女性社長が保険の提案を受ける時、何を記録に残す?
たとえば、女性社長が、創業から続けてきた法人保険の見直しについて、来月、2人の保険の担当者から提案を受ける予定だとします。社長は、どちらの提案も聞いてから決めるつもりですが、聞いた内容をどう残しておくかまでは考えていませんでした。
保険の提案は、その場では分かったつもりでも、後になって「なぜこの契約にしたのか」を説明できなくなることがあります。社長が交代する時、税理士が変わる時、契約を見直す時に、頼りになるのは提案を受けた時の記録です。
この記事では、法人保険の目的のうち「見直し・税務の整理」を扱います。女性社長が保険の提案を受ける時に、記録に残したい3つのものと、つまずきやすい場面を説明します。性別にかかわらず通じる内容を、女性社長の場面で具体的にしています。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。
この記事は、保険への加入や解約をお勧めするものではありません。税務の判断、申告、経理処理の確定は税理士の領域です。
結論
- 残すのは3つ
- 意向・説明資料・決めた理由
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
この記事で分かること
- 今週できる3ステップ
- 記録に残す3つのもの
- 記録がなくて困る3つの場面
- FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
1. 女性社長が保険の提案を受けた後、記録がなくて困る3つの場面
場面は3つあります。どれも、提案を受けた時の会話や資料を、契約の後に見返せる形で残していないことから起こります。
1-1. 伝えた意向と、契約の目的がずれている
保険の担当者には、原則として、お客さまの意向を把握し、それに沿った提案と説明をし、意向と契約の内容が合っているかを確かめる機会を設ける義務があります(保険業法第294条の2。出所:e-Gov法令検索)。意向の確認の書面は、そのための大切な記録です(出所:金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」)。
たとえば、女性社長が、担当者との面談で「従業員に万一があった時の備えを考えたい」と口頭で伝え、提案された契約に署名したとします。福利厚生の規程づくりを任された総務部長が、意向の確認の書面を見返し、意向の欄が「社長の退職金の準備」になっていると気づきます。会社は、従業員向けの備えを、今の契約とは別に検討することにしました。
1-2. 解約返戻金の推移の資料が、手元に残っていない
提案の時には、解約返戻金の推移や試算の前提が示される場合があります。提案書の要約のページだけを残すと、前提の条件や年ごとの推移が分からなくなります。
たとえば、女性社長が、提案書のうち保険料と保険金額のページだけを残し、残りを処分していたとします。社長の退任の時期を一緒に考えていた経理部長が、退任の年の解約返戻金の目安を確かめようとして、推移の資料が見当たらないと気づきます。会社は、退任の時期の議案を、推移を確かめられる次の期の総会に回しました。
1-3. 2つの提案を比べた理由が、説明できない
複数の提案を比べて選んだ場合、比べた案と、選んだ理由を残しておくと、後から判断の筋道を説明できます。見送った案の資料も、理由と一緒に残しておくと、比べた範囲が後から分かります。
たとえば、女性社長が、2人の担当者の提案を聞き比べ、片方に決めたものの、比べた内容をメモに残していなかったとします。取締役会で保険の契約の一覧を見ていた監査役から、似た目的のもう一つの案ではなく、この契約を選んだ理由を尋ねられ、社長は細かな理由を思い出せないと気づきます。社長は、比べた2案と選んだ理由を思い出せる範囲で1枚にまとめ、議事録に添えました。
要するに、ずれた意向、残っていない推移の資料、説明できない比べた理由、の3つが、記録がなくて困る場面です。
2. 経営者が保険の提案を記録に残さないままにする背景
背景は3つです。その場で分かったつもりになること、資料が多いこと、契約は社長1人で決めやすいことです。
2-1. 説明の場では、分かったつもりになる
担当者の説明を聞いている間は、内容に納得しています。納得した分だけ、後から見返すための記録の必要を感じにくくなります。時間がたつと、説明の細部は思い出しにくくなります。
2-2. 提案の資料は、量が多い
提案書、契約の概要、注意を促す情報、意向の確認の書面と、資料は何種類もあります。どれを残せばよいか分からず、全部を箱にしまうか、一部だけを残すこともあります。
2-3. 保険の契約は、社長1人で決めやすい
保険の契約は、日々の経営の判断の一つとして、社長の判断で決まりやすい分野です。社内に共有しないまま時間がたつと、決めた理由を知るのは社長だけになります。社長が交代する時や、社長が長く不在になる時に、その理由を引き継ぐ手立てがなくなります。
要するに、分かったつもり、多い資料、1人での判断、の3つが背景です。
3. 女性社長が保険の提案を受ける時に、記録に残す3つのもの
