【社長へ】法人保険の種類を比較|6種類の違いと向く目的を整理
社長の机に、保険の提案書が3通並んでいる場面を想像してください。
どれも「定期」「長期」「逓増」といった似た言葉が並び、違いが分からないまま、見積もりの数字だけを比べている。そんな状態で決めてしまうと、あとから「思っていた保険と違う」ということが起こります。
法人保険の種類は多く見えますが、見分ける軸は少数です。保険金額が時間とともにどう動くか、やめたときや満期にお金が戻るか、そして何の目的に向くか。この3つで並べると、整理がつきます。
この記事では、定期・長期平準定期・逓増定期・終身・養老・医療の6種類を、同じ物差しで比べます。特定の商品や数字には触れず、考え方だけをお伝えします。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 種類の違いは、保険金額の動き・戻るお金の有無・向く目的の3つの軸で整理できます。
- 損金の扱いは、種類の名前ではなく、契約の中身と受取人で決まります。税負担の軽さだけを目当てに種類を選ぶ考え方は、おすすめしません。
- 保障が足りなければ万一の際に資金が不足し、保険料が重ければ平時の資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 6種類の法人保険の、保険金額の動きと戻るお金の違い
- 目的ごとに、どの種類が検討の入口になるか
- 種類を比べるときの落とし穴と、削りすぎ・過剰の失敗場面
- 今週できる、提案書の読み比べの手順
1. 法人保険の種類を比較するときに迷う3つの場面
種類の比較で迷うのは、名前の似た保険を同じ土俵で比べてしまう場面です。典型的な3つを見ます。
1-1. 名前が似ていて、違いが言葉で説明できない
「定期保険」「長期平準定期保険」「逓増定期保険」は、どれも名前に「定期」が付きます。
たとえば、専務が提案書を見て「どれも掛け捨ての定期だろう」と受け取ったとします。実際は、保険期間の長さや、保険金額が一定か増えていくかが違い、同じ前提では比べられません。
1-2. 保険料の安さだけで並べてしまう
保険料が低い提案は、目を引きます。
けれど、保険料が低いのは、保障の期間が短い、戻るお金がない、保険金額が小さい、といった理由であることが多く、単純な比較にはなりません。
安さの理由を確かめずに選ぶと、いざというときに金額や期間が足りないことがあります。
1-3. 目的が決まらないまま、種類から選んでしまう
「福利厚生なら養老、事業保障なら定期」といった一対一の覚え方は、便利ですが危うい面もあります。
会社の目的と状況によって、同じ目的でも向く種類が変わるためです。目的の整理は、法人保険の4つの目的の記事でまとめています。
要するに、名前の似た保険を同列に比べる・安さだけで選ぶ・目的が後回しの3つが、迷いの入口です。
2. 種類の違いが分かりにくくなる背景
分かりにくくなる背景は、制度の整理が変わったことと、保険の機能が重なっていることの2つです。
2-1. 2019年の通達改正で、扱いの整理が変わった
以前は、長期平準定期保険や逓増定期保険の保険料の扱いを、種類ごとの個別の通達が定めていました。2019年(令和元年)6月28日付の通達改正で、その個別通達は廃止されています。(出所:国税庁、令和元年6月28日付の法人税基本通達等の一部改正)
改正後は、定期保険と第三分野保険の保険料の扱いが、法人税基本通達9-3-5と9-3-5の2に整理されました。改正後の取扱いは、2019年7月8日以後の契約に適用されます。(出所:国税庁)なお、一部の取扱いは適用時期が異なります。
つまり、種類の名前が同じでも、契約した時期によって適用される取扱いが異なります。古い資料や、古い記憶のまま判断しないことが大切です。
2-2. 保障と貯蓄の機能が、ひとつの保険に重なっている
万一の際の保険金を出す機能と、解約したときにお金が戻る機能は、保険の種類によって組み合わせが違います。
戻るお金がある保険は、会社の資金を積み立てている面があります。その一方で、解約すると保障は失われ、受け取る解約返戻金は会社の収益になります。(出所:法人税法第22条第2項)
保障を買っているのか、積み立てを兼ねているのか。この区別があいまいだと、種類の比較がかみ合いません。
要するに、契約した時期の違いと、保障と貯蓄の重なりが、種類を分かりにくくしています。
3. 法人保険の種類を比較する6つの種類と見分け方
6種類は、保険金額の動き・戻るお金・向く目的の3軸で並べると違いが見えます。まず表で全体を見てください。
