【社長へ】自社株の相続税 納税資金を法人保険で備える3つの視点
創業から30年、会社を育ててきた社長が、顧問税理士と自社株の話をしている場面を思い浮かべてください。
「社長の持っている株、いまの評価だと相続税がかなり大きくなりそうです」。
株は後継者に引き継ぎたい。しかし、納税のための現金をどう用意するのかは、まだ決めていません。
法人保険の相談では、こうした「自社株を引き継ぐときの納税資金をどう備えるか」というお話をよくいただきます。
自社株は、売って現金にしにくい財産です。納税が必要になったとき、現金が足りないと、会社の経営そのものに影響が出る場合があります。
この記事では、中小企業診断士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士が、自社株の納税資金を法人保険で備えるときの3つの視点を、失敗の場面とあわせて整理します。
なお、この記事は事業承継の「資金」の面に絞って解説します。個別の税額は税理士の領域です。
結論
- 備え方は、「必要な資金の見積り」「受取人と規程」「会社の資金繰り」の3つの視点で整理します。
- 法人保険は、納税資金や死亡退職金の原資を準備する方法の1つです。唯一の方法ではありません。
- 税額の計算や申告は税理士の領域です。経営者は目的と家族の状況を整理して伝えます。
この記事で分かること
- 自社株の納税資金が足りなくなる場面
- 法人保険で備えるときの3つの視点
- 削りすぎ・過剰の両面の失敗
- 今週中にできる確認3ステップ
1. 自社株の納税資金を後回しにすると、会社と家族に起きる問題
自社株は評価額が大きくなりやすく、現金化しにくいため、納税資金の準備が後回しになりがちです。ここでは4つの課題を整理します。
1-1. 自社株は「売れない資産」になりやすい
非上場会社の株式は、市場で売買できません。
評価額が大きくても、手元に現金が入るわけではありません。
株を持つ社長が亡くなると、相続人は株式の評価額をもとに相続税を計算し、原則として現金で納める必要があります。
相続税の申告と納付は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。(出所:国税庁「相続税の申告と納税」)
1-2. 評価額は会社の成長とともに上がる
会社が成長し、利益や純資産が増えると、株式の評価額が上がる場合があります。
経営がうまくいっているほど、納税資金の準備が必要になる、という逆説的な状況です。
評価額の計算方法は、財産評価基本通達で定められています。個別の評価額は、税理士に確認してください。
1-3. 納税資金を会社から出すと、経営に響く
相続人が現金を持っていない場合、会社から資金を出して株を買い取ってもらう、という方法が検討されます。
ただし、会社が株を買い取るには、会社法の分配可能額の範囲内である必要があります。(出所:会社法第461条)
買取りの資金が、会社の運転資金を圧迫することもあります。
1-4. 相続人が複数いると、話がさらに難しくなる
後継者以外にも相続人がいる場合、株を後継者に集中させたい社長の意向と、他の相続人の公平感がぶつかることがあります。
株を後継者に渡すかわりに、他の相続人には現金などで配慮する「代償分割」という考え方があります。この場合、後継者側に代償金を用意する資金が必要になります。
納税資金に加えて、代償金の資金も必要になる場面を、早めに想定しておくことが大切です。
これらは、社長に万一があってから考え始めると、10か月という期限の中で急いで決めることになります。(出所:国税庁「相続税の申告と納税」)
まだ余裕のある時期に整理を始めるほど、選べる方法が増えます。
要するに、自社株の納税資金は「現金化しにくい」「評価額が上がる」「会社から出すと経営に響く」「相続人が複数だと話が難しくなる」の4点で、早めの準備が必要になります。
2. 経営者が納税資金の準備を先送りしてしまう背景と、2つの失敗場面
先送りの背景には、家族の話と税金の話が重なる心理的な難しさがあります。先送りの背景と、失敗の場面を見ます。
2-1. 先送りしてしまう3つの背景
- まだ元気なうちに「相続」の話を切り出しにくい
- 相続人が複数いて、株の引継ぎ先が決まっていない
- 税理士・保険担当者・家族の話がバラバラで、全体像が見えない
相談の場でも、「何から手を付けてよいか分からない」というお話が多く聞かれます。
とくに、株の引継ぎは、会社の将来と家族の関係の両方に関わるため、1人で結論を出そうとして止まってしまう方が少なくありません。
止まってしまうこと自体は、責められることではありません。必要なのは、論点を分けて、1つずつ整理することです。
2-2. 削りすぎの場面|保険金が足りず、納税のために株が動く
たとえば、社長が自分の死亡保障を「保険料が重いから」と減らしたとします。
数年後、社長に万一があり、後継者が相続税の納付に必要な現金を用意しようとしました。
会社に入る保険金は想定より小さく、相続人の手元の現金も足りません。
