従業員が結婚した時、女性社長は保険の何を見る?
たとえば、女性社長が、長く勤めている従業員から、結婚の報告を受けたとします。お祝いの言葉を伝えたあと、社長は、会社が従業員のためにかけている保険や、死亡退職金の規程で、何か手続きが要るのかが気になり始めます。
従業員の結婚は、福利厚生の保険と規程を見直す、大切な機会のひとつです。結婚によって、従業員の家族の状況が変わるからです。
この記事では、法人保険の目的のうち「従業員の福利厚生」を扱います。従業員が結婚した時に、女性社長が保険と規程で確かめる3つの点を、規程の遺族、保険の受取人、届出と説明、の順に説明します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。
この記事は、保険に新しく入ることや、保険金額を変えることをお勧めするものではありません。いまの保険と規程が、従業員の家族の変化に合っているかを確かめるためのものです。税務の個別判断や経理処理は税理士の、規程の整備は社会保険労務士の領域です。
結論
- 結婚は規程と保険の点検の機会
- 削りすぎは財源の空白、過剰は保険料の増加
- 確かめる点は3つ。遺族・受取人・届出と説明
この記事で分かること
- 今週できる3ステップ
- 結婚した従業員の保険で確かめる3つの点
- 結婚後に保険と規程がずれる3つの落とし穴
- FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
1. 従業員の結婚後に、女性社長の会社で保険と規程がずれる3つの落とし穴
落とし穴は3つあります。どれも、保険と規程を作った時の従業員の家族の状況が、そのまま続くと考えていることから起こります。
1-1. 規程に「遺族」とだけあり、範囲と順位が決まっていない
死亡退職金や弔慰金の規程に、受け取る人が「遺族」とだけ書かれていると、配偶者と親のどちらに支給するのかが読めない場合があります。
たとえば、女性社長が、死亡退職金の規程を作った時に、受け取る人を「遺族」とだけ書き、範囲と順位を決めていなかったとします。結婚した従業員の家族の届出を処理していた総務担当者が、規程を読み返し、配偶者と親のどちらに支給するのかが読めないと気づきます。総務担当者は、社長に、規程の該当箇所を見せます。社長は、社会保険労務士に、遺族の範囲と順位の定め方を相談します。以後は、規程に範囲と順位を書きます。
1-2. 保険の受取人が、結婚前の個人名のままになっている
福利厚生の保険で、死亡保険金の受取人を個人の名前で指定していると、結婚したあとも受取人はそのまま残ります。規程で定めた遺族と、保険の受取人が食い違う場合があります。
たとえば、女性社長が、従業員を被保険者にした保険で、死亡保険金の受取人を従業員の親の名前で指定していたとします。年に一度の契約内容の確認に来た保険の担当者が、結婚した従業員の受取人が親のままで、規程の遺族の順位と食い違っていると気づきます。担当者は、社長に、受取人の変更の手続きを説明します。社長は、従業員本人に、受取人の考え方を説明し、同意を得て手続きを進めます。以後は、従業員の家族が変わった時に、受取人も確かめます。
1-3. 被保険者の氏名の変更を、保険会社に届けていない
結婚で従業員の氏名が変わることがあります。会社が契約者の保険は、被保険者の氏名の変更も、契約者である会社が保険会社に届け出ます。
たとえば、女性社長が、結婚で氏名が変わった従業員について、給与の手続きは済ませたものの、保険会社への届出をしていなかったとします。決算前に、保険料の支払明細を給与台帳と照らし合わせていた経理担当者が、被保険者の氏名が結婚前のままだと気づきます。経理担当者は、社長に、届出の書類を確かめるよう伝えます。社長は、保険の担当者に、氏名の変更の手続きを依頼します。以後は、従業員の氏名や住所が変わった時に、保険会社への届出も一覧に入れます。
要するに、規程の遺族の範囲と順位、結婚前のままの受取人、届けていない氏名の変更、の3つが、結婚後に保険と規程がずれる落とし穴です。
2. 女性社長が、結婚の報告で保険の見直しに気づきにくい背景
背景は3つです。お祝いの場面で手続きの話がしにくいこと、保険と規程を担当する人が別々なこと、従業員の家族の情報が会社に集まりにくいことです。
2-1. お祝いの場面で、手続きの話がしにくい
結婚の報告は、お祝いの言葉を伝える場面です。その場で保険や規程の話をするのは、ためらわれることがあります。報告から少し時間をおいて、手続きの案内を渡す方法もあります。
2-2. 保険と規程の担当が、別々になっている
保険は保険の担当者、規程は社会保険労務士、経理は顧問税理士と、担当が分かれている会社では、結婚の情報がそれぞれに届かない場合があります。
2-3. 従業員の家族の情報が、会社に集まりにくい
家族のことは私的なことでもあり、会社が尋ねにくい面があります。会社に届くのは、給与や社会保険の手続きに必要な範囲にとどまることがあります。
要するに、お祝いの場面のためらい、担当の分かれ、家族の情報の集まりにくさ、の3つが、見直しに気づきにくい背景です。
3. 結婚した従業員の保険で、女性社長が確かめる3つの点
