決算の2か月前、試算表を見た税理士が「今期は利益がかなり出そうですね」と言う場面があります。

社長は、納税額の見込みを聞いて少し顔をしかめ、「何か手を打てないか」と考えます。そこへ保険の担当者が現れ、「決算までに加入すれば、保険料が費用になりますよ」と案内するのです。

決算前の保険の相談は、決して珍しくありません。ただ、時間に追われて目的を決めずに加入すると、翌期以降の資金繰りを重くする契約が残ることがあります。

この記事は、決算前に法人保険の加入を考える経営者に向けて、起こりやすい落とし穴と、落ち着いて判断する進め方を整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

加入を止める記事でも、勧める記事でもありません。決算の日付に合わせるのではなく、会社の目的に合わせて決めるための記事です。

結論

  • 決算前に加入しても、払った保険料の全額がその期の費用になるとは限りません。2019年通達後は、最高解約返戻率の区分で扱いが変わります。
  • 落とし穴は3つです。費用の見込み違い、目的のあいまいさによる固定費の積み上がり、告知と引受の確認不足です。
  • 保険は税負担の軽減を目的に勧めるものではありません。目的と払える保険料を先に決め、税務の個別判断は税理士に確認します。

この記事で分かること

  • 決算前に法人保険へ駆け込み加入する流れと、起こりやすい背景
  • 保険料が費用になる範囲の考え方(2019年通達後の区分)
  • 決算前の加入で起こる3つの落とし穴
  • 目的と払える保険料から決める進め方
  • 加入を急ぎすぎる場合と、見送りすぎる場合の両方の失敗の場面
タップできる目次

1. 決算前に法人保険へ駆け込み加入すると起こる3つの落とし穴

落とし穴は3つあります。費用の見込み違い、目的のあいまいさ、告知と引受の確認不足です。

1-1. 落とし穴1 保険料が、思ったほど費用にならない

2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)

資産に計上した分は、区分に応じた時期から取り崩して費用にします。そのため、現金は先に出ていき、費用になるのは後になります。

さらに、保険料の払い方(年払・月払など)や会社の処理方法によっては、期をまたぐ分がその期の費用にならない場合があります。決算日に近い加入ほど、その期に費用になる分が少なくなることがあります。年間の保険料が少額の契約などの例外もあるため、区分と例外の有無は顧問税理士に確認します。

払った保険料の全額が、その期の費用になるとは限りません。具体的な区分と時期は、顧問税理士に確認します。

1-2. 落とし穴2 目的があいまいで、保険料だけが残る

決算前は、案内を受けてから契約の日までが短くなりがちです。そのため、何のために加入するのか、誰を被保険者にするのか、いつまで払うのかを、十分に考えないままになることがあります。

目的があいまいな契約は、翌期以降も保険料が出ていきます。数年後には、その契約が何を守っているのか、社内で説明できなくなることがあります。

保険は、守りたい支払いがあって初めて意味を持ちます。借入金の返済、退職金の財源、納税資金など、先に守りたいものを書き出します。

1-3. 落とし穴3 告知と引受の確認が、不十分になる

保険契約者または被保険者になる人は、保険会社から尋ねられた事項について、事実を告げる義務があります。(出所:保険法第37条)故意または重大な過失で事実を告げなかったり、事実でないことを告げたりすると、保険会社が契約を解除できる場合があります。(出所:保険法第55条)

