飲食店や美容室、学習塾のように、店舗や事務所を構えて人を雇う会社を思い浮かべてください。

社長が突然に現場を離れたとしても、翌月の家賃の引き落とし日は来ます。スタッフの給与日も変わりません。経理担当者は、売上がどれだけ減るかより先に、「今月の固定の支払いはいくらか」を数えることになります。

売上は社長の状況に左右されても、固定費は待ってくれません。この差が、万一のときの資金の不足につながります。

この記事では、賃料や従業員の給与など固定費の負担がある会社が、万一のときに困る場面と、先に確かめておきたい4つのチェック項目を解説します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 万一のとき、売上は先に落ちても、賃料・給与・リース料などの固定費は同じように出ていきます。
  • 先に確かめるのは、固定費の合計・猶予の月数・減らせるかどうか・財源の出どころの4つです。
  • 備えは、不足でも過剰でも会社を苦しくします。税務の個別判断は税理士、労務の個別判断は社会保険労務士の領域です。

この記事で分かること

  • 売上が減っても固定費が残ることで困る3つの場面
  • 「そのうち何とかなる」と考えてしまう理由
  • 先に確かめる4つのチェック項目と、整理の手順
  • 不足・過剰の両方の失敗場面と、今週の確認項目

1. 固定費の負担がある会社で、売上が減ったときに困る3つの場面

固定費の問題は、売上が落ち込んだ直後の数か月に、支払日ごとに現れます。3つの場面を見ます。

1-1. 給与日に、手元の現預金が足りない

給与は、従業員の毎日の暮らしを支える支払いです。遅らせれば、信頼を失うだけでなく、人が辞める引き金にもなります。

たとえば、社長が長期で現場に出られなくなり、予約や受注が減った月があるとします。売上の入金は少ないのに、給与の日は例月どおり来ます。

経理担当者が最初に気づくのは、給与の振込に必要な額と、通帳残高の差です。

1-2. 賃料やリース料が、売上と関係なく続く

事務所・店舗の賃料、車両や機器のリース料は、売上が減っても同じ額が続きます。

賃貸借契約には、途中で解約する場合の取り決めがあることが多く、すぐに減らせるとは限りません。

たとえば、新店舗の賃料の負担が重い会社では、社長の不在で売上が下がると、賃料の割合が一気に高くなります。

1-3. 従業員が、先行きに不安を感じ始める

固定費の中でも、最も繊細なのが人件費です。社長に万一があったと知った従業員は、給与が払われるかを気にします。

この不安が広がると、優秀な人から転職を考え始めることがあります。

たとえば、売上の中心が従業員の技術にある会社で、中核の人材が辞めると、売上の回復はさらに遠くなります。

要するに、給与・賃料・人材の不安という3つの固定的な負担が、売上の減少と同時に重なります。

2. 固定費の備えが「そのうち何とかなる」で終わる理由

備えが後回しになるのは、平時には固定費が当たり前の支払いに見えるからです。理由は2つあります。

2-1. 平時は、固定費が売上に吸収されている

売上が順調な間は、固定費は毎月の営業の中に溶け込み、意識されません。

損益計算書では黒字でも、売上が大きく落ちた場合に何か月もつかは、数字を並べて初めて分かります。

たとえば、利益が出ている会社でも、現預金は設備や仕入に回っていて、手元は意外に薄いことがあります。

2-2. 融資や公的な支えをあてにしてしまう

金融機関から借りて乗り切れると考える社長もいます。ただ、社長の不在で収益の見通しが立たない時期に、すぐ融資が受けられるとは限りません。

公的な支えも、働けない本人への傷病手当金などが中心です。傷病手当金は、会社員向けの健康保険で条件を満たせば支給され、期間は通算1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)

この制度は、会社の固定費を払うためのものではありません。国民健康保険には、この制度自体がありません。(出所:全国健康保険協会)

要するに、平時には見えにくく、頼りたい支えも固定費をまかなう用途ではない点が、備えを遅らせます。

3. 固定費を万一時に払う財源を整える4つのチェック項目

確かめるのは、固定費の合計・猶予の月数・減らせる範囲・財源の出どころの4つです。全体を表で整理します。

チェック項目 見ること 使う資料
1. 固定費の合計 給与・賃料・リース料・保険料など、毎月出る額 試算表・支払一覧
2. 猶予の月数 売上が止まった場合に、手元資金で何か月もつか 残高・固定費の合計
3. 減らせる範囲 すぐ減らせる費用と、減らしにくい費用の区分 契約書・雇用条件
4. 財源の出どころ 不足分を何でまかなうか、使えるのはいつか 融資の枠・積立・契約内容

3-1. チェック1|毎月の固定費を、全部書き出す

給与だけでなく、社会保険料の会社負担分、賃料、リース料、通信費、既存の保険料まで並べます。

合計額が、万一のときに売上がゼロでも出ていく金額の目安になります。

3-2. チェック2|手元資金で何か月もつかを計算する

現預金の残高を、固定費の合計で割ると、猶予の月数が出ます。

猶予の月数が短いほど、早く外部の資金や備えが必要になります。決算ごとに数字が変わるため、年に一度は計算し直します。

3-3. チェック3|減らせる費用と、減らしにくい費用を分ける

賃料やリース料は契約条件で、給与は雇用の約束で決まります。すぐに減らせる費用は多くありません。

従業員の給与や手当の引下げは、労働条件の変更にあたり、同意や手続きが必要になることがあります。個別の判断は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。