残すものは3つです。意向、説明資料、決めた理由です。まず次の表で全体を見ます。
| 残すもの | 中身の例 | 後で役立つ場面 |
| 1. 意向 | 目的・守りたい人・期間 | 目的のずれの確認 |
| 2. 説明資料 | 提案書・契約の概要・推移の資料 | 退任や解約の時期の検討 |
| 3. 決めた理由 | 比べた案・選んだ理由・税務の確認 | 社長交代・取締役会での説明 |
3-1. 残すもの1 意向(何のための保険か)
最初に、提案を受ける前に、目的、守りたい人、備える期間を、社長自身の言葉で1枚に書きます。面談の後には、担当者から受け取る意向の確認の書面を、その1枚と見比べて保管します。保険の担当者には、前述のとおり、意向に沿った提案と説明をする義務があります。ずれていれば、署名の前に伝えます。
3-2. 残すもの2 説明資料(契約の中身と前提)
次に、提案書の全ページと、契約の概要、注意を促す情報を、一つのファイルにまとめます。保険の担当者には、契約の内容などの情報を提供する義務があります(保険業法第294条。出所:e-Gov法令検索)。解約返戻金の推移や試算の前提のページは、特に残しておきます。
提案書に書かれた経理の扱いも、記録として残します。2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、保険料の一部を資産に計上します(割合や期間は区分で異なり、例外もあります。法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。提案書の税務の説明は、契約前に顧問税理士に確かめます。
3-3. 残すもの3 決めた理由(比べた案と判断)
最後に、比べた案、選んだ案、選んだ理由、見送った理由を、日付と一緒に1枚にまとめます。見直しで今の契約をやめて新しい契約にする提案では、今の契約を続ける場合と比べて不利になる点の説明を受けたかも書き残します(保険業法第300条第1項第4号。出所:e-Gov法令検索)。
会社が事業のために申し込む契約は、クーリング・オフの対象外とされる場合があります(保険業法第309条第1項・同法施行令。出所:e-Gov法令検索)。適用の有無は、契約の書面の注意を促す情報で確かめます。署名の前に記録をそろえておく価値があります。
要するに、意向、説明資料、決めた理由、の3つを、署名の前後で1つのファイルに残します。
ここまでで、保険の提案を受ける時に残す記録の要点を解説しました。法人保険の見直しの全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る、保険の提案の記録の点検項目
見る点は4つです。FP1級の筆者が最初に見るのは、提案書の数字よりも、社長が書いた目的と、契約の目的が一致しているかです。一致していれば、残りの記録はその目的に沿って読めます。
4-1. 社長の言葉で書いた目的があるか
担当者の書面だけでなく、社長自身が書いた目的と守りたい人の記録があるかを見ます。担当者の書面は担当者の言葉でまとめられるため、社長の言葉の記録と並べると、ずれに気づきやすくなります。
4-2. 推移の資料と前提が、そろっているか
解約返戻金の推移と、試算の前提の条件が、提案書の全ページとともに残っているかを見ます。推移の資料は、退任の時期や役員退職金の原資を考える時の土台になります。契約後に届く契約内容のお知らせと、同じファイルに入れておくと見比べやすくなります。
4-3. 比べた案と理由が、社内で共有されているか
決めた理由の1枚が、役員や後継者など、契約を引き継ぐ人に共有されているかを見ます。社長が出張や休暇で不在の時にも、保険の問い合わせに社内で答えられるかが目安です。
4-4. 相談先の役割分担が決まっているか
税務と経理は顧問税理士、契約の手続きは保険の担当者、規程や契約書は弁護士です。FPは、目的と提案の中身を1枚に並べ、確かめる順番を整理する役割で関わります。
要するに、社長の言葉の目的、推移の資料、共有された理由、相談先の役割分担、の4つを見ます。
5. 今週できる、保険の提案に備える3ステップ
今週できるのは3ステップです。提案をすぐに受け入れる必要も、断る必要もありません。
5-1. 目的と守りたい人を、1枚に書く
提案を受ける前に、何のための保険か、誰を守りたいか、いつまで備えるかを、自分の言葉で書きます。箇条書きの数行で十分です。提案の場では、この1枚を担当者に見せてから説明を受けると、話の軸がぶれにくくなります。
5-2. 提案の資料をまとめるファイルを用意する
契約ごとに、意向・説明資料・決めた理由の3つの仕切りを付けたファイルを用意します。今ある契約の資料も、分かる範囲で入れていきます。足りない資料は、保険会社や担当者に再発行を頼めるものがあります。紙でも電子でも、置き場所を1つに決めることが大切です。
5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる
