【社長へ】融資と法人保険 銀行に加入を求められた時の3つの落とし穴
融資の更新を前に、金融機関の担当者との面談に臨む社長を思い浮かべてください。
たとえば、面談の終わりに、担当者から「社長に万一のことがあった場合に備えて、生命保険に入っていただけませんか」と切り出されたとします。社長は、断ってよいのか、入るならどんな形が良いのか、すぐには答えられません。経理担当者に尋ねても、融資と保険の関係までは分からないかもしれません。
金融機関から融資にあわせて保険を提案されたという声は、法人保険の相談で少なくありません。社長が迷うのは、保険そのものよりも、融資との関係です。入らなければ融資に響くのか。入ったあと、資金繰りにどう効いてくるのか。判断の材料が足りないまま、面談の場で返事を迫られます。
この記事は、金融機関に法人保険の加入を求められたときに、先に確かめたい3つの落とし穴を整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
加入をお勧めする記事ではありません。融資と保険の関係を整理し、会社に合う答えを自分で選べるようにするための記事です。
結論
- 金融機関に加入を求められたときの落とし穴は3つです。保険の目的が融資の条件だけになること、借入の残高と保障額がずれること、質権が付いたまま解約や減額の手続きが止まることです。
- 融資への対応は金融機関ごとに異なります。保険は、融資の条件ではなく、会社の万一に必要な資金から考えます。
- 削りすぎれば借入の返済資金が足りなくなり、入りすぎれば保険料が資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 融資と法人保険を結び付けるときの3つの落とし穴
- 面談の場で社長が返事に迷う背景
- 提案を受けたときに確かめる4つの順番
- 今週できる借入と保険の棚卸し3ステップ
- 加入しすぎ・削りすぎで起きる失敗の場面
1. 融資と法人保険 金融機関に加入を求められた時の3つの落とし穴
金融機関の提案に応じるとき、先に確かめたい落とし穴は3つあります。目的、金額、手続きのそれぞれにあります。
1-1. 落とし穴その1:保険の目的が融資の条件だけになる
たとえば、融資の面談で保険を勧められた社長が、借入の返済資金だけを保障額の目安にして契約したとします。契約のあと、経理担当者が従業員の給与や取引先への支払いも万一のときに必要になると気づきます。返済資金だけでは足りない、保障の空白が見つかります。
本来、経営者の万一に備える事業保障は、借入金の返済、従業員の給与、取引先への支払いなど、会社が万一のあとに必要になる資金から考えます。借入の返済資金は、その一部です。目的が融資の条件だけだと、ほかの資金が抜け落ちます。
反対に、借入の返済資金を考えずに、社長の保険を別の目的でだけ組んでいる場合もあります。どちらの場合も、いまの契約が何のためにあるのかを一度言葉にしておくことが出発点です。
1-2. 落とし穴その2:借入の残高と保障額がずれる
借入金は、返済が進めば減り、設備投資や運転資金の追加で増えます。保険の保障額は、契約した時点の金額のままです。
融資を受けた時点の借入残高にあわせて保障額を決めると、返済が進んで借入が減ったとき、保障額が大きく残る場合があります。この場合、保険料が資金繰りを圧迫する過剰の状態になります。
逆に、たとえば運転資金の追加融資を受けたあとも、社長が保障額をそのままにしていたとします。決算の打合せで返済予定表と保険証券を並べると、借入の残高が保障額を上回っていると気づきます。万一のときに借入の返済資金が足りない、不足の状態です。
借入の残高は金融機関の返済予定表で、保障額は保険証券で確認できます。2つを並べて見ることが、ずれを見つける第一歩です。保険証券の見方は、法人保険の保険証券の見方|読み解く8つのチェック項目でも整理しています。
1-3. 落とし穴その3:質権が付いたまま解約や減額の手続きが止まる
金融機関によっては、融資の担保として、保険金を受け取る権利に質権の設定を求める場合があります。対応は金融機関によって異なります。
質権が設定されている契約は、解約、減額、受取人の変更などの手続きで、質権者である金融機関の承諾や、保険会社所定の書類が必要になることがあります。契約者である会社だけでは、手続きが進まない場合があります。
