開業して半年、まだ最初の決算を迎えていない会社の社長が、夜の事務所で通帳と返済予定表を見比べています。

設備も運転資金も、創業時に借りたお金で整えました。売上は少しずつ伸びていますが、毎月の返済は待ってくれません。「自分が倒れたら、この返済は誰が背負うのだろう」と、ふと考えることがあります。

創業から間もない会社は、決算書がまだ無く、実績で信用を示すことが難しい時期です。その一方で、資金需要は多く、借入金が事業の土台になっていることがよくあります。

この記事では、FP1級の資格を持つ筆者が、創業期の会社が社長の万一に備えるうえで押さえたい3つのポイントを、場面ごとに解説します。

結論

  • 創業期は借入金の比重が大きく、社長の万一は、そのまま返済の問題になります。
  • 見るのは、借入金の返済に充てる資金・立ち上がるまでの運転資金・決算書が無い時期の説明材料の3つです。
  • 備えが薄すぎても、重すぎても、創業期の資金繰りには負担になります。個別の税務判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 創業間もない会社で、社長の万一に困る3つの場面
  • なぜ創業期は、備えの話が後回しになりやすいのか
  • 3つのポイントと、考え方を進める手順
  • 削りすぎ・重すぎの失敗場面と、今週できる確認項目

1. 創業間もない会社で社長の万一に困る3つの場面

創業期の会社が困るのは、返済・売上・取引先への説明の3つの場面です。順に見ていきます。

1-1. 売上が立ち上がる前に、返済だけが続く

創業時に借りたお金は、返済の開始時期や期間が契約ごとに決まっています。売上が安定する前に、毎月の返済が始まっている会社も少なくありません。

たとえば、社長が長期入院になったとします。売上は止まっても、返済と家賃は同じ日に引き落とされます。

立ち上がり期は、手元の現預金が薄いため、数か月の空白でも資金が尽きやすくなります。

1-2. 社長ひとりの力で、仕事が回っている

創業期の会社は、営業も現場も、社長自身が動いていることが多くあります。

たとえば、社長が急にいなくなると、顧客からの問い合わせに答えられる人がいません。仕事が止まり、売上の見込みも崩れます。

従業員が数名いる場合は、その給与も社長の判断に支えられています。

1-3. 決算書が無く、金融機関に説明する材料が少ない

最初の決算を迎えていない会社は、金融機関に示せる決算書がありません。

万一のあと、返済条件の相談をしたくても、会社の状況を数字で説明しにくい時期です。

たとえば、後任の専務が金融機関を訪ねても、試算表と事業計画しか示せないことがあります。

要するに、返済の続行・社長頼みの仕事・説明材料の少なさの3つが、創業期の万一を重くします。

2. 創業期の備えが後回しになりやすい理由

後回しになる理由は、目の前の資金繰りの優先と、「まだ若い会社だから」という感覚の2つです。整理します。

2-1. 事業を軌道に乗せることで手一杯になる

創業期は、集客・採用・仕入先との関係づくりなど、やることが山積みです。

万一への備えは、起きていない出来事の話なので、どうしても後ろに回ります。

たとえば、毎月の資金繰り表は丁寧に作っていても、「社長が働けなくなった月」の列は、どこにも書かれていないことがあります。

2-2. 借入金の存在が「会社の数字」に溶け込んでいる

創業時の借入金は、事業を始めるために当然のものとして、会社の数字に溶け込んでいます。

その返済の責任が、社長個人の保証とつながっている場合は、社長の万一が家族の問題にもなります。

金融機関の融資の考え方には、経営者の保証に関するガイドラインがあります。(出所:経営者保証に関するガイドライン。中小企業庁・金融庁。2013年12月策定)個別の融資条件は、金融機関ごとに違うため、契約書で確かめます。

要するに、忙しさと、借入金が当たり前になっていることが、備えを後回しにします。

3. 創業期の事業保障を考える3つのポイントと進め方

押さえるポイントは、返済に充てる資金・立ち上がるまでの運転資金・説明の材料の3つです。まず全体を表にします。

ポイント 創業期の特徴 確かめること
1. 返済に充てる資金 借入金が大きく、保証とつながりやすい 借入金の残高・返済の予定・保証の有無
2. 立ち上がるまでの運転資金 売上が安定せず、手元の資金が薄い 固定費の月数、手元の現預金
3. 説明の材料 決算書が無く、実績で語れない 事業計画・試算表・万一時の連絡先の一覧

順番に進めると、迷いにくくなります。

  1. 借入金を一覧にする:借入先・残高・返済の予定・保証の有無を、1枚にまとめます。
  2. 止まったときの月数を数える:社長が働けない場合に、手元の現預金で何か月、固定費を払えるかを確かめます。
  3. 今の備えを書き出す:加入している保険や、傷病手当金の対象かどうかを、顧問の専門家と確認します。
  4. 決算期ごとに更新する:最初の決算を迎えたら、決算書の数字で見直します。

