決算が近づいた月末の夕方、経理担当者が資金繰り表を持って社長室を訪ねる場面があります。

表の中ほどに、毎月の保険料の引落しが並んでいます。数年前に加入した契約と、その後に増やした契約を合わせると、いつの間にか、家賃に近い額になっていたのです。

社長は「この保険は、何のために入ったんだったかな」と首をかしげます。担当者が代わり、証券も数か所にあり、目的を説明できる人が社内にいません。

法人保険は、万一のときや退職金を払うときに、会社の現金を支える道具の1つです。ただ、目的があいまいなまま保険料を払い続けると、備えのつもりが毎月の資金繰りを圧迫します。

この記事は、法人保険の保険料が重いと感じる経営者に向けて、資金繰りの目線で契約を点検する手順を整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

保険を減らすことが目的ではありません。守りたい支払いは守りながら、重なっている負担を見つけて整える手順をお伝えします。

結論

  • 保険料が重くなる主な原因は、払う時期と使う時期のずれ、資産計上される保険料、契約の重なりの3つです。
  • 点検の手順は4つです。契約の一覧化、資金繰り表への重ね込み、目的ごとの要否判定、減額・払済・払込方法・解約の比較を、この順に進めます。
  • 削りすぎると保障の空白が生まれ、残しすぎると資金繰りが苦しくなります。両面を見て、目的ごとに決めます。税務の個別判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 法人保険の保険料が資金繰りを圧迫する3つの理由
  • 経営者が保険料の見直しを先送りしてしまう背景
  • 資金繰りの目線で契約を点検する4つの手順
  • 減額・払済・払込方法の見直し・解約を比べる視点
  • 削りすぎと残しすぎの両方で起きる失敗の場面
タップできる目次

1. 法人保険の保険料が資金繰りを圧迫する3つの理由

資金繰りを圧迫する理由は、大きく3つに分けられます。1つ目は払う時期と使う時期のずれ、2つ目はその年の費用にならない保険料の存在、3つ目は契約の重なりです。

1-1. 払う時期と、使う時期のずれ

法人保険の保険料は、毎月や毎年、決まった日に会社の口座から出ていきます。一方で、保険金や解約返戻金が会社に入るのは、万一のときや解約のときです。

つまり、お金が出ていく時期と、お金を使う時期が離れています。売上が落ちた月も、設備の更新で現金が必要な月も、保険料の引落しは変わりません。

この「ずれ」は、保険の性質上避けられません。だからこそ、保険料の総額が会社の体力に合っているかを、資金繰り表の上で確かめる必要があります。

1-2. 支払った保険料が、すべてはその年の費用にならない

2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)

資産に計上した分は、保険期間の後半に取り崩して費用にします。そのため、現金は先に出ていき、費用になるのは後になります。

たとえば、利益が出た決算で、社長が「保険料を払えば費用になる」と考えて契約を足したとします。経理担当者が資産計上の区分を確かめると、期待したほど利益が減らず、現金だけが毎月出ていく計算になっていました。