| 種類 | 保険金額の動き | 戻るお金 | 検討の入口になる目的 |
| 定期保険 | 期間中は一定 | 少ない、またはない商品が一般的 | 借入期間などに合わせた事業保障 |
| 長期平準定期保険 | 長い期間、一定 | 期間の途中で戻るお金が生じる商品がある | 長期の事業保障、退職金の財源の検討 |
| 逓増定期保険 | 期間とともに増える | 期間の途中で戻るお金が生じる商品がある | 事業の拡大に合わせた事業保障 |
| 終身保険 | 一生涯、一定が基本 | あり | 長期の財源、承継や相続の資金 |
| 養老保険 | 満期と万一の双方で保険金が出る | 満期保険金あり | 福利厚生、退職金の財源 |
| 医療保険 | 入院などの給付金が中心 | 商品による | 経営者や従業員の入院時の備え |
表の内容は一般的な整理で、実際の商品は、保険期間や特約で異なります。契約内容は、証券と設計書で確かめてください。
3-1. 定期保険|一定の期間だけを守る
決めた期間のあいだ、一定の保険金額で保障する形です。
借入金の返済期間や、後継者が育つまでの数年間など、期間が見えている備えに向きます。期間が終われば保障も終わるため、更新するかどうかを、その時の状況で決めます。
3-2. 長期平準定期保険|長い期間、同じ保険金額で守る
保険期間が長く、期間中の保険金額が変わらない形の定期保険です。
長いあいだ事業保障を続けたい会社で、検討の入口になります。期間の途中で解約返戻金が生じる商品があり、その場合は、解約時の収益計上や資金繰りへの影響を考えます。
3-3. 逓増定期保険|保険金額が増えていく
保険期間が進むにつれて、保険金額が増えていく定期保険です。
会社が大きくなるほど万一の際の必要額も増えていく、という考え方に合います。ただし、保険金額が増えるぶん、保険料の負担と、解約返戻金が出る時期の扱いに注意が必要です。
3-4. 終身保険|一生涯を守り、解約返戻金がある
保障が一生涯続き、解約すると解約返戻金がある形です。(出所:生命保険文化センターの解説)
長い目で用意する財源として検討されます。保険料は積み立ての性格を持つため、総額が大きくなりやすく、毎期の資金繰りとの兼ね合いが課題です。経理は、保険積立金などの資産として扱う整理が一般に解説されています。契約内容によって変わるため、税理士に確認してください。
3-5. 養老保険|満期と万一の、両方に備える
満期まで生きていれば満期保険金が、期間中に万一があれば万一の際の保険金が出る形です。
保険料の扱いは、受取人によって変わります。法人が自己を契約者とし、役員や従業員を被保険者とする養老保険は、法人税基本通達9-3-4で整理されています。(出所:国税庁)福利厚生として使う場合の加入範囲は、養老保険の加入範囲の記事で詳しく扱っています。
3-6. 医療保険|入院や手術に備える
病気やけがで入院したときなどに、給付金が出る形です。傷害・疾病・医療・介護などを保障する保険は、一般に「第三分野」の保険に分類され、通達では定期保険と並べて「第三分野保険」として扱われています。(出所:法人税基本通達9-3-5)
経営者が長く休むと、会社の運転資金に影響が出ます。その備えとして検討されることがあります。給付金の受取人や、保険料の扱いは契約内容で異なるため、証券と設計書の確認が欠かせません。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。いま手元の提案書を、同じ物差しで並べ直すお手伝いをします。
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3-7. 比べる手順
- 目的を一言にする:何のための備えかを、先に書きます。
- 3つの軸で表にする:保険金額の動き・戻るお金・保険期間を、提案ごとに書き込みます。
- 保険料の負担を並べる:毎期の支払いが資金繰りに収まるかを確かめます。
- 税理士に扱いを確かめる:保険料の経理の扱いは、契約の中身で変わります。
損金に算入できる割合は、契約ごとの条件で決まるため、この記事では書きません。詳しい処理は、法人保険の経理処理の記事をご覧ください。
要するに、6種類は、保険金額の動き・戻るお金・向く目的の3軸で、同じ表に並べて比べます。
4. 種類選びで起きやすい失敗|備え不足と、備え過ぎ
種類選びの失敗は、備えが足りない場合と、重すぎる場合の両方向で起きます。
4-1. 備えが足りない場面
- 期間が合っていない:たとえば、社長が保険料の低さを優先して短い期間の定期保険を選んだとします。借入金の返済が残っているうちに期間が切れ、更新時には条件が変わります。
