【社長の備え】勤続年数が長い社長の退職金と控除 3つのポイント
創業から30年近く、会社を率いてきた社長が、経理担当者に尋ねる場面があります。
「これだけ長くやってきたのだから、退職金も相応の額になるはずだ。税金は、どうなるのだろう」。
経理担当者は、創業時の議事録や、当時の役員の就任の記録を探し始めます。古い書類は、思ったより見つかりません。
在任の年数が長い社長ほど、退職金の金額も、受け取るときの税金の計算も、年数の影響を大きく受けます。ところが、その年数の数え方や記録は、あいまいなまま残りがちです。
この記事では、勤続年数が長い社長が、退職金を考えるときの3つのポイントを解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 在任が長いほど、退職金の適正額を考える材料も、退職所得控除の額も大きくなります。
- 押さえるポイントは、控除の計算式が20年で変わること・適正額の考え方・長い在任の記録と財源の3つです。
- 金額の相当性や税額の計算は、個別の事情で変わります。税理士に確認してください。
この記事で分かること
- 在任が長い社長に起きやすい3つの場面
- 20年を境に変わる退職所得控除の計算式
- 3つのポイントと、進め方の手順
- 年数への頼りすぎと、準備の遅れという2方向の失敗場面
1. 勤続年数が長い社長の退職金で起きやすい3つの場面
記録を探す日・金額を考える日・支払いの原資を考える日の3つの場面で、長い在任ならではの悩みが出ます。順に見ていきます。
1-1. 就任時の記録が見つからない
退職金の計算では、役員としての在任の期間が基になります。
創業期の登記や議事録が散らばっていて、経理担当者が就任の時期を確かめるのに時間がかかる、という例があります。
期間があいまいだと、金額の根拠も、税金の計算も、土台が揺らぎます。
1-2. 「長くやったから高くて当然」と思ってしまう
在任が長いほど、功績は大きいと考えるのは自然なことです。
ただ、会社が払える額には限りがあります。損金に認められるかどうかも、年数だけでは決まりません。
社長の想いと、会社が説明できる金額の間に、差が出ることがあります。
1-3. 金額が大きくなり、支払いの原資が追いつかない
在任が長いと、適正と考えられる退職金の額も大きくなりやすくなります。
勇退の年になって財源を考え始めると、一度に払える資金が足りず、借入れの相談を急ぐことになります。
金額が大きい分、資金の準備には時間が必要です。
要するに、長い在任は、記録・金額の考え方・財源のすべてに影響します。
2. 退職所得控除の計算式が20年で変わる仕組み
退職所得控除は、勤続20年を境に計算式が変わり、長いほど控除額が増えやすい仕組みです。整理します。
2-1. 退職所得の基本の計算
退職所得は、「(収入金額-退職所得控除額)×2分の1」で計算します。(出所:所得税法第22条第2項、国税庁タックスアンサー No.2732)
収入金額は、会社から受け取る退職金の額です。そこから退職所得控除額を引き、残りの2分の1が課税の対象になります。
ただし、役員等としての勤続年数が5年を超えない場合の特定役員退職手当等には、2分の1の取り扱いはありません。(出所:国税庁)
2-2. 勤続20年を境に変わる控除額
退職所得控除額は、勤続年数が20年までの場合は、40万円に勤続年数を掛けた額です。最低額は80万円です。(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)
勤続年数が20年を超える場合は、800万円に、20年を超えた年数×70万円を加えた額になります。(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)
たとえば、勤続25年と仮定します。800万円に、5年分の70万円を加えた額が、計算上の控除額です。(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)
20年を超えた年数には、1年あたりの増え方が大きい計算式が適用されます。長く勤めた社長ほど、控除の恩恵を受けやすいのはこのためです。
実際に受け取る額に応じた税額の試算は、顧問税理士に依頼してください。
要するに、控除は20年までと20年超で計算式が違い、20年を超えると1年ごとの増え方が大きくなります。
3. 勤続年数が長い社長が押さえる3つのポイント
押さえるポイントは、年数を証拠で固めること・適正額を複数の目線で考えること・財源を早めに描くことの3つです。まず全体を表で整理します。
| ポイント | やること | 確かめる相手 |
| 1. 在任年数を固める | 就任・退任の日付と、役員としての期間を書類で確認する | 経理担当者・顧問税理士 |
| 2. 適正額を考える | 在任期間・退職の事情・同種同規模の法人の状況を並べる | 社長・顧問税理士 |
| 3. 財源を描く | 支払いの時期と、資金の出どころを見込む | 社長・経理担当者・FP1級 |
3-1. ポイント1|在任年数を書類で固める
退職所得控除の計算も、金額の説明も、勤続年数が基になります。
登記の記録、株主総会の議事録、就任の承諾書など、就任と退任の日付が分かる書類を集めます。
書類が足りない場合は、顧問税理士や司法書士に、どう補うかを相談します。
3-2. ポイント2|適正額を複数の目線で考える
役員退職給与のうち、不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項、同法施行令第70条第2号)
判断の要素は、在任期間・退職の事情・同種で同規模の法人の支給状況です。
在任が長いことは、その要素のひとつです。ただ、それだけで金額が決まるわけではありません。具体的な倍率は、会社ごとの事情で変わるため、顧問税理士に確かめます。