たとえば、保険料が重いと感じて減額を決めた社長が、保険会社への連絡の場で、契約に質権が付いていると初めて知らされることがあります。質権の有無は、保険証券や契約時の書類で確かめます。
要するに、落とし穴は、目的が融資の条件だけになること、借入の残高と保障額がずれること、質権が付いたまま手続きが止まることの3つです。
2. 面談の場で社長が加入の返事に迷う背景
返事に迷う背景には、立場の差と、情報の少なさ、相談先の分かれ方があります。代表的なものを3つ挙げます。
2-1. 融資を受ける立場では断りにくい
融資を受ける側の社長は、貸す側の金融機関の提案を断りにくいと感じます。断ると融資に響くのではないかという不安が、冷静な判断をさまたげます。
ここで大切なのは、提案を受けることと、その場で返事をすることは別だという点です。持ち帰って確かめる時間を取ることは、失礼ではありません。
2-2. 融資と保険の関係を説明できる人が社内にいない
融資の窓口は経理担当者、保険の契約は社長、税務は顧問税理士と、役割が分かれています。融資と保険を一緒に見られる人が社内にいません。
その結果、提案された内容を比べる材料がないまま、返事を迫られます。
2-3. 経営者保証の扱いと保険が結び付いて語られる
社長が連帯保証人になっている会社では、万一のときの保証債務と保険が一緒に語られがちです。経営者保証については、日本商工会議所と全国銀行協会の研究会が、経営者保証に関するガイドラインを公表しています。法的な拘束力のない自主的なルールで、保証を求めない融資のほか、保証を付ける場合の考え方も示しています。(出所:経営者保証に関するガイドライン研究会、中小企業庁・金融庁の公表資料)
保証の有無と保険の加入は、別々に整理します。保証の問題を、保険だけで解決しようとしないことが大切です。借入金と連帯保証への備えは、【まるっと解説】借入金と連帯保証から家族を守る事業保障 6つの備えで整理しています。
要するに、迷う背景は、貸す側と借りる側の立場の差、融資と保険を一緒に見る人の不在、保証と保険が混ざって語られることの3つです。
3. 提案を受けたときに確かめる4つの順番
提案を受けたら、目的、金額、条件、手続きの4つを、この順番で確かめます。順番を守ると、融資の条件に流されにくくなります。
3-1. 目的:何のための保険かを言葉にする
最初に、保険の目的を決めます。借入の返済資金、従業員の給与、取引先への支払い、後継者の準備期間の資金など、万一のあとに会社が必要とする資金を書き出します。
書き出した資金のうち、融資の提案が応えているのはどの部分かを、色を分けて印を付けます。
3-2. 金額:借入の残高と保障額を並べる
次に、いまの借入の残高と返済の予定を、保険証券の保障額と並べます。返済が進むと借入は減ります。保障額が借入の残高より大きく残るなら、過剰の疑いがあります。反対に、借入の残高が保障額を上回るなら、不足の疑いがあります。
3-3. 条件:金融機関が求めているものを確かめる
金融機関が求めているのは、保険への加入そのものなのか、質権の設定なのか、保証の代わりなのか。担当者に、求めている内容と、断った場合にどう取り扱われるのかを、質問します。
回答は口頭で終わらせず、書面やメールで残してもらうと、あとで確かめられます。
3-4. 手続き:質権や受取人の扱いを確かめる
最後に、質権を設定する場合、解約や減額のときに何が必要になるかを確かめます。保険会社所定の手続きが要る場合があります。契約の窓口にも、先に聞いておきます。
| 順番 | 確かめること | 主な相談先 |
| 1. 目的 | 万一のあとに会社が必要とする資金の洗い出し | 社長・経理担当者 |
| 2. 金額 | 借入の残高と保険証券の保障額の突き合わせ | 経理担当者・保険担当者 |
| 3. 条件 | 金融機関が求める内容と、断った場合の取扱い | 金融機関の担当者 |
| 4. 手続き | 質権の設定と、解約・減額・変更のときの手続き | 保険会社・保険担当者 |
ここで触れた税務は、いずれも一般的な考え方です。個別の損金の判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。
