創業から会社を支えてきた社長の隣には、取締役として名前を連ねる奥様がいます。専務には、ご長男が就いています。

ある日、社長が顧問税理士に尋ねます。「私の退職金のことは考えてきたが、家内や息子の分はどう考えればよいのだろう」。

家族が役員を務める会社では、社長の退職金だけを考えて、家族役員の分は後回しになりがちです。ところが、役員である以上、家族の退職金も会社の制度として扱う必要があります。

この記事では、社長の家族が役員を務める会社が、家族役員の退職金をどう準備し、どう公平に整えるかを解説します。

解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 家族役員の退職金も、社長の分と同じく、規程と決議にもとづいて計画的に準備します。
  • 整える判断軸は、規程の共通ルール・支給の公平性・実態と記録の3つです。
  • 計画がないと、いざというときに金額が揉めたり、損金の扱いを問われたりします。税務の個別判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 家族役員の退職金で、会社が困りやすい3つの場面
  • 家族だからこそ曖昧になりやすい理由
  • 規程・公平性・実態と記録の3つの判断軸
  • 備えが足りない場面と、手厚くしすぎる場面の失敗例

1. 家族が役員を務める会社の退職金で起きやすい3つの場面

家族役員の退職金は、退任の話が出たとき・金額を決めるとき・家族の間で比べられるときの3つの場面で困りごとが出ます。順に見ていきます。

1-1. 家族の退任が、急に決まる

家族役員の退任は、社長の勇退と違い、体調や家庭の事情で急に決まることがあります。

たとえば、社長の奥様が体調を崩し、取締役を退くことになったとします。経理担当者に「退職金はどうなるのか」と尋ねても、規程も積み立てもなく、答えられません。

社長の分だけ準備していた会社では、家族の分は何も整っていません。

1-2. 金額を、感覚で決めてしまう

身内だからと、金額を話し合いだけで決める会社があります。

ところが、役員退職給与は、不相当に高額な部分が損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項、同法施行令第70条第2号)

判断は、在任期間、退職の事情、同種同規模の法人の支給状況といった要素で行われます。感覚で決めた金額は、これらに照らして説明できるとは限りません。

1-3. 家族の間で、比べられて揉める

社長、奥様、ご長男、ご次男と、家族の役員が複数いる会社では、支給額の違いが不満のもとになります。

たとえば、社長の退職金の水準だけが高く、他の家族役員の水準が決まっていないと、「なぜ自分の分はこの額なのか」と問われます。

理由を説明できる基準がないと、金額の話が感情の話に変わります。

要するに、急な退任・感覚での金額・家族間の比較の3つが、家族役員の退職金で起きやすい場面です。

2. 家族役員の退職金が曖昧になりやすいわけ

曖昧になるのは、身内への遠慮と、社長中心で考える習慣の2つが重なるためです。順に説明します。

2-1. 身内だからこそ、話題にしにくい

家族の間でお金の話をするのは、気が引けるものです。

「家族なのだから、そのときに考えればいい」「話し合えば分かる」と、先送りされます。

ところが、先送りのまま退任の日が来ると、準備の時間がなく、感情の面でも話しにくくなります。家族だからこそ、基準を言葉にして、先に決めておくほうが穏やかに進みます。

2-2. 退職金の話が、社長中心で進む

役員退職金の準備というと、まず社長の勇退が頭に浮かびます。

社長の分に目が向く間に、他の家族役員の分は、規程にも財源にも含まれないままになります。

規程の対象を「役員全員」と書いていても、実際に支給の水準や計算の方法が決められていないことがあります。対象と方法の両方を確かめます。

要するに、身内への遠慮と社長中心の発想が、家族役員の退職金を曖昧にします。

3. 家族役員の退職金を整える3つの判断軸

規程の共通ルール・支給の公平性・実態と記録の3つの判断軸で、家族役員の退職金を整えます。まず全体を表で整理します。

判断軸 確かめること 主に相談する相手
1. 規程の共通ルール 役員全員に同じ計算の考え方が書かれているか、決議の手順が整っているか 社長・税理士
2. 支給の公平性 在任期間や役割の違いを、説明できる基準で反映しているか 社長・家族役員・税理士
3. 実態と記録 実際の職務と貢献、決議の議事録、支払いの記録 経理担当者・税理士

3-1. 判断軸1|規程に共通のルールを置く

取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)

家族役員のなかに監査役がいる場合は、監査役の報酬等について、会社法第387条第1項が定めています。

決議のたびに金額を話し合うのではなく、役員全員に通じる計算の考え方を規程に置きます。社長と家族役員で、同じ式を使い、役位や在任期間で差をつけるのが基本の形です。

規程の整え方は、役員退職金の規程と株主総会決議を整える方法で説明しています。

3-2. 判断軸2|支給の公平性を説明できる形にする

家族役員の退職金は、在任期間、担当する役割、会社への貢献を踏まえて決めます。

金額の違いは、「家族だから」ではなく、役割や在任期間の違いとして説明できることが大切です。説明できる基準があると、税務の面でも、家族の間でも、納得が得られやすくなります。

