【相続人が未成年の方へ】「子がまだ未成年」でも承継の資金は用意できる?3つの備え
たとえば、高校生と中学生の子がいる社長が、健康診断で再検査の通知を受け取ったとします。結果は大事に至らないものでしたが、社長は、自分に万一があった時の家族と会社の段取りを、一度妻と話しておこうと決めました。
承継のご相談では、後継者や自社株の話は進んでいても、相続人に未成年の子がいる場合の手続きまでは考えていなかった、という声を伺います。
子が未成年でも、相続人であることは変わりません。ただ、未成年の子が相続人になると、遺産を分ける話し合いや、お金を受け取る手続きに、大人だけの相続とは違う段取りが加わります。
この記事では、法人保険の目的のうち「承継・相続の資金」を扱います。相続人に未成年の子がいる時に、承継の資金を用意する3つの備えと、つまずきやすい場面を説明します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。
この記事は、保険への加入や解約をお勧めするものではありません。税務の判断、申告、経理処理の確定は税理士の領域です。遺産分割や遺言の個別の判断は、弁護士などの専門家にご確認ください。
結論
- 受け取る人を先に決める備え
- 会社が受け取る資金の使い道
- 相続税の申告までの段取りの確認
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
この記事で分かること
- 今週できる3ステップ
- 承継の資金を用意する3つの備え
- FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
- 未成年の子が相続人の時に起こりやすい3つのずれ
1. 相続人に未成年の子がいる時、承継の資金で起こりやすい3つのずれ
ずれは3つあります。どれも、未成年の子が相続人になった時の手続きを、大人だけの相続と同じだと考えてしまうことから起こります。
1-1. 親が、子の分まで遺産分割の話し合いを進められると思い込む
18歳未満の子は未成年で、財産の管理や契約は、親権者が代わりに行います(民法第4条・第818条第1項・第824条。出所:e-Gov法令検索)。
ただし、親と未成年の子がどちらも相続人になる遺産分割は、親と子の利益がぶつかるため、家庭裁判所に特別代理人の選任を求める必要があります(民法第826条第1項。出所:e-Gov法令検索)。未成年の子が2人以上なら、子どうしの利益もぶつかるため、子ごとに特別代理人が要ります(同条第2項)。
たとえば、社長が、妻が親権者なのだから、自分の相続では妻が子の分も含めて話し合いを進められると考えていたとします。自宅の登記の相談で会った司法書士が、遺産分割の話し合いには子ごとの特別代理人が要り、その選任には家庭裁判所の手続きがあると伝えます。
社長は、自社株と自宅を誰が受け継ぐかを遺言に残すため、公証役場に相談の予約を入れました。
1-2. 会社が受け取る保険金を、遺産と同じものだと思い込む
会社が契約者と受取人の法人保険の死亡保険金は、会社の財産として会社に支払われます。会社では益金として扱われます(法人税法第22条第2項。出所:e-Gov法令検索)。社長個人の遺産とは別のものなので、遺産分割が終わるのを待たずに、会社の判断で使い道を決められます。
たとえば、社長が亡くなったあと、専務が、会社に入る保険金も相続人の話し合いが終わるまで請求できないと考え、請求を後回しにして、仕入先に支払いを待ってもらっていたとします。保険会社の担当者に問い合わせると、保険金は会社に支払われるもので、請求には会社の代表者が要ると伝えられます。
専務は、取締役会を開いて新しい代表取締役を選び、請求した保険金で仕入先への支払いを済ませました。取締役会設置会社の代表取締役は取締役会で選び(会社法第362条第2項第3号)、選んだあとは2週間以内に登記します(会社法第915条第1項。出所:e-Gov法令検索)。
1-3. 死亡退職金の規程に、受け取る人の順位がない
死亡退職金や弔慰金を誰に払うかは、規程で決めます。受け取る人と順位を規程で決めた死亡退職金は、受け取る人の固有の財産と考えられ、遺産分割の対象にならないとされることが多いです(規程の書き方によります)。