要するに、目的、金額、条件、手続きの順に確かめれば、融資の条件に流されず、会社の万一に必要な資金から保険を考えられます。
この記事では要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る融資と法人保険の点検項目
専門家と点検する価値は、融資の話と保険の話を、同じ机の上で並べて見られることです。社内では、これらの話がばらばらに進みやすいためです。
4-1. 並べて確かめる4つの項目
- 借入の残高、返済の予定、金利の種類が分かる返済予定表
- 保険証券に書かれた保障額、保険期間、受取人、契約者と被保険者
- 質権が設定されているかどうか
- 保険料の年間の負担と、決算書での見え方
この4つを1枚の表に並べると、借入と保障のずれ、質権の有無、保険料の重さが一度に見えます。
表は、社長、経理担当者、顧問税理士の三者で共有します。社長は契約者である会社の代表として判断する立場なので、第三者の目で確かめる場を作ります。
4-2. 経営者・金融機関・税理士・保険担当者の役割
| 立場 | 主に見ること |
| 経営者 | 万一のあとに会社が必要とする資金と、最終の判断 |
| 金融機関 | 融資の条件、質権の設定、保証の扱い |
| 顧問税理士 | 保険料の経理処理、決算書での見え方 |
| 保険担当者・FP | 保障額と保険料の過不足、解約・減額の手続き |
4-3. 筆者が大切にしていること
筆者は、社長が守るものは、ご家族だけではないと考えています。従業員と、そのご家族の暮らしも、社長が守っているものです。
融資の面談で保険を勧められた日も、会社と人を守るという目的に立ち返る機会のひとつです。商品の話の前に、守りたい人のお話を先に伺います。
要するに、点検は、返済予定表、保険証券、質権の有無、保険料の負担の4つを並べて進めます。
5. 今週できる借入と保険の棚卸し3ステップと、失敗の場面
今週できる一歩は3つです。どれも、金融機関に返事をする前にできます。あわせて、融資と保険を結び付けたときに起きやすい失敗を4つの場面で整理します。
5-1. 今週中にできる3ステップ
- 返済予定表を取り出し、借入の残高と返済の終わる時期を書き出す
- 保険証券を取り出し、保障額と保険期間、質権の有無を書き込む
- 金融機関に求められた内容を、書面かメールで確認する依頼を出す
この3つで、借入と保障のずれと、求められている内容が見えてきます。加入や見直しをするかどうかは、顧問税理士と保険担当者と相談して決めます。
5-2. 融資の条件に合わせて加入し、保険料が資金繰りを圧迫する場面
たとえば、社長が融資の面談で保険の加入を求められ、その場で保障額の大きい契約に入ったとします。
融資の実行の月から、毎月の返済に保険料が加わります。決算の打合せで、経理担当者が保険料の年間の負担を集計すると、運転資金に余裕がなくなっていると気づきます。毎月の返済日に、運転資金として使える残高が保険料の分だけ足りなくなります。社長は、面談で返事をする前に、保険料の年間負担を資金繰り表に載せて確かめておきます。経理担当者は、載せた結果を社長に報告します。
5-3. 借入が減っても保障額を見直さず、保険料が重いままになる場面
たとえば、融資を受けた当時に、借入の残高にあわせて保障額を決めたとします。
その後、返済が進んで借入が減っていきます。次の融資の更新時に、経理担当者が返済予定表と保険証券を並べると、借入の残高より保障額のほうが大きく残っていることに気づきます。更新の面談で保障額を見直さない限り、借入より大きい保障額の保険料を、毎月支払い続けます。社長は融資の更新時を、保障額を見直す機会にします。減らしすぎて不足にならないよう、保険担当者と、万一のあとに必要な資金を確かめます。
5-4. 質権が付いたまま見直しに入り、手続きが止まる場面
たとえば、保険料が重いと感じた社長が、契約の減額を決めたとします。
減額の連絡を保険会社に入れた社長は、契約に質権が設定されていることを、その連絡の場で知らされます。質権が設定されていると、金融機関の承諾や所定の書類がそろうまで、減額の手続きが進まないことがあります。社長は、見直しを決める前に、質権の有無を確かめます。金融機関の承諾が要るかどうかは、保険会社と金融機関の両方に確認します。
5-5. 借入の返済分だけに合わせて減額し、保障の空白が生まれる場面