損金に算入できるかどうかは、不相当に高額かどうかで判断されます。(出所:法人税法第34条第2項)具体的な水準は、顧問税理士と一緒に確かめます。

3-3. 判断軸3|実態と記録を残す

退職金を支払う前提には、実際に役員として職務を行っていた実態があります。

家族役員の場合、名前だけが役員に入っていると、実態との関係を問われることがあります。誰がどの業務を担っているかを、日頃から整理しておきます。

あわせて、株主総会の議事録、支払いの記録、規程の改定履歴を残します。損金算入の時期は、原則として決議等で金額が確定した日の属する事業年度です。(出所:法人税基本通達9-2-28)

進め方の流れは、次の順が目安です。

  1. 役員全員の一覧を作り、就任時期と担当を書き出します。
  2. 規程が全員に共通の計算の考え方になっているかを確かめます。
  3. 家族役員ごとの退任の目安と、財源の候補を整理します。
  4. 顧問税理士に、金額の水準と損金の扱いを確認します。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順

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要するに、共通の規程・説明できる公平性・実態と記録の3つが、家族役員の退職金を支えます。

4. 家族役員の退職金で起きやすい失敗

失敗は、備えが足りない場合と、手厚くしすぎる場合の両方で起きます。場面を対にして見ます。

4-1. 備えが足りない場面

  • 社長の分だけ準備する:たとえば、社長が自分の退職金の財源だけを整えたとします。奥様が退任するとき、経理担当者が急いで資金を工面することになります。
  • 家族の分は口約束で済ませる:たとえば、社長が「家内の分は、そのときに考える」と伝えたとします。数年後、金額の認識が食い違い、家族の間で揉めます。
  • 名前だけの役員を放置する:たとえば、実際には会社の業務に関わっていない家族が、役員に名を連ねているとします。退職金を払う段になって、その支給の根拠を説明できません。

4-2. 手厚くしすぎる場面

  • 家族への思いで金額を上げすぎる:たとえば、社長が家族への感謝から、高い水準を設定したとします。不相当に高額な部分は損金にならず、会社の負担が重くなります。
  • 全員分を一度に積み上げようとする:たとえば、社長が全員の財源を同時に大きく積み上げたとします。毎期の資金繰りが苦しくなり、他の投資ができなくなります。

金額は、役割と在任期間で説明できる範囲に収め、財源は退任の見込みが近い順に整えます。

要するに、社長の分だけの備えも、家族への思い入れによる過剰も、後で会社と家族の負担になります。

5. 今週できる家族役員の退職金チェックリスト

今週のうちに、次の5項目を確かめます。

  • 役員全員の名前、就任時期、担当している業務を一覧にしましたか。
  • 役員退職慰労金規程が、家族役員にも同じ考え方で適用される書き方か確かめましたか。
  • 家族役員ごとに、退任の目安の時期を、本人と話しましたか。
  • 社長以外の家族役員の分の財源を、誰が・どこで管理しているか確かめましたか。
  • 顧問税理士に、家族役員の支給水準について相談する日を決めましたか。

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要するに、役員の一覧・規程・本人との対話・財源の管理・税理士への相談が、今週の5つの確認です。

6. よくある質問

Q1. 社長の家族が役員なら、退職金は自由に決めてよいですか。

自由とはいえません。不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)在任期間や退職の事情、同種同規模の法人の支給状況をふまえて、説明できる金額にします。

Q2. 家族役員の退職金も、株主総会の決議が必要ですか。

取締役であれば、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)監査役は、会社法第387条第1項にもとづきます。

Q3. 家族役員と社長で、退職金の計算方法を変えてもよいですか。

役位や在任期間、役割の違いを反映するのは自然です。ただし、「家族だから」という理由ではなく、説明できる基準で差をつけます。規程に共通の考え方を置き、その中で違いを表します。

Q4. 実際に会社で働いていない家族が役員になっている場合は、どうなりますか。

実態との関係を問われる場合があります。誰がどの職務を担っているかを整理し、個別の扱いは顧問税理士に確認してください。

Q5. 家族役員の退職金の財源は、社長の分と一緒に準備できますか。

一緒に整理することはできます。退任の見込みが近い順に、財源の候補を並べて決めます。全員分を同時に厚くすると、毎期の資金繰りが苦しくなる場合があります。

Q6. 家族の間で金額が揉めないために、何をしておけばよいですか。

計算の考え方を規程に書き、役員の間で共有します。金額そのものより、決め方に納得できるかどうかが大切です。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 家族役員の退職金も、社長の分と同じく、規程と決議にもとづいて計画的に準備します。
  • 判断軸は、規程の共通ルール・支給の公平性・実態と記録の3つです。
  • 不相当に高額な部分は損金になりません(出所:法人税法第34条第2項)。
  • 備えを社長の分だけにせず、家族への思いで水準を上げすぎない点にも気をつけます。個別の税務判断は税理士の領域です。

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筆者は、社長にとっての『その時』は突然訪れるとは限らず、勇退の日もそのひとつだと考えています。長年会社を支えてきた社長が、準備した財源で安心して次の暮らしに進めるよう、数字に載らない想いも伺いながら一緒に整理します。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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