【社長へ】勇退の時期と退職金の財源 計画を立てる4つのポイント
月次の会議が終わったあと、後継者の専務が社長に声をかけます。「社長、勇退はいつ頃をお考えですか。私のほうでも、その前に整えておくことがあるはずなので」。
社長は少し考えて、こう答えます。「3年後くらいかな。ただ、正式には決めていないんだ」。
勇退の時期が決まっている会社も、まだ決まっていない会社も、退職金の準備では同じ問いに行き当たります。「その日までに、財源をどう用意するのか」という問いです。
この記事では、勇退の時期を軸に、退職金の準備をどう計画に落とし込むかを解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 時期が決まっていても未定でも、「目安の年」を置けば、財源の計画は立てられます。
- 押さえるポイントは、逆算の年表・毎期の積み上げ・決議と損金の時期・後継者との共有の4つです。
- 財源がないと不足分を借入れで補うことになり、資金繰りが悪化して後継者の負担になります。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 勇退の時期が決まっている会社・決まっていない会社それぞれの悩みどころ
- 時期を決めきれないまま進みやすい理由
- 計画づくりの4つのポイントと手順
- 準備不足と準備過剰の失敗場面、今週できる確認項目
1. 勇退の時期と退職金の準備で起こりやすい3つの場面
時期の決まり方によって、会社が直面する場面は大きく3つに分かれます。順に見ていきます。
1-1. 時期が決まっているのに、財源の計画がない
勇退の時期を取引先や金融機関に伝えた会社でも、退職金の財源は未整理ということがあります。
たとえば、社長が2年後の退任を公表したとします。経理担当者が資金計画を作ると、2年間の利益を全部積み上げても、想定する退職金に届かないと分かります。
残りの期間が短いほど、選べる手段は少なくなります。
1-2. 時期が決まらず、準備の目標が定まらない
「元気なうちは続けたい」と考える社長は多く、時期を決めないまま年数が過ぎる会社もあります。
目標の年が決まらないため、経理担当者も、毎期にいくらを積み立てればよいのか決められません。
ある日突然、体調や家族の事情で勇退を早めることになると、準備がゼロのまま支払いが迫ります。
1-3. 不足分を借入れで補い、後継者に重荷が移る
財源が足りないまま勇退の日が来ると、不足分を金融機関からの借入れで補う会社があります。
この場合、退職金の返済は新しい経営体制が引き受けます。後継者は、自分が決めたわけではない返済を、就任の最初の年から背負うことになります。
資金繰りの悪化は、新体制の投資や採用の判断にも影響します。
要するに、時期が決まっていても未定でも、財源の計画がなければ、同じ困りごとに行き着きます。
2. 勇退の時期を決めきれないまま進んでしまう理由
時期が曖昧になるのは、気持ちの整理が難しいことと、判断材料が揃っていないことの2つが重なるためです。整理します。
2-1. 勇退は、気持ちの面で決めにくい
長く会社を率いてきた社長にとって、退く日を決めることは、気持ちの区切りでもあります。
後継者の育ち具合、取引先への挨拶、従業員への説明など、考えることが多く、決断が延びやすくなります。
その間も、会社の決算は毎年やってきます。気持ちが決まるのを待つ間にも、財源づくりの時間は減っていきます。
2-2. 判断材料が社内に揃っていない
時期を決めるには、「その時期に、退職金がいくらで、払えるのか」という材料が要ります。
ところが、退職金の見込み額や会社の払える力が、一覧になっている会社は多くありません。
材料がないまま「いつ辞めるか」だけを考えると、結論が出せません。財源の見通しを先に作ると、時期の判断もしやすくなります。
要するに、気持ちの難しさと材料の不足が、時期を曖昧にし、準備を遅らせます。
3. 勇退の時期に向けた退職金の計画を立てる4つのポイント
計画づくりは、逆算の年表・毎期の積み上げ・決議と損金の時期・後継者との共有の4つのポイントで進めます。まず状況別に整理します。
| 状況 | 先に決めること | 気をつける点 |
| 時期が決まっている | 残りの期間で用意できる額と、不足分の埋め方 | 残り期間が短いほど、借入れに頼りやすくなる |
| 時期が決まっていない | 「目安の年」と、早まった場合の最低限の備え | 目安がないと、毎期の準備額が決められない |
3-1. ポイント1|勇退の年から逆算して年表を作る
時期が決まっていれば、その年から逆算して、毎期にやることを年表にします。決まっていない場合は、目安の年を仮に置きます。
年表には、規程の整備、財源の積み上げ、後継者との話し合い、株主総会の準備を並べます。
目安の年は、後で動かしても構いません。置いておくだけで、毎期の準備額が計算できるようになります。
3-2. ポイント2|毎期の積み上げを決める
退職金は、一度に用意するより、毎期に分けて準備するほうが、資金繰りへの負担が軽くなります。
たとえば、経理担当者が、目安の年までの決算期の数で退職金の見込みを割り、毎期の積み上げの目安を出します。利益が大きい期は上乗せし、小さい期は据え置くといった調整もできます。
積み上げの方法は、現預金のほか、法人で契約する保険など複数あります。方法ごとの資金繰りと税務の扱いを、税理士と並べて比べます。
3-3. ポイント3|決議と損金の時期を確かめる
役員退職給与の損金算入の時期は、原則として、株主総会の決議等で金額が確定した日の属する事業年度です。(出所:法人税基本通達9-2-28)
つまり、勇退の時期を動かすと、損金になる事業年度も動きます。
たとえば、勇退の時期を決算期の前後でずらすと、どちらの期に費用が立つかが変わり、納税や資金繰りに影響します。個別の時期の選び方は、顧問税理士と相談して決めます。