払った保険料の全額が、その年の費用になるとは限りません。区分は契約の内容で変わるため、顧問税理士に確認します。

1-3. 契約が重なり、全体の額を誰も見ていない

保険は、時期ごとに違う目的で加入することが多い商品です。創業期は借入金への備え、成長期は役員の退職金の準備、承継期は納税資金の備え、といった具合です。

契約ごとに担当者が違うと、会社の保険料の合計を知っている人がいなくなります。証券が社長の自宅、経理、保険担当者のところに分かれていることもあります。

目的が違う契約が積み重なると、同じ目的を2つの契約が守っていたり、すでに役目を終えた契約が残ったりします。

要するに、資金繰りが重くなるのは、保険が悪いからではなく、払う時期のずれ、資産計上の仕組み、契約の重なりを見ていないためです。

2. 経営者が保険料の見直しを先送りしてしまう背景

見直しが進まない背景には、4つの事情があります。どれも自然な反応なので、責める必要はありません。

2-1. 解約すると損をしそうで、動けない

加入から年数が浅い時期は、解約返戻金が払った保険料の合計を下回ることがあります。「いま解約すると損をする」と感じて、そのまま払い続ける経営者は少なくありません。

ただ、すでに払った保険料は取り戻せません。大切なのは、これから先に払う保険料が、いまの目的に見合っているかです。

2-2. 保障が減るのが不安

「万一のときに、足りなくなったらどうしよう」という不安は、もっともな感覚です。社長に万一があれば、借入金の返済、取引先への支払い、従業員の給与が続きます。

この不安があるからこそ、減らす前に、その契約が何を守っているかを書き出します。守る目的が分かれば、残す部分と見直す部分を分けられます。

2-3. 担当者に切り出しにくい

加入を勧めてくれた担当者に、「保険料が重い」とは言い出しにくいものです。付き合いの長い担当者ほど、その傾向があります。

見直しは、担当者を責めることではなく、会社の状況が変わったので内容を合わせ直すことです。別の立場の専門家に点検してもらうのも1つの方法です。

2-4. 税理士が見る範囲と、保険の中身がつながっていない

顧問税理士は、決算書の数字と税務の処理を見ています。ただ、保険の保障内容や、解約返戻金の動き、契約の目的までは、会社から資料が出てこなければ見えません。

保険担当者は保障を見て、税理士は税務を見て、経営者は資金繰りを見ています。三者が一緒に全体を見る機会がないと、見直しは先送りになります。

要するに、見直しが進まないのは、情報が分かれていることと、動くきっかけがないことが原因です。決算前の月は、そのきっかけに向いています。

3. 資金繰りの目線で法人保険を点検する4つの手順

点検は、次の4つの手順で進めます。上から順に進めると、解約や減額の判断を急がずに済みます。

手順 やること 出てくる成果物
手順1 全契約の一覧を作る 契約一覧(目的・被保険者・受取人・保険料・払込期間・資産計上額)
手順2 資金繰り表に保険料を重ねる 月ごとの保険料と、納税・賞与・返済が重なる月の確認
手順3 目的ごとに要否を判定する 残す・減らす・出口を考える契約の仕分け
手順4 見直しの方法を比べる 減額・払済・払込方法・解約の比較と、税理士への確認事項

3-1. 手順1 全契約の一覧を作る

最初にやるのは、減らすことではなく、見える化です。証券を集めて、1契約を1行にまとめます。

書き出す項目は、保険の種類、契約者、被保険者、受取人、保険料、払込期間、加入した目的、資産に計上している額、直近の解約返戻金の額です。

目的が分からない契約があれば、空欄のままにします。空欄が見つかること自体が、点検の成果です。

3-2. 手順2 資金繰り表に保険料を重ねる

次に、一覧にした保険料を、向こう1年の資金繰り表に月ごとに入れます。そのうえで、納税、賞与、借入金の返済、設備の更新といった、まとまった支出が重なる月に印を付けます。

保険料が最も重くなるのは、毎月の額ではなく、年払いの契約が重なる月です。年払いの引落しが納税の月に重なって、手元資金が一時的に不足する会社もあります。

この作業で、「年間でいくらか」だけでなく「どの月がきついか」が分かります。

3-3. 手順3 目的ごとに要否を判定する

続いて、契約を目的別に仕分けます。仕分けの軸は、その契約が守る支払いが、いまも会社にあるかどうかです。

  • 事業保障:借入金の返済や買掛金の支払いが、いまも続いているか
  • 役員退職金の準備:退職の時期と、必要な額の見込みが決まっているか
  • 従業員の福利厚生:加入の範囲が、会社の規程と合っているか
  • 承継・相続の資金:後継者の納税や代償の資金として、必要な額の見込みがあるか

借入金を完済した、退職金を払い終えた、といった理由で、役目を終えた契約は出口を考える候補になります。逆に、守る目的が残っている契約は、削る前に慎重に扱います。

3-4. 手順4 見直しの方法を比べる

最後に、負担を軽くする方法を比べます。方法によって、保障と保険料の動きが変わります。

方法 保険料 保障 注意する点
減額 下がる 小さくなる 減らした部分は解約扱いになり、解約返戻金の扱いが出る
払済 払わなくてよくなる 小さくなる 払済にした時点の解約返戻金を基に、保障が決まる
払込方法の見直し 総額は変わりにくい 変わらない 年払いと月払いで、資金が出る時期が変わる
解約 なくなる なくなる 保障の空白が生まれる。返戻金は益金になる

