【基本から】法人保険の役割 創業期・成長期・承継期で変わる3つの視点
創業のころに入った法人保険の証券を、決算のあとに引き出しから出してみた場面を思い浮かべてください。
当時は、銀行からの借入金が社長の連帯保証付きで、社長に万一があれば会社が立ち行かなくなる状況でした。それから年月がたち、従業員は増え、設備も整い、後継者の顔も見えてきました。それなのに、証券に書かれた内容は加入した日のままです。
法人保険の相談では、「今の契約が会社のいまの姿に合っているのか、判断できない」というお悩みを多く伺います。契約が悪いのではなく、会社のほうが成長して、役割がずれていることが少なくありません。
この記事は、創業期・成長期・承継期のどこにいる会社でも使えるように、法人保険の役割がどう変わるかを整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
加入や乗り換えをお勧めする記事ではありません。いまの契約が、会社の段階に合っているかを点検するための記事です。筆者は、社長が守るのは家族だけでなく、従業員とそのご家族だと考えています。
結論
- 法人保険の役割は、創業期・成長期・承継期で変わります。創業期は借入金と社長の信用、成長期は従業員と固定費、承継期は後継者と相続の資金が中心になります。
- 点検するときは、証券で4つの項目(契約者・被保険者・受取人の設定、保険金額、保険料、契約時期)を確かめます。
- 保障を削りすぎると空白が、足しすぎると保険料が資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 法人保険の役割が会社の段階で変わる3つの理由
- 加入当時のまま契約を放置してしまう経営者の背景
- 創業期・成長期・承継期ごとの法人保険の見方と、共通して確かめる税務の区分
- 今週できる契約の棚卸し3ステップ
- 段階が変わったのに契約が追いつかなかった会社で起きる失敗の場面
1. 法人保険の役割が創業期・成長期・承継期で変わる3つの理由
法人保険の役割が変わる理由は、大きく3つあります。守る対象、会社の資金の流れ、税務や制度の前提の3つです。
1-1. 会社が守る対象が変わる
創業期は、会社の信用が社長個人の信用とほぼ重なっています。社長が欠ければ、取引も融資も止まりかねません。守る対象は、社長を支えに動く会社そのものです。
成長期になると、従業員や取引先が増え、社長以外にも会社を支える人が出てきます。承継期には、後継者や株主、相続人が加わります。守る対象が増えるほど、契約の設定も見直しが必要になります。
1-2. 会社の資金の流れが変わる
創業期は、借入金の返済が資金の中心にあります。成長期は、設備投資、採用、賃料や給与などの固定費が増えていきます。承継期には、役員退職金や自社株に関する支払いが現実の課題になります。
保険料も、この資金の流れの中で払い続けるものです。加入した当時は無理なく払えた保険料でも、固定費が増えた段階では負担の重さが変わります。
1-3. 税務や制度の前提が変わる
法人保険の税務の扱いは、改正によって変わってきました。たとえば、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険のうち最高解約返戻率が50%を超えるものは、2019年(令和元年)7月8日以後の契約から、最高解約返戻率による区分で保険料の扱いが決まります。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)
創業期に入った契約の中には、この改正の前に結んだものと後に結んだものが混ざっていることがあります。どの時期の契約かで、確かめる点が変わります。
要するに、法人保険の役割が変わるのは、守る対象、資金の流れ、税務や制度の前提の3つが、会社の成長とともに動くためです。
2. 経営者が法人保険を加入当時のまま放置してしまう背景
契約が放置される背景には、経営者の忙しさと、相談先の見えにくさがあります。代表的なものを3つ挙げます。
2-1. 目の前の経営が優先になる
資金繰り、採用、取引先対応と、経営者の仕事は尽きません。保険は「入ってあるから大丈夫」と整理され、毎年の保険料の引き落としだけが続きます。
証券を開くのは、決算の節目か、担当者から連絡があったときくらいという会社は少なくありません。
2-2. 相談先が分からなくなる
加入したときの担当者が異動や退職をして、いまは誰に聞けばよいのか分からない、という声もよく伺います。顧問税理士は税務の相談先ですが、保障の過不足までは見ていないことがあります。
税理士、保険の担当者、経営者のそれぞれが、全体を見ないまま契約だけが残る形になります。
2-3. 「見直し」は「解約」だと感じている
見直しと聞くと、解約して保障がなくなることを思い浮かべる経営者もいます。実際の見直しは、解約だけではありません。続ける、減額する、保障の対象を変える、何も変えないという選択肢もあります。
点検の結果、「いまの契約が合っているので何もしない」と決める会社もあります。点検することと、契約を変えることは別のことです。
要するに、契約が放置されるのは、忙しさ、相談先の見えにくさ、見直し=解約という思い込みが重なるためです。
