創業社長に万一があった後、遺族と専務が会議室で向き合う場面があります。

「会社から死亡退職金が出ると聞いたので、相続税は心配ないと思っていました」。遺族がそう話すと、専務が言葉に詰まります。「受取人は誰か、金額はいくらか、規程に書いたかどうか。私も、はっきり覚えていないのです」。

法人保険の相談では、こうした「死亡退職金は、誰が、いくらまで、相続税なしで受け取れるのか」というお話が少なくありません。

死亡退職金には、相続税の非課税枠があります。ただし、受け取る人や支給の時期によっては、枠が使えないことがあります。

この記事では、法人保険を原資に死亡退職金を準備するときに、非課税枠と受取人を決める3つの判断軸を解説します。承継・相続の資金を考える経営者が対象です。

解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 死亡退職金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。受け取るのが相続人でなければ、この枠は使えません。(出所:相続税法第12条第1項第6号)
  • 決める判断軸は、「誰が受け取るか」「いくらにするか」「いつ確定させるか」の3つです。
  • 規程や決議が無ければ遺族の生活資金に空白が生まれ、金額を大きくしすぎれば保険料が資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 死亡退職金の非課税枠が使えず、想定外の相続税が出る3つの場面
  • 非課税枠の計算と、弔慰金との関係
  • 受取人・金額・時期を決める3つの判断軸
  • 削りすぎと過剰の両面で起きる失敗の場面
  • 今週中にできる確認3ステップ
タップできる目次

1. 法人保険で準備した死亡退職金の非課税枠が使えない3つの場面

非課税枠が使えない場面は、受取人・時期・金額の3つに分かれます。順に見ていきます。

1-1. 受け取るのが相続人ではない

死亡退職金の非課税枠は、相続人が受け取った分に限られます。相続人以外の人が受け取った分には、この枠が使えません。(出所:相続税法第12条第1項第6号)

たとえば、社長が長年連れ添った内縁の配偶者に死亡退職金を渡したいと考えたとします。内縁の配偶者は相続人ではないため、非課税枠の対象になりません。

後継者が相続人でなく、従業員や親族外の役員である場合も同じです。

受取人が相続人かどうかで、枠が使えるかどうかが変わります。

1-2. 支給の確定が遅れる

非課税枠の対象になるのは、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等です。(出所:相続税法第3条第1項第2号)

取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)

たとえば、専務が「落ち着いてから決議しよう」と先送りしたとします。決議が遅れ、支給の確定が3年を超えると、退職手当金等として相続税の対象にならず、受け取った人の所得税(一時所得)の扱いになります。(出所:相続税法第3条第1項第2号)扱いの確認は、税理士に依頼します。

先送りの間に、遺族の生活費が足りなくなることもあります。

1-3. 金額が枠や相当額を超える

枠を超えた分は、相続税の課税対象になります。会社側でも、不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)

たとえば、社長が功労に報いようと金額を大きく決めたとします。相当額を超えた部分は損金にならず、会社の税負担が増えます。(出所:法人税法第34条第2項、同法施行令第70条第2号)

金額が大きいほど、遺族の手取りと会社の税負担の両方に影響します。

要するに、受取人・時期・金額のどれか1つでも外れると、想定した非課税の効果は得られません。

要するに、非課税枠は「相続人が」「3年以内に確定した」「相当な金額」の3つがそろって初めて使えます。

2. 経営者が死亡退職金の受取人と規程を先送りしてしまう背景

先送りの背景は、「まだ先の話」「家族に言いにくい」「誰に聞けばよいか分からない」の3つです。

2-1. 万一の話は、元気なうちは言い出しにくい

社長が元気なうちは、自分に万一があった後の話を家族や幹部に切り出しにくいものです。

切り出さないまま年数が過ぎ、法人保険だけが契約されている会社があります。保険はあっても、規程と受取人が決まっていません。

2-2. 保険・税務・会社法の担当が分かれている

死亡退職金の準備には、複数の専門分野がまたがります。

分野 主な論点 主な担当
保険 保険金額・契約者・被保険者・受取人 保険担当者
税務 相続税の非課税枠・法人税の損金の扱い 顧問税理士
会社の手続き 役員退職慰労金規程・株主総会の決議 社長・総務・顧問の専門家

それぞれの担当者は自分の分野を見ています。ただ、3つを並べて見る人がいないと、受取人の指定と規程の中身がずれても気づけません。

2-3. 「保険に入っているから大丈夫」と考えてしまう

法人保険の死亡保険金は、会社が受け取るお金です。遺族に直接渡るお金ではありません。

会社が保険金を受け取った後に、規程と決議に基づいて死亡退職金を遺族へ支払う流れになります。この流れを知らないと、「保険に入っているから」で話が止まります。

保険金の受け取り後の資金繰りは、別の記事で扱っています。この記事では、遺族が受け取る側の非課税枠に絞ります。

要するに、先送りの原因は意欲の低さではなく、担当が分かれていて全体を見る人がいないことにあります。

3. 死亡退職金の非課税枠と受取人を決める3つの判断軸

決める軸は、「誰が」「いくら」「いつ」の3つです。この3つを紙に書き出すと、迷いが減ります。

3-1. 判断軸1:誰が受け取るか

非課税枠の限度額は、500万円に法定相続人の数を掛けて求めます。(出所:相続税法第12条第1項第6号)