3-4. チェック4|財源の出どころと、使える時期を決める

不足分をまかなう手段は、手元資金の積み増し、融資の枠、法人契約の保険など複数あります。

保険は、毎月の保険料そのものが固定費になる点に注意が必要です。保険料の損金算入の扱いは契約内容で異なり、最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険のうち、2019年7月8日以後の契約は、保険料の一部を資産計上する取扱いがあります。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)

養老保険は別の通達(法人税基本通達9-3-4)で扱われます。個別の経理処理は、税理士に確認してください。

必要額の出し方は、次の記事で扱っています。

社長の必要保障額(会社の万一資金)の出し方

整理の手順は、次の流れが目安です。

  1. 書き出す:毎月の固定費を、種類ごとに一覧にします。
  2. 月数を出す:手元資金を固定費の合計で割り、猶予の月数を求めます。
  3. 区分する:すぐ減らせる費用と、減らしにくい費用に分けます。
  4. 決める:不足する月数分の財源の手段と、使える時期を決めます。

要するに、固定費の合計から猶予の月数を出し、減らせる範囲と財源の出どころを決めます。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え

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4. 固定費の備えで起きやすい失敗|足りない場合と重い場合

失敗は、猶予の月数を見ないまま備える場合と、不安から備えすぎる場合に分かれます。対にして見ます。

4-1. 備えが足りなかった場面

  • 利益だけを見て大丈夫と考える:社長は、決算が黒字なのだから大丈夫だと考えていました。ところが経理担当者が現預金で固定費を割ってみると、猶予は想定より短いと分かりました。
  • 保険料を削って備えを薄くする:経費を減らす目的で、社長が万一時の備えを大きく減らしました。いざというとき、給与と賃料の支払いに回せる財源が残っていません。
  • 給与を下げる前提で考える:社長が、売上が減れば給与も下げられると見込みました。実際には従業員の同意が必要で、話し合いに時間がかかり、その間の支払いが先に出ていきます。

4-2. 備えが重すぎた場面

  • 固定費が増える備えを選ぶ:社長が、毎月の負担が大きい備えを選びました。経理担当者は、備えそのものが固定費を押し上げ、平時の資金繰りが窮屈になっていることに気づきます。
  • 何年分もの固定費を前提にする:社長が、売上が長く戻らない場合を想定して大きな備えを積みました。新しい設備投資や賞与の原資が不足します。

備えの量は、猶予の月数に対して、何か月分を財源で補うかで決めます。決算ごとに見直します。

要するに、猶予の月数を基準に、足りない分だけを無理のない負担で用意します。

5. 今週できる確認チェックリスト

難しい計算は要りません。今週中に、次の5項目を確かめます。

  • 毎月の固定費(給与・賃料・リース料・保険料)を一覧にしたか
  • 手元の現預金を固定費の合計で割り、猶予の月数を出したか
  • 減らせる費用と、すぐには減らせない費用を分けたか
  • 社長が加入している健康保険の種類を確かめたか
  • 不足分の財源の手段を、顧問税理士と話す日を決めたか

猶予の月数が分かると、備えの優先順位が見えてきます。

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6. よくある質問

Q1. 固定費の備えは、何か月分あればよいですか。

会社ごとに違い、一律には言えません。固定費の合計と、売上が戻るまでにかかりそうな期間、手元資金を並べて決めます。顧問税理士と試算してください。

Q2. 賃料は、売上が減ったら下げてもらえますか。

契約や貸主の判断によります。減額を前提にせず、契約書の内容を平時に確かめておきます。交渉の可否は個別の事情で変わります。

Q3. 社長が働けなくなったら、公的な給付で固定費をまかなえますか。

公的な給付は、働けない本人への支えが中心で、会社の固定費をまかなう用途ではありません。傷病手当金の期間は通算1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)

Q4. 従業員の給与を一時的に下げることはできますか。

労働条件の変更にあたり、同意や手続きが必要になることがあります。個別の判断は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。

Q5. 保険料は、全額が経費になりますか。

全額とは限りません。最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険のうち、2019年7月8日以後の契約は、一部を資産計上する取扱いがあります。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)個別の処理は税理士に確認してください。

Q6. 現預金が少ない会社は、何から始めるとよいですか。

まず固定費の合計と猶予の月数を出すことから始めます。数字が分かれば、積み増し、融資の枠、保険など、どの手段が合うかを順に比べられます。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 万一のとき、売上は減っても、給与・賃料・リース料などの固定費は出ていきます。
  • 確かめる4つは、固定費の合計・猶予の月数・減らせる範囲・財源の出どころです。
  • 備えは、足りなくても重すぎても資金繰りを苦しくします。猶予の月数を基準に決めます。
  • 税務の個別判断は税理士、労務の個別判断は社会保険労務士・弁護士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。固定費の一覧をもとに、備えの全体像を一緒に整理します。

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筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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