決議の手順については、役員退職金の規程と株主総会決議を整える方法で説明しています。
3-4. ポイント4|後継者と財源の見通しを共有する
勇退の時期と退職金の財源は、社長だけで決めず、後継者とも共有します。
後継者は、新体制で支える資金繰りを組む立場だからです。共有の場では、次の3点を話し合います。
- 勇退の目安の年と、前倒しになる場合の考え方
- 退職金の財源の積み上げ方と、足りない場合の埋め方
- 支払いの後の資金繰りの見通し
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順
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要するに、逆算の年表・毎期の積み上げ・決議と損金の時期・後継者との共有の4つで、計画が形になります。
4. 勇退の時期の計画で起きやすい失敗
計画の失敗は、時期に向けた備えが足りない場合と、備えを急ぎすぎる場合の両方で起きます。対にして見ます。
4-1. 備えが足りなくなる場面
- 時期を決めないまま走る:たとえば、社長が「決まったら考える」と時期を決めずにいたとします。体調を崩して急に勇退することになり、財源の用意が間に合いません。
- 不足を借入れで埋める前提にする:たとえば、社長が「足りなければ借りればいい」と考えたとします。金融機関の審査の時期に業績が下がり、希望の条件で借りられないことがあります。
- 積み上げを景気のよい期に偏らせる:たとえば、利益が出た期にだけ準備するつもりでいたとします。利益が出ない期が続くと、積み上げが止まります。
4-2. 備えが重すぎる場面
- 目安の年を早く置きすぎる:たとえば、社長が早めの年を目安にして、毎期の積み上げを大きくしたとします。勇退が延びた場合、長く資金が寝たままになり、投資に回せる余力が減ります。
- 後継者の資金繰りを考えずに払う:たとえば、社長が満足のいく額を優先したとします。支払いのあと、後継者が運転資金に困ります。
目安の年は、毎年の決算のたびに見直します。時期が動いたら、積み上げの額と損金の時期も一緒に見直します。
要するに、時期を置かないことも、置いた時期に縛られすぎることも、資金繰りを硬くします。
5. 今週できる勇退の時期と財源の確認チェックリスト
今週のうちに、次の5項目を確かめます。
- 勇退の目安の年を、仮でも書き出しましたか。
- 目安の年までの決算期が、あと何回あるかを数えましたか。
- 退職金の見込みの幅を、顧問税理士に尋ねる日を決めましたか。
- 後継者と、勇退の時期と財源について話す場を決めましたか。
- 時期が早まった場合に、最低限どこから払うかを考えましたか。
5項目のうち、書き出せなかった点が、次に話し合う議題になります。
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要するに、目安の年・決算期の数・税理士への確認・後継者との対話・最低限の財源の5点が、今週の出発点です。
6. よくある質問
Q1. 勇退の時期が決まっていないのに、準備を始めてよいですか。
始めて構いません。仮の目安の年を置けば、毎期の積み上げの計画が立てられます。時期が決まった段階で、年表と積み上げの額を見直します。
Q2. 勇退の時期を変えると、損金になる事業年度も変わりますか。
変わる場合があります。役員退職給与は、原則として、株主総会の決議等で金額が確定した日の属する事業年度の損金です。(出所:法人税基本通達9-2-28)時期を動かすときは、顧問税理士に確認してください。
Q3. 退職金が足りない場合は、借入れで払ってもよいですか。
選択肢のひとつですが、返済は後継者の経営体制が担うことになります。借入れに頼る場合は、払ったあとの資金繰りまで見通してから決めます。
Q4. 退職金の金額は、会社が自由に決められますか。
不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)在任期間や退職の事情、同種同規模の法人の支給状況を踏まえて判断されます。具体的な金額は税理士に確認します。
Q5. 後継者には、いつ財源の話を伝えればよいですか。
時期の目安が固まる前でも、早めに共有するほうが、後継者が資金繰りを組みやすくなります。目安の年と財源の見通しの2点から、話し始めると進めやすくなります。
Q6. 取締役の退職慰労金は、誰が決めますか。
定款に定めがなければ、株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)規程と決議の手順を、時期が近づく前に整えておきます。
7. まとめ
- 勇退の時期が決まっていても未定でも、目安の年を置けば財源の計画は立てられます。
- ポイントは、逆算の年表・毎期の積み上げ・決議と損金の時期・後継者との共有の4つです。
- 損金になる時期は、原則として決議等で金額が確定した日の属する事業年度です(出所:法人税基本通達9-2-28)。
- 財源が足りなければ借入れに頼り、後継者の負担になります。個別の税務判断は税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。勇退の目安の年から、毎期の準備額まで一緒に整理します。
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筆者は、社長にとっての『その時』は突然訪れるとは限らず、勇退の日もそのひとつだと考えています。長年会社を支えてきた社長が、準備した財源で安心して次の暮らしに進めるよう、数字に載らない想いも伺いながら一緒に整理します。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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