【2026年版】社長からの借入金が遺族の負担になる3つの理由
創業期に資金が足りず、社長が自分の貯えを会社に貸し付けた。そのまま決算書の「役員借入金」として残っている。そんな会社は珍しくありません。
経理担当者にとって、この科目は見慣れた数字です。毎月の返済を求められるわけではなく、会社にとっては、ありがたい資金でもあります。
ところが社長に万一があると、この数字の意味が変わります。会社にとっては、返済を求められ得る負債。遺族にとっては、相続の手続きと税金の対象になる財産です。
この記事では、社長個人からの借入金がある会社について、会社の資金繰りと、遺族の負担の両面から、起きやすいことと整理の進め方を解説します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 会社に残る社長からの借入金は、社長個人の貸付債権として相続財産になり、相続税の課税対象になります。
- 遺族には、現金ではなく債権に税がかかる負担があり、会社には、返済を求められる資金繰りの負担があります。
- 返済の約束・原資・手続きを平時に整理しておくと、双方の負担を見通しやすくなります。個別の税務は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 社長借入金が、遺族の負担になる3つの理由
- 決算書の数字では、問題が見えにくい理由
- 会社の資金繰りと遺族の負担を並べて整理する進め方
- 削りすぎ・過剰の失敗場面と、今週の確認項目
1. 社長からの借入金が遺族の負担になる3つの理由
負担になる理由は、財産として扱われること・納税に現金が要ること・会社に返済を求める立場になることの3つです。順に見ます。
1-1. 理由1|貸した資金が、個人の相続財産になる
会社が社長から借りた資金は、社長個人にとっては、会社に対する貸付金です。社長に相続が起きると、この貸付債権が相続財産として扱われます。(出所:財産評価基本通達204)
相続税の計算では、預金や不動産と並んで、貸付金も財産に含めて評価します。
たとえば、遺族は通帳や不動産の評価だけを想定していたのに、税理士から貸付金も財産に入ると聞き、課税の対象が思ったより大きいと知る場面があります。
1-2. 理由2|債権に税がかかり、納税には現金が要る
貸付金は、会社に対する権利であり、手元の現金ではありません。それなのに、相続税の計算では財産として扱われます。
納税の資金は、基本的に現金で用意する必要があります。債権が評価されても、すぐに現金が手に入るとは限りません。
回収が見込めない場合の扱いなど、評価の細部は個別に違います。個別の判断は、税理士に確認してください。
1-3. 理由3|会社に返済を求める立場になる
遺族が相続で貸付債権を受け継ぐと、会社に対して返済を求めることができる立場になります。
遺族が納税の資金を必要とすれば、会社に返済を依頼する場面も考えられます。会社と遺族の利害が、ここで向かい合います。
たとえば、専務が会社を引き継いだ後、遺族から返済の相談を受けても、手元資金に余裕がないと、すぐには応じられません。
要するに、財産として課税され、納税に現金が要り、会社へ返済を求める立場になる点が、遺族の負担です。
2. 社長借入金の問題が、決算書では見えにくい理由
見えにくいのは、借入金が長く残っていても、日常の資金繰りには影響しにくいからです。背景を2つ見ます。
2-1. 返済の約束が、書面になっていない
社長と会社の間の貸し借りは、口約束のまま続いていることがあります。返済の期限や、利息、返済の方法が決まっていません。
書面がないと、遺族と会社の間で、いつ・いくら返すのかという認識が食い違います。
たとえば、経理担当者は「余裕のあるときに返す約束」と理解し、遺族は「早期の返済が当然」と考えている場合があります。
2-2. 平時の資金繰りでは、負債として意識されない
通常の銀行借入と違い、毎月の返済や期日が訪れません。このため、経理上は「ないも同然」の存在になりがちです。
決算書の負債の中でも、残高が大きいほど、万一のときの会社への影響は大きくなります。
また、社長の死亡時の手続きは、相続の手続きと会社の事務が重なって進みます。気づいたときには、手続きの期限が迫っていることがあります。
要するに、書面の不在と、平時の資金繰りへの影響の小ささが、問題を見えにくくします。
3. 会社から見た資金繰りと遺族から見た負担を並べて整理する進め方
整理の進め方は、会社側の返済余力と遺族側の納税負担を同じ表に並べ、約束と原資を決める流れです。まず、双方の見え方を表にします。
| 見る側 | 主な負担 | 平時に決めておくこと |
| 会社 | 返済を求められたときの資金繰り | 返済の期限・方法・原資 |
| 遺族 | 債権への課税と、納税のための現金 | 貸付債権の扱い、相談先の税理士 |
| 後継者 | 会社と遺族の間に立つ調整役 | 返済の優先順位、話し合いの窓口 |
3-1. 会社の側|返済の約束を書面にし、原資を考える
貸付の条件を、金銭の貸し借りの契約として書面に残します。返済の期限、利息の有無、返済の方法が主な項目です。
そのうえで、返済を求められたときの原資を考えます。会社の手元資金、融資の枠、社長に万一があったときに会社が受け取る資金などが候補です。
どの手段が合うかは、会社の資金繰りで変わります。借入金の残高と、手元資金の月数を並べて判断します。
3-2. 遺族の側|貸付金の扱いを、事前に税理士と確かめる