たとえば、法定相続人が3人であれば、500万円×3人で1,500万円が限度額です。この限度額は、相続人全員が受け取った退職手当金等の合計に対する枠で、受け取った額の割合で分かれます。(出所:相続税法第12条第1項第6号)

法定相続人の数には、相続を放棄した人も、放棄がなかったものとして数えます。養子は、実子がいる場合は1人、いない場合は2人までが数に入ります。(出所:相続税法第15条第2項)

受け取る人 非課税枠の対象 確認すること
配偶者・子などの相続人 対象になる 法定相続人の数と、各人の受取額の割合
内縁の配偶者・孫・親族外の後継者 対象外 相続税の扱いを顧問税理士に確認する
会社(法人) 相続税の対象にならない 法人税の扱い(益金・損金)を顧問税理士に確認する

受取人は、規程で遺族の範囲と順位を定めておくことで、迷いが減ります。

3-2. 判断軸2:いくらにするか

金額は、遺族の生活資金・会社が払える額・税務上の相当額の3つを並べて決めます。

役員退職金の金額の決め方には、最終報酬月額・役員としての在任年数・功績倍率を掛け合わせる考え方があります。ただし、不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項、同法施行令第70条第2号)

相当かどうかは、業務に従事した期間・退職の事情・同種で同規模の法人の支給状況などを踏まえて判断されます。金額の妥当性は、顧問税理士と確かめます。

弔慰金を併せて支給する場合は、扱いが分かれます。業務上の死亡は普通給与の3年分、業務外の死亡は6か月分までが弔慰金として扱われ、超える部分は退職手当金等に含めて枠を計算します。(出所:相続税法基本通達3-20)

弔慰金が通達の範囲に収まるかどうかは、死亡の原因と給与の額で変わります。個別の判断は税理士に確認します。

3-3. 判断軸3:いつ確定させるか

対象になるのは、死亡後3年以内に支給が確定したものです。(出所:相続税法第3条第1項第2号)

平時のうちに、役員退職慰労金規程で死亡時の支給の方針を定めておきます。定款に定めがない場合、取締役への支給額は株主総会の決議で決まります。(出所:会社法第361条第1項)

決議の手順は、誰が議案を作り、誰が株主総会を開くかまで書いておきます。社長の相続で株主構成が変わる会社では、決議に必要な株主がそろうかどうかも確かめます。

原資に法人保険を使う場合、保険料の損金算入は2019年(令和元年)の通達改正後のルールで扱います。最高解約返戻率が50%を超える契約では、保険料の一部が資産計上になる区分があります。2019年7月8日以後に契約した定期保険・第三分野保険が対象で、終身保険などは別の取扱いです。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)

契約ごとの区分は、証券と契約日で確認します。個別の経理処理は税理士の領域です。

要するに、「誰が」で枠が使えるかが決まり、「いくら」で会社と遺族の負担が決まり、「いつ」で枠を使える期限が決まります。

この記事では要点に絞って解説しました。承継や相続のお金の全体像を知りたい方は、社長の万一に備える事業保障の記事も参考になります。

【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。まずは、役員退職慰労金規程の有無と、加入中の保険の受取人をお聞かせください。

\無料相談(30秒で予約)/

4. FP1級が見る死亡退職金の注意点と専門家の役割

現場の失敗は、備えが足りない削りすぎと、備えが重すぎる過剰の2つに分かれます。

4-1. 削りすぎで起きる失敗の場面

1つ目は、規程が無いまま社長に万一があった場面です。専務は遺族に支給したいと考えますが、株主総会の決議の準備に時間がかかります。規程と決議が整うまで支給の根拠がなく、遺族の生活費をすぐには出しにくくなります。

2つ目は、保険金額が足りない場面です。社長が契約した保険金額は、数年前の借入金の残高をもとに決めていました。借入金が増えても見直さなかったため、保険金を借入金の返済に回すと、遺族への死亡退職金の原資が残りません。遺族の生活資金に空白が生まれます。

3つ目は、規程の受取人と現実がずれていた場面です。規程に「配偶者」とだけ書いたまま、社長が再婚していました。社長の死亡後に専務が規程を開き、前の配偶者と現在の家族のどちらに支給するかで迷います。家族構成が変わったときに規程を見直さなかったことが原因で、遺族への支給が止まります。

4-2. 過剰で起きる失敗の場面

1つ目は、非課税枠を意識しすぎて保険金額を大きくした場面です。社長が「枠いっぱいまで払えるようにしたい」と考えて、保険料の高い契約を重ねます。経理担当者が毎月の支払いを見て、資金繰りの圧迫に気づくころには、他の備えに回すお金が減っています。

2つ目は、相当額を超えて支給額を決めた場面です。社長が「功労に報いたい」と考えて金額を上乗せすると、不相当に高額な部分は損金になりません。金額の決め方を、顧問税理士と事前に確かめていなかったことが原因です。