決算までに契約を間に合わせようとすると、健康状態の確認が雑になりがちです。さらに、年齢や健康状態によっては、希望した保障額で引き受けられないこともあります。

決算の日が近いからと、告知の内容を急いで書くことは避けます。解除や不支払いのリスクは、後になって会社や遺族に返ってきます。

要するに、落とし穴は、費用の見込み違い、目的のあいまいさ、告知と引受の確認不足の3つです。決算の日付が、判断を急がせる点が共通しています。

2. 経営者が決算前に保険を決めてしまう背景

決算前に判断が早まる背景には、4つの事情があります。どれも、経営者として自然な動きです。

2-1. 利益が出ると、納税の資金が気になる

決算の見込みが固まると、納税額も見えてきます。納税額が大きいと、「何かできないか」と考えるのは自然です。

保険料を払うと、その分の現金は会社から出ていきます。今期の納税額への対応と、将来の資金を備えることは別の話です。混ぜて考えないようにします。

2-2. 決算日という期限が、判断を急がせる

決算日は動かせない期限です。「今期のうちに」という言葉は、判断を急がせる力を持ちます。

しかし、保険は何年も続く契約です。決算日に合わせて決めた内容が、翌年以降の会社の体力に合っているとは限りません。

2-3. 保険担当者から、時期を指定した案内を受ける

決算前には、保険の案内が増えます。担当者に悪意がなくても、「期末までなら」という時期の案内は、判断の時間を短くします。

案内を受けたときは、「目的は何か」「払える保険料はいくらまでか」を、担当者ではなく自社の数字で確かめます。

2-4. 税理士に相談する時間が取れない

決算期の税理士は、決算の作業で忙しい時期です。保険の細かい区分まで相談する時間が取りにくく、経営者が自己判断で進めてしまうことがあります。

保険料の費用になる範囲と時期は、契約の内容で変わります。契約の前に、顧問税理士へ確認する時間を確保しておきます。

要するに、納税への意識、決算日という期限、時期を指定した案内、税理士に相談する時間の不足の4つが、判断を早めます。

3. 目的と払える保険料から決める5つの手順

落ち着いて判断するには、順番が大切です。目的、払える保険料、区分、時期、点検の5つを、この順に決めます。

手順 決めること 確かめる相手
手順1 守りたい支払いと、目的を書き出す 経営者
手順2 払える保険料の上限を、資金繰りから決める 経営者・経理担当者
手順3 資産計上と損金の区分を確かめる 顧問税理士
手順4 加入の時期を決める(決算前に限らない) 経営者・保険担当者
手順5 加入後の点検の時期を決める 経営者・保険担当者

3-1. 手順1 守りたい支払いと、目的を書き出す

最初に、加入の目的を1文で書きます。たとえば、借入金の返済、役員退職金の財源、従業員の福利厚生、納税や代償の資金などです。

1文で書けない場合は、まだ決める段階ではありません。決算の日付に関係なく、先に目的を整理します。

3-2. 手順2 払える保険料の上限を、資金繰りから決める

次に、向こう数年の資金繰り表に、保険料を入れて確かめます。納税、賞与、借入金の返済、設備の更新が重なる年でも、払い続けられる額が上限です。

利益が出た期の数字だけで決めないようにします。利益が減る年があっても、保険料は変わりません。

3-3. 手順3 資産計上と損金の区分を確かめる

定期保険・第三分野保険は、保険期間と最高解約返戻率の区分で、保険料の扱いが変わります。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)

養老保険や終身保険は、この通達とは別の取扱いがあります。保険の種類ごとに扱いが異なるため、契約の前に、顧問税理士に区分と処理を確認します。税務の個別判断は税理士の領域です。

3-4. 手順4 加入の時期を、決算前に限らず決める

決算の後に、翌期の見込みを見ながら検討しても、遅いとは限りません。決算を過ぎたからといって、損をするとは限らないからです。

期をまたぐと、保険料が費用になる時期が変わる場合があります。この点も含めて、税理士に確認します。

3-5. 手順5 加入後の点検の時期を決める

加入した後に、1年後と3年後など、点検の時期を決めておきます。目的が変わったときや、資金繰りが厳しくなったときに、見直す仕組みがあれば安心です。

見直しの方法は、法人保険の解約・払済・減額の違いで、乗り換えのときの注意は、法人保険の乗り換えで保障の空白を防ぐチェック項目で整理しています。

要するに、目的、払える保険料、区分、時期、点検の5つを順に決めます。決算日は、その中の1つの条件にすぎません。

この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】法人保険の見直し 全体像を整理する5つの手順

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。決算の日付より先に、目的と払える保険料を一緒に整理します。