遺族の側では、貸付債権がどう評価され、相続税の計算にどう入るかを、事前に把握しておきます。
納税の資金をどう準備するかも、相続財産全体の中で考えます。自社株や不動産など、他の財産との兼ね合いがあります。
整理の方法には、返済で残高を減らす、債権を放棄する、資本に振り替えるなどがあり、それぞれ会社や遺族への課税の影響が違います。選ぶ前に、税理士へ確認してください。
3-3. 後継者の側|間に立つ役割を決めておく
後継者や専務は、会社と遺族の間で話し合いの窓口になります。誰が窓口になるかを、平時から決めておきます。
事業承継の場面での社長貸付金の整理は、次の記事でも扱っています。
進め方は、次の流れが目安です。
- 残高を確かめる:決算書で社長借入金の残高と、貸し借りの経緯を確認します。
- 書面にする:返済の期限・利息・方法を、契約書や議事録に残します。
- 原資を比べる:返済を求められた場合の財源を、手段ごとに比べます。
- 税理士と試算する:遺族の課税と会社の資金繰りを、一緒に試算します。
要するに、会社の返済余力と遺族の納税負担を同じ紙に並べ、約束と原資を平時に決めます。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. 社長借入金の整理で起きやすい失敗|足りない場合と重い場合
失敗は、備えが薄く遺族と会社が困る場合と、整理を急いで会社に負担が偏る場合に分かれます。対にして見ます。
4-1. 備えが足りなかった場面
- 貸付の事実を誰にも伝えていない:社長は、会社に貸していることを家族に話していません。万一のとき、遺族は貸付金の存在を知らないまま、相続の手続きが進みます。
- 返済の原資を考えていない:社長が、返済はまだ先だと考えました。経理担当者が、遺族から返済の相談を受けて初めて、手元資金では足りないことに気づきます。
- 書面を作らずに年数が経つ:社長は、貸し借りの経緯を覚えていますが、記録がありません。担当者が代わると、内容を説明できる人がいなくなります。
4-2. 整理が重すぎた場面
- 一度に返済して会社が苦しくなる:社長が、遺族の負担を減らそうと、会社に一括返済を指示しました。経理担当者は、運転資金が足りなくなり、金融機関に急ぎで借入れを相談します。
- 債権の放棄を、税の影響を見ずに行う:社長が、残高を減らす目的で債権を放棄しようとしました。会社に課税が生じる場合があり、税理士への事前の確認が欠かせません。
残高の整理は、会社の資金繰りと遺族の負担の両方を見て、段階的に進めます。
要するに、遺族の負担を減らす整理が、会社の資金繰りを苦しくしない範囲かを確かめます。
5. 今週できる確認チェックリスト
短い時間でできる確認です。今週中に、次の5項目を確かめます。
- 決算書で、社長からの借入金の残高を確かめたか
- 貸し借りの経緯と、返済の約束が書面に残っているか
- 返済を求められた場合の会社の原資を、書き出したか
- 家族に、貸付金があることを伝える日を決めたか
- 遺族の課税と会社の資金繰りを、税理士と試算する日を決めたか
確認の結果を持ち寄ると、整理の優先順位が見えてきます。
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6. よくある質問
Q1. 会社に貸している資金は、相続税の対象になりますか。
社長個人の貸付債権として、相続財産に含まれます。(出所:財産評価基本通達204)評価の細部は個別に違うため、税理士に確認してください。
Q2. 遺族は、会社にすぐ返済を求められますか。
債権を受け継げば、返済を求める立場になります。ただ、返済の期限や方法は、貸し借りの約束と会社の状況によります。平時に書面で整理しておくと、話し合いが進めやすくなります。
Q3. 口約束で貸した資金でも、債権として扱われますか。
扱いは個別の事情で変わります。書面がないと、金額や条件の確認が難しくなります。契約書や議事録で記録しておくことをおすすめします。
Q4. 債権を放棄すれば、問題は解決しますか。
放棄すると、会社に課税が生じる場合があります。遺族の負担は減っても、会社の負担が増えることがあるため、税理士に事前に確認してください。
Q5. 会社の返済の原資は、どう用意しますか。
手元資金の積み増し、融資の枠、法人契約の保険金など、複数の手段があります。借入金の残高と手元資金の月数を並べて、会社に合う方法を比べます。
Q6. 家族に貸付金のことを伝えておいたほうがよいですか。
伝えておくと、万一のときの混乱を減らせます。借入金の残高と、書面の保管場所、相談先の税理士を共有しておきます。
7. まとめ
- 社長からの借入金は、社長個人の貸付債権として相続財産になり、課税の対象になります(出所:財産評価基本通達204)。
- 遺族には債権への課税と納税の現金の負担があり、会社には返済を求められる資金繰りの負担があります。
- 返済の約束・原資・手続きを平時に整理し、会社と遺族の負担を並べて見通します。
- 税務の個別判断は、税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。決算書の数字をもとに、会社と遺族の双方の負担を一緒に整理します。
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筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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