それぞれの違いは、法人保険の解約・払済・減額の違いで整理しています。解約返戻金を借りて資金繰りに使う場合は、契約者貸付と解約返戻金の落とし穴もあわせてご覧ください。

どの方法を選ぶかは、税務にも関わります。受け取った解約返戻金は益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)資産計上していた分の取崩しは、法人税基本通達9-3-5の2に沿って処理します。個別の処理は、顧問税理士に確認します。

要するに、点検は、一覧化、資金繰り表への重ね込み、目的ごとの判定、方法の比較の順に進めます。解約を決めるのは最後です。

この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】法人保険と会社の資金繰り|万一に備える5つの視点

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4. FP1級が資金繰りの目線で見る点検項目

専門家と一緒に点検する価値は、お金・保障・税務の3つを同じ机の上に並べられることです。一人で見ると、どれか1つが抜けやすくなります。

4-1. 点検で確かめる4つの項目

  • 契約の目的が、いまの会社の状況と合っているか
  • 保障額が、借入金や退職金などの必要額と釣り合っているか
  • 払込期間が、会社の資金繰りが厳しくなる時期と重なっていないか
  • 資産に計上している額と、解約返戻金の動きが把握できているか

この4つを、契約ごとに確かめます。1つの契約に複数の目的が混ざっている場合は、目的を分けて考えます。

4-2. 経営者・税理士・保険担当者の役割

立場 主に見ること
経営者 何を守りたいか。どこまで払えるか。最終の判断
顧問税理士 損金・益金・資産計上の処理。納税額への影響。税務の個別判断
保険担当者・FP 保障の中身。減額・払済などの手続きと、保障の空白の有無

税務の個別判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。保険の側からは、契約の内容と手続きの影響を整理してお伝えします。

4-3. 筆者が大切にしていること

筆者が最初に学んだのは、保険の話より先に、守りたい人の話を伺うことでした。更新で保険料が上がる相談に来られた方に、背景を伺わないまま「そこまでの保障は必要ない」とお伝えし、納得いただけなかったことがあります。後日、守りたいご家族の事情を知り、自分の未熟さを恥じました。

以来、増やす話も減らす話も、会社の数字と守りたい人を伺ってから始めます。見直しが合う場合も、残すのが合う場合も、正直にお伝えします。

要するに、点検は、数字と保障と税務を同時に見る作業です。立場の違う三者がそろうと、判断がぶれにくくなります。

5. 今週できる点検の一歩と、見直しで起きやすい失敗

今週できる一歩は3つです。どれも、保険を解約せずにできます。あわせて、見直しで起きやすい失敗を3つの場面で整理します。

5-1. 今週中にできる3ステップ

  1. 証券を1か所に集め、契約を1行ずつ一覧にする
  2. 直近の決算書と資金繰り表から、納税・賞与・返済の月に印を付ける
  3. 目的が分からない契約に印を付け、保険担当者に契約内容の確認書類を依頼する

この3つで、会社が保険料をいくら払い、どの月に重いのかが見えるようになります。解約や減額の判断は、その後で構いません。

5-2. 削りすぎて起きる失敗の場面

たとえば、決算の翌月の資金繰りが厳しい月に、社長が経理担当者へ「いちばん保険料が高い契約を解約しておいてくれ」と指示したとします。

その契約は、社長の万一のときに借入金の返済を支える事業保障でした。解約から数か月後に社長が病気で亡くなると、事業保障が残っていれば返済に充てられたはずの借入金が、会社の負担のまま残ります。金融機関への説明の席で、備えがなくなっていたことに初めて気づく流れです。

負担が重い契約ほど、会社の大きな支払いを守っていることがあります。解約の前に、その契約が守る支払いを書き出すことが、保障の空白を防ぎます。

5-3. 残しすぎて起きる失敗の場面

たとえば、利益が出た決算のたびに、社長が「今期は利益が出たから、保険を1本足そう」と判断したとします。数年たつと、保険料の合計が、借入金の返済に次ぐ固定費になっていきます。

設備の更新が重なった年に、経理担当者が運転資金の不足に気づき、社長が契約者貸付で資金をつなぐ場合を考えます。貸付の残高と利息が解約返戻金に近づくと、契約が失効しかねない状態になります。

