築年数のたった工場の屋根から、雨漏りの連絡が入りました。業者の見積書を見た社長は、思わず手が止まります。想定していた修繕の費用を、はっきり超えていたからです。

同じ時期に、工場の拡張計画と、主力の機械の更新も控えています。社長は「資金計画は頭に入っている」と考えていますが、その計画は、社長本人が元気に働いていることを前提に組んだものです。

設備や建物には、時期をずらせない支出がつきまといます。しかも、実際の費用は、見積りの段階で変わることがあります。

この記事では、FP1級の資格を持つ筆者が、設備投資や建物修繕を控えた会社が、社長の万一をどう織り込むかを、3つの判断軸で解説します。

結論

  • 高額な将来コストは、時期と金額の幅を、社長の万一と重ねて考えます。
  • 判断軸は、時期・金額の幅・優先順位の3つです。
  • 備えが少なすぎると計画が止まり、多すぎると設備投資の原資を圧迫します。

この記事で分かること

  • 将来の高額な支出と社長の万一が重なる3つの場面
  • 資金計画に「社長不在」の前提が入りにくい理由
  • 時期・金額の幅・優先順位の3つの判断軸と進め方
  • 計画が止まる失敗・備えが重い失敗と、今週の確認項目

1. 設備投資や建物修繕の時期に社長の万一が重なる3つの場面

重なる場面は、工事の最中・返済の開始期・更新の直前の3つです。順に見ていきます。

1-1. 工事の契約が進んでいる最中に、社長が不在になる

工場の拡張や建物の大規模な修繕は、契約から完成まで時間がかかります。

たとえば、工事の途中で社長が長期に入院したとします。工事代金の支払いの日は、予定どおりに来ます。

契約の変更や追加の判断を、社長以外の誰が行えるかが問題になります。

1-2. 借入れで設備を整えた直後に、返済が始まる

設備投資では、金融機関からの借入れを使うことが多くあります。

設備が稼働して売上が増える前に、返済が先に始まります。この時期は、社長の判断と営業力に、売上が強く依存しています。

たとえば、新しい機械を入れた直後に社長が働けなくなると、機械は動いても、受注を取る人がいません。

1-3. 更新や修繕の時期が、見積りより前倒しになる

設備や建物の傷みは、予定した時期どおりには進みません。

たとえば、数年先に予定していた機械の更新が、故障で急に必要になったとします。同じ時期に、社長にも万一があれば、資金の手当てが二重に必要になります。

要するに、工事の最中・返済の開始期・前倒しの更新の3つの時期は、社長の不在の影響が大きくなります。

2. 資金計画に社長不在の前提が入りにくい理由

入りにくい理由は、計画を作るのが社長本人であることと、費用の幅を見積りに頼ることの2つです。整理します。

2-1. 計画の前提が「社長が働き続けること」になっている

設備投資の計画は、売上の見込みと返済の予定を組み合わせて作ります。

その売上の見込みは、社長が営業や現場に出続けることを、前提にしている場合があります。

たとえば、投資の回収計画には「社長が不在になった場合」の列がなく、計画書がそのまま金融機関に提出されている、ということがあります。

2-2. 費用が見積りどおりに収まるとは限らない

建物の修繕や工場の拡張では、資材の価格や工期の延長で、費用が見込みより増えることがあります。

見積りは、ある時点の見込みの数字です。幅のある数字として扱わないと、計画が少しのズレで崩れます。

資金計画に必要な額の考え方は、別の記事でも整理しています。社長の必要保障額(会社の万一資金)の出し方もあわせて参照してください。

要するに、社長本人が計画を作ることと、費用の幅を見込まないことが、社長不在の前提を抜け落とさせます。

3. 将来コストと社長の万一を重ねる3つの判断軸と進め方

判断軸は、時期・金額の幅・優先順位の3つです。まず表にまとめます。

判断軸 問い 使う資料
1. 時期 いつ、どの支出が来るか。ずらせるか 設備・建物の将来の支出の一覧
2. 金額の幅 見積りより増えた場合に、いくらまで耐えられるか 見積書・過去の修繕の実績
3. 優先順位 社長不在のとき、何を先に払い、何を止めるか 借入金の返済表・取引先への支払い

次の順番で、手元の資料を並べていきます。

  1. 将来の支出を年表にする:機械の更新・建物の修繕・拡張の計画を、時期ごとに1枚の表にします。
  2. 金額に幅を持たせる:見積りの金額だけでなく、増えた場合の金額も並べます。
  3. 社長不在の月を想定する:その時期に社長が働けないと仮定して、支払いの順番を決めます。
  4. 止められる支出を見極める:工事の契約を中断・延期できるのかを、契約書で確かめます。
  5. 決算期ごとに更新する:計画が変わったら、備えの額も見直します。