たとえば、総務部長が、役員の退職金規程を作った時に、支給の相手を「遺族」とだけ書き、順位を決めていなかったとします。規程の点検に来た社会保険労務士が、これでは配偶者と未成年の子のどちらに払うのかが規程から読み取れず、未成年の子を含めた話し合いが要る形になっていると指摘します。
総務部長は、受け取る人を配偶者、子の順とする改定の案を作り、取締役会に諮りました。
要するに、親が子の分まで進められる思い込み、会社の保険金と遺産の混同、規程の順位の空白、の3つが起こりやすいずれです。
2. 経営者が未成年の子の相続を後回しにしてしまう背景
背景は3つです。子が成人してから考えればよいという思い込み、手続きの見えにくさ、相談先の分かれです。
2-1. 子が大人になってから考えればよいと思う
承継の話は、子が成人して会社に入るころに考えればよいと思いがちです。ただ、万一は時期を選びません。子が未成年のうちに相続が起きると、手続きが一番複雑な形になります。
2-2. 特別代理人の手続きが、身近でない
特別代理人は、ふだんの生活ではまず聞かない言葉です。家庭裁判所の手続きが加わることを知らないまま、相続の段取りを考えてしまいます。
2-3. 家族の話と会社の話で、相談先が分かれる
遺言や遺産分割は弁護士や司法書士、相続税は税理士、会社の資金は経理、保険は保険の担当者と、相談先が分かれます。未成年の子がいることを前提に、全体をつなぐ役割の人がいないことが問題になります。
要するに、成人後でよいという思い込み、手続きの見えにくさ、相談先の分かれ、の3つが背景です。
3. 相続人に未成年の子がいる時、承継の資金を用意する3つの備え
備えは3つです。受け取る人を先に決める、会社が受け取る資金の使い道を決める、相続税の申告までの段取りを確かめる、の順に進めます。まず次の表で全体を見ます。
| 備え | 中身 | 確かめる資料の例 |
| 1. 受け取る人を決める | 遺言・規程の受給者の順位・保険の受取人 | 遺言・退職金規程・保険証券 |
| 2. 会社の資金の使い道 | 運転資金・借入の返済・退職金・株の買取 | 資金繰り表・借入の一覧 |
| 3. 申告までの段取り | 10か月の期限・控除・特別代理人の時間 | 財産の一覧・家族の一覧 |
3-1. 備え1 受け取る人を、遺言と規程で先に決める
最初に、自社株や事業用の資産を誰が受け継ぐかを、遺言で決めておけるかを考えます。遺言で遺産を分ける方法を決めておくと、その財産については遺産分割の話し合いを経ずに済む場合があります(民法第908条第1項。出所:e-Gov法令検索)。遺言の書き方と効果は、弁護士などに確かめます。
あわせて、死亡退職金の規程で、受け取る人と順位を決めます。会社が契約者の保険の受取人は、保険事故が起きるまでの間、契約者である会社が変えられます(保険法第43条第1項。出所:e-Gov法令検索)。死亡保険の受取人の変更は、被保険者の同意がなければ効力が生じません(保険法第45条)。
3-2. 備え2 会社が受け取る資金の使い道を決める
次に、会社が受け取る保険金を、何に使うかを決めます。主な使い道は次のとおりです。
- 借入金の返済
- 当面の運転資金
- 遺族への死亡退職金
- 相続人からの自社株の買取資金
相続人から自社株を買い取る場合は、株主総会の決議などの手続きと、買い取れる額の上限(分配可能額)の決まりがあります(会社法第156条第1項・第160条第1項・第461条第1項。出所:e-Gov法令検索)。未成年の子が株主になっている場合は、その手続きにも親権者や特別代理人が関わることがあります。
保険料の経理にも関わります。2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険と第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、一定の少額の契約を除き、保険料の一部を資産に計上します(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。保険金を受け取った時は、資産に計上していた額を取り崩し、差額が益金になります。
3-3. 備え3 相続税の申告までの段取りを確かめる
最後に、相続税の申告までの段取りを確かめます。相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条第1項・第33条。出所:国税庁)。特別代理人の選任にかかる時間も、この期限の中に入ります。
