たとえば、女性社長が、事業を広げる時期に合わせて、顧問税理士を替えることにしたとします。前の事務所からは、決算書と申告書の控えを受け取りました。社長は、新しい事務所に何を渡せば、法人保険の経理がこれまでどおり続くのかを考えています。

顧問税理士の交代は、帳簿や申告書の引き継ぎが中心になりがちです。法人保険は、契約ごとに経理の扱いが違い、その根拠は保険の資料の側にあります。引き継ぎの段階で資料をそろえておくと、交代の後の決算で迷いにくくなります。

この記事では、法人保険の目的のうち「見直し・税務の整理」を扱います。顧問税理士を替える時に、法人保険について渡す3つのものと、整える3つの手順を説明します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。

この記事は、保険の見直しや解約、新しい保険への加入をお勧めするものではありません。税務の個別判断や経理処理は、税理士の領域です。

結論

  • 一覧・根拠・規程の引き渡し
  • 経理の根拠は保険の資料の側
  • 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫

この記事で分かること

  • 今週できる3ステップ
  • 引き継ぎを整える3つの手順
  • 顧問税理士の交代で渡す3つのもの
  • FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
タップできる目次

1. 顧問税理士を替える時に法人保険で渡す3つのもの

渡すものは3つあります。契約の一覧、経理の根拠になる資料、目的を決めた規程と議事録です。どれも、決算書だけでは読み取れない情報です。

1-1. 契約の一覧

決算書には、保険積立金などの残高が載っていても、どの契約の分かは書かれていない場合があります。契約者、被保険者、受取人、保険期間、保険料、目的を、契約ごとに一覧にして渡します。

たとえば、女性社長が、新しい事務所に決算書と総勘定元帳だけを渡し、保険の証券は社内の金庫に置いたままにしたとします。初めての月次の打ち合わせで、新しい顧問税理士が、保険積立金の残高はあるものの、どの契約のどの期間の分かが分からないと気づきます。顧問税理士は、社長に、契約ごとの資料を求めます。社長は、証券と契約内容のお知らせを集めて一覧にします。決算書と一覧の両方がそろって、はじめて経理が引き継げると社長は学びます。

1-2. 経理の根拠になる資料

2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、保険料の一部を資産に計上します(割合や期間は区分で異なり、例外もあります。法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。それより前の契約は、契約した時のルールの扱いが続く場合があります。

たとえば、女性社長が、改正前の契約と改正後の契約が混ざっていることを、新しい事務所に伝えていなかったとします。決算整理の仕訳案を確かめていた経理担当者が、前の期まで改正前のルールで処理していた契約が、仕訳案では改正後の区分の割合になっていると気づきます。経理担当者は、社長に、前の期の仕訳と並べて見せます。社長は、契約日と最高解約返戻率が分かる資料を、新しい事務所に渡します。契約日の資料は、一覧と一緒に渡すものでした。

1-3. 目的を決めた規程と議事録

役員退職金の原資や、従業員の福利厚生として入った契約は、規程や議事録が、その目的の裏付けになります。保険の経理だけでなく、支給の時の判断にも使います。

たとえば、女性社長が、役員退職金の規程と、決議をした株主総会の議事録の原本を前の事務所に預けたまま、社内に写しも残していなかったとします。契約の点検に訪れた保険の担当者が、役員退職金の原資として入った契約の目的を確かめようとして、社内に規程の写しがないと気づきます。担当者は、社長に、規程の保管場所を尋ねます。社長は、前の事務所に原本の返却を依頼します。以後は、規程と議事録の原本を、社内で管理します。

要するに、契約の一覧、経理の根拠になる資料、目的を決めた規程と議事録、の3つを渡します。

2. 顧問税理士の交代で、法人保険の引き継ぎが後回しになる背景

背景は3つです。引き継ぎは事務所どうしで進むと考えること、保険の資料が社内に散らばっていること、交代の時期が決算と重なることです。

2-1. 引き継ぎは、事務所どうしで進むと考える

帳簿や申告書は、前の事務所から新しい事務所に渡ります。保険の資料も同じように渡ると考え、社内から出すものを確かめないままになります。

2-2. 保険の資料が、社内に散らばっている

証券は金庫、設計書は保険の担当者、規程は前の事務所、と保管場所が分かれている場合があります。どこに何があるかを、一度に確かめる機会がありません。

2-3. 交代の時期が、決算と重なる

顧問税理士の交代は、決算の前後に決めることが多いものです。決算の作業に追われ、保険の資料は後で、と考えがちです。交代を決めた月に、保険の資料の置き場所を書き出すと、決算の前に間に合います。

