会社が従業員にかけている保険について、従業員から「何のための保険ですか」と聞かれたら、すぐに答えられるでしょうか。

この記事では、会社がかける生命保険を従業員に受け入れてもらうための考え方を、経営者の立場から整理します。

目的、受取人、規程、説明と同意の取り方までを、順に見ていきます。

契約者・被保険者・受取人の基本や、お金の流れ全体は、法人保険の受取人と契約管理の全体像で解説しています。この記事は、従業員にかける保険に絞った深掘りです。

会社がかける生命保険と従業員の不信感|受取人が見えない不安

従業員の不信感は、保険そのものより、目的と受取人が見えないことから生まれます。

経営者の方からは、次のような悩みをうかがいます。

  • 従業員にかけた保険の受取人を、社内に伝えていない
  • 目的を聞かれたとき、はっきり説明できない
  • 受取人を誰が、いつ変えたのか、記録が残っていない

従業員の側から見ると、自分の命や健康が対象の保険です。にもかかわらず、お金が誰に入るのか分からない。これでは、疑問を持つのは自然なことです。

「会社が自分の保険金を受け取るのでは」と思われたまま、説明の機会を逃してしまう会社もあります。

もう一つの心配は、契約管理です。受取人の変更や書類の保管が、経理担当ひとりに任されている会社は少なくありません。

記録が残らない状態は、不正の入り込む余地になります。担当者本人にとっても、疑われやすい状態です。

さらに、加入の範囲が一部の人だけに偏っていると、税務上の扱いが変わることがあります。この点は、後の章で整理します。

不安を減らす近道は、目的と受取人を言葉にして、書面にして、社内に伝えることです。

従業員が安心して働ける会社へ|守りたい人の話と筆者の視点

従業員にかける保険は、会社のためだけでなく、従業員とそのご家族の安心のためにも設計できます。

筆者より

筆者のまつもとは、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)です。大学卒業後、大手生命保険代理店に8年勤め、現在は保険募集人として、KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)で法人保険のご相談をお受けしています。

ご相談をお受けする中で、保険の中身よりも先に、「誰を守りたいのか」を伺うことを大切にしています。

経営者が守りたいものは、社長ご自身のご家族だけではありません。ともに働く従業員と、そのご家族も含まれます。

自分に何かあったその時、そしてその後も、従業員や家族がずっと安心して暮らせる未来。この軸は、従業員にかける保険を考えるときも変わりません。

保険の話の前に、守りたい人の話を。従業員にかける保険の目的は、この問いから決まります。

目的が決まれば、受取人も、加入の範囲も、必要な規程も、おのずと整理できます。

会社がかける生命保険の目的と受取人|従業員の遺族か会社か

従業員にかける保険は、目的を決めてから受取人を決めます。順序が逆になると、説明がつかなくなります。

目的は、大きく二つに分かれます。

  • 万一の際に、従業員のご遺族へお金を届ける福利厚生
  • 従業員が欠けたときに会社が負う負担への備え

どちらを主な目的にするかで、受取人の考え方が変わります。受取人が会社の場合と、従業員のご遺族の場合を、表で比べます。

比べる点 受取人が会社 受取人が従業員のご遺族
保険金の行き先 会社に入る。ご遺族には直接届かない ご遺族に直接届く
主な目的 会社が負う負担への備え 福利厚生。従業員の家族への備え
従業員の受け止め方 会社が受け取る保険と感じやすく、説明が欠かせない 自分の家族のための制度と伝わりやすい
ご遺族への支払い 弔慰金規程などの根拠と、会社の決定が必要 保険会社から直接支払われる
社内で整えるもの 目的の説明、規程、同意の記録 加入の範囲、規程、同意の記録

受取人が会社の場合、保険金は会社の資金になります。従業員のご遺族に支払うかどうかは、会社の決定しだいです。

そのため、弔慰金規程などで支払いの根拠を決めておかなければ、従業員は「自分の保険金はどうなるのか」と不安になります。

受取人がご遺族の場合は、保険金がご遺族に直接届きます。ただし、会社の負担への備えにはなりません。

どちらが正しいという話ではありません。会社が守りたいものを言葉にして、その目的に合う受取人を選ぶことが要点です。

個人の保険との違いや、そもそも必要かどうかの判断は、個人の保険との違いと法人保険が必要かの判断で整理しています。

養老保険の福利厚生プランと普遍的加入|弔慰金規程・退職金規程の整え方

養老保険の福利厚生プランは、加入範囲・受取人・規程の三点セットがそろって、はじめて成り立ちます。

養老保険は、万一の際の保障と、満期の給付を併せ持つ保険です。福利厚生として使われることがあります。

三点セットの中身を、表にまとめます。

三点セット 決めること 社内での確認点
加入範囲 どの従業員を被保険者にするか 一部の人に偏っていないか
受取人 満期の給付と、万一の際の保険金を誰が受け取るか 従業員に説明できる内容か
規程 弔慰金や退職金の支払いの根拠と範囲 契約の内容と食い違っていないか