使える制度も確かめます。18歳未満の相続人は、18歳になるまでの年数1年につき10万円を、相続税額から差し引けます(未成年者控除。相続税法第19条の3。出所:国税庁)。死亡退職金は、500万円に法定相続人の数を掛けた額まで非課税です(相続税法第12条第1項第6号。出所:国税庁)。
受け取る人と使い道を先に決めておくと、相続が起きた時に、家族は手続きに、会社は事業に集中しやすくなります。
要するに、受け取る人を決める、会社の資金の使い道を決める、申告までの段取りを確かめる、の3つを順に進めます。
ここまでで、相続人に未成年の子がいる時の承継の資金の要点を解説しました。承継・相続の資金について、全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る、未成年の子がいる会社の承継の資金の点検項目
見る点は4つです。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険証券よりも、家族の一覧と子の年齢です。誰が相続人で、何歳かが分かると、必要な手続きと時間が見えてきます。
4-1. 相続人の一覧と、子の年齢
配偶者と子の名前、生年月日を一覧にします。未成年の子が何人いるか、何年後に18歳になるかを見ます。
4-2. 遺言と規程で、受け取る人が決まっているか
遺言の有無と、死亡退職金の規程の受給者の順位を見ます。保険の受取人が、規程の考え方と合っているかも確かめます。
4-3. 会社の保険金の額が、使い道と合っているか
借入金の残高、当面の運転資金、規程の死亡退職金の額を並べ、会社の保険金の額と比べます。足りない所と、多すぎる所を見ます。
4-4. 相談先の役割分担が決まっているか
遺言と遺産分割は弁護士や司法書士、相続税と経理は税理士、保険の手続きは保険の担当者です。FPは、家族の一覧と会社の資金を1枚に並べ、手続きの順番を整理する役割で関わります。
要するに、相続人と子の年齢、受け取る人、保険金と使い道、相談先の役割分担、の4つを見ます。
5. 今週できる、未成年の子がいる社長の承継の資金を整える3ステップ
今週できるのは3ステップです。子が未成年だからといって、新しい保険を急いで増やす必要はありません。
5-1. 家族の一覧と、会社の保険証券を並べる
配偶者と子の名前と生年月日を書き出します。会社で入っている保険の証券を出し、被保険者・受取人・保険金額を一覧の横に並べます。
5-2. 退職金規程の受給者の順位を読む
役員の退職金規程と弔慰金規程を出し、受け取る人と順位が書かれているかを確かめます。書かれていなければ、改定の案を考えます。
5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる
未成年の子がいる会社の承継の資金で失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、申告の期限の見誤りの3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。
削りすぎの場面
たとえば、社長が、会社の借入金を完済した月に、借入の返済に備えて入っていた、社長が被保険者の定期保険を解約したとします。後継者候補の常務と承継の段取りを話し合った席で、常務が、子が成人するまでの間に社長に万一があった時の、自社株の買取資金や死亡退職金の原資が、どこにもないと指摘します。
解約した契約は元に戻せません。社長は、解約の前に使い道の一覧を作らなかったことを悔やみ、必要な額を常務と一から計算し直しました。
過剰の場面
たとえば、社長が、長男の進学を機に、子の将来の分まで会社で備えようと考え、規程の死亡退職金の額を大きく超える保険金額の契約を追加したとします。翌月の資金繰り表を作った経理担当者が、保険料の支払いで、手元の運転資金が会社の目安を下回る月が出ると気づきます。
役員の退職金は、業務の期間や退職の事情などに照らして相当な額を超える部分は損金になりません(法人税法第34条第2項・施行令第70条第2号。出所:e-Gov法令検索)。保険金を多く受け取っても、そのまま退職金として払えるとは限りません。社長は、追加した契約の保険金額を、規程の死亡退職金と借入の残高など、使い道の合計に合わせて減らしました。
申告の期限を見誤った場面