- 保険金額が小さい:たとえば、経理担当者が過去の借入残高のまま金額を据え置いたとします。借入れが増えた今は、万一の際の返済に足りません。
4-2. 備えが重すぎる場面
- 戻るお金を重視しすぎる:たとえば、社長が「戻るお金があるほうが得だ」と考え、保険料の大きい契約を重ねたとします。毎期の保険料が運転資金を圧迫し、賞与や設備投資の余裕が減ります。
- 種類を重ねすぎる:たとえば、提案のたびに別の種類を追加したとします。目的が重複し、どの契約が何のためか分からなくなります。
種類ごとの向き不向きを知ったうえで、金額は、借入金の残高・運転資金の月数・退職金の見込みなどから逆算して決めます。種類の変更や乗り換えを考えるときは、解約・払済・減額の違いの解説で保障の空白を確かめます。
税負担の軽さを目当てに種類を選ぶ考え方は、おすすめしません。通達の扱いは改正されることがあり、目的を欠いた契約は、見直しの際に迷いが残ります。
要するに、期間・金額・保険料の負担の3点が目的に合っているかで、失敗は防げます。
5. 今週中にできる、法人保険の種類の確認チェックリスト
難しい計算は要りません。次の5点を、今週のうちに確かめます。
- 加入中の契約が、6種類のどれに当たるか分かるか
- 各契約の保険金額が、期間とともに変わるか確かめたか
- 解約したときに戻るお金があるか、証券や設計書で確かめたか
- 契約した時期が、2019年7月8日の前か後かを控えたか
- 各契約の目的を、一言で言えるか
契約した時期は、証券の契約日で分かります。見方は、保険証券の見方の記事で説明しています。
あわせて読みたい記事です。
要するに、契約を6種類に当てはめて、目的と契約日を控えるところから始めます。
6. 法人保険の種類に関するよくある質問
Q1. 定期保険と長期平準定期保険は、何が違いますか。
主な違いは、保険期間の長さと、期間の途中で戻るお金が生じるかどうかです。長期平準定期保険は保険期間が長く、保険金額が一定です。契約ごとに条件が異なるため、設計書で確かめてください。
Q2. 逓増定期保険は、どんな会社に向きますか。
事業の拡大に合わせて、万一の際の必要額も増えていく会社が検討の入口になります。保険料の負担や、解約返戻金が出る時期の扱いに注意が必要です。向くかどうかは、会社の状況で変わります。
Q3. 終身保険の保険料は、経費になりますか。
解約返戻金のある終身保険は、積み立ての部分を資産として扱う整理が一般に解説されています。契約内容によって変わるため、一律には言えません。顧問税理士に確認してください。
Q4. 医療保険は、法人で持つ意味がありますか。
経営者や幹部が長期間働けなくなると、会社の運転資金に影響が出る場合があります。その備えとして検討されます。給付金の受取人や保険料の扱いは契約内容で異なるため、証券で確かめます。
Q5. 古い契約と新しい契約で、扱いが違いますか。
2019年7月8日以後の契約には、改正後の取扱いが適用されます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5・9-3-5の2)それより前の契約は、従来の取扱いの対象になる場合があります。契約日を証券で確かめ、税理士に確認してください。
Q6. 種類は、どのように決めればよいですか。
先に目的を決め、保険金額の動き・戻るお金・保険期間の3軸で候補を並べます。そのうえで、保険料の負担が資金繰りに収まるかを確かめます。種類の名前だけで決めないことが大切です。
7. まとめ
- 6種類の違いは、保険金額の動き・戻るお金・向く目的の3軸で整理できます。
- 定期保険・第三分野保険の保険料の扱いは、2019年の通達改正で整理し直され、2019年7月8日以後の契約に適用されます(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5・9-3-5の2)。
- 期間や金額が足りなければ資金の空白が、保険料が重ければ平時の資金繰りの圧迫が起きます。
- 損金の扱いなど税務の個別判断は、税理士の領域です。
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筆者は、保険を、人が一番つらい『その時』に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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