3. 創業期・成長期・承継期で変わる法人保険の3つの視点
会社の段階ごとに、法人保険で確かめる中心は変わります。次の3つの視点で、いまの会社がどこにいるかを重ねてみてください。
3-1. 創業期の視点:借入金と社長の信用
創業期の会社は、社長の信用で借入や取引を成り立たせています。社長に万一があったとき、借入金の返済と運転資金を会社が自力で用意できるかが中心になります。
創業間もない会社の事業保障は、創業間もない会社の借入金と社長の万一でも整理しています。
連帯保証については、金融機関が経営者保証に依存しない融資を進める流れがあります。(出所:経営者保証に関するガイドライン研究会(日本商工会議所・全国銀行協会)、中小企業庁・金融庁の公表資料)借入の保証の状況が変われば、必要な保障も変わります。
3-2. 成長期の視点:従業員と固定費
成長期は、従業員が増え、設備や賃料などの固定費が膨らみます。社長だけでなく、専務や営業責任者など、会社を支える人が欠けたときの影響も考える段階です。
従業員の万一や退職に備える仕組みは、会社の規程と合わせて決めます。被保険者を社長以外にも広げる場合は、既存契約の変更ではなく新しい契約になることが多く、本人の同意が必要です。契約者以外の人を被保険者とする死亡保険契約は、被保険者の同意がなければ効力を生じません。(出所:保険法第38条)
3-3. 承継期の視点:後継者と相続の資金
承継期は、被保険者や受取人が、いまの経営体制に合っているかを確かめる段階です。社長が交代しても、被保険者が前社長のままになっている契約がありえます。
代替わり後の契約の扱いは、代替わり直後の会社が点検したい事業保障で詳しく解説しています。承継期には、役員退職金を支払う時期と財源も確かめます。勇退の時期が決まると、会社が一度に負う支払いが見えてきます。自社株の納税資金などの相続の資金は、別の記事で扱います。
| 会社の段階 | 守る対象 | 会社が負う支払いの中心 | 契約で確かめること |
| 創業期 | 社長の信用で動く会社 | 借入金の返済、運転資金 | 被保険者が社長か、保険金額が借入金と釣り合うか |
| 成長期 | 従業員、取引先、会社を支える役員 | 固定費、設備投資、採用 | 保険料が資金繰りに収まるか、被保険者の範囲と同意 |
| 承継期 | 後継者、株主、相続人 | 役員退職金、自社株に関する支払い | 被保険者と受取人が現体制に合うか |
どの段階でも共通して確かめるのが、保険料の税務上の区分です。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)終身保険など他の種類は別の扱いです。個別の経理処理は、顧問税理士に確認します。
要するに、創業期は借入金と社長の信用、成長期は従業員と固定費、承継期は後継者と相続の資金を中心に、契約を見ます。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る法人保険の段階別点検項目
専門家と点検する価値は、会社の段階と契約の中身を、同じ机で並べて見られることです。経営者が一人で見ると、どちらかが抜けやすくなります。
4-1. 証券で確かめる4つの項目
- 契約者、被保険者、受取人が、いまの会社の体制に合っているか
- 保険金額が、会社が負う支払いや欠けたときの損失と釣り合っているか
- 保険料の総額が、いまの資金繰りの中で無理なく払える水準か
- 契約した時期が2019年7月8日の前か後か(資産計上の区分に関わります。出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)
この4つを、契約ごとに書き出します。複数の契約があるときは、保険金額と保険料の合計も出します。
4-2. いまの段階を見極める3つの質問
- 借入金の返済や社長の連帯保証が、会社の最大の不安として残っていますか
- 社長以外にも、欠けると会社の売上や取引に影響が出る人がいますか
- 後継者への交代や、役員退職金の支払い時期が見えてきていますか
複数に当てはまる場合は、段階が重なっています。どれか1つの段階に決めきれなくても構いません。当てはまる視点を、重ねて見ます。
4-3. 筆者が大切にしていること
筆者は、商品の話より先に、会社の数字と、数字に載らない想いを伺うようにしています。誰を守りたいのかが決まれば、必要な保障は自然に絞られます。
増やす話も減らす話も、その先に決まります。見直したほうがよい場合も、そのままでよい場合も、正直にお伝えします。
要するに、点検は、証券の確認、段階を見極める質問、守りたい人の確認の3つで進めます。
5. 今週できる契約の棚卸し3ステップと、段階のずれで起きる3つの落とし穴
今週できる一歩は3つです。どれも、契約を変えずにできます。あわせて、段階のずれで起きやすい落とし穴を3つの場面で整理します。
5-1. 今週中にできる3ステップ
- 保険証券を集めて、契約者・被保険者・受取人・保険金額・保険料・契約時期を1枚の表にする
- 会社の段階を、創業期・成長期・承継期のどれに近いか、4-2の質問で確かめる
