約したときの戻りと帳簿の残高 | 保険の担当者・経理担当者 |
| 2. 残す・解約する・移す | 目的が続いているか、会社に残すのか、解約するのか、個人に移すのか | 顧問税理士・保険の担当者 |
| 3. 解約したお金の税務 | 帳簿の残高との差額、当期の損益、繰越欠損金、解散の年の申告 | 顧問税理士 |
| 4. 使い道の順番 | 役員や従業員の退職金、借入の返済、納税の資金の優先順位 | 顧問税理士・弁護士 |
3-1. チェック項目その1:契約を棚卸しする
契約ごとに、始めた目的、契約者、被保険者、受取人、保険期間、保険料の払込みの終わる時期を一覧にします。そのうえで、解約したときの返戻金の見込みを、保険会社に問い合わせて確かめます。帳簿上の資産の残高と並べて書くと、解約したときの差額が見えます。
2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて(年換算保険料の額などによる例外もあります)保険料の一部を、保険期間の前半に資産に計上し、後半に取り崩して費用にします(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)。そのため、帳簿の残高は、解約返戻金とは一致しないことが多くあります。どの契約がどちらの扱いかは、契約日と内容で変わるため、顧問税理士と照らして確かめます。
3-2. チェック項目その2:残す・解約する・移すを決める
契約の扱いは、大きく3つです。
- 残す:目的が続いているため、会社が契約者のまま保険料を払い続ける
- 解約する:目的が終わった、または会社の出口の資金に充てるために解約する
- 移す:契約者を会社から個人へ変更する
会社から個人へ契約者を変更する場合、会社側では、解約返戻金相当額と帳簿の残高との差額が益金または損金になる場合があり、個人側にも給与や退職金などの課税が生じる場合があります。評価の扱いは契約の内容や時期で異なります。移した後の保険料は個人の負担になり、会社の経費には入りません。会社が譲渡される場合は、買い手が契約を引き継ぐのかも、売却の条件の話し合いに含めます。扱いの可否は保険会社の手続きによっても変わる場合があるため、先に保険会社と顧問税理士に確認します。
3-3. チェック項目その3:解約したお金の税務上の整理をする
解約返戻金と帳簿の残高との差額は、その事業年度の益金または損金になります。会社の解散や清算の期間にも、所得の申告が必要になる場合があります。出口の年は事業譲渡や閉店の損益が重なり、税額は当期の損益や繰越欠損金で変わります。そのため、解約のタイミングを動かすと税額も動く場合があります。
ただし、税額の大小だけで解約の時期を決めないでください。社長の万一に対する備えや、従業員の生活に関わる備えが空白にならないことが先です。解約の時期は、顧問税理士に試算を依頼し、複数のパターンを比べて決めます。
3-4. チェック項目その4:使い道の順番を決める
解約したお金は、役員や従業員の退職金、借入の返済、納税の資金に使うことが多くあります。順番を決める前に、各支払いの期限と金額の見込みを一覧にします。
役員の退職金は、損金にする時期と、金額が適正な範囲かが論点になります。損金にする時期は、原則として金額が確定した決議の日の属する事業年度とされ(出所:国税庁、法人税基本通達9-2-28)、不相当に高額な部分は損金になりません(出所:法人税法第34条第2項、同施行令第70条第2号)。個別の判断は顧問税理士に確認します。借入の返済は、金融機関との約定が優先する場合があります。保証人になっている社長の個人の負担にも関わるため、弁護士に相談します。
要するに、棚卸し、残す・解約する・移すの選択、税務の整理、使い道の順番の4つを、この順に進めます。
ここまでで、4つのチェック項目を解説しました。もっと詳しく知りたい方は、次の記事で見直しの全体像を解説しています。
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4. FP1級が見る出口の法人保険の4つの視点
3章の4つのチェック項目とは別に、FP1級の筆者が見る視点を4つ挙げます。最初に見るのは、解約の損得よりも、契約が何のために始まり、いまもその目的が続いているかです。
4-1. 目的が終わった契約と、続いている契約の仕分け
契約ごとに、目的が終わったのか、続いているのかを仕分けます。借入の備えなら残りの借入、退職金の準備なら支給の時期、従業員の弔慰金なら規程が、判断の手がかりです。目的が続くものを一括で解約すると、備えが空白になります。
4-2. 会社を離れる人の保障の行き先
社長や役員が会社を離れる場合、被保険者としての保障がどこまで続くか、受取人は誰かを確かめます。個人に移す、解約する、買い手に引き継ぐのいずれの場合も、前社長の家族に必要な備えが別に残るかを、あわせて考えます。
4-3. 従業員に関わる契約の扱い
従業員を被保険者にしている契約は、死亡保険では、新たに被保険者にする場合や受取人を変更する場合に、被保険者の同意が必要になる契約があります(出所:保険法第38条、第45条)。医療保険・がん保険などの傷害疾病定額保険は、別の条文が定められています。解約や契約者の変更でも、従業員への説明の記録を残します。従業員の退職や会社の出口の時期に合わせて、同意の記録と、規程の定めを確認します。
4-4. 税理士・弁護士との役割分担
税務の個別判断、申告、経理処理は税理士の領域です。解散や譲渡の手続き、保証や契約の法的な整理は、弁護士などの専門家の領域です。FPは、全体を並べ、順番と論点を整理する役割で関わります。
要するに、目的の仕分け、会社を離れる人の保障、従業員に関わる契約、専門家の役割分担の4つを見ます。
