たとえば、社長が、製造の現場の人手を確保するため、外国籍の社員を2人迎えると決めたとします。住まいの手配、在留カードの確認、日本語の研修と、受け入れの準備は社長が自ら進めています。

受け入れのご相談では、給与や社会保険の手続きは確かめたものの、会社で入っている福利厚生の保険をどうするかは決めていなかった、という声を伺います。

福利厚生の保険は、従業員に万一があった時に、規程で決めた死亡退職金や弔慰金を払う原資になるものです。国籍が違っても、規程の対象になる従業員であることは変わりません。一方で、言葉や家族の住まいの違いから、手続きでつまずく場面があります。

この記事では、法人保険の目的のうち「従業員の福利厚生」を扱います。外国人を雇う時に、福利厚生の保険で確かめたい3つの点と、つまずきやすい場面を説明します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。

この記事は、保険への加入や解約をお勧めするものではありません。税務の判断、申告、経理処理の確定は税理士の領域です。

結論

  • 国籍で分けない加入の基準
  • 分かる言葉での同意と告知の説明
  • 国外の家族への支給の順位と段取り
  • 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫

この記事で分かること

  • 今週できる3ステップ
  • 福利厚生の保険で確かめる3つの点
  • 外国人を雇う時に起こりやすい3つのずれ
  • FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
タップできる目次

1. 外国人を雇う時に、福利厚生の保険で起こりやすい3つのずれ

ずれは3つあります。どれも、「外国籍の社員は事情が違うから、いつもの手続きとは別でよい」と考えてしまうことから起こります。

1-1. 在留期間を理由に、加入の名簿から外してしまう

福利厚生の保険は、規程で決めた加入の基準に沿って、対象の従業員を被保険者にします。使用者は、国籍を理由に、賃金や労働時間などの労働条件で差別的な取扱いをしてはならないとされています(労働基準法第3条。出所:e-Gov法令検索)。

たとえば、入社の手続きを任された総務担当者が、在留期間が決まっているのでいずれ帰国するだろうと考え、新しく入った外国籍の社員を、福利厚生の保険の加入の名簿から外していたとします。就業規則の点検に来た社会保険労務士が、退職金規程は国籍を問わず正社員全員を対象にしているのに、名簿にその社員の名前がないと気づきます。会社は、その社員を名簿に加え、保険会社へ追加の手続きを出しました。

1-2. 同意の書類に、意味を伝えないまま署名をもらう

会社が契約者・受取人で、従業員を被保険者にする死亡保険は、被保険者の同意がなければ効力が生じません(保険法第38条。出所:e-Gov法令検索)。健康状態の告知が求められる場合は、本人が質問の意味を分かって答えることが前提です。

たとえば、工場長が、加入の書類を日本語のまま渡し、ここに署名してほしいとだけ伝えて、新しく入った社員から署名をもらったとします。日本語の研修の休憩の時間に、そのうちの1人が、自分が亡くなったら会社にお金が入る書類に署名したのかと、研修の講師に尋ねます。講師から話を聞いた工場長は、署名の意味を伝えていなかったと気づきます。会社は、母国語の説明のメモを用意して説明会を開き、同意の確認書に、説明した日と説明した人の名前を書き添えました。

1-3. 国外に住む家族に、何をどう渡すかが決まっていない

死亡退職金や弔慰金を誰に払うかは、規程で決めます。家族が国外に住んでいる場合は、受け取る家族の範囲と順位、送金の方法、必要な書類まで決めておかないと、支給が止まってしまいます。

たとえば、人事部長が、弔慰金規程の対象を「遺族」とだけ書き、順位を決めていなかったとします。支給の手順書を作っていた経理担当者が、国外に住む配偶者と親の、どちらに払うのかが規程から読み取れず、送金の口座も確かめる方法がないと気づきます。人事部長は、受け取る家族の順位と、確かめる書類を規程に書き加える案を、役員会に出しました。

要するに、名簿から外す、意味を伝えない署名、国外の家族への渡し方、の3つが、外国人を雇う時に起こりやすいずれです。

2. 経営者が外国人社員の福利厚生の保険を後回しにしてしまう背景

背景は3つです。受け入れの手続きの多さ、言葉の壁、帰国を前提にした思い込みです。

2-1. 受け入れの手続きが、一度に重なる

在留資格の確認、住まいの手配、社会保険の加入、研修と、受け入れの前後は手続きが重なります。外国人を雇い入れた時は、氏名や在留資格などを厚生労働大臣(窓口はハローワーク)へ届け出ることとされています(特別永住者などを除く。労働施策総合推進法第28条第1項。出所:e-Gov法令検索)。こうした決められた手続きが優先され、会社が独自に入っている保険は後回しになりがちです。

2-2. 保険の書類を、分かる言葉で説明しにくい

保険の書類は日本語の専門用語が多く、日本人の社員にも分かりにくいものです。外国籍の社員に説明しようとすると、何から伝えればよいか迷い、署名だけで済ませてしまうことがあります。