相続の開始から10か月以内の納付期限(出所:国税庁「相続税の申告と納税」)に間に合わせるため、後継者がやむなく株式の一部を他の相続人へ譲る、または納付の方法を急いで探すことになります。
株が分散すると、会社の意思決定に影響が出ます。備えを削りすぎると、納税の局面で会社の経営権にまで影響が及ぶ場合があります。
2-3. 過剰の場面|保険料の負担が重く、会社の資金繰りを圧迫する
反対の失敗もあります。
「納税資金は多いほど安心」と考えた社長が、見積りをしないまま、必要額を超える保障に加入した会社があったとします。
数年後、売上が落ちた決算期に、経理担当者が保険料の負担の重さに気づきました。
運転資金が薄くなり、本業の資金を借入れで補う状態になることがあります。
備えが過剰になると、会社の資金繰りを圧迫して経営そのものを弱めます。
要するに、納税資金の備えは、足りなくても多すぎても失敗します。必要額を見積もったうえで設計します。
3. 自社株の納税資金を法人保険で備える3つの視点
備え方は、3つの視点で整理すると、過不足を避けやすくなります。順に見ていきます。
3-1. 視点1|必要な資金の見積り
最初に、「いくら必要になりそうか」を見積もります。
見積りの対象は、次のとおりです。
- 自社株の評価額から計算した相続税の見込み(税理士が計算)
- 後継者以外の相続人への配慮(代償分割の資金など)
- 相続後の会社の運転資金の確保
個別の税額は、税理士に計算してもらいます。経営者は、家族構成・後継者・株の引継ぎ方針を整理して伝えます。
見積りは、一度で終わりません。会社の業績や家族の状況が変われば、数字も変わります。
年に1回、決算のあとなどの区切りで、見直す習慣をつけておくと安心です。
3-2. 視点2|受取人と規程の整え方
次に、保険金を誰が受け取り、どう使うかを決めます。
| 使い道 | 保険金の流れ | 確認したい点 |
| 死亡退職金として遺族へ | 会社が保険金を受け取り、規程に基づいて遺族に支給 | 退職金規程と株主総会決議の整備、税務上の取扱い |
| 会社による自社株の買取り | 会社が保険金を受け取り、相続人から株を買い取る | 分配可能額の範囲、課税関係 |
| 後継者の納税資金に充当 | 死亡退職金や買取代金を、相続人が納税に使う | 納付期限(10か月。出所:国税庁)に間に合うか |
死亡退職金には、相続税の非課税枠があります。非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」です。(出所:国税庁「相続税の課税対象になる死亡退職金」)
この非課税枠は、相続人が受け取った退職手当金等が対象です。死亡後3年以内に支給が確定したものが対象になります。(出所:国税庁「相続税の課税対象になる死亡退職金」)
また、役員の退職給与は、不相当に高額な部分が損金に算入されない場合があります。(出所:法人税法第34条第2項、同施行令第70条)
支給額・規程・決議の整え方は、税理士や専門家と確認します。
受取人を誰にするかも重要です。会社が受け取る契約か、個人が受け取る契約かで、課税関係が変わります。
契約者・被保険者・受取人の組合せは、目的に合わせて決め、あとから変更するときは税理士に確認します。
社長に万一があった直後の取締役会で、規程が無いまま死亡退職金を支給しようとすると、支給の根拠が説明できず、税務上の扱いで問題になる場面もあります。規程は、元気なうちに整えておくものです。
3-3. 視点3|会社の資金繰りとの両立
3つ目は、会社が払い続けられる保険料かどうかです。
納税資金の備えは、10年・20年と続く場合があります。
売上が落ちた年にも払い続けられるか、経営計画と照らして確認します。
2019年(令和元年)の通達改正により、法人向け定期保険等は、最高解約返戻率が50%を超える契約などで、保険料の一部を資産計上する取扱いがあります。この取扱いは2019年7月8日以後の契約が対象です(解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険は同年10月8日以後)。(出所:国税庁「法人税基本通達」9-3-5の2)
保険料の全額が損金になるとは限らないため、損金算入を前提に資金繰りを組まないように注意します。
保険料は10年・20年と続くため、経営環境が変わったときに見直せる余地も、設計の段階で確認しておきます。
要するに、「必要額の見積り」「受取人と規程」「資金繰りとの両立」の順に整理すると、法人保険の使い方が見えてきます。
制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順
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4. 税理士・保険担当者・診断士が分担する承継資金の設計
承継の資金は、税務・保険・経営の3つの領域にまたがります。役割を整理します。
4-1. 誰が何を担当するか
| 立場 | 主な役割 |
| 経営者 | 株の引継ぎ方針と、家族の状況を言葉にする |
| 税理士 | 株式評価・相続税額の計算・申告 |
| 司法書士・弁護士 | 登記・相続手続き・法的な整理 |