確かめる点は3つです。まず次の表で全体を見ます。
| 確かめる点 | 見る書類 | 相談する相手の例 |
| 1. 規程の遺族 | 死亡退職金・弔慰金の規程、就業規則 | 社会保険労務士 |
| 2. 保険の受取人 | 保険証券、契約内容のお知らせ | 保険の担当者 |
| 3. 届出と説明 | 氏名・住所の変更の書類、制度の説明資料 | 保険の担当者・顧問税理士 |
3-1. 確かめる点1 規程の遺族の範囲と順位
最初に、死亡退職金と弔慰金の規程で、受け取る遺族の範囲と順位が決まっているかを確かめます。常時10人以上の労働者を使用する事業場で退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲などを就業規則に記載します(労働基準法第89条第3号の2。出所:e-Gov法令検索)。
従業員の死亡退職金は、死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続税の対象になります(相続税法第3条第1項第2号。出所:e-Gov法令検索)。相続人が受け取る死亡退職金には、500万円に法定相続人の数を掛けた額の非課税枠があります(相続税法第12条第1項第6号。出所:e-Gov法令検索)。相続税の対象になる死亡退職金には、所得税はかかりません(所得税基本通達9-17。出所:国税庁)。配偶者は常に相続人になるため(民法第890条。出所:e-Gov法令検索)、結婚によって法定相続人が変わる場合があります。
弔慰金は、業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外の死亡なら半年分までは、相続税の対象になる退職手当金等として扱わないとされています(相続税法基本通達3-20。出所:国税庁)。
3-2. 確かめる点2 保険の受取人と、変更の手続き
次に、従業員を被保険者にした保険の受取人を確かめます。受取人が会社の契約は、保険金を規程の死亡退職金の財源にします。受取人が遺族の契約は、誰が受取人として指定されているかを見ます。
受取人の変更は、保険事故が起きるまでは、契約者である会社ができます(保険法第43条第1項。出所:e-Gov法令検索)。死亡保険の受取人の変更は、被保険者の同意がなければ効力を生じません(保険法第45条。出所:e-Gov法令検索)。受取人を変える時は、従業員本人に説明し、同意を得てから手続きします。
2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、保険料の全部または一部を資産に計上します(割合や期間は区分で異なり、例外もあります。法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。受取人を変えると、保険料の税務上の扱いが変わる場合があるため、顧問税理士に確かめます。
3-3. 確かめる点3 届出と、本人への説明
最後に、氏名や住所の変更を保険会社に届け、本人に制度を説明します。説明では、会社の保険と規程の死亡退職金の関係、受取人の考え方を伝えます。
本人が制度を知っていれば、家族で個人の保険を考える時にも、会社の制度を踏まえて考えられます。健康保険の扶養など、保険以外の手続きは、加入している制度の窓口や社会保険労務士に確かめます。
要するに、規程の遺族、保険の受取人、届出と説明、の3つを確かめます。
ここまでで、結婚した従業員の保険で確かめる要点を解説しました。従業員退職金の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る、従業員の福利厚生の保険の点検項目
見る点は4つです。従業員の家族が変わる場面は、結婚のほかにもあります。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険金額よりも、規程の遺族と保険の受取人が同じ考え方でそろっているかどうかです。
4-1. 規程の遺族と、保険の受取人がそろっているか
規程で定めた遺族の範囲と順位と、保険の受取人の指定が、同じ考え方になっているかを見ます。
4-2. 家族が変わった時の手続きが、一覧になっているか
結婚、離婚、氏名や住所の変更などの時に、保険会社への届出、規程の確認、本人への説明を、誰がするかが一覧になっているかを見ます。
4-3. 保険金額が、規程の支給額と見合っているか
保険金額と、規程の死亡退職金・弔慰金の額を並べます。保険金額が規程の額を大きく超えていないか、足りていないかを、同じ表で見ます。
4-4. 相談先の役割分担が決まっているか
規程は社会保険労務士、税務と経理は顧問税理士、保険の手続きは保険の担当者です。FPは、規程と保険の一覧を並べ、確かめる順番を整理する役割で関わります。
要するに、遺族と受取人のそろい、手続きの一覧、保険金額と規程の額、相談先の役割分担の4つを見ます。
5. 今週できる、結婚した従業員の保険を確かめる3ステップ
今週できるのは3ステップです。受取人や規程を変えるかどうかは、書類を並べてから決めて構いません。
5-1. 規程を読み、遺族の範囲と順位に印を付ける