3つ目は、税負担の軽減を目的に加入した場面です。社長が決算期前に勧められるまま契約し、数年後に経理担当者が保険料の負担と解約返戻金の扱いを確認して、目的と合っていないと気づきます。この記事は、税負担の軽減を目的に加入を勧めるものではありません。

4-3. 専門家の役割分担

専門家 得意な分野
顧問税理士 相続税・法人税の判断、申告、経理処理の確定
弁護士・司法書士など 株主総会の決議、定款、相続の手続き
保険担当者 契約内容の確認、保険金の請求の流れ
FP1級 受取人・金額・時期・保険料の負担を並べた全体の点検

FP1級の立場では、特定の商品を勧めず、規程・受取人・保険金額・保険料の負担を1枚に並べて確認します。税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、税理士の領域です。

確認では、次の4つの問いを順に確かめます。

  • 受取人:保険金の受取人と、死亡退職金の受取人の範囲が、いまの家族構成に合っているか。
  • 規程と決議:役員退職慰労金規程があり、決議の手順が書いてあるか。
  • 金額:遺族の生活資金、会社が払える額、相当額の3つを並べて見たか。
  • 保険料:保険料の負担が、平時の資金繰りを圧迫していないか。

要するに、備えの足りなさと重さの両方を、受取人・規程・金額・保険料の4つの問いで点検します。

5. 今週中にできる死亡退職金の点検3ステップ

難しい計算は要りません。次の3つを、今週のうちに進めます。

  1. 相続人を数える:法定相続人が誰で何人かを書き出し、500万円を掛けて限度額の目安を出します。(出所:相続税法第12条第1項第6号)
  2. 規程を探す:役員退職慰労金規程があるか、死亡時の支給と決議の手順が書いてあるかを確かめます。
  3. 受取人を確かめる:加入中の保険の証券で、契約者・被保険者・受取人を確かめます。

相続人を数えると、非課税枠の目安が見えます。規程を探すと、備えが足りているかどうかが分かります。

3つのステップのあとは、次の流れで進めます。

  • 相続税と法人税の扱いを、顧問税理士に確認します。
  • 規程の内容と決議の手順を、社長・総務・顧問の専門家で決めます。
  • 保険金額と保険料の負担が目的に合っているかを、保険担当者と点検します。

要するに、相続人を数え、規程を探し、受取人を確かめる3つが、死亡退職金の備えの入口です。

6. よくある質問

Q1. 死亡退職金の非課税枠は、いくらまでですか。

500万円に法定相続人の数を掛けた額までです。(出所:相続税法第12条第1項第6号)相続人以外の人が受け取った分は、この枠の対象になりません。

Q2. 法定相続人の数に、相続放棄をした人や養子は入りますか。

相続放棄をした人も、放棄がなかったものとして数えます。養子は、実子がいる場合は1人、いない場合は2人までが数に入ります。(出所:相続税法第15条第2項)

Q3. 弔慰金と死亡退職金は、別々に非課税になりますか。

別々ではありません。業務上の死亡は普通給与の3年分、業務外の死亡は6か月分までが弔慰金として扱われ、超える部分は退職手当金等に含めて枠を計算します。(出所:相続税法基本通達3-20)

Q4. 死亡退職金の支給は、いつまでに確定すればよいですか。

被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものが対象です。(出所:相続税法第3条第1項第2号)取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)

Q5. 死亡退職金は、どれだけでも会社の損金になりますか。

不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)金額が相当かどうかは会社ごとの事情で判断されるため、顧問税理士に確認してください。

Q6. 法人保険で死亡退職金を準備するとき、保険料は全額が損金になりますか。

契約によって異なります。2019年(令和元年)の通達改正後は、最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険で、保険料の一部が資産計上になる区分があります。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)個別の経理処理は、顧問税理士に確認してください。

Q7. 受取人は、どのように決めればよいですか。

家族構成と規程に合わせて決めます。相続人が受け取る場合は、時期と金額の要件を満たすことを前提に非課税枠が使え、相続人以外が受け取る場合は枠が使えません。家族構成が変わったときは、受取人と規程を見直します。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 死亡退職金の非課税枠は、500万円×法定相続人の数です。相続人以外が受け取る分は対象外です。(出所:相続税法第12条第1項第6号)
  • 決める軸は、誰が受け取るか・いくらにするか・いつ確定させるかの3つです。
  • 規程が無ければ遺族の生活資金に空白が生まれ、金額を大きくしすぎれば保険料が資金繰りを圧迫します。
  • 税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、顧問税理士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。規程と保険の受取人を一緒に並べて、備えの足りない点と重すぎる点を整理します。

\無料相談(30秒で予約)/

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

法人保険のご相談

\経営者さま向け 法人保険のご相談/

「社長交代を機に保険を見直したい」「役員・従業員の退職金や福利厚生を整えたい」「万一のときの資金繰りが心配」――会社を守る備えについて、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)がお話を伺います。

法人保険の相談を申し込む