社長の労務面では、事業主や役員も、条件を満たせば労災保険に特別加入できる場合があります。(出所:厚生労働省)現場に出る社長の場合は、加入の状況を確かめておきます。個別の判断は、社会保険労務士にご相談ください。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え

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要するに、支出の年表・金額の幅・社長不在の月の想定の3点で、将来コストと万一を重ねて見られます。

4. 高額な将来コストの備えで起きやすい失敗

失敗は、備えが足りず計画が止まる場面と、備えが重く投資の原資を削る場面の対で起きます。社長と経理担当者の視点で見ます。

4-1. 備えが足りない場面

  • 計画が社長頼みで止まる:たとえば、社長が自分で工事業者とやり取りしていたとします。社長が不在になると、経理担当者は契約の内容が分からず、支払いの可否を判断できません。
  • 見積りの上振れに耐えられない:たとえば、修繕費が見積りを超えたうえで、社長の収入も途絶えたとします。借入れの追加が必要になりますが、金融機関への説明は容易ではありません。
  • 設備の借入れと備えが釣り合っていない:たとえば、設備投資で借入金が増えたのに、社長の万一への備えは以前のままだったとします。返済に充てる資金が不足します。

4-2. 備えが重すぎる場面

  • 保険料が設備更新の原資を食う:たとえば、社長が将来の不安から大きな保険料の契約を結んだとします。肝心の機械の更新や修繕の積立が進まず、設備が傷んだままになります。
  • 投資が終わっても備えが残る:たとえば、借入金を完済したのに、当時の備えを続けているとします。必要な額を超えた分が、毎期の固定費として残ります。

どちらの場面も、将来の支出の年表と借入金の返済表を並べて、決算期ごとに見直せば防げます。税務上の取扱いは、顧問税理士に確認します。

要するに、足りなければ計画が止まり、重ければ投資が進まないため、年表と返済表を並べて調整します。

5. 今週できる設備投資・修繕に備える確認チェックリスト

大がかりな試算は要りません。次の項目を、今週のうちに確かめます。

  • 今後の機械の更新・建物の修繕・拡張の予定を、時期つきで一覧にしたか
  • 見積りが増えた場合の金額も、並べて書いたか
  • 工事や設備の契約書を、社長以外の人も確認できる場所に置いたか
  • 社長不在の月に、支払いの順番を決めたか
  • 設備の借入金の残高に対して、備えの額が合っているかを確かめたか

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要するに、支出の一覧・金額の幅・契約書の共有の3点が、今週の確認の中心です。

6. よくある質問

Q1. 設備投資の資金計画に、社長の万一も入れたほうがよいですか。

入れておくと、計画の弱点が見えやすくなります。社長が不在になった月の売上と支払いを仮定して、資金が何か月もつかを確かめておきます。

Q2. 建物の修繕費は、どのくらい見込めばよいですか。

建物の状態や工事の内容によって大きく変わります。具体的な金額は、複数の業者の見積りで確かめ、増える場合の幅も見込んでおきます。

Q3. 工事の途中で社長に万一があったら、契約はどうなりますか。

契約の内容によって異なります。中断や変更の条件は契約書に書かれているため、事前に確認しておきます。法律上の判断は、弁護士にご相談ください。

Q4. 設備の借入れがあると、社長の万一への備えは増やす必要がありますか。

借入金の残高と、返済に充てられる資金を並べて判断します。増やすことが目的ではなく、足りない部分があるかどうかの確認が先です。

Q5. 現場に出る社長は、労災の対象になりますか。

中小事業主や役員も、条件を満たせば労災保険に特別加入できる場合があります。(出所:厚生労働省)個別の判断は、社会保険労務士にご相談ください。

Q6. 保険の税務上の扱いは、誰に聞けばよいですか。

税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、税理士の領域です。契約の前後に、顧問税理士へ確認してください。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 設備投資や建物修繕は、時期をずらしにくく、費用が見積りを超えることもあります。
  • 判断軸は、時期・金額の幅・優先順位の3つです。
  • 備えが足りなければ計画が止まり、重ければ投資の原資が削られます。
  • 税務の個別判断は税理士、労務の個別判断は社会保険労務士・弁護士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。今後の設備や修繕の予定をもとに、社長の万一との重なりを一緒に整理します。

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筆者より

筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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