【FP監修】養老保険を福利厚生に使う 加入範囲を決める5つの鉄則
従業員の退職金を、これから用意したいと考える社長がいます。
たとえば、保険担当者から「養老保険なら、福利厚生として使えます」と聞いた社長が、経理担当者に伝えたとします。すると、こう返ってきます。「保険料の半分は、費用にならず資産に入るそうです。誰を被保険者にするかも、決まりがあるようです」。
法人保険の相談では、こうした「従業員のための保険を作りたいが、何を決めておけばよいか分からない」というお話は多い傾向があります。
養老保険は、死亡したときの保障と、満期のときの積立の両方を持つ保険です。福利厚生の手段として使われますが、加入の範囲と受取人を決めずに入ると、税務の扱いが変わることがあります。規程がないと、説明も残りません。
この記事では、養老保険を福利厚生に使うときに確かめる5つの鉄則を解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 養老保険を福利厚生として扱うには、目的・加入の範囲・受取人・規程・資金繰りの5つを、加入の前に決めます。
- 法人が契約者で、満期保険金の受取人が法人、死亡保険金の受取人が被保険者の遺族という形で、全員が加入できる場合は、保険料の2分の1を資産計上し、2分の1を損金に算入する整理になります(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)。
- 加入者を絞りすぎれば、扱いが変わります。保険料を積み増しすぎれば、資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 養老保険を福利厚生に使うときに、つまずく3つの場面
- 加入者を決めにくい背景と、先に押さえたい基本
- 確かめる5つの鉄則と、削りすぎ・積み増しすぎの失敗場面
- 今週中にできる確認3ステップ
1. 養老保険を福利厚生に使うときに、つまずく3つの場面
養老保険の福利厚生で困るのは、加入・受取人・保険料の3つの場面です。順に見ていきます。
1-1. 加入者が一部の人に偏り、扱いが変わる
福利厚生として認められるには、従業員が広く加入できることが前提です。
たとえば、社長が「まず役員と部長だけ入ろう」と決めたとします。被保険者が役員や特定の使用人だけの場合、保険料のうち損金になるはずだった2分の1は、その人たちへの給与として扱われます。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
給与になると、本人の所得税の計算にも関わります。役員の給与は、定期同額給与などの要件も関わるため、個別の処理は税理士に確認してください。決めたあとで経理担当者が気づくと、手直しに時間がかかります。
1-2. 受取人の設定が、契約形態と合っていない
受取人の組み合わせで、保険料の扱いは変わります。
満期保険金の受取人が法人、死亡保険金の受取人が被保険者の遺族であれば、前に述べた2分の1ずつの整理になります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
一方、死亡保険金も満期保険金も受取人が法人であれば、保険料は全額を資産計上します。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
たとえば、社長が「会社が全部受け取るほうが得だ」と考え、死亡保険金の受取人も法人にしたとします。福利厚生のつもりでも、従業員の遺族に保険金は届きません。遺族への手当を期待していた従業員の信頼を損なうことがあります。
1-3. 保険料が大きく、資金繰りに響く
養老保険は積立の性格が強く、同じ保障額の掛け捨ての保険より、保険料が大きくなる傾向があります。
全員を加入させれば、会社が毎月払う保険料も、人数に応じて増えます。
たとえば、社長が「福利厚生費になる」と聞いて全員を加入させ、経理担当者が毎月全員分の保険料を支払うとします。半分は資産計上でも、現金は全額出ていきます。賞与の月に現預金が足りなくなることがあります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
損金になる額と、会社から出ていく現金の額は、別です。
要するに、加入の偏り・受取人のずれ・保険料の負担の3つで、養老保険の福利厚生はつまずきます。
2. 養老保険の福利厚生が決めにくい背景と、先に押さえたい基本
決めにくいのは、福利厚生と退職金と会社の積立の目的が、混ざりやすいからです。背景を2つ整理し、基本をまとめます。
2-1. 従業員のためなのか、会社の積立なのかが曖昧になる
養老保険は、満期のときに法人が保険金を受け取れます。
そのため、社長のなかには「会社の積立のつもり」で入る方がいます。
一方、従業員から見ると、「自分の福利厚生」として説明を受けています。説明の食い違いは、退職や解約のときに表面化します。
目的を最初に言葉にしておきます。福利厚生なのか、退職金の準備なのか、会社の積立なのかです。
2-2. 全員加入にできる従業員の線引きが分からない
「全員」と言っても、入社したばかりの人や、短時間で働く人まで含めるのか迷います。
基準が職種・年齢・勤続年数などに応じて、合理的に決められていれば、全員でなくても認められる場合があります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4。個別の判断は税理士に確認してください)
大切なのは、基準を文章にして残すことです。口頭の約束だけでは、あとで説明できません。