- 表を見比べて、段階に合っていない契約と、保障が足りない対象に印を付ける
この3つで、備えが特定の人や時期に偏っていないかが見えてきます。契約を変えるかどうかは、その後で決めます。
5-2. 創業期の契約のまま、保障が足りなくなる場面
たとえば、創業期に社長の定期保険に入り、そのまま見直さずに、会社が銀行から設備資金を追加で借り入れたとします。
融資が実行された月に借入金が増えても、保険金額は創業期の水準のままです。社長に万一があったとき、保険金で返せる借入金は一部にとどまり、残りは遺族や会社が背負うことになります。借入金が増えたのに保険金額が据え置かれていると、社長の万一のあとに会社の返済資金が足りなくなります。借入を増やすときに、保険金額と見比べます。
5-3. 成長期に保険料を重ねすぎて資金繰りが苦しくなる場面
たとえば、売上が伸びている時期に、社長が「今のうちに備えを厚くしておこう」と、解約返戻金のある保険で役員の契約を次々と追加したとします。
経理担当者が翌期の資金繰り表を作ると、保険料の合計が、賃料や給与に次ぐ固定費になっています。売上が一時的に落ちた年に、社長が契約者貸付で資金をつなぐと、貸付の残高と利息が解約返戻金を超え、契約が失効して保障を失うことがあります。資金に詰まって早めに解約すると、戻る金額が払い込んだ保険料の合計を下回ることもあります。成長期に保険料を重ねすぎると、売上が落ちた年に保険料が資金を圧迫し、契約の維持が難しくなります。増やす前に、経理担当者が保険料の総額を資金繰り表に重ね、払える範囲を社長に報告します。
5-4. 承継期に被保険者が前社長のまま残る場面
たとえば、前社長が会長に退き、長男が新しい社長になったあとも、被保険者が前社長のまま契約が続いていたとします。
受取人が会社で被保険者が前社長のままなら、新社長に万一があっても保険金は支払われません。新社長が保証を引き継いでいる借入金は、会社と新社長の家族に残ります。逆に、あわてて前社長の契約を解約すると、会長として会社に関わる前社長の万一への備えも消えます。代替わりのあとも被保険者が前社長のままだと、いま会社を動かしている新社長の万一に備える資金が会社に入りません。解約する前に、誰の万一に備えるのかを決め直します。
要するに、段階に契約が追いつかないと、保障の空白か、保険料の重さのどちらかが生まれます。段階の変わり目に、証券を見直します。
6. 法人保険の役割と見直しに関するよくある質問
Q1. 創業期に入った法人保険は、成長期になったら見直すべきですか。
見直すべきと決まっているわけではありません。借入金、従業員、固定費が変わったときに、いまの契約が合っているかを点検する価値があります。点検の結果、何も変えないという結論になることもあります。
Q2. 会社の段階は、どう見極めればよいですか。
本文の4-2で挙げた、借入金・連帯保証、会社を支える人、後継者と退職金の3つの質問で確かめます。複数の段階が重なっていてもかまいません。当てはまる視点を重ねて見ます。
Q3. 社長が交代したら、被保険者は変えるべきですか。
変えるかどうかは、会社の状況で決めます。新社長に会社の信用や借入の保証が移っているなら、新社長を被保険者にする考え方があります。被保険者を別の人にする場合は新しい契約になることが多く、本人の同意が必要です。(出所:保険法第38条)
Q4. 保険料が重いと感じるときは、まず何を確かめますか。
契約ごとの保険料、保険金額、払込期間を一覧にして、いまの資金繰りと見比べます。続ける、減額する、払済にするなどの選択肢は、保障の空白が生まれないかを確かめてから決めます。
Q5. 2019年の通達改正は、いまの契約に関係しますか。
契約した時期によります。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)個別の判断は、税理士の領域です。
Q6. 見直しは、顧問税理士と保険の担当者のどちらに相談すべきですか。
役割が違うため、両方に関わってもらうのが整理しやすい形です。税務の個別判断、申告、経理処理の確定は税理士の領域です。契約内容や保障の過不足の整理は、保険の担当者やFPが行います。
7. まとめ|法人保険は、会社の段階に合わせて点検する
- 法人保険の役割は、守る対象、資金の流れ、税務や制度の前提が動くため、創業期・成長期・承継期で変わります。
- 創業期は借入金と社長の信用、成長期は従業員と固定費、承継期は後継者と相続の資金を中心に、契約を見ます。
- 段階に契約が追いつかないと、保障の空白か、保険料が資金繰りを圧迫する状態のどちらかが生まれます。
- 税務の個別判断は税理士の領域です。経営者・税理士・保険担当者の三者で全体を見ます。
筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。会社の段階が変わったときこそ、守りたい人のお話を先に伺います。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。証券と会社の状況をもとに、いまの段階に合う契約かを一緒に整理します。
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