要するに、事務所どうしの引き継ぎへの期待、散らばった資料、決算との重なり、の3つが背景です。

3. 顧問税理士の交代で法人保険の引き継ぎを整える3つの手順

手順は3つです。資料を集めて一覧にし、経理の根拠を契約ごとに付け、新しい事務所と保険の担当者を交えて確かめます。まず次の表で全体を見ます。

手順 やること 相談する相手の例
1. 一覧にする 証券・お知らせ・設計書を集め、契約ごとに書く 保険の担当者
2. 根拠を付ける 契約日、最高解約返戻率、資産計上の残高 前の事務所・保険の担当者
3. 三者で確かめる 経理の方針、規程の目的、今後の予定 新しい顧問税理士

3-1. 手順1 保険の資料を集めて、一覧にする

最初に、証券、契約内容のお知らせ、加入した時の設計書を集め、契約ごとに一覧にします。足りない資料は、保険の担当者に依頼します。

一覧に書く項目は、契約者、被保険者、受取人、契約日、保険期間、保険料と払込方法、目的の7つです。解約返戻金の推移が分かる資料があれば、一緒にとじておきます。

一覧があると、新しい事務所は、決算書の残高と契約を一つずつ照らし合わせられます。

3-2. 手順2 契約ごとに、経理の根拠を付ける

次に、契約ごとに、契約日、最高解約返戻率、これまでの資産計上の残高と取り崩しの予定を書き添えます。前の事務所が作った保険の明細があれば、写しを受け取ります。

帳簿や書類の保存期間は、原則として7年です(法人税法施行規則第59条。欠損金が生じた事業年度などは10年。出所:国税庁)。古い契約の資料も、交代を理由に処分しないようにします。

3-3. 手順3 新しい事務所と保険の担当者を交えて確かめる

最後に、新しい顧問税理士と保険の担当者を交えて、経理の方針、規程の目的、今後の予定を確かめます。退任の予定や、契約者を役員に変える予定があれば、この場で伝えます。

契約者を役員個人に変えて保険を渡す時の評価は、令和3年7月1日以後の名義変更から、原則として解約返戻金の額です。解約返戻金が少ない時期の契約などは、資産計上額で評価する場合があります(所得税基本通達36-37。出所:国税庁)。予定は早めに共有します。

要するに、一覧にする、根拠を付ける、三者で確かめる、の3つの順に整えます。

ここまでで、顧問税理士を替える時の法人保険の要点を解説しました。法人保険の見直しの全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】法人保険の見直し 全体像を整理する5つの手順

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4. FP1級が見る、顧問税理士の交代時の法人保険の点検項目

見る点は4つです。交代は、法人保険の目的と経理を、改めて書面にそろえる機会です。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険料の額よりも、契約ごとの目的と経理の根拠が、社内の資料だけで説明できるかどうかです。

4-1. 契約ごとに、目的が書かれているか

事業保障、役員退職金の原資、福利厚生など、契約ごとの目的が一覧に書かれているかを見ます。

4-2. 改正前後の契約が、分けて書かれているか

2019年7月8日より前の契約と、それ以後の契約が分けて書かれ、それぞれの処理の根拠があるかを見ます(区分は法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。前の期までの仕訳と、新しい事務所の仕訳案が同じ考え方で並ぶかも確かめます。

4-3. 規程と議事録の原本が、社内にあるか

役員退職金や福利厚生の規程、決議の議事録の原本が、社内で保管されているかを見ます。規程の改定の履歴も、日付の順に並んでいると、支給の時に根拠を説明しやすくなります。

4-4. 相談先の役割分担が決まっているか

経理と税務は新しい顧問税理士、前の期までの処理の経緯は前の事務所、契約の資料は保険の担当者です。FPは、目的と資料を一覧に並べ、引き継ぐ順番を整理する役割で関わります。

要するに、契約ごとの目的、改正前後の区別、規程と議事録の原本、相談先の役割分担の4つを見ます。

5. 今週できる、顧問税理士の交代に備える法人保険の3ステップ

今週できるのは3ステップです。保険を変えるかどうかは、引き継ぎを終えてから考えて構いません。

5-1. 保険の資料の置き場所を書き出す

証券、お知らせ、設計書、規程、議事録が、どこにあるかを一枚に書き出します。見当たらない資料には印を付け、再発行を頼む先を書き添えます。

5-2. 前の事務所に、保険の明細の写しを依頼する

前の事務所が作った保険の明細や、資産計上の残高の内訳があれば、写しを依頼します。引き継ぎの書類の一覧に、保険の項目があるかも確かめます。

5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる

交代の時の法人保険で失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、名義変更の評価の見落としの3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。