2-3. 先に押さえたい基本|契約形態と保険料の扱い
| 受取人と加入者 | 保険料の扱い |
| 満期=法人、死亡=遺族。全員が加入できる | 2分の1を資産計上、2分の1を福利厚生費として損金算入 |
| 満期=法人、死亡=遺族。役員や特定の使用人だけが加入 | 2分の1を資産計上、2分の1をその人たちへの給与として扱う |
| 満期も死亡も受取人が法人 | 全額を資産計上 |
(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
この扱いは、定期保険や第三分野保険の最高解約返戻率による区分(2019年の通達改正)とは別の取扱いです(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2。養老保険には適用されません)。養老保険は、この表の考え方で整理します。
税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、税理士の領域です。実際の契約内容に当てはめた処理は、顧問税理士に確認します。
要するに、目的を先に決め、加入の線引きを文章に残し、契約形態ごとの扱いを押さえることが基本です。
3. 養老保険を福利厚生に使うときに確かめる5つの鉄則
確かめる点は、目的・加入の範囲・受取人・規程・資金繰りの5つです。順番に進めます。
3-1. 鉄則1|目的を一言で決める
最初に、「従業員の福利厚生」「退職金の準備」「会社の積立」のどれが中心かを決めます。
福利厚生が中心なら、全員が加入できることと、遺族に保険金が届くことが前提です。
退職金の準備が中心なら、退職金規程と一緒に設計します。
たとえば、社長が目的を決めないまま加入したあと、退職する従業員が出たとします。「この保険は退職金のかわりですか」と聞かれても、会社は答えに詰まります。
目的を一言で書いておくと、従業員への説明も、経理処理の確認も、同じ軸で進められます。
3-2. 鉄則2|加入の範囲を基準で決める
職種・年齢・勤続年数などで、加入の資格を決めます。
たとえば、「入社1年を超えた正社員は全員が対象」のように、誰が読んでも同じ答えになる書き方にします。
加入しない人がいる場合は、その理由が基準で説明できるようにします。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
たとえば、経理担当者が新しく入った従業員の加入を忘れ、1年後に気づいたとします。基準が文章になっていれば、「基準を満たしたら加入する」と、手続きで直せます。
基準が口頭だけだと、誰が対象か分からなくなり、加入者が偏る原因になります。
3-3. 鉄則3|受取人を契約形態どおりに設定する
満期保険金は法人、死亡保険金は被保険者の遺族、が福利厚生の基本形です。
契約のあとで受取人を変えると、扱いが変わる場合があります。変更の前に、税理士へ確認します。
たとえば、社長が資金不足を感じて、死亡保険金の受取人を遺族から法人へ変えたとします。従業員への説明がないまま変えると、福利厚生としての前提が崩れます。
受取人の変更は、会社の都合だけで決めず、規程と従業員への説明をそろえてから行います。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】中退共だけで足りる?従業員退職金を上乗せする4つの手順
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。まずは、従業員の人数と、いまの退職金・保険の状況をお聞かせください。
\無料相談(30秒で予約)/
3-4. 鉄則4|規程に書いて、従業員に説明する
加入の基準、保険金の受取人、退職したときの扱いを、福利厚生規程などに書きます。
書くのは、次の4点です。
- 加入できる従業員の条件
- 死亡保険金の受取人と、支給の考え方
- 退職・解雇したときの契約の扱い(解約・名義の変更・継続)
- 保険料を会社が負担する範囲
規程ができたら、従業員にも説明します。説明があれば、後日の「聞いていない」を防げます。
3-5. 鉄則5|資金繰りと保障の両方を確かめる
最後に、毎月の保険料が会社の資金に合っているかを確かめます。
ここでも、反対方向の失敗が2つあります。
- 削りすぎた場合:たとえば、決算期に資金繰りが苦しくなり、経理担当者から「保険料が重い」と報告を受けた社長が、全員分の契約を解約したとします。解約返戻金が払い込んだ保険料を下回ることもあります。解約すると、従業員の死亡保障もなくなります。遺族への備えを期待していた従業員が、不信感を持つことがあります。
- 積み増しすぎた場合:たとえば、社長が「従業員に喜ばれるから」と、保険金額を引き上げたとします。半分は資産計上のため、現金は全額出ていきます。賞与の月に運転資金が足りなくなることがあります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
保険料は、会社の毎月の余裕の範囲で決めます。苦しくなったら、解約の前に減額や払済を保険担当者に相談します。
鉄則は5つです。この順番で確かめれば、福利厚生としての整理がそろいます。
要するに、目的・範囲・受取人・規程・資金繰りの5つを、加入の前に確かめます。
4. FP1級が見る福利厚生の設計
福利厚生は、税務・規程・資金繰りが重なるため、窓口が分かれると抜けが出ます。役割を整理します。
4-1. 誰が何を担当するか
| 立場 | 主な役割 |
