【2026年版】法人保険の見直し 損金算入の区分を確かめる4つの手順
決算書を見ていた経理担当者が、社長に尋ねる場面があります。
「この保険料、半分近くが『保険積立金』として資産に入っています。昔の契約とは扱いが違うようです」。
社長は税理士に勧められて入った契約で、目的を詳しく覚えていません。見直すべきか、そのままでよいのか、判断の材料がありません。
法人保険の相談では、こうした「いまの契約が、損金になるのか資産になるのか分からない」というお話を少なくありません。
2019年(令和元年)の通達改正以降、定期保険や第三分野保険の保険料は、最高解約返戻率の区分で扱いが分かれます(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)。見直しの前に、この区分を確かめておくと、判断を間違えにくくなります。
この記事では、法人保険の見直しで損金算入の区分を確かめる4つの手順を解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 見直しの最初の一歩は、解約や乗り換えではなく、証券で「契約日」「保険の種類」「最高解約返戻率の区分」を確かめることです。
- 2019年7月8日以後に結んだ定期保険・第三分野保険(保険期間3年以上など一定の要件あり)は、最高解約返戻率が50%を超えると、保険料の一部を資産計上する整理になります(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)。
- 削りすぎれば保障の空白が、残しすぎれば保険料が資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 見直しの前に損金算入の区分を確かめたい3つの理由
- 経営者が見直しを先送りしてしまう背景
- 区分を確かめる4つの手順と、削りすぎ・残しすぎの失敗場面
- 今週中にできる確認3ステップ
1. 法人保険の見直しで損金算入の区分を先に確かめたい3つの理由
見直しの前に区分を確かめる理由は、契約日・乗り換え・決算の3つです。順に見ていきます。
1-1. 契約日によって、適用されるルールが違う
定期保険と第三分野保険(医療保険・がん保険など)は、契約した日で扱いが分かれます。
2019年7月8日以後に契約したものは、最高解約返戻率による区分の対象です。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2。解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険だけは、2019年10月8日以後の契約が対象です)
2019年7月7日までに結んだ契約には、この区分は適用されません。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
たとえば、同じ会社に2010年の契約と2021年の契約があれば、経理の扱いが別々になります。証券を並べて、契約日を確かめます。
1-2. 乗り換えると、新しいルールの契約になる
古い契約を解約して新しい契約に入り直すと、新しい契約は契約日が新しくなります。
そのため、乗り換えた契約は、区分の対象になることがあります。
たとえば、社長が「保険料が高いから」と、古い契約を解約して新しい契約へ切り替えたとします。切り替え後は、保険料の一部が資産計上になり、決算の見え方が変わる場合があります。
乗り換える前に、新しい契約の区分を確かめます。
1-3. 資産計上があると、決算の数字が動く
資産計上とは、支払った保険料の一部を、費用ではなく資産として決算書に載せる処理です。
その分だけ、その年の利益は大きく見えます。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
資産計上した金額は、保険期間の後半に取り崩して損金にする整理になります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
たとえば、経理担当者が「今期の保険料が全部損金になる」と思い込んで、利益が小さく済むと見込んでいたとします。実際は保険料の一部が資産計上され、損金が想定より小さくなります。利益が大きく出て、納める税金が増えることがあります。
損金と資産の割合は、証券を見ただけでは分かりません。保険会社の資料と、税理士の確認が必要です。
要するに、契約日・乗り換え・決算の3つが、見直しの前に区分を確かめる理由です。
2. 経営者が法人保険の見直しを先送りしてしまう背景
見直しが遅れるのは、情報が少ないからではなく、判断の拠り所が見えにくいからです。背景を2つ整理します。
2-1. 加入時の目的が、もう分からない
税理士や保険担当者に勧められて入った契約は、加入時の目的が記録に残っていないことがあります。
目的が分からないと、「いまも必要か」を判断できません。
見直しは、まず目的を言葉にするところから始まります。事業保障なのか、退職金の準備なのか、福利厚生なのかを書き出します。
たとえば、社長が机の上に証券を並べ、「これは借入金の返済に備える契約」「これは退職金の準備」と、1枚ずつ言葉にしていきます。
途中で「これは何のためだったか」と手が止まる契約が出てきます。その契約が、最初に確認すべき対象です。
目的を言葉にできる契約は、継続の理由があります。言葉にできない契約は、減額や払済も含めて検討する候補になります。
2-2. 解約すると損をしそうで動けない
「解約したら、払った分が戻らないのではないか」と考え、そのままにしている社長もいます。
たしかに、解約返戻金は加入からの年数や契約内容で変わります。
一方、何もしないまま保険料を払い続けると、毎月の資金が出ていきます。動かないことも、1つの選択であり、費用がかかります。
解約だけが見直しではありません。減額や払済など、続けながら調整する方法もあります。(解約・払済・減額の違いは、別の記事で整理しています)