たとえば、社長の妻が、相続税の申告は、特別代理人が選ばれて遺産の分け方が決まってから出せばよいと考えていたとします。遺産の分け方の話し合いが進まないうちに、相続税の相談で会った顧問税理士が、分け方が決まっていなくても10か月の期限は変わらないと伝えます。
分け方が決まらない時は、法定相続分で分けたものとして期限内に申告し、決まったあとで直す方法があります(相続税法第55条。出所:国税庁)。妻は、期限内に申告を出し、配偶者の税額の軽減を後から受けるための「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えました(出所:国税庁)。
要するに、家族の一覧と証券を並べる、規程の順位を読む、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。
6. 未成年の子がいる会社の承継の資金のよくある質問
Q1. 未成年の子が相続人の時、遺産分割はどう進めますか。
親と未成年の子がどちらも相続人になる場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を求め、特別代理人が子に代わって話し合いに加わります(民法第826条第1項。出所:e-Gov法令検索)。未成年の子が2人以上なら、子どうしの利益もぶつかるため、子ごとに特別代理人が要ります。具体的な手続きは弁護士や司法書士に確かめます。
Q2. 会社が受け取る保険金は、遺産分割の対象になりますか。
会社が契約者と受取人の保険金は、会社の財産として会社に支払われ、社長個人の遺産とは別のものです。会社の判断で、借入の返済や死亡退職金の原資などに使い道を決められます。請求には会社の代表者が要るため、代表取締役の選定を先に進めます。受け取った保険金は自社株の評価にも影響するため、評価は税理士に確かめます。
Q3. 相続税の未成年者控除は、いくらですか。
18歳未満の相続人は、18歳になるまでの年数1年につき10万円を、相続税額から差し引けます(相続税法第19条の3。出所:国税庁)。本人の相続税額から引ききれない分は、扶養義務者の相続税額から差し引ける場合があります。個別の計算は税理士に確かめます。
Q4. 死亡退職金を、未成年の子が受け取ることはできますか。
規程で受け取る人と決めていれば、未成年の子が受け取ることもあります。その場合、受け取りの手続きは親権者が代わりに行います。死亡退職金は、500万円に法定相続人の数を掛けた額まで非課税です(相続税法第12条第1項第6号。出所:国税庁)。
Q5. 遺言を書いておけば、特別代理人は要りませんか。
遺言で遺産を分ける方法を決めておくと、その財産については遺産分割の話し合いを経ずに済む場合があります(民法第908条第1項。出所:e-Gov法令検索)。遺言に書かれていない財産が残ると、話し合いが要る場合があります。遺言の書き方は弁護士などに確かめます。
Q6. 遺産の分け方が決まらないと、相続税の申告は遅れてもよいですか。
遅れてもよいわけではありません。相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条第1項。出所:国税庁)。分け方が決まらない時は、法定相続分で分けたものとして期限内に申告し、決まったあとで直す方法があります(相続税法第55条。出所:国税庁)。
7. まとめ|未成年の子がいる承継の資金は、受け取る人を決めることから
- 子ごとの特別代理人
- 税務と経理は税理士の領域
- 会社の保険金は遺産とは別のもの
- 遺言と規程で受け取る人を先に決める
- 相続税の申告は分け方が未定でも10か月
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
筆者は以前、社長の奥さまと保険の内容を決めたあと、ご主人が別の説明を聞いて行き違いになり、話が白紙に戻った経験があります。家族と会社のことは、決める社長ご本人と最初から向き合うことが大切だと考えています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。家族の一覧を作るところから、一緒に進めます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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