法人税基本通達9-3-4(3)の普遍的加入という要件

養老保険の保険料の扱いは、国税庁の法人税基本通達9-3-4に定められています。

満期保険金の受取人が法人で、万一の際の保険金の受取人が被保険者のご遺族の場合は、次のとおりです(出所は国税庁)。

  • 保険料の2分の1は資産計上
  • 残りは期間の経過に応じて損金(福利厚生費等)

ただし、役員や部課長その他特定の使用人(これらの親族を含む)のみを被保険者にしている場合は、資産計上しない部分が給与として扱われます。

これが、9-3-4(3)の普遍的加入の要件です。従業員全員など、広く普遍的に加入していることが前提になります。

つまり、福利厚生としての養老保険を、役員だけにかけるような設計は、慎重に考える必要があります。

給与として扱われると、会社の経理だけでなく、受ける側の取扱いにも影響が及ぶ可能性があります。

細部の判断は、契約の内容や会社の状況で変わります。専門家に確認しながら進めてください。

経理処理の全体像は、法人保険の経理処理と損金算入のルールで解説しています。損金の詳細は、個別のご相談でご説明します。

弔慰金規程の金額の考え方

弔慰金規程は、万一の際に会社から遺族へ贈るお金の根拠と範囲を決める社内ルールです。

金額を決めるときの目安として、相続税法基本通達3-20があります(出所は国税庁)。

  • 業務上の万一の際は、その時点の役員報酬月額(従業員は普通給与)の36か月分まで
  • 業務外の万一の際は、同じく6か月分まで

この範囲が弔慰金として扱われ、超える部分は退職手当金等として扱われます。

規程には、対象者、支払いの条件、金額の考え方、支払いの順位を明記します。規程がないと、その都度の決定になり、従業員には基準が見えません。

退職金規程との関係

弔慰金と退職金は、別のものとして整理します。

万一の際の退職金には、相続税の非課税限度額があります。500万円に法定相続人の数を掛けた額です(相続税法第12条第1項第6号)。弔慰金として扱われる範囲を超える部分は退職手当金等として扱われ、この限度額の対象になります。

退職金規程と弔慰金規程の間で、支払いの対象や条件がずれていると、ご遺族への説明が難しくなります。二つの規程を並べて、確認しておくことが大切です。

売り込みはしません。お断りいただいて構いません。ご相談では、従業員にかけている保険の目的、加入の範囲、規程の整備状況を、一緒に整理できます。

社内ルールを整理する

従業員への説明と同意の取り方|契約管理で不正と誤解を防ぐ

他人を被保険者とする保険契約には、被保険者の同意が必要です(保険法第38条)。従業員にかける保険では、これが出発点です。

同意は、法律上の要件であるだけでなく、不信感を生まないための最初の対話でもあります。説明の流れを、順に示します。

  1. 保険をかける目的を、口頭と書面で説明する
  2. 受取人が誰になるかを、明確に伝える
  3. 加入の範囲と、その理由を伝える
  4. 退職したときの扱いを、事前に説明する
  5. 質問を受ける窓口を、決めて知らせる
  6. 同意を書面で受け、会社で保管する

それぞれの要点を、表にまとめます。

場面 伝える内容 残す記録
加入前の説明 目的、受取人、加入範囲、保険期間 説明に使った書面
同意の確認 被保険者になることへの同意 本人の署名のある同意書
退職時の扱い 契約を続けるか見直すか、満期の給付の受取人は会社であること 社内規程への明記
問い合わせ 窓口の担当者と連絡方法 社内掲示や配布資料
受取人の変更 変更の理由と内容、本人への連絡 変更の申請書と承認の記録

退職・転職のときの扱いを事前に伝える

従業員が最も気にするのは、辞めたときに保険がどうなるかです。

満期保険金の受取人が会社の場合、満期の給付は会社に入ります。従業員本人が受け取るものではありません。この点は加入前に伝えておくべき事項ですが、あいまいなままの会社が少なくありません。