2-3. いずれ帰国するという思い込みがある

在留期間が決まっていると、長く働く人ではないと考えてしまうことがあります。ただ、在留期間は更新される場合があり、現場の中心として長く働く人もいます。

要するに、重なる手続き、言葉の壁、帰国の思い込み、の3つが背景です。

3. 外国人を雇う時に、福利厚生の保険で確かめる3つの点

確かめる点は3つです。加入の基準、同意と告知の説明、国外の家族への支給と請求です。まず次の表で全体を見ます。

確かめる点 中身 確かめる資料の例
1. 加入の基準 国籍で分けず、規程の基準で加入 退職金規程・加入の名簿
2. 同意と告知の説明 分かる言葉で説明し、記録を残す 同意の書類・説明のメモ
3. 国外の家族への支給 受け取る順位・送金・必要な書類 弔慰金規程・保険証券

3-1. 確かめる点1 加入の基準を、国籍で分けない

最初に、退職金規程や弔慰金規程の対象者と、保険の加入の名簿が一致しているかを確かめます。基準は、雇用の形や勤続年数など、国籍以外の決まりで書きます。

保険料の経理にも関わります。死亡保険金の受取人が遺族の契約で、役員や特定の従業員だけを被保険者にする場合は、保険料が給与として扱われる場合があります(法人税基本通達9-3-4・9-3-5。出所:国税庁)。2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、保険料の一部を資産に計上する扱いです(割合や期間は区分で異なり、例外もあります。法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。個別の扱いは顧問税理士に確かめます。

3-2. 確かめる点2 同意と告知を、分かる言葉で説明する

次に、保険の目的、誰が保険料を払い、誰が保険金を受け取るか、規程で家族に何が支払われるかを、本人が分かる言葉で説明します。保険会社によっては、外国語の説明資料を用意している場合があります。

告知を求められる場合は、質問の意味を伝えたうえで、本人が答えます。故意や重大な過失で事実と違う告知をすると、契約が解除される場合があります(保険法第55条第1項。出所:e-Gov法令検索)。説明した日と説明した人を記録しておくと、後から確かめやすくなります。

3-3. 確かめる点3 国外の家族への支給と請求の段取りを決める

最後に、規程で、受け取る家族の範囲と順位を決めます。あわせて、家族の連絡先、送金の方法、家族関係を確かめる書類を、入社の時に聞いておきます。

会社が受け取る保険金の請求は、会社が保険会社に行います。国外で発行された書類は、翻訳を求められる場合があります。保険金を請求する権利は、3年で時効により消えます(保険法第95条第1項。出所:e-Gov法令検索)。死亡退職金は相続税の対象になる場合があり(相続税法第3条第1項第2号。出所:e-Gov法令検索)、家族が国外に住む場合の扱いは、顧問税理士に確かめます。

要するに、加入の基準、同意と告知の説明、国外の家族への支給と請求、の3つを順に確かめます。

ここまでで、外国人を雇う時の福利厚生の保険の要点を解説しました。従業員の退職金と福利厚生について、全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】中退共だけで足りる?従業員退職金を上乗せする4つの手順

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4. FP1級が見る、外国人社員の福利厚生の保険の点検項目

見る点は4つです。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険証券よりも、規程の対象者と加入の名簿が一致しているかです。ここがずれていると、どれだけ説明を丁寧にしても、支給の場面で困ります。

4-1. 規程の対象者と名簿が一致しているか

正社員、契約社員など、規程が対象にしている従業員と、保険の名簿を並べて見ます。国籍や在留期間で外れている人がいないかを確かめます。

4-2. 同意の記録が、説明の中身まで残っているか

署名だけでなく、説明した日、説明した人、使った資料が残っているかを見ます。説明の中身が残っていると、本人や家族から尋ねられた時に答えやすくなります。

4-3. 名前の表記と連絡先が、届け出と合っているか

保険会社に届け出た名前の表記が、在留カードの表記と合っているかを見ます。あわせて、国外の家族の連絡先が最新かを確かめます。

4-4. 相談先の役割分担が決まっているか

就業規則と規程は社会保険労務士、税務と経理は顧問税理士、保険の手続きは保険の担当者です。FPは、規程・名簿・保険を1枚に並べ、ずれている所を整理する役割で関わります。

要するに、規程と名簿の一致、同意の記録、名前と連絡先、相談先の役割分担、の4つを見ます。

5. 今週できる、外国人社員の福利厚生の保険を整える3ステップ

今週できるのは3ステップです。外国人を雇うからといって、新しい保険を急いで増やす必要はありません。

5-1. 規程の対象者と、保険の名簿を並べる

退職金規程と弔慰金規程を出し、対象者の決まりを書き出します。保険会社から届いている加入の名簿と並べ、外れている人がいないかを確かめます。

5-2. 説明のメモを作り、家族の連絡先を聞く

保険の目的と、家族に何が支払われるかを短くまとめた説明のメモを作ります。説明の場で、家族の連絡先と送金の方法を聞き、記録します。

5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる

外国人社員の福利厚生の保険で失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、帰国の時の脱退漏れの3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。

