子どもの病気と親の介護が重なった時期に、女性社長が数週間、会社に出られなくなる場面を思い浮かべてください。

たとえば、月末が近づくころ、顧問税理士から「社長が数週間動けない場合、支払いと資金の手当てはどなたが進めますか」と聞かれたとします。社長は、従業員の給与は払えるはずだと考えています。ただ、振込の承認ができるのは社長だけで、金融機関との連絡も社長が一人で担っているとします。経理担当者は、社長に確認できないまま、支払日を迎えることになるかもしれません。

育児や介護は、性別を問わず経営者に起こります。この記事では、会社の連絡や承認が社長に集まっている場面を例に、動けない期間の会社の資金を整理します。法人保険は、その備えのひとつです。

この記事は、女性社長が育児や介護で動けないときに、会社の資金について先に決めておきたい3つのポイントを整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

加入をお勧めする記事ではありません。会社の支払いと、動かす人と、保険と手元資金の分担を、先に言葉にするための記事です。

結論

  • 女性社長が動けない期間の会社の資金で、先に決めたいポイントは3つです。出ていく資金を洗い出すこと、資金を動かす人と権限を決めること、保険で備える部分と手元資金で備える部分を分けることです。
  • 社長が動けない期間は、数日から長期まで幅があります。期間を決めつけず、短期は手元資金、長期は保険や借入の備えと分けて考えます。
  • 備えを削りすぎれば支払いが止まり、備えすぎれば保険料が資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 女性社長が動けない期間の会社の資金で、先に決める3つのポイント
  • 備えが後回しになりやすい背景
  • 出ていく資金と、動かす人の整理の仕方
  • 今週できる支払いの棚卸し3ステップ
  • 備えが足りない・重すぎるときに起きる失敗の場面
タップできる目次

1. 女性社長が動けない時の会社の資金 先に決める3つのポイント

女性社長が動けない期間に備えて、先に決めるポイントは3つあります。資金、人、備え方の順に考えます。

1-1. ポイントその1:動けない期間も出ていく資金を洗い出す

社長が会社に出られない間も、会社の支払いは止まりません。従業員の給与、賃料、借入金の毎月の返済、取引先への支払いは、決まった日にやってきます。

最初に、これらを支払日ごとに1枚の表にします。支払う金額、支払日、支払う担当者、承認する人の4つを並べます。たとえば、社長だけが振込を承認できる設定のままだとします。支払日の前に経理担当者が一覧を見ても、承認できる人がほかにいないと分かり、振込を実行できません。支払う金額、支払日、担当者、承認する人を先に表にしておくと、この穴は動けなくなる前に見つかります。

表にすると、手元資金で何日分の支払いを賄えるかが見えてきます。日数は、会社の資金繰り表で確かめます。

1-2. ポイントその2:資金を動かす人と権限を決める

次に、社長が動けないときに、誰が何を決め、何を動かすのかを決めます。

見るのは、金融機関の口座の権限、振込の承認、契約書や書類への押印、金融機関や取引先への連絡の窓口です。配偶者や親族が役員になっている会社では、その役員が何を代行できるかを確かめます。役員がほかにいない会社では、代行できる人がいないことが分かります。

権限の決め方や代行の範囲は、会社の定款や社内の規程、金融機関の手続きによって異なります。顧問税理士や金融機関の担当者に、先に確かめます。

1-3. ポイントその3:保険で備える部分と手元資金で備える部分を分ける

短い期間は、手元資金で賄います。長い期間や、万一のときの大きな資金は、保険や借入の備えで考えます。

保険で備えるときは、契約によって、給付の対象となる条件や、給付が始まるまでの待ち期間、対象外となる場合が異なります。受け取れると思い込まず、保険証券と約款の説明で確かめます。

法人が契約者となって保険料を支払う場合の経理は、2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)個別の判断は、税理士の領域です。

事業保障の考え方は、社長の必要保障額 会社の万一資金を出す4つのポイントでも整理しています。

要するに、先に決めるポイントは、出ていく資金の洗い出し、資金を動かす人と権限、保険と手元資金の分担の3つです。

2. 動けない時の備えが後回しになりやすい背景

備えが後回しになる背景には、社長への集中と、相談先の分かれ方、見えにくい支払いがあります。代表的なものを3つ挙げます。

2-1. 決めること、動かすことが社長に集中している

小さな会社では、契約、資金、金融機関との連絡が、社長一人に集まっていることがあります。普段は問題がなくても、社長が動けない間は、これらが同時に止まります。

2-2. 経営と家庭の相談先が分かれている

会社のことは顧問税理士、保険のことは保険の担当者、家庭のことは家族と、相談先が分かれています。動けない期間の資金は、この3つにまたがるため、どこでも話題になりにくくなります。