\無料相談(30秒で予約)/

4. FP1級が決算前に確かめる点検項目

決算前に確かめる点検項目は、5つあります。加入するかどうかの判断も、この5つで整理できます。

4-1. 点検で確かめる5つの項目

  • 目的は、守りたい支払いとして1文で書けるか
  • 払える保険料の上限を、数年分の資金繰りで確かめたか
  • 保険の種類と最高解約返戻率の区分を、税理士に確認したか
  • 告知の内容と引受の条件を、時間をかけて確かめたか
  • 加入後に点検する時期を決めたか

1つでも「いいえ」があれば、決算に間に合わせることより、その項目を整えることを優先します。

4-2. 経営者・税理士・保険担当者の役割

立場 主に見ること
経営者 目的、払える保険料、最終の判断
顧問税理士 損金・益金・資産計上の処理。納税額への影響。税務の個別判断
保険担当者・FP 保障の中身、告知と引受の条件、手続き

税理士が処理を、保険担当者が保障を見て、経営者が目的を決める。この役割分担が崩れないようにします。

4-3. 筆者が大切にしていること

筆者は、決める社長ご本人と、最初から向き合うことを大切にしています。奥さまとプランを決めたものの、行き違いで契約が白紙になった経験があるからです。

決算前の忙しい時期こそ、誰が決めるのか、何を守りたいのかを先に確かめます。加入しないほうがよい場合も、正直にお伝えします。

要するに、5つの項目に答えられるまで、加入は急ぎません。決算日に合わせるのではなく、会社の目的に合わせます。

5. 今週できる一歩と、決算前の判断で起きやすい失敗

今週できる一歩は3つです。どれも、契約をしなくてできます。あわせて、1章の落とし穴が実際に起きる場面と、見送りすぎの場面を整理します。

5-1. 今週中にできる3ステップ

  1. 加入を考える目的を、守りたい支払いとして1文で書く
  2. 向こう数年の資金繰り表に、保険料を入れて払える上限を確かめる
  3. 案内を受けている契約の内容を、顧問税理士に見せて区分を確認する

この3つで、決算前に加入するかどうかではなく、会社に合う備えかどうかを判断できるようになります。

5-2. 急ぎすぎて起きる失敗の場面

たとえば、決算の1か月前に、社長が保険担当者の案内を受け、「期末までに入れば間に合う」と判断したとします。契約のあとで経理担当者が翌期の資金繰り表に保険料を入れると、賞与と設備の更新が重なる月に、手元資金が不足する計算になります。

社長が税理士に相談せずに契約していると、資産計上の区分も確かめないままです。その期に費用になる額が想定を下回る場合があり、翌期以降は毎月の保険料が資金繰りに重く効くことがあります。

決算の日付に合わせて決めると、翌期以降の資金繰りと費用の見込みが、後から食い違うことがあります。契約の前に、税理士と資金繰りの確認が必要です。

5-3. 見送りすぎて起きる失敗の場面

一方で、「決算前に勧められる保険は怪しい」という理由だけで、毎年の決算を迎えても目的を整理せず、何年も過ごした社長がいたとします。借入金が大きいのに返済の備えがなく、家族が連帯保証の負担を引き継ぐ可能性が残ります。さらに、年齢や健康状態が変わってから検討すると、希望した保障額で引き受けられない場合もあります。

決算前の加入を避けることと、必要な備えを持たないことは別の話です。目的があり、払える保険料が決まっているなら、時期は決算の前でも後でも構いません。

5-4. 告知を急いで起きる失敗の場面

たとえば、決算の直前に、社長が加入申込みの書類を急いで書き、通院の履歴を一部書き漏らしたとします。数年後の保険金の請求のときに告知の内容が確認され、その漏れが故意または重大な過失と判断されると、保険会社が契約を解除できる場合があります。(出所:保険法第55条)個別の判断は、保険会社や弁護士に確認します。