社長の収入面では、会社員向けの健康保険にある傷病手当金は、病気やけがで働けないとき、条件を満たせば支給されます。支給期間は通算1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)国民健康保険にはこの制度がありません。加入している保険の種類を、先に確かめておきます。

要するに、借入金の一覧・止まったときの月数・決算期ごとの更新の順で、創業期の備えは整理できます。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】借入金と連帯保証から家族を守る事業保障 6つの対策

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4. 創業期の事業保障で起きやすい2つの失敗

失敗は、備えを削りすぎる場合と、備えが重くなりすぎる場合の両方向で起きます。社長と経理担当者の場面で見ます。

4-1. 備えが足りない場面

  • 何も整えずに開業した:たとえば、社長が「軌道に乗ってから考える」と決め、借入金の一覧も作らないまま1年が過ぎたとします。万一のとき、経理担当者は返済の全体像を把握できず、金融機関への連絡が遅れます。
  • 借入金が増えたのに見直さない:たとえば、追加の借入れで設備を増やしたのに、備えは開業時のままだったとします。借入金に対して、返済に充てる資金が足りなくなります。
  • 社長個人の生活費を見ていない:たとえば、役員報酬を低く抑えて開業した社長が、自分の入院時の家計を考えていなかったとします。会社の備えとは別に、ご家族の生活の見通しも必要です。

4-2. 備えが重すぎる場面

  • 固定費を圧迫する保険料:たとえば、社長が「創業時だからこそ手厚く」と、大きな保険料の契約を結んだとします。売上が安定する前の資金繰りが苦しくなり、仕入や採用に回せるお金が減ります。
  • 借入金より大きな備え:たとえば、返済が進んで借入金が減ったのに、当初の備えをそのまま続けたとします。必要な額を超えた備えが、毎期の負担として残ります。

削りすぎも重すぎも、借入金の残高と運転資金の月数を並べれば、見直しの手がかりになります。税務上の取扱いは、顧問税理士に確認します。

要するに、備えの量は、借入金の残高と運転資金の月数に合わせて、決算期ごとに調整します。

5. 今週できる創業期の備えの確認チェックリスト

難しい計算は要りません。次の項目を、今週のうちに確かめます。

  • 借入金の借入先・残高・返済の予定を1枚にまとめたか
  • 社長の個人保証が付いている借入れがどれか、契約書で確かめたか
  • 社長が働けない場合に、固定費を何か月払えるかを数えたか
  • 加入している健康保険が、傷病手当金のある保険かを確かめたか
  • 万一のとき、金融機関と税理士に誰が連絡するかを決めたか

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要するに、借入金の一覧と月数の確認が、創業期の備えの入口です。

6. よくある質問

Q1. 最初の決算がまだでも、事業保障は考えてよいですか。

考えられます。決算書が無い時期でも、借入金の残高と返済の予定、固定費の月数は把握できます。この数字から、万一のときに不足しそうな額を見当づけます。最初の決算を迎えたら、決算書の数字で見直します。

Q2. 創業時の借入金には、社長の個人保証が付きますか。

金融機関と契約によって異なります。経営者の保証については、ガイドラインが定められています。(出所:経営者保証に関するガイドライン。中小企業庁・金融庁。2013年12月策定)個別の条件は、契約書と金融機関で確かめます。

Q3. 社長が働けなくなったとき、公的な支えはありますか。

健康保険に加入している場合、傷病手当金が条件を満たせば支給されます。支給期間は通算1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)国民健康保険にはありません。ご自身の加入状況を確かめてください。

Q4. 創業期は、備えを小さくしておいたほうがよいですか。

一概には言えません。小さすぎれば返済に足りず、大きすぎれば資金繰りを圧迫します。借入金の残高・運転資金の月数・家計の見通しを並べて、会社ごとに決めます。

Q5. 従業員がいる場合、社長の万一で気をつけることはありますか。

事業主は、労働者に対して安全配慮義務を負います。(出所:労働契約法第5条)社長自身については、条件を満たせば労災保険の特別加入の制度があります。(出所:厚生労働省)労務の個別判断は、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。

Q6. 税務上の扱いは、誰に確認すればよいですか。

税務の個別判断・申告・経理処理の確定は、税理士の領域です。保険に加入している場合も、顧問税理士に取扱いを確認してください。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 創業間もない会社は借入金の比重が大きく、社長の万一は返済の問題に直結します。
  • 押さえるポイントは、返済に充てる資金・立ち上がるまでの運転資金・説明の材料の3つです。
  • 備えは、削りすぎても重すぎても負担になります。借入金の残高と運転資金の月数に合わせて、決算期ごとに見直します。
  • 税務の個別判断は税理士、労務の個別判断は社会保険労務士・弁護士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。創業時の借入金と、いまの備えの状況を、一緒に整理します。

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筆者より

筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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