相談先の役割分担は、法人保険の相談先 税理士と担当者の役割分担 3つのポイントでも整理しています。

2-3. 支払いの全体像が見えていない

毎月の支払いは、引落しや自動振込で動いています。そのため、動けない期間に何がいつ出ていくのかを、一覧で見たことがない場合があります。

要するに、後回しになるのは、社長に集中していること、相談先が分かれていること、支払いの全体像が見えていないことが重なるためです。

3. 動けない期間の資金を整理する進め方と、保険の位置づけ

整理の進め方は、期間の長さで備えを分けることです。期間ごとに、向く備えが変わります。

3-1. 期間で分ける

動けない期間 主な備え 先に決めること
短い期間 手元資金、支払いの代行体制 支払日ごとの担当者と承認する人
長い期間 借入の枠、保険、役員報酬の見直し 金融機関への連絡、保険の給付条件の確認
万一のとき 事業保障の保険、借入金の返済資金 必要な資金の額と、受取人

期間の長さは、前もって決められません。短い期間の備えを厚くしておくと、長い期間の判断を落ち着いて考えられます。

3-2. 保険を使うときの確かめ方

保険で備える場合は、次の3つを確かめます。給付の対象となる条件、給付が始まるまでの待ち期間、保険金の受取人です。受取人が会社なら会社の資金に、社長本人なら社長の生活の資金になります。目的に合うかどうかを、先に決めます。

育児や出産、介護に関わる公的な給付や休業の扱いは、役員かどうか、加入している制度によって異なります。断定せず、加入している制度を年金事務所や社会保険労務士に確かめます。

ここで触れた税務は、いずれも一般的な考え方です。個別の損金の判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。

短い期間は手元資金と代行体制、長い期間と万一は保険や借入と、期間で役割を分けると、備えの過不足を見つけやすくなります。

要するに、動けない期間の備えは、期間で分けます。保険は、給付の条件と待ち期間と受取人を確かめて、手元資金とあわせて使います。

ここまでで、動けない期間の資金を期間で分ける考え方を解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

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4. FP1級が見る社長不在時の資金の点検項目

専門家と点検する価値は、資金、人、保険を同じ机で並べて見られることです。一人で考えると、どれかが抜けやすくなります。

4-1. 並べて確かめる4つの項目

  • 支払日ごとの金額、担当者、承認する人を並べた支払いの一覧
  • 金融機関の口座の権限、代行できる人、連絡の窓口
  • 保険証券の給付の条件、待ち期間、受取人、保険料の年間の負担
  • 借入の返済予定表と、手元資金で賄える日数

この4つを1枚の表に並べると、動けない期間に止まるものと、足りない資金が見えやすくなります。

表は、社長、経理担当者、顧問税理士の三者で共有します。社長は自分のことを判断する立場でもあるため、第三者の目で確かめる場を作ります。

4-2. 経営者・税理士・保険担当者の役割

立場 主に見ること
経営者 動けない間に守りたいことと、最終の判断
顧問税理士 資金繰り、保険料の経理、役員報酬の扱い
保険担当者・FP 給付の条件、待ち期間、受取人、保険料の負担
金融機関 口座の権限、借入の返済の相談窓口

4-3. 筆者が大切にしていること

筆者は、社長が守るものは、ご自身やご家族だけではないと考えています。従業員と、そのご家族の暮らしも、社長が守っているものです。

社長が動けない期間も、会社にとっての大切な「その時」のひとつです。保険の話の前に、その間に誰を、何から守りたいのかを、先に伺います。

要するに、点検は、支払いの一覧、口座の権限、保険の給付条件、借入と手元資金の4つで進めます。

5. 今週できる支払いの棚卸し3ステップと、失敗の場面

今週できる一歩は3つです。どれも、保険を決める前にできます。あわせて、備えが足りないときや重すぎるときに起きやすい失敗を4つの場面で整理します。

5-1. 今週中にできる3ステップ

  1. 来月の支払いを、日付ごとに、金額、担当者、承認する人とあわせて書き出す
  2. 金融機関の口座の権限と、代行できる人を確かめる
  3. 手元資金で賄える日数を、資金繰り表で確かめ、顧問税理士に共有する