金額を決めるときは、規程と株主総会の決議が必要です。取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)
3-3. ポイント3|財源の見込みを早めに描く
退職金は、一度に大きな支払いになります。
勇退の時期から逆算して、会社の資金のうち退職金に充てられる分と、不足しそうな分を見積もります。
支払ったあとの資金繰りも、あわせて確かめます。詳しくは、役員退職金の規程と株主総会決議を整える方法も参考にしてください。
進め方は、次の手順です。
- 年数の書類を集める:就任・退任の日付が分かる書類を1か所にまとめます。
- 規程と決議を確かめる:規程の有無と、決議の手順を確認します。
- 適正額の目線を並べる:在任期間・退職の事情・同規模の法人の状況を整理します。
- 財源の見込みを描く:勇退の時期と、支払いの原資を見積もります。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、年数・適正額・財源の3つを順に固めれば、長い在任の退職金が整理しやすくなります。
4. 勤続年数が長い社長の退職金で起きやすい2方向の失敗
失敗は、年数に頼りすぎる方向と、準備が遅れる方向の2つがあります。対にして見ます。
4-1. 準備が足りない場面
- 年数の記録を整えないまま勇退を迎える:社長が勇退の直前に書類を探し、経理担当者が就任の日付の裏づけに時間を取られます。
- 財源の準備を勇退の年から始める:社長が金額の大きさに驚き、一度に払える資金が足りず、借入れを急いで相談することになります。
- 規程や決議を後回しにする:支払いの時期が近づいても、金額を説明する書面がなく、専務が株主への説明に苦労します。
4-2. 年数に頼りすぎて重くなる場面
- 「長いから高くて当然」と金額を決める:社長が年数だけを根拠に金額を設定し、不相当に高額と判断される部分が出るおそれがあります。
- 控除が大きいことだけを見て金額を膨らませる:社長が手取りを優先して額を上げ、会社の資金繰りが苦しくなります。
年数は大切な材料ですが、それだけで金額を決めると、会社も社長も困ります。
要するに、年数は土台にして、相当性と財源を合わせて考えます。
5. 今週できる勤続年数と退職金の確認チェックリスト
今週のうちに、次の5つを確かめます。
- 社長の役員としての就任日が分かる書類を、1か所に集めた
- 役員退職慰労金規程の有無と、決議の手順を確かめた
- 勇退の時期の想定を、社長と専務で話した
- 退職金の支払いに使える資金と、不足しそうな分を、おおまかに書き出した
- 税額の試算と金額の相当性を、顧問税理士に相談する日を決めた
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要するに、書類を集め、時期を話し、税理士の予定を押さえる。この3つが入口です。
6. よくある質問
Q1. 勤続年数が長いと、退職金の税金は軽くなりますか。
退職所得控除額が大きくなるため、課税の対象となる額が小さくなる場合があります。20年を超えると、計算式が変わります。(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)実際の税額は、顧問税理士に試算してもらってください。
Q2. 勤続20年を超えると、控除額はどう変わりますか。
20年までは40万円に勤続年数を掛けた額、20年を超える分は800万円に70万円×(勤続年数-20年)を加えた額です。(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)
Q3. 在任が長ければ、退職金はいくらでも損金になりますか。
いくらでもとは限りません。不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)在任期間・退職の事情・同種同規模の法人の状況などを踏まえて判断されます。
Q4. 創業時の就任の記録が見つかりません。どうすればよいですか。
登記の記録や議事録、過去の申告書類などで補える場合があります。補い方は状況によって異なるため、顧問税理士や司法書士に相談してください。
Q5. 退職金は株主総会の決議が必要ですか。
取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)決議の手順は、規程とあわせて整えます。
Q6. 勇退の時期が決まっていなくても、準備は始められますか。
始められます。時期が決まる前に、年数の記録・規程・財源の見込みを整えておくと、決まったあとの動きが早くなります。
7. まとめ
- 在任が長いほど、退職金の適正額を考える材料も、退職所得控除も大きくなります。
- 退職所得控除は20年を境に計算式が変わります(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)。
- 押さえるポイントは、在任年数を書類で固める・適正額を複数の目線で考える・財源を早めに描く、の3つです。
- 不相当に高額な部分は損金になりません(出所:法人税法第34条第2項)。
- 税務の個別判断・申告・経理処理は、税理士の領域です。
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筆者は、社長にとっての「その時」は突然訪れるとは限らず、勇退の日もそのひとつだと考えています。長年会社を支えてきた社長が、準備した財源で安心して次の暮らしに進めるよう、数字に載らない想いも伺いながら一緒に整理します。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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