削りすぎの場面

たとえば、女性社長が、仕入れの支払いが重なった月に、保険料を減らそうと自分で決め、契約の目的を確かめないまま、事業保障の契約を解約したとします。翌期の事業計画を作っていた後継者の専務が、社長に万一があった時、借入の返済に回す資金の備えがなくなっていると気づきます。専務は、社長に、借入の残高と保障額の表を見せます。社長は、必要な保障の額を、保険の担当者と相談し直します。以後は、解約の前に、契約の目的を確かめます。

過剰の場面

たとえば、女性社長が、交代を機に新しい保険を勧められて加入し、前からの契約も目的を決めないまま残したとします。決算の説明に訪れた取引銀行の担当者が、保険料の支払いが前の期より増え、返済と重なる月に手元の資金が薄くなっていると気づきます。担当者は、社長に、月別の資金繰り表を示します。社長は、2つの契約の目的を分け、残す契約を、保険の担当者と相談します。新しい契約を考える前に、いまの契約の目的を決める順番でした。

名義変更の評価の見落としの場面

たとえば、女性社長が、顧問税理士の交代の直後に、退任する取締役に保険を退職金の一部として渡す時期を、解約返戻金の推移を確かめないまま、取締役の希望だけで決めたとします。会社から届いた退職所得の源泉徴収票を見た元取締役が、受け取った保険契約の評価額が、事前に聞いていた額と違うと気づき、社長に尋ねます。社長は、渡した時期の解約返戻金と評価の考え方を、新しい事務所と確かめ直します。渡す時期は、推移の資料を見てから決めるものでした。

要するに、置き場所を書き出す、明細の写しを依頼する、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。

6. 顧問税理士の交代と法人保険のよくある質問

Q1. 顧問税理士を替えると、法人保険の経理は変わりますか。

経理の扱いは、税理士ではなく、契約の内容とルールで決まります。2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、保険料の一部を資産に計上します(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。根拠の資料を渡すと、処理がそろいます。

Q2. 新しい事務所に渡す保険の資料は、何ですか。

証券、契約内容のお知らせ、加入した時の設計書、規程と議事録の写しです。契約日と最高解約返戻率が分かる資料があると、区分を確かめやすくなります。

Q3. 古い契約の資料は、処分してもよいですか。

帳簿や書類の保存期間は、原則として7年です(法人税法施行規則第59条。欠損金が生じた事業年度などは10年。出所:国税庁)。続いている契約の資料は、保存期間にかかわらず、契約が終わるまで保管しておくと安心です。

Q4. 2019年より前の契約は、どう扱われますか。

2019年7月7日以前に契約したものは、契約した時のルールの扱いが続く場合があります(2019年7月8日以後の契約に適用される法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。保険期間の延長などの変更で、扱いが変わる場合もあります。契約ごとの処理は、顧問税理士に確かめます。

Q5. 交代の時に、保険を見直したほうがよいですか。

交代は、保険を見直す理由にはなりません。まず引き継ぎを終え、契約ごとの目的と経理の根拠をそろえます。そのうえで、目的と合っていない契約があれば、点検する価値があります。

Q6. 保険の担当者も、交代の時に関わりますか。

関わります。証券や設計書の再発行、契約内容の確認、解約返戻金の推移の資料は、保険の担当者が窓口です。新しい事務所と保険の担当者を交えて確かめると、資料の不足に早く気づけます。

7. まとめ|顧問税理士を替える時は、一覧・根拠・規程を渡す

この記事のまとめ
  • 税務と経理は税理士の領域
  • 一覧・根拠・規程の引き渡し
  • 経理の根拠は保険の資料の側
  • 改正前後の契約を分けて記載
  • 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
  • 区分で一部資産計上(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)

筆者は以前、ご家族と相談を重ねて決めたプランが、あとで社長ご本人に別の説明が届いて行き違い、白紙になったことがあります。決める方ご本人と、同じ資料を見ながら話す大切さを学びました。引き継ぎでも、関わる人に同じ資料が届いているかを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。保険の資料を一覧にするところから、一緒に進めます。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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