削りすぎの場面

たとえば、管理部長が、社員が増えて保険料が膨らんだため、全員が入っている保険の1人あたりの保険金額を下げる手続きを出したとします。弔慰金の支給額を家族に伝える案内文を作っていた製造部長が、弔慰金規程の支給額はそのままで、保険から出る額が規程の額に届かなくなっていると気づきます。会社は、届かない分を、毎月の積み立てで用意し始めました。

過剰の場面

たとえば、社長が、外国籍の社員のためだけに、全員が入っている保険とは別の保険を新しく契約したとします。決算の打ち合わせで、顧問税理士が、同じ社員に2つの契約が重なっており、規程の支給額を大きく超える保険金額になっていると指摘します。死亡保険金の受取人が遺族の契約で国籍により対象を分けると、加入の基準とずれ、保険料が給与として扱われる場合もあります(法人税基本通達9-3-4・9-3-5。出所:国税庁)。年払いの保険料の引き落としが賞与の支払いの月と重なり、賞与の資金を借入でつなぐことになっていました。会社は、重なった契約を、規程の額に合わせて減額しました。

帰国の時の脱退が漏れていた場面

たとえば、給与計算の担当者が、退職して帰国した社員について、ハローワークへの離職の届け出は済ませたのに、保険会社への脱退の手続きを出していなかったとします。保険会社から届いた契約内容のお知らせを読んだ専務が、退職した社員が被保険者のまま残り、その分の保険料を払い続けていると気づきます。会社は、離職の届け出と保険の脱退を同じ日に記録する欄を、退職の手順書に加えました。

要するに、規程と名簿を並べる、説明のメモと連絡先、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。

6. 外国人社員と福利厚生の保険のよくある質問

Q1. 外国籍の社員も、福利厚生の保険の対象にしますか。

規程の対象になる従業員であれば、国籍で分けずに同じ基準で考えます。使用者は、国籍を理由に労働条件で差別的な取扱いをしてはならないとされています(労働基準法第3条。出所:e-Gov法令検索)。加入の基準は、雇用の形や勤続年数など、国籍以外の決まりで書きます。

Q2. 被保険者の同意は、日本語の書類でよいですか。

死亡保険は、被保険者の同意がなければ効力が生じません(保険法第38条。出所:e-Gov法令検索)。書類が日本語でも、同意が理解に基づくよう、本人が分かる言葉で目的と受取人を説明し、説明した日と説明した人を記録しておきます。

Q3. 在留期間が短い社員は、加入させなくてよいですか。

在留期間の長さだけで外すと、規程の対象者と名簿がずれる場合があります。在留期間は更新される場合もあります。規程の基準に沿って判断し、迷う時は社会保険労務士に確かめます。

Q4. 家族が国外に住んでいる場合、死亡退職金はどう払いますか。

規程で、受け取る家族の範囲と順位を決め、入社の時に家族の連絡先と送金の方法を聞いておきます。死亡退職金は相続税の対象になる場合があり(相続税法第3条第1項第2号。出所:e-Gov法令検索)、家族が国外に住む場合の扱いは顧問税理士に確かめます。

Q5. 福利厚生の保険料は、経理でどう扱いますか。

契約の種類と加入の範囲で異なります。死亡保険金の受取人が遺族の契約で、役員や特定の従業員だけを被保険者にする場合は、保険料が給与として扱われる場合があります(法人税基本通達9-3-4・9-3-5。出所:国税庁)。2019年7月8日以後の契約は、最高解約返戻率の区分に応じて資産計上の扱いが決まります(法人税基本通達9-3-5の2)。個別の扱いは顧問税理士に確かめます。

Q6. 外国籍の社員が退職して帰国する時は、何をしますか。

退職の日に合わせて、保険会社へ被保険者から外す手続きを出します。外国人が離職した時も、厚生労働大臣(窓口はハローワーク)への届け出が要るとされています(特別永住者などを除く。労働施策総合推進法第28条第1項。出所:e-Gov法令検索)。保険の手続きと、届け出の日をそろえて記録しておきます。

7. まとめ|外国人社員の福利厚生は、規程と名簿をそろえることから

この記事のまとめ
  • 在留カードの表記
  • 国籍で分けない基準
  • 分かる言葉での説明と記録
  • 税務と経理は税理士の領域
  • 国外の家族への支給の順位と段取り
  • 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫

筆者が新卒のころ、保険に入っていた方から、病気が見つかったが保険金は受け取れるかと電話をいただいたことがあります。給付の対象だとお伝えした時の安心された声で、保険は一番つらい時に暮らしを支えるものだと教わりました。海外から来て働く社員とその家族にも、同じ備えが届くようにしたいと考えています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。規程と名簿を並べるところから、一緒に進めます。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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