要するに、目的が見えないことと、損をしたくない気持ちの2つが、見直しを止めています。
3. 損金算入の区分を確かめる4つの手順
区分の確認は、契約日・種類・最高解約返戻率・年換算保険料の4つの手順で進めます。まず区分の全体像を表で見ます。
| 最高解約返戻率 | 保険料の扱い(2019年7月8日以後の契約・出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2) |
| 50%まで | この通達による資産計上の対象外です |
| 50%を超えて70%まで | 当初の4割の期間は、保険料の4割を資産計上します |
| 70%を超えて85%まで | 当初の4割の期間は、保険料の6割を資産計上します |
| 85%を超える | 資産計上の割合がさらに大きくなる場合があり、期間も契約によって異なります |
(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2。対象は、法人が契約者で、役員・使用人が被保険者の、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険です)
3-1. 手順1|証券で契約日を確かめる
まず、すべての証券の契約日を一覧にします。
契約日が2019年7月7日までなら、この区分は適用されません。2019年7月8日以後なら、次の手順へ進みます。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
たとえば、経理担当者が証券を机に並べ、契約日・保険の種類・保険料を表に書き写します。10分ほどの作業ですが、見直しの土台になります。
3-2. 手順2|保険の種類を確かめる
次に、定期保険・第三分野保険かどうかを確かめます。
この区分は、定期保険と第三分野保険が対象です。終身保険や養老保険など、ほかの種類は別の取扱いです。
種類が分からないときは、保険担当者に「通達の対象になる契約か」を尋ねます。
たとえば、経理担当者が証券の名称だけを見て、終身保険を定期保険と取り違え、区分を当てはめたとします。対象外の契約に資産計上を前提にした処理をすると、決算書がずれます。
3-3. 手順3|最高解約返戻率の区分を保険会社に確認する
最高解約返戻率とは、保険期間の中で、払い込んだ保険料に対する解約返戻金の割合がいちばん高くなる時点の値です。
この値は、保険会社が契約ごとに計算します。自分で推測せず、保険会社の資料で確認します。
たとえば、担当者が「返戻率は低めのはず」と推測で済ませたとします。実際の区分が50%を超えていると、決算で資産計上の処理が抜けます。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
区分が50%を超えると、手順4の確認が必要になります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
資料には「解約返戻率の推移表」や「解約返戻金のご案内」といった名前で、年ごとの返戻金の一覧が付いていることがあります。見つからなければ、保険担当者に「通達上の最高解約返戻率の区分を教えてください」と伝えれば足ります。
区分が分かれば、その契約で保険料のうち何割が資産に入るのか、税理士が計算できます。
3-4. 手順4|年換算保険料を確かめ、税理士に処理を確認する
年換算保険料相当額とは、保険料の総額を保険期間の年数で割った額です。最高解約返戻率が70%までで、年換算保険料相当額が30万円までの契約は、資産計上の対象外とされています。70%を超える契約は、年換算保険料の額にかかわらず区分の対象です。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2。1人の被保険者に複数の契約がある場合は、合計で判断します)
たとえば、同じ社長を被保険者とする3つの契約があるのに、契約1つごとに30万円までかを見て、対象外と判断したとします。合計では30万円を超え、あとで税理士に指摘されます。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
ここまで確かめたら、経理処理が合っているかを、顧問税理士に確認します。税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、税理士の領域です。
3-5. 区分を確かめたあとの失敗場面|削りすぎと残しすぎ
区分を確かめたあとにも、見直しの方向を決める場面で、反対方向の失敗が2つあります。
- 削りすぎた場合:たとえば、社長が資産計上の説明を聞いて、「損金にならないなら不要だ」と全契約を解約したとします。解約後に健康状態が変わると、告知の結果、新しい契約に入れないことがあります。そのあと社長に万一があると、借入金の返済や従業員の給与の原資がなく、会社が資金不足になることがあります。保障の空白が生まれます。
- 残しすぎた場合:たとえば、社長が「保険料は損金になるから」と、決算前に顧問税理士へ相談せず契約を重ねたとします。保険料の一部が資産計上されて損金が想定より小さくなり、利益が大きく出て、納税額が増えます。納税の資金が足りなくなることがあります。毎月の保険料も運転資金を圧迫します。
解約か継続かは、損金の割合だけで決めません。「その契約は、いまの会社の何を守っているか」で決めます。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え
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要するに、契約日・種類・区分・年換算保険料の順に確かめれば、見直しの判断材料がそろいます。
4. FP1級が見る法人保険の点検