告知は、保険会社から尋ねられた事項について、事実を告げる義務です。(出所:保険法第37条)決算前の忙しい時期でも、通院の履歴や健康診断の結果を確認してから、書類に記入します。

要するに、急ぎすぎれば翌期以降の資金繰りと告知で、見送りすぎれば備えの空白で、失敗します。時期ではなく、目的と手順で決めます。

6. 決算前の法人保険のよくある質問

Q1. 決算前に法人保険へ加入すると、その期の費用になりますか。

払った保険料の全額が、その期の費用になるとは限りません。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)養老保険や終身保険は別の取扱いがあります。個別の処理は税理士の領域です。

Q2. 決算の直前に加入してはいけないのですか。

禁止されているわけではありません。ただ、決算日に近いという理由だけで加入先と保障額を決めると、目的があいまいなまま、翌期以降も保険料を払い続けることになります。目的と払える保険料を先に決めてから、加入の時期を決めます。

Q3. 利益が出た期に保険に加入するのは、よくない判断ですか。

利益が出たことそのものは、判断の誤りではありません。ただ、利益の圧縮だけを目的にすると、翌期以降の保険料が固定費として残ります。保険は税負担の軽減のために勧めるものではありません。守りたい支払いが先にあるかを確かめます。

Q4. 加入するときの告知で、気をつけることはありますか。

保険契約者または被保険者になる人が、保険会社から尋ねられた事項について、事実を告げる義務があります。(出所:保険法第37条)故意または重大な過失で事実を告げなかったり、事実でないことを告げたりすると、保険会社が契約を解除できる場合があります。(出所:保険法第55条)決算に間に合わせようとして、告知の確認を急がないようにします。

Q5. 加入後に保険料の負担が重いと分かったら、どうすればよいですか。

減額、払済、払込方法の見直し、解約の4つから比べます。加入直後は解約返戻金が払った保険料の合計を下回ることがあるため、解約の前に減額や払済を含めて検討します。判断の前に、顧問税理士と保険担当者に確認します。

Q6. 決算が過ぎてから検討したほうがよいのですか。

決算に間に合わせる必要はありません。決算後に、翌期の利益見込みと資金繰りを見ながら、目的を決めてから検討しても、遅いとは限りません。期をまたぐと保険料の費用になる時期が変わる場合があるため、税理士に確認します。

Q7. 税理士と保険担当者は、どう役割分担すればよいですか。

税理士は、損金・益金・資産計上の処理と、納税額への影響を見ます。保険担当者は、保障の中身と手続きを見ます。経営者は、守りたい支払いと払える保険料を決めます。税務の個別判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。

7. まとめ|決算の日付ではなく、会社の目的で決める

この記事のまとめ
  • 決算前に加入しても、保険料の全額がその期の費用になるとは限りません。2019年通達後は、最高解約返戻率の区分で扱いが変わります。
  • 落とし穴は、費用の見込み違い、目的のあいまいさ、告知と引受の確認不足の3つです。
  • 決める順番は、目的、払える保険料、区分、時期、点検の5つです。
  • 税務の個別判断は税理士の領域です。保険は税負担の軽減のために勧めるものではありません。

筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。決算の前でも後でも、会社の数字と守りたい人のお話を先に伺います。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。見送ったほうがよい場合も、正直にお伝えします。

\無料相談(30秒で予約)/

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

法人保険のご相談

\経営者さま向け 法人保険のご相談/

「社長交代を機に保険を見直したい」「役員・従業員の退職金や福利厚生を整えたい」「万一のときの資金繰りが心配」――会社を守る備えについて、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)がお話を伺います。

法人保険の相談を申し込む