利益が出たから保険を足す、という判断が続くと、保険料が固定費として積み上がります。契約者貸付の残高が解約返戻金を超えると、契約が失効して保障を失う場合があります。

新しい契約を足す前に、手順2のとおり資金繰り表に重ねて確かめます。契約者貸付の残高は、決算期ごとに経理担当者が社長へ報告する決まりにしておきます。

5-4. 引落し日の残高不足で起きる失敗の場面

たとえば、年払いの保険料の引落し日が納税の支払いと同じ週に重なり、口座の残高が足りなくなったとします。

契約によっては、払込猶予期間を過ぎても保険料が払われないとき、保険会社が解約返戻金の範囲で保険料を立て替える仕組み(自動振替貸付)があります。保険会社からの通知を経理担当者が開封せず、気づかないまま立て替えが続くと、立て替えの残高と利息が解約返戻金を超えて、契約が失効する場合があります。

引落し日の前に残高を確かめる人と日付を、社内で決めておきます。契約ごとの扱いは、約款で確認します。

要するに、削りすぎれば保障の空白が、残しすぎれば資金繰りの圧迫が生まれます。目的ごとに判断し、引落しの管理まで決めておきます。

6. 法人保険の保険料と資金繰りのよくある質問

Q1. 法人保険の保険料が重いと感じたら、まず何をすればよいですか。

まず、すべての契約の保険料・払込期間・目的・被保険者・受取人を一覧にします。解約や減額を決めるのは、その次です。目的が分からない契約があれば、証券と契約内容の確認書類で保障の中身を確かめます。税務の扱いは契約ごとに違うため、顧問税理士にも確認します。

Q2. 支払った保険料は、全額がその年の費用になりますか。

全額とは限りません。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を一定期間は資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)養老保険や終身保険は別の扱いです。個別の判断は税理士の領域です。

Q3. 保険料の負担を軽くする方法には、どんなものがありますか。

主な方法は、保険金額を下げる減額、以後の保険料を止めて保障を小さく続ける払済、払込方法の見直し、解約の4つです。どれも保障の中身が変わります。目的ごとに、残す保障と減らしてよい保障を分けてから選びます。

Q4. 解約すれば、払った保険料は戻ってきますか。

戻る額は契約によって異なり、払った保険料の合計を下回ることもあります。解約返戻金を受け取ると益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)資産計上していた分は取り崩して処理します。(出所:法人税基本通達9-3-5の2)解約の前に、税理士と受け取り後の資金の使い道を確かめます。

Q5. 保険料の引落しで残高が足りなくなると、どうなりますか。

契約によっては、保険会社が解約返戻金の範囲で保険料を立て替える仕組み(自動振替貸付)があります。立て替えが続いて残高と利息が解約返戻金を超えると、契約が失効して保障を失うことがあります。引落日の前に残高を確かめる担当者を決めておきます。

Q6. 保険料の見直しで、保障が薄くなりすぎないか心配です。

削りすぎを防ぐには、減らす前に、その契約が守る支払いを書き出します。借入金の返済、買掛金、従業員の給与、退職金の財源などです。守る目的が残っているなら、減額や払込方法の見直しにとどめる選択肢があります。最終の判断は、会社の数字を見て経営者が行います。

Q7. 資金繰り表は、どのくらいの期間で作ればよいですか。

保険料を重ねる資金繰り表は、少なくとも向こう1年を月ごとに作ります。納税、賞与、借入金の返済、設備の更新など、まとまった支出がある月を先に入れます。保険料の払込期間が長い契約は、決算期ごとに見直します。

7. まとめ|保険料の重さは、目的ごとに点検する

この記事のまとめ
  • 資金繰りを圧迫する理由は、払う時期と使う時期のずれ、その年の費用にならない保険料、契約の重なりの3つです。
  • 点検の手順は、全契約の一覧化、資金繰り表への重ね込み、目的ごとの要否判定、見直し方法の比較の4つです。
  • 削りすぎれば保障の空白、残しすぎれば固定費の積み上がりが起きます。契約が守る支払いを書き出してから決めます。
  • 税務の個別判断は税理士の領域です。保険担当者・税理士・経営者の三者で全体を見ます。

筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。そのために、会社の数字と守りたい人のお話を先に伺います。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。契約の一覧と資金繰りの数字をもとに、保険料の重さを一緒に整理します。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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