| 保険担当者 | 契約内容の確認と、保障の設計 |
| 中小企業診断士・FP | 経営計画と資金を結び、全体を整理する |
4-2. バラバラの話をつなぐ
税理士は税額を、保険担当者は保障を、家族は気持ちを話します。
それぞれの話が噛み合わないまま、時間だけが過ぎる状況が、いちばんの課題です。
誰かが間違っているのではなく、見ている範囲が違うだけです。
範囲の違いを埋めるために、全体を1枚の紙に整理して、同じ前提で話し合える状態をつくります。
私は、保険代理店で10年・1,100名のご相談をお受けしてきました。納税資金の話は、経営と家族の話が重なる分、1人で抱えて止まってしまう経営者が多いと感じています。
中小企業診断士の視点で承継後の経営を見て、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の視点で資金計画を整理します。
特定の商品をお勧めするためではなく、目的に合った備えかどうかを点検するお手伝いです。
要するに、専門家の役割を分け、経営者が方針を伝えることで、承継資金の設計が進みます。
5. 今週中にできる納税資金の確認3ステップ
最初の一歩は、現状を一覧にすることです。次の3ステップを、今週中に取り組めます。
5-1. ステップ1|株と保険の現状を書き出す
- 自社株の保有者と、おおよその持株比率
- 後継者の候補と、他の相続人
- 法人名義の保険の目的・保障額・受取人
分からない項目は空欄で構いません。「分からない」ことが分かること自体が、成果です。
保険については、契約者・被保険者・受取人が誰になっているかを、証券で確認します。
受取人が個人になっていたり、前の社長のままになっていたりする契約は、目的と合っているかを点検する対象です。
5-2. ステップ2|税理士に、株式評価の目安を聞く
顧問税理士に、自社株の評価額の目安と、相続税の見込みを相談します。
個別の税額は、税理士の領域です。目安が分かれば、必要な資金の規模をつかめます。
5-3. ステップ3|家族の意向を整理し、同じ一覧を専門家に見せる
後継者や配偶者の考えを聞き、一覧にまとめます。
その一覧を、税理士と保険の専門家の両方に見せて、同じ資料で話し合います。
この段階では、保険の契約や変更を急ぎません。現状の整理だけで十分です。
家族の話は、切り出しにくいものです。最初は「会社の将来について、考えを聞かせてほしい」という程度で十分です。
結論を出す場ではなく、お互いの考えを知る場として設けると、話が進みやすくなります。
専門家が同席して、論点を整理しながら進める方法もあります。
要するに、「現状の一覧」「評価の目安」「家族の意向」の3つを揃えると、備え方が決まりやすくなります。
6. 自社株の納税資金と法人保険のよくある質問
Q1. 自社株の相続税の納税資金は、法人保険で備えられますか。
備え方の1つとして、法人保険が使われる場合があります。会社が受け取る保険金を、死亡退職金や自社株の買取りの原資にする考え方です。ただし、唯一の方法ではなく、必要額・規程・資金繰りの確認が先です。
Q2. 死亡退職金の非課税枠は、いくらですか。
相続人が受け取る退職手当金等の非課税限度額は、「500万円×法定相続人の数」です。死亡後3年以内に支給が確定したものが対象です。(出所:国税庁「相続税の課税対象になる死亡退職金」)
Q3. 相続税の納付期限は、いつまでですか。
相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。原則として現金での一括納付になります。(出所:国税庁)
Q4. 会社が社長の保険金で、相続人から自社株を買い取れますか。
会社法の分配可能額の範囲内で、買い取れる場合があります。課税関係や手続きは、税理士や専門家にご確認ください。
Q5. 法人保険の保険料は、全額損金になりますか。
全額損金になるとは限りません。2019年(令和元年)の通達改正により、最高解約返戻率が50%を超える契約などでは、保険料の一部を資産計上する取扱いがあります。(出所:国税庁「法人税基本通達」9-3-5の2)
Q6. 納税資金の相談をすると、保険を勧められませんか。
必要額の見積りと現状の整理が先で、特定の商品を前提にした相談ではありません。ご相談後にお断りいただいても問題ありません。
7. まとめ|自社株の納税資金を目的から考える
- 自社株は現金化しにくく、評価額も上がりやすいため、納税資金の準備が後回しになりがちです。
- 備え方は「必要な資金の見積り」「受取人と規程」「会社の資金繰り」の3つの視点で整理します。
- 削りすぎ(納税資金の不足)と過剰(保険料で資金繰りが悪化)の両側に注意します。
- 税額の計算・申告は税理士の領域です。経営者は方針と家族の状況を整理して伝えます。
- 最初の一歩は、株と保険の現状を一覧にすることです。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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