決算の打合せが終わったあと、社長がぽつりと言う場面があります。「そろそろ、自分の退職金のことも考えないとな」。

経理担当者は、手元の資料をめくります。役員退職慰労金の規程は、見当たりません。弔慰金の取り決めも、書面にはありません。

法人保険の相談では、「規程がないまま年数だけが過ぎてしまった」というお話をよくいただきます。

役員退職金は、金額が大きくなりやすく、決め方があいまいなままでは、会社の内でも外でも説明に困ります。

この記事では、役員退職慰労金規程と弔慰金規程を整えていない会社が、最初に確かめる4つの整え方を解説します。

解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

結論

  • 規程がなくても退職金は支払えますが、金額の根拠と決め方を説明できる形にしておくことが大切です。
  • 確かめるのは、決議の手順・計算方法・金額の相当性・弔慰金の取扱いの4つです。
  • 不相当に高額な部分は損金にならないため、計算方法の明確化が重要です。個別の判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 規程がない会社で、実際に困る3つの場面
  • 規程の整備が後回しになりやすい理由
  • 最初に確かめる4つの方法と、進め方の手順
  • 備えが足りない場合と、重すぎる場合の失敗場面

1. 役員退職慰労金規程がない会社で起きやすい3つの場面

規程がないと、勇退の話が出た日・決算の時期・万一の日の3つの場面で困ります。順に見ていきます。

1-1. 勇退を切り出された日に、金額の根拠がない

社長が勇退の時期を口にしたとします。専務は「いくらを目安にすればよいのか」を、すぐに答えられません。

過去に退任した役員の支給額も、記録が残っていません。比べる物差しがなく、話し合いが感覚に頼ってしまいます。

金額を決める前に、決め方を決めておく必要があります。

1-2. 決算の時期に、経理担当者が先を読めない

経理担当者は、支払いの時期と金額の見込みが分からなければ、資金繰り表に載せられません。

社長の退任が近づいても、数字を置けないまま決算を迎えることがあります。

退職金は一度に大きな支払いになるため、見込みがないと、支払いの月に現預金が足りなくなるおそれがあります。

1-3. 万一の日に、弔慰金の額で社内の意見が割れる

役員に万一があったとき、遺族に弔慰金を支払うかどうか、いくらにするかを、残った役員で決めることになります。

取り決めがなければ、「前の役員のときはどうだったか」という記憶頼みの話し合いになります。

悲しみの中で金額を巡る意見が割れると、遺族との関係にも影響します。

要するに、規程がないと「いくら」「いつ」「誰が決めるか」の3つが、その場の判断になります。

2. 役員退職慰労金規程の整備が後回しになる2つの理由

後回しになる理由は、社長自身に関わる話であることと、「そのときに考えればよい」という気持ちの2つです。整理します。

2-1. 社長のことなので、社内から切り出しにくい

役員退職金の規程は、社長の退職金にも直接関わります。

専務や経理担当者の側から「規程を作りましょう」とは、言い出しにくいものです。

社長が忙しさを理由に先送りすると、そのまま年数だけが過ぎます。

2-2. 「そのときに話し合えばよい」と思ってしまう

身内に近い関係で経営してきた会社ほど、「そのときは皆で話し合えば決まる」と考えがちです。

ただ、退職金は株主や税務の目線でも見られる支払いです。話し合いの結果だけでなく、決め方の筋道を示せるかどうかが問われます。

筋道を書面にしたものが、規程の役割です。

要するに、言い出しにくさと先送りの気持ちが、規程の不在を長引かせます。

3. 役員退職慰労金規程を整えるときに確かめる4つの方法

確かめるのは、決議の手順・計算方法・金額の相当性・弔慰金の取扱いの4つです。まず全体を表で整理します。

チェック項目 決めておくこと 主な根拠
1. 決議の手順 誰の決議で、いつ金額を確定させるか 会社法第361条第1項・第387条第1項
2. 計算方法 在任期間や役位などから、金額を導く考え方 法人税法第34条第2項
3. 金額の相当性 同種・同規模の会社の状況や退職の事情との釣り合い 法人税法施行令第70条第2号
4. 弔慰金の取扱い 死亡時の支給の有無と、金額の考え方 相続税法基本通達3-20

3-1. 項目1|決議の手順を決める

取締役の報酬や退職慰労金は、定款に定めがなければ、株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)

監査役の報酬等は、会社法第387条第1項に定めがあります。

損金に算入する時期は、原則として、株主総会の決議等で金額が確定した日の属する事業年度です。(出所:法人税基本通達9-2-28)

規程には、決議の機会と、取締役会などで具体的な金額を決める流れを書いておきます。

3-2. 項目2|計算方法を明文化する

役員退職給与のうち、不相当に高額な部分の金額は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)

だからこそ、金額を導く考え方を、あらかじめ書面にしておく意味があります。

在任期間・役位・最終の報酬の水準など、何をどう組み合わせて金額を出すのかを、規程に書きます。具体的な倍率の水準は、会社ごとの事情で変わるため、顧問税理士と相談して決めます。

3-3. 項目3|金額の相当性を裏づける

金額が相当かどうかは、在任期間・退職の事情・同種で同規模の法人の支給状況などを踏まえて判断されます。(出所:法人税法施行令第70条第2号)