見直しは、保険・税務・資金繰りが重なるため、窓口が分かれると抜けが出ます。役割を整理します。
4-1. 誰が何を担当するか
| 立場 | 主な役割 |
| 経営者 | 契約の目的を決める。最終判断をする |
| 税理士 | 損金算入・資産計上の個別判断、申告・経理処理の確定 |
| 保険担当者 | 契約内容・最高解約返戻率・解約返戻金の資料の提供 |
| FP1級 | 会社全体の資金繰りと目的に照らした、過剰と不足の点検 |
4-2. FP1級が加わる意味
税理士は税務の判断に強く、保険担当者は契約内容に詳しい。一方、「会社として、その保険が必要か」は、どちらの立場でも判断しにくい部分です。
FP1級の立場では、会社の資金繰りと経営計画から見て、保障が足りているか、多すぎないかを点検します。
特定の商品を勧めるのではなく、契約の目的と会社の数字を並べて、判断の材料を整えます。
点検では、次の4つの問いを、契約ごとに順に確かめます。
- 目的:この契約は、何のために入ったか。いまもその目的は残っているか。
- 金額:保障額は、いまの借入金や従業員の人数に対して、足りているか。多すぎないか。
- 期間:保険期間は、目的が続く期間と合っているか。社長交代の予定とずれていないか。
- 資金繰り:毎月の保険料は、運転資金や設備投資の余力を圧迫していないか。
この4つの問いに答えられる契約は、続ける理由が明確です。答えられない契約は、継続・減額・払済・解約のどれが合うかを、税理士と保険担当者を交えて検討します。
たとえば、社長交代から数年たった会社で、被保険者が前社長のままの契約が見つかることがあります。いまの経営の体制に合っているかを、あらためて確かめます。
要するに、税務・契約・経営の3つの視点が、見直しの抜けを防ぎます。
5. 今週中にできる契約の点検3ステップ
難しい計算は要りません。次の3つを、今週のうちに進めます。
- 証券を集める:会社名義のすべての証券と、直近の保険料の領収書を1か所に集めます。
- 一覧表を作る:契約日・保険の種類・被保険者・受取人・年間の保険料を表にします。
- 目的を一言で書く:各契約に「事業保障」「退職金」「福利厚生」などの目的を書き、書けない契約に印を付けます。
印の付いた契約が、税理士・保険担当者に確認する優先順位の高い契約です。
3つのステップのあとは、次の流れで進めます。
- 契約日が2019年7月8日以後で、定期保険・第三分野保険の契約は、最高解約返戻率の区分を保険会社に確認します(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)。
- 区分の結果と決算書の「保険積立金」を、顧問税理士に見てもらいます。
- 目的が残っている契約と、役割を終えた契約に分け、続け方を検討します。
見直しを急ぐ必要はありません。決算期の前に区分と目的を確かめておけば、決算の相談がしやすくなります。
書けない契約があっても、慌てて解約する必要はありません。まず区分と目的を確かめます。
要するに、集める・一覧にする・目的を書く、の3つで、見直しの入口に立てます。
6. よくある質問
Q1. 法人保険の見直し・乗り換えはどのように進めればよいですか。
契約日・保険の種類・最高解約返戻率の区分を確かめ、各契約の目的を書き出してから、継続・減額・払済・解約を検討します。乗り換えは新しい契約になるため、新しい契約の区分も確かめます。
Q2. 2019年7月7日までの契約も、資産計上が必要になりますか。
この通達による区分は、2019年7月8日以後の契約が対象です。それより前の契約は、従来の取扱いのままです。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)個別の処理は、顧問税理士に確認してください。
Q3. 最高解約返戻率が50%を超えると、保険料は全額が損金にならないのですか。
対象の契約では、当初の一定期間に、保険料の一部を資産計上する整理になります。区分によって割合と期間が異なります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)
Q4. 資産計上した保険料は、あとで損金になりますか。
資産計上した金額は、保険期間の75%を過ぎたころから取り崩して、損金にする整理になります。(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)時期や金額は契約ごとに異なるため、税理士に確認してください。
Q5. 見直しは、誰に相談すればよいですか。
税務の判断は税理士、契約内容は保険担当者です。会社の資金繰りと目的に合っているかの点検は、FP1級が整理を手伝えます。
Q6. 保険料が高いと感じたら、解約したほうがよいですか。
解約の前に、目的と保障額を確かめます。解約すると保障もなくなります。減額や払済など、続けながら保険料を調整する方法もあります。
7. まとめ
- 見直しは、契約日・保険の種類・最高解約返戻率・年換算保険料の4つの手順で、区分を確かめることから始めます。
- 2019年7月8日以後の定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率が50%を超えると、保険料の一部を資産計上する整理になります(出所:国税庁 法人税基本通達9-3-5の2)。
- 削りすぎれば保障の空白、残しすぎれば資金繰りの圧迫になります。目的を基準に判断します。
- 税務の個別判断・申告・経理処理は、税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。契約の一覧をもとに、目的との合い方を一緒に整理します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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