たとえば、社長が、借入の返済資金だけを目安にして、保障額を借入の残高まで下げたとします。
万一のあと、経理担当者が翌月の給与と取引先への支払いの予定を確かめると、借入は返せても、給与や支払いに充てる資金が残らないと気づきます。保障額を借入の残高まで下げると、万一のあとに従業員の給与や取引先への支払いに充てる資金が足りなくなります。社長は減額する前に、給与や固定費も含めて、万一のあとに必要な資金を書き出して確かめます。
要するに、融資の条件に合わせて入れば保険料が資金繰りを圧迫し、見直さなければ過剰が続き、質権の確認が遅れれば手続きが止まり、下げすぎれば保障の空白が生まれます。削りすぎも入りすぎも避け、確かめてから決めます。
6. 融資と法人保険のよくある質問
Q1. 金融機関に保険の加入を求められたら、断れませんか。
断るかどうかは、求められている内容と、断った場合の取扱いを確かめてから決めます。加入を求められる場合の対応は、金融機関によって異なります。その場で返事をせず、求められている内容と、断った場合の取扱いを担当者に確認します。確認した内容は、書面かメールで残します。
Q2. 融資を受けるために、保険に入ったほうがよいのでしょうか。
一概には言えません。保険は融資の条件としてではなく、万一のあとに会社が必要とする資金から考えます。加入をお勧めするものではなく、目的を整理してから判断します。
Q3. 質権とは何ですか。
融資の担保として、保険金や解約返戻金を受け取る権利に設定する担保の権利です。返済が滞った場合などに、質権者の金融機関が、その権利から優先して回収できます。質権が設定された契約は、解約や減額などの手続きで、金融機関の承諾や保険会社所定の書類が必要になることがあります。詳細は、保険会社と金融機関に確認します。
Q4. 経営者保証がある場合、保険に入れば保証はなくなりますか。
保険に入ったからといって、保証がなくなるわけではありません。経営者保証については、日本商工会議所と全国銀行協会の研究会が公表した、経営者保証に関するガイドラインがあります。(出所:経営者保証に関するガイドライン研究会、中小企業庁・金融庁の公表資料)金融機関との話し合いは、保険とは別に進めます。
Q5. 借入が減ったら、保障額も下げたほうがよいですか。
借入が減って保障額が大きく残っていれば、過剰の可能性があります。ただし、借入の返済資金以外に、従業員の給与や取引先への支払いなどの必要もあります。下げすぎて不足にならないよう、万一のあとに必要な資金を確かめてから決めます。
Q6. 保険料は経費になりますか。
契約の種類によって異なります。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。最高解約返戻率が50%を超えない契約や、終身保険・養老保険などは、この通達の区分とは別の取扱いです。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)個別の判断は、税理士の領域です。
7. まとめ|融資と法人保険は、目的・金額・条件・手続きの順に確かめる
- 金融機関に加入を求められたときの落とし穴は、目的が融資の条件だけになること、借入の残高と保障額がずれること、質権が付いたまま手続きが止まることの3つです。
- 提案を受けたら、目的、金額、条件、手続きの順に確かめます。その場で返事をせず、持ち帰ってよいのです。
- 入りすぎれば保険料が資金繰りを圧迫し、削りすぎれば借入の返済資金が不足します。
- 税務の個別判断は税理士の領域です。経営者・金融機関・税理士・保険担当者の役割を分けて見ます。
筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。見直したほうがよい場合も、増やさないほうがよい場合も、正直にお伝えします。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。借入と保険の並びを見ながら、資金の流れを一緒に整理します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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