保険の提案で失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、告知の控えの未保管の3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。
削りすぎの場面
たとえば、女性社長が、保険料が下がるという見直しの提案を受け、自分を被保険者にした事業保障の契約の保険金額を、根拠を書き残さないまま半分に減額したとします。決算の打ち合わせで借入の残高を確かめていた顧問税理士が、減額後の保険金額が借入の残高を下回り、社長に万一があった時に返済しきれない額が出ると気づきます。社長は、借入の残高に合わせた保険金額の見積もりを、担当者に出し直してもらいました。
過剰の場面
たとえば、女性社長が、別々の担当者に今ある契約を伝えないまま提案を受け、そのたびに契約を足していったとします。翌月の支払いの予定を組んでいた専務が、目的の似た契約が3本あり、まとまった額の年払の保険料が同じ月に重なって手元の資金を圧迫していると気づきます。社長は、払込みの月を分けられるかを担当者に確かめ、支払いの予定を組み直しました。
告知の控えを保管していなかった場面
たとえば、女性社長が、契約の時に記入した告知書の控えを受け取ったものの、ファイルに入れずにいたとします。社長の入院の後に給付を請求する手続きをしていた秘書が、保険会社から告知の内容について確認を求められ、会社に控えが残っていないと気づきます。告知の義務は保険法第37条・第66条に定めがあり、故意や重大な過失で事実を告げなかった場合には、契約が解除されることがあります(保険法第55条第1項・第84条第1項。出所:e-Gov法令検索)。秘書は、担当者から告知書の控えの写しを受け取り、契約のファイルに綴じました。
要するに、目的を1枚に書く、資料のファイルを用意する、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。
6. 保険の提案を受ける時の記録のよくある質問
Q1. 保険の提案を受けた時、最低限残す書類は何ですか。
意向の確認の書面、提案書の全ページ、契約の概要と注意を促す情報です。あわせて、比べた案と決めた理由を1枚にまとめると、後から判断を説明しやすくなります。
Q2. 意向の確認の書面とは、何ですか。
お客さまの意向と、提案した契約の内容が合っているかを確かめるための書面です。保険の担当者には、原則として、意向を把握し、それに沿った提案と説明をする義務があります(保険業法第294条の2。出所:e-Gov法令検索、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」)。ずれていれば、署名の前に伝えます。
Q3. 提案書の税務の説明は、そのまま信じてよいですか。
提案書の税務の説明は一般的な内容です。2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率の区分で資産計上の扱いが変わります(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。会社ごとの扱いは、契約前に顧問税理士に確かめます。
Q4. 法人の保険契約も、クーリング・オフできますか。
会社が事業のために申し込む契約は、クーリング・オフの対象外とされる場合があります(保険業法第309条第1項・同法施行令。出所:e-Gov法令検索)。適用の有無は、契約の書面で確かめます。署名の前に記録をそろえ、納得してから決めます。
Q5. 今の契約をやめて新しい契約にする提案では、何を確かめますか。
今の契約を続ける場合と比べて、不利になる点の説明を受けたかを確かめます(保険業法第300条第1項第4号。出所:e-Gov法令検索)。保障の空白ができないか、告知をやり直すかも確かめ、記録に残します。
Q6. 記録は、誰と共有すればよいですか。
契約を引き継ぐ可能性のある役員や後継者、経理を担う人、顧問税理士です。誰に何を共有するかは、会社の体制に合わせて決めます。置き場所と、見てよい人を決めておくと、社長が不在の時にも問い合わせに答えられます。
7. まとめ|保険の提案は、決めた理由まで残しておく
- 残すのは3つ
- 告知書の控えの保管
- 税務と経理は税理士の領域
- 社長の言葉で書いた目的と守りたい人
- 比べた案と選んだ理由の1枚のまとめ
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
筆者は新卒のころ、「保険金は受け取れますか」と不安そうなお電話をいただき、給付の対象だとお伝えすると、ほっとされた声を今も覚えています。保険は、契約の日より、その後の「その時」に役立つものです。その時に慌てないための記録を、一緒に整えています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。目的を1枚に書くところから、一緒に進めます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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