| 経営者 | 福利厚生の目的を決める。最終判断をする |
| 税理士 | 契約形態ごとの損金算入・資産計上の個別判断、申告・経理処理の確定 |
| 社会保険労務士 | 就業規則・福利厚生規程の整え方 |
| FP1級 | 会社の資金繰りと従業員の保障を並べた、過剰と不足の点検 |
4-2. FP1級が加わる意味
福利厚生は、従業員の保障と会社の資金繰りの両立が欠かせません。
税務だけで見ると、保険料の扱いに目が向きます。規程だけで見ると、従業員への約束に目が向きます。会社の数字と従業員の保障を並べて見る立場が、抜けを防ぎます。
FP1級の立場では、特定の商品を勧めず、契約の目的と会社の資金繰りを並べて、判断の材料を整えます。
点検では、次の4つの問いを、順に確かめます。
- 目的:福利厚生・退職金・会社の積立のどれが中心か。
- 範囲:加入の基準が文章になっていて、誰が読んでも同じ答えになるか。
- 受取人:契約形態と受取人が合っているか。
- 資金繰り:保険料が、賞与や設備投資の余力を圧迫していないか。
この4つに答えられれば、続ける理由が明確です。答えられないときは、保険担当者と税理士を交えて見直します。
要するに、税務・規程・資金繰りの視点を並べて見ることが、福利厚生の抜けを防ぎます。
5. 今週中にできる福利厚生の点検3ステップ
難しい計算は要りません。次の3つを、今週のうちに進めます。
- いまの制度を書き出す:中退共・退職金規程・加入中の保険など、従業員向けの制度を一覧にします。
- 目的を一言で書く:福利厚生・退職金・会社の積立のうち、中心になる目的を書きます。
- 保険料の負担を数える:1年間に会社が払う保険料の合計と、決算期の現預金を並べます。
書き出すと、「退職金と二重になっている」「目的が書けない」といった点が見えます。
養老保険を新しく入る場合でも、すでに入っている場合でも、この3つは同じです。
3つのステップのあとは、次の流れで進めます。
- 契約の形(契約者・被保険者・受取人)を、保険担当者の資料で確かめます。
- 保険料の経理処理を、顧問税理士に確認します。
- 規程と従業員への説明を整えます。
要するに、制度を書き出し、目的を決め、保険料の負担を数える3つで、福利厚生の入口に立てます。
6. よくある質問
Q1. 養老保険を福利厚生に使うと、保険料は全額が損金になりますか。
全額にはなりません。満期保険金の受取人が法人、死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、全員が加入できる場合、保険料の2分の1を資産計上し、2分の1を福利厚生費として損金に算入する整理です。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)
Q2. 役員だけが加入しても、福利厚生費になりますか。
役員や特定の使用人だけが被保険者の場合、損金になる2分の1は、その人たちへの給与として扱われます。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)個別の処理は、顧問税理士に確認してください。
Q3. 従業員が退職したら、契約はどうなりますか。
解約する、契約者を本人に変更する、継続するなど、選択肢があります。扱いによって税務の取扱いが変わる場合があるため、規程に定めたうえで、税理士に確認します。
Q4. 全員を加入させる必要がありますか。
職種・年齢・勤続年数などに応じて、合理的な基準で加入の範囲を決めていれば、全員でなくても認められる場合があります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)基準は文章に残します。
Q5. 保険料が負担になったら、どうすればよいですか。
解約の前に、減額や払済など、続けながら保険料を調整する方法を保険担当者に相談します。解約すると、従業員の死亡保障もなくなります。
Q6. 福利厚生の保険と、中退共は両方必要ですか。
目的が違います。中退共は退職時の資金を外部で積み立てる制度です。養老保険は、死亡保障と満期の積立を持ちます。重なっていないかを、一覧にして確かめます。
7. まとめ
- 養老保険を福利厚生に使うときは、目的・加入の範囲・受取人・規程・資金繰りの5つの鉄則を、加入の前に確かめます。
- 満期保険金の受取人が法人、死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、全員が加入できる場合は、保険料の2分の1を資産計上し、2分の1を損金に算入する整理です(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-4)。
- 解約しすぎれば従業員の保障が空白になり、積み増しすぎれば資金繰りを圧迫します。
- 税務の個別判断・申告・経理処理は、税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。いまの制度の一覧をもとに、目的との合い方を一緒に整理します。
\無料相談(30秒で予約)/
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
\経営者さま向け 法人保険のご相談/
「社長交代を機に保険を見直したい」「役員・従業員の退職金や福利厚生を整えたい」「万一のときの資金繰りが心配」――会社を守る備えについて、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)がお話を伺います。