規程に沿って計算した金額であることは、相当性を説明する材料のひとつになります。ただし、規程があるだけで認められるわけではありません。

個別の判断は、顧問税理士に事前に確認します。

3-4. 項目4|弔慰金の取扱いを決める

役員が亡くなった場合、遺族に弔慰金を支払う会社もあります。

相続税の扱いでは、弔慰金は業務上の死亡で普通給与の3年分、業務外の死亡で6か月分までの範囲が目安になります。(出所:相続税法基本通達3-20)

支給の有無と考え方を規程に書いておけば、万一の日に迷う場面が減ります。詳しくは、従業員の死亡退職金・弔慰金規程を作るチェック項目でも整理しています。

規程づくりは、次の手順で進めます。

  1. 現状を集める:定款、過去の決議の記録、過去の支給の実績を1か所に集めます。
  2. 考え方を決める:社長と専務で、計算方法の骨組みを話し合います。
  3. 専門家に確認する:金額の相当性は顧問税理士に、手続きは必要に応じて弁護士に確かめます。
  4. 書面にして決議する:規程の案を作り、必要な決議の手順を踏みます。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順

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要するに、決議・計算方法・相当性・弔慰金の4つを書面にすれば、金額の説明がしやすくなります。

4. 役員退職慰労金規程の現場で起きやすい2方向の失敗

失敗は、備えを削りすぎる方向と、規程を重く作りすぎる方向の2つがあります。対にして見ます。

4-1. 規程が薄すぎる、備えが足りない場面

  • 規程を作らないまま退任する:社長が勇退の直前になって金額を決めようとし、根拠となる書面がないため、専務が株主への説明に苦労します。
  • 計算方法が口約束のまま:社長の頭の中にだけ算式があり、経理担当者が支払いの見込みを立てられません。
  • 決議の記録を残していない:支給の時期になって、金額が確定した日を経理担当者が説明できず、損金に算入する事業年度の確認に時間がかかります。

4-2. 規程が重すぎる、備えが大きすぎる場面

  • 社長への手厚さだけを先に決める:社長が自分の退職金の水準を高く設定し、財源のめどが立たないまま、会社の資金繰りを圧迫します。
  • 他社の水準をそのまま写す:社長が知人の会社の考え方をそのまま取り入れ、自社の在任期間や業績と釣り合わなくなります。
  • 弔慰金を大きく定めすぎる:経理担当者が支払いの段階で、規程の金額が会社の資金に比べて重いと気づきます。

規程は、薄すぎても重すぎても、使いにくくなります。会社の規模と財源に合う形に、決算ごとに見直します。

要するに、規程は「何もない」と「重すぎる」の中間に、会社に合う水準があります。

5. 今週できる役員退職慰労金規程の確認チェックリスト

今週のうちに、次の5つを確かめます。難しい計算は要りません。

  • 役員退職慰労金規程と弔慰金の取り決めが、書面であるかを確かめた
  • 定款に、役員の報酬や退職慰労金に関する定めがあるかを確かめた
  • 過去に役員が退任したときの決議の記録と支給額を、1か所に集めた
  • 社長の勇退の時期の見通しを、社長と専務で話した
  • 金額の相当性について、顧問税理士に相談する日を決めた

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要するに、書類を集めて社長と話す。この2つが規程づくりの入口です。

6. よくある質問

Q1. 規程がなくても、役員退職金は支払えますか。

支払えますが、金額の根拠を説明できる状態にしておくことが大切です。取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)

Q2. 退職金は、どれだけでも損金になりますか。

不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)金額の相当性は会社ごとの事情で判断されるため、顧問税理士に確認してください。

Q3. 損金に算入するのは、支払った年度ですか。

原則として、株主総会の決議等で金額が確定した日の属する事業年度です。(出所:法人税基本通達9-2-28)実際の扱いは、顧問税理士に確認してください。

Q4. 弔慰金の規程は、役員退職金の規程と別に必要ですか。

別の規程にするか、同じ規程の中に定めるかは、会社の事情で決めます。大切なのは、支給の有無と金額の考え方が書面に残っていることです。相続税の扱いは、相続税法基本通達3-20に目安があります。

Q5. 規程を作ったあと、見直しは必要ですか。

必要です。会社の業績や役員の構成が変われば、前の水準が合わなくなることがあります。決算のたびに、規程と財源の状況が合っているかを確かめます。

Q6. 規程づくりは、誰に相談すればよいですか。

金額の相当性や損金の扱いは顧問税理士、手続きの法的な点は弁護士の領域です。FP1級は、財源や資金繰りの全体を並べて点検する立場でお手伝いできます。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 規程がなくても支払えますが、金額の根拠と決め方を説明できる形にしておくことが大切です。
  • 確かめるのは、決議の手順・計算方法・金額の相当性・弔慰金の取扱いの4つです。
  • 不相当に高額な部分は損金になりません(出所:法人税法第34条第2項)。
  • 規程は薄すぎても重すぎても使いにくくなるため、会社に合う水準を決算ごとに見直します。
  • 税務の個別判断・申告・経理処理は、税理士の領域です。

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筆者は、社長にとっての「その時」は突然訪れるとは限らず、勇退の日もそのひとつだと考えています。長年会社を支えてきた社長が、準備した財源で安心して次の暮らしに進めるよう、数字に載らない想いも伺いながら一緒に整理します。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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