退職した方を被保険者のまま残すのか、契約を見直すのか。この扱いは、規程に定めておくと、説明が一貫します。

役員が退職するときの契約の名義変更は、別の論点です。お金の流れとあわせて、法人保険の全体像の記事から順に確認できます。

受取人変更と契約管理|従業員にかける保険に固有の点

契約管理の基本は、法人保険の契約管理の全体像で解説しています。ここでは、従業員にかける保険に固有の点だけを挙げます。

  • 受取人の変更は、被保険者である従業員にも知らせる
  • 万一の際の保険金の受取人を変更するときは、被保険者の同意が必要(保険法第45条)
  • 入社と退職のたびに、被保険者の一覧を更新する
  • 加入範囲が偏っていないかを、決算期ごとに確認する
  • 契約一覧と、弔慰金規程・退職金規程を照合する

従業員の入れ替わりがあるぶん、役員の保険より、一覧の更新漏れが起こりやすくなります。

記録が残り、複数人が見ている状態は、不正を防ぎ、担当者を守ります。経営者ご自身が、年に一度、一覧を見る習慣をつけてください。

従業員向けの保険を相談で整理できること|向く会社と最初の一歩

この記事は、保険の新規加入を勧めるものではなく、いまの運用を見直す機会の提案です。

次の状況に心当たりがあれば、いまの運用を点検する価値があります。

  • 従業員にかけた保険の目的を、社内に伝えていない会社
  • 弔慰金規程や退職金規程が、まだ整っていない会社
  • 養老保険の加入範囲が、一部の役員や管理職に偏っている会社
  • 受取人の変更記録や、同意の書面が残っていない会社

一方で、急ぐ必要のない会社もあります。

  • 目的の説明、同意書、規程がそろい、定期的に点検している会社
  • 従業員にかける保険が、そもそも必要かを検討する段階の会社

福利厚生の保険は、税負担の軽減を目的に始めるものではありません。従業員を守りたい、という会社の意思から考えるものです。

不安を煽るつもりはありません。確認の結果、いまの運用で差し支えないと分かることもあります。

ご相談では、次の点を一緒に整理できます。

  • 従業員にかけている保険の目的と、受取人の現状
  • 弔慰金規程・退職金規程の整備状況
  • 従業員への説明の流れと、同意書の項目
  • 契約一覧の作り方と、点検の進め方

損金の詳細は、個別のご相談でご説明します。

今日からできる最初の一歩

  1. 従業員にかけている保険の証券を集める
  2. 被保険者・受取人・保険期間を一覧に書き出す
  3. 加入の範囲が、全員か一部かを確認する
  4. 同意書と、規程の有無を確認する
  5. 説明できない点に印を付け、相談の材料にする

税務の扱いは、加入の範囲や契約の内容によっても変わります。詳細は税理士等の専門家にご確認ください。

売り込みはしません。お断りいただいて構いません。一覧づくりのお手伝いから、お話を始められます。

説明の流れを相談する

よくある質問

Q. 従業員に保険をかけることに、同意は必要ですか

必要です。他人を被保険者とする保険契約の締結には、被保険者の同意が必要とされています(保険法第38条)。

目的と受取人を説明したうえで、書面で同意を受け、会社で保管してください。

Q. 受取人が会社だと、従業員に不信感を持たれませんか

説明がないまま運用すると、持たれやすくなります。目的を伝え、ご遺族への支払いの根拠を弔慰金規程などで示せば、受け止め方は変わります。

受取人が会社であること自体より、隠れていることが不信感のもとです。

Q. 養老保険の保険料は、役員だけにかけても扱いは同じですか

同じとは限りません。法人税基本通達9-3-4(3)では、役員や部課長その他特定の使用人のみを被保険者にしている場合、資産計上しない部分が給与として扱われます(出所は国税庁)。

普遍的な加入が前提になりますので、設計の前に専門家へご確認ください。

Q. 従業員が退職したら、保険はどうなりますか

会社の規程と契約の内容しだいです。退職した方を被保険者のまま残すのか、見直すのかを、あらかじめ決めて説明しておくと、誤解を防げます。

満期保険金の受取人が会社の場合、満期の給付は会社に入ることも、事前に伝えてください。

Q. 受取人を変更するとき、社内ではどう手続きすればよいですか

書面で申請し、複数人で内容を確認し、記録を残す流れが基本です。変更は、契約者である会社が保険会社への意思表示で行います(保険法第43条)。

万一の際の保険金の受取人の変更には、被保険者の同意が必要です(保険法第45条)。従業員本人にも、変更の内容を知らせてください。

売り込みはしません。お断りいただいて構いません。従業員にかける保険の目的、受取人、規程、説明の方法について、現状の整理をお手伝いします。

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