死亡退職金と弔慰金の規程を読み、遺族の範囲と順位の定めに印を付けます。定めがなければ、社会保険労務士に相談する時期を決めます。
5-2. 保険の一覧に、受取人の欄を加える
従業員を被保険者にした保険の一覧に、受取人の欄を加え、証券や契約内容のお知らせから書き写します。
5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる
結婚後の見直しで失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、家族への伝え漏れの3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。
削りすぎの場面
たとえば、女性社長が、結婚した従業員から「配偶者も働いているので、会社の保険は要らない」と言われ、その従業員だけを保険の対象から外したとします。決算の打ち合わせで、顧問税理士が、規程の死亡退職金はその従業員にも支給するのに、その分の財源がなくなっていると気づきます。顧問税理士は、一部の従業員だけを外すと、保険料の税務上の扱いに影響する場合があることも伝えます。社長は、規程と保険の対象をそろえ直します。以後は、対象から外す前に、規程の定めと並べて確かめます。
過剰の場面
たとえば、女性社長が、お祝いの気持ちから、結婚した従業員の保険金額を、そのたびに上乗せしてきたとします。規程の改定の打ち合わせで、社会保険労務士が、保険金額の合計が規程の支給額を大きく超え、保険料が毎年の人件費の計画を圧迫していると気づきます。社会保険労務士は、社長に、規程の額と保険金額を並べた表を見せます。社長は、保険の担当者と、規程の額に合わせた保険金額を相談します。以後は、保険金額を変える前に、規程の額と並べて確かめます。
家族への伝え漏れの場面
たとえば、女性社長が、結婚した従業員に、会社の保険と規程の死亡退職金の関係を説明していなかったとします。夫婦で個人の保険を見直していた従業員の配偶者が、会社の制度でどこまで備えがあるのか分からず、個人の保険の額を決められないと気づきます。従業員は、社長に直接、制度の説明を求めます。社長は、制度の説明資料を作り、従業員に渡します。以後は、結婚の報告を受けた時に、説明資料を渡します。
要するに、規程に印を付ける、受取人の欄を加える、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。
6. 従業員の結婚と福利厚生の保険のよくある質問
Q1. 従業員が結婚したら、会社の保険の受取人は変えたほうがよいですか。
一概には言えません。受取人が会社の契約は、規程の死亡退職金の財源にするため、受取人を変える必要がない場合もあります。受取人が個人名の契約は、規程の遺族と食い違っていないかを確かめます。
Q2. 受取人を変える時、従業員の同意は要りますか。
要ります。死亡保険の受取人の変更は、被保険者の同意がなければ効力を生じません(保険法第45条。出所:e-Gov法令検索)。従業員本人に説明し、同意を得てから手続きします。
Q3. 規程の「遺族」は、どう決めればよいですか。
範囲と順位を規程に書いておくと、支給の時に迷いません。決め方は会社によって異なるため、社会保険労務士に相談します。常時10人以上の労働者を使用する事業場で退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲などを就業規則に記載します(労働基準法第89条第3号の2。出所:e-Gov法令検索)。
Q4. 従業員の死亡退職金に、税金はかかりますか。
死亡後3年以内に支給が確定したものは相続税の対象になり(相続税法第3条第1項第2号)、相続人が受け取る場合は、500万円に法定相続人の数を掛けた額の非課税枠があります(相続税法第12条第1項第6号。出所:e-Gov法令検索)。
Q5. 結婚で氏名が変わった時、保険の手続きは要りますか。
要ります。会社が契約者の保険は、被保険者の氏名の変更を、契約者である会社が保険会社に届け出ます。必要な書類は保険会社によって異なるため、保険の担当者に確かめます。
Q6. 一部の従業員だけ、保険の対象から外してもよいですか。
慎重に考えます。規程の支給の対象と保険の対象がずれると、財源がなくなる場合があります。保険料の税務上の扱いに影響する場合もあるため、顧問税理士に確かめます。
7. まとめ|従業員の結婚は、規程と保険をそろえる機会
- 受取人の変更は本人の同意
- 結婚は規程と保険の点検の機会
- 削りすぎは財源の空白、過剰は保険料の増加
- 確かめる点は3つ。遺族・受取人・届出と説明
- 税務は税理士、規程は社会保険労務士の領域
筆者は以前、保険料が上がるというご相談で、背景を伺わずに保障を減らす話をし、納得していただけなかったことがあります。以来、保険の話の前に、その保険で守りたい方のお話を伺うようにしています。従業員の家族が変わる時も、同じだと考えています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
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