この3つで、動けない期間に止まるものが見えてきます。保険で備えるかどうかは、その後に決めます。

5-2. 振込の承認が社長だけで、支払いが止まる場面

たとえば、女性社長が育児や介護でしばらく動けなくなり、振込の承認ができるのが社長だけだったとします。

月末の支払日の前に、経理担当者が支払いの一覧を見て、承認できる人がほかにいないことに気づきます。承認できる人が社長だけの会社では、給与や取引先への支払日に、振込が実行できません。社長は、動けなくなる前に、承認できる人を決めます。経理担当者は、承認の手順を、金融機関の担当者に確かめます。

5-3. 手元資金の日数を数えておらず、資金が足りなくなる場面

たとえば、社長が、動けない期間は短いと見込んで、手元資金の日数を数えていなかったとします。

動けない期間が延びたとき、経理担当者が資金繰り表を見て、翌月の給与と借入金の返済に足りないと気づきます。手元資金で賄える日数が分からないと、支払いが重なる月に、給与と借入金の返済の資金が足りなくなります。社長は、動けなくなる前に、資金繰り表で賄える日数を確かめます。

5-4. 保険の給付条件を確かめず、受け取れると思い込む場面

たとえば、社長が、働けなくなったときに備えた保険に入っているから大丈夫だと考えていたとします。

実際に動けなくなったとき、保険の担当者に連絡して、給付の対象となる条件と待ち期間に当てはまらないことが分かります。給付の条件や待ち期間に当てはまらない場合は、給付されず、動けない期間の会社の資金に使えません。社長は、動けなくなる前に、保険証券と約款の説明で、給付の条件と待ち期間を確かめます。

5-5. 備えすぎて、保険料が資金繰りを圧迫する場面

たとえば、社長が、動けない期間が不安だからと、保険を何本も重ねたとします。

決算の打合せで、経理担当者が保険料の年間の負担を集計すると、毎月の返済に保険料が加わり、運転資金が細くなっていると気づきます。備えを重ねすぎると、毎月の返済日の前に、運転資金の残高が薄くなります。社長は、手元資金で賄う部分を先に決め、保険で備える部分を必要な分だけにします。

要するに、承認者が社長だけなら支払いが止まり、手元資金の日数を数えなければ資金が足りなくなり、給付条件を確かめなければ保険が使えず、備えすぎれば保険料が重くなります。削りすぎも備えすぎも避け、先に確かめます。

6. 女性社長の資金の備えのよくある質問

Q1. 社長が動けない間、会社の支払いはどうなりますか。

給与や賃料、借入金の返済などの支払日は、社長が動けなくても変わりません。振込の承認や金融機関との連絡を誰が担うのかを、先に決めておきます。

Q2. 手元資金は、どのくらい用意すればよいですか。

会社によって異なります。毎月の支払いを一覧にして、資金繰り表で、手元資金で賄える日数を確かめます。そのうえで、不足する部分を、保険や借入の備えで考えます。

Q3. 育児や介護で休むときの公的な給付は、役員でも受けられますか。

役員かどうか、加入している制度によって扱いが異なります。断定できないため、加入している制度を、年金事務所や社会保険労務士に確かめます。

Q4. 保険で、動けない期間の資金を備えられますか。

契約によって、給付の対象となる条件、給付が始まるまでの待ち期間、対象外となる場合が異なります。保険証券と約款の説明で確かめます。加入をお勧めするものではありません。

Q5. 保険料は経費になりますか。

契約の種類によって異なります。2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)個別の判断は、税理士の領域です。

Q6. 配偶者や親族を役員にしておけば安心ですか。

一概には言えません。役員になっても、口座の権限や契約の代行ができるとは限りません。何を代行できるかは、定款、社内の規程、金融機関の手続きで異なるため、先に確かめます。

7. まとめ|女性社長が動けない期間の資金は、資金・人・備え方の順に決める

この記事のまとめ
  • 女性社長が動けない期間に備えて先に決めるポイントは、出ていく資金の洗い出し、資金を動かす人と権限、保険と手元資金の分担の3つです。
  • 期間で備えを分けます。短い期間は手元資金と代行体制、長い期間と万一は保険や借入で考えます。
  • 備えを削りすぎれば支払いが止まり、重ねすぎれば保険料が資金繰りを圧迫します。
  • 税務の個別判断は税理士の領域です。経営者・税理士・保険担当者・金融機関の役割を分けて見ます。

筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。増やさないほうがよい場合も、正直にお伝えします。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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