5. 今週できる、出口に向けた法人保険の整理3ステップ
今週できる整理は3ステップです。大きな決断は、後に回して構いません。
5-1. 保険証券と帳簿の対応表を作る
手元にある保険証券をすべて並べ、契約者、被保険者、受取人、保険期間、始めた目的を書き出します。経理担当者に、帳簿上の資産の残高を契約ごとに分けて出してもらい、並べます。
5-2. 解約したときの返戻金の見込みを問い合わせる
保険会社の担当窓口に、現時点で解約した場合の返戻金の見込みを問い合わせます。窓口や手続きは保険会社ごとに異なる場合があります。見込みは、解約を決める資料ではなく、比べるための数字として扱います。
5-3. 失敗しやすい場面を事前に知っておく
出口の整理で起きやすい失敗は、削りすぎと、放置の両面です。
- 削りすぎ:たとえば、社長が会社の縮小を決めた勢いで、保険をすべて解約したとします。借入の返済が残っている時期に社長が長期入院し、返済日の前に金融機関との面談で、会社に支払いの資金が足りないことに気づきます。社長は、残りの借入と保障が合っていなかったと分かり、以後は、残りの借入と契約の目的を並べてから解約を判断します。
- 放置:たとえば、目的が終わった契約を、解散の計画を立てた後もそのままにしていたとします。決算の打合せで、毎月の保険料が運転資金を圧迫していると分かり、従業員への最後の給与の支払いに手元資金が足りなくなりかけます。社長は、顧問税理士と経理担当者に頼んで契約を一覧にします。以後は、解散の計画を立てた時点で、目的の終わった契約から扱いを決めます。
- 税務の見落とし:たとえば、出口の年に複数の保険を解約し、返戻金を退職金に充てる計画だったとします。申告の段階で、帳簿の残高との差額が益金に含まれると分かり、納税の資金が足りなくなる場合があります(税額は当期の損益や繰越欠損金で変わります)。社長は、税理士に差額の試算を頼みます。以後は、解約の前に試算を頼み、納税の資金も計画に入れます。
要するに、対応表の作成、返戻金の見込みの確認、失敗の場面の事前把握の3つを、今週のうちに進めます。
6. 会社を畳む・譲る時の法人保険のよくある質問
Q1. 会社を畳むとき、法人保険はすべて解約すべきですか。
すべて解約するとは限りません。目的が終わった契約は解約や整理の対象になりますが、借入の残りや従業員の保障など、続いている目的がある契約は、残すかどうかを別に考えます。契約ごとに目的を仕分けて決めます。
Q2. 解約返戻金は、すべて会社の利益になりますか。
解約返戻金と帳簿上の資産の残高との差額が、その事業年度の益金または損金になります。資産計上の残高がある契約はその差額が、残高がない契約は戻った額の全体が益金になります。実際の処理や税額は、顧問税理士の領域です。
Q3. 会社を譲るとき、保険契約は買い手に引き継げますか。
引き継げる場合も、解約する場合もあります。契約者や被保険者の変更の可否は、契約の内容と保険会社の手続きで変わります。買い手との条件の話し合いの前に、保険会社と顧問税理士に確認します。
Q4. 契約者を社長個人に変更すると、税金はかかりますか。
かかる場合があります。会社側では、解約返戻金相当額と帳簿の残高との差額が益金または損金になる場合があり、個人側にも給与や退職金などの課税が生じる場合があります。評価の扱いは契約の内容や時期で異なり、保険料は変更後は個人の負担になります。個別の判断は、顧問税理士に確認します。
Q5. 解散の年に解約すると、税金は多くなりますか。
当期の損益と繰越欠損金によって変わります。解約返戻金と帳簿の残高との差額は、その年度の損益に影響しますが、税額が増えるとは限りません。複数のパターンを、税理士に試算してもらいます。
Q6. 従業員を被保険者にしている契約は、どう扱えばよいですか。
解約や変更の前に、従業員への説明の記録、同意が必要な手続きかどうか、規程の定めを確認します。退職金や弔慰金の財源にしている契約は、会社の出口の時期と合わせて、代わりの財源を整理します。
Q7. 保険料は、損金になりますか。
契約の内容によります。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて(年換算保険料の額などによる例外もあります)保険料の一部を、保険期間の前半に資産に計上し、後半に取り崩して費用にします(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)。それより前の契約は取扱いが異なります。実際の処理は、顧問税理士の領域です。
7. まとめ|出口の前に、契約の目的と帳簿を並べて確かめる
- 会社を畳む・譲るときのチェック項目は、契約の棚卸し、残す・解約する・移すの選択、解約したお金の税務の整理、使い道の順番の4つです。
- 解約返戻金と帳簿の残高との差額が、その年度の損益に影響する場合があります。税額は当期の損益や繰越欠損金で変わります。
- 急いで解約すると備えが空白になり、放置すると保険料が資金繰りを圧迫します。両面を見て、契約ごとに目的を仕分けます。
- 税務の個別判断は税理士、解散や譲渡の手続きは弁護士などの領域です。
筆者は、社長が守っているのは家族だけでなく、従業員とそのご家族の暮らしでもあると考えています。会社の出口の日も、「その時」のひとつです。必要なものを、必要な分だけ。契約の目的と帳簿を一緒に並べて、整理します。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。出口に向けた契約の現状を、一緒に整理します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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