【まるっと解説】法人保険の名義変更と退職金|役員退職金を保険で準備
社長の退職金を、保険で準備している。その保険は、退職のときにどうすればよいのでしょうか。
「名義を変えて渡すのか、解約して現金にするのか。決めきれないまま年月が過ぎている」という中小企業の経営者の方は少なくありません。
この記事では、役員退職金を保険で準備する考え方と、名義変更・受取方法の注意点を整理します。2021年に改正された所得税基本通達36-37も、事実として説明します。
契約者・被保険者・受取人の意味やお金の流れ全体は、法人保険の受取人と契約管理のまとめで整理しています。この記事は、退職金の場面に絞ってお伝えします。
役員退職金を保険で準備している会社の迷い|名義変更と解約のはざま
退職金を保険で準備していても、出口の決め方を決めていないと、退職のときに判断が止まります。
経営者の方から、次のようなお声をいただきます。
- 社長が退職するとき、保険を名義変更するのか解約するのか分からない迷い
- 会社を解散するとき、保険の契約をどう処分するのかという不安
- 保険で退職金を準備する意味が、税金の面以外にあるのかという疑問
- 社長から会長になるとき、退職金を支給してよいのかという戸惑い
どれも、準備を始めた時点では、あまり考えない点です。契約したときは、退職はずっと先の話に見えます。
ところが、退職の時期が近づくと、決めることが一度に出てきます。
退職金の金額、支給の時期、財源、そして保険の扱いです。保険の扱いを後回しにすると、ほかの判断も止まってしまいます。
もう一つ、見落とされやすい点があります。名義変更には、税務の扱いが定められているということです。
契約者を会社から役員個人へ変えるとき、保険の権利をどう評価するのかが、通達で決められています。2021年には、その評価の考え方が改正されました。
この改正を知らないまま「名義を変えれば済む」と考えていると、想定と異なる結果になることがあります。
不安の正体は、保険の中身より、出口の選択肢と、それぞれの決まりごとが見えていないことにあります。
次の章では、筆者が「準備」を考えるときに大切にしている視点をお話しします。
今も未来も大事という視点|20代半ばの女性のご相談から
退職金の準備は、将来のためだけのものではありません。会社の今と、社長の未来の両方を見て考えます。
筆者より
筆者のまつもとは、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)です。大学卒業後、大手生命保険代理店に8年勤め、現在は保険募集人として、KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)で法人保険のご相談をお受けしています。
将来が不安で貯金したいとご相談くださった女性
年収200万円台の20代半ばの女性から、ご相談をいただいたことがあります。
将来が不安なので貯金をしたい。保障も備えたい、というご相談でした。
貯蓄型の保険を1本ご提案し、比較のために外貨建ての保険もご紹介しました。外貨建ての保険にも関心を持たれ、結果として2本に加入されました。
「将来の不安が解消して良かった」というお言葉をいただきました。
このとき、筆者に伝わったことがあります。人は、今の暮らしも、将来の安心も、どちらも大事にしたいということです。
これは、会社の退職金の準備にも、そのまま当てはまります。
- 今を守る視点:毎年の保険料を払っても、会社の資金繰りが苦しくならないこと
- 未来を守る視点:社長の退職のときに、退職金の財源が用意されていること
将来のために今の資金繰りを削りすぎると、会社の足元が揺らぎます。逆に、今だけを見ていると、退職の時期に財源が足りなくなります。
自分に何かあったその時、そしてその後も、従業員や家族がずっと安心して暮らせる未来。そのためには、今と未来の両方を見る必要があります。
保険の話の前に、守りたい人の話を。社長ご自身の役員退職金を、しっかり受け取っていただくことも、その大切な一部だと考えています。
法人保険の名義変更と退職金の仕組み|役員退職金規程から受取方法まで
退職金は、規程と株主総会の決議で決まり、保険はその財源や現物として使われます。順に整理します。
役員退職金規程と株主総会の決議
取締役の報酬や退職慰労金は、定款に定めがなければ、株主総会の決議で決めます(会社法第361条第1項)。
そのため、役員退職慰労金規程を整えておく方法があります。規程には、支給の根拠と、金額の考え方を定めます。
規程があれば、退職のときに、誰が、何をもとに、いくら支給するのかが見えます。保険で準備していても、規程がなければ、支給の根拠が弱くなります。
役員退職給与は、不相当に高額な部分が損金にならないと定められています(法人税法第34条第2項)。金額の決め方は、会社の事情に合わせて、専門家と確認しながら進めます。
損金算入の時期は、原則として、株主総会の決議などで金額が確定した日の属する事業年度です(法人税基本通達9-2-28)。
損金の詳細は、契約の内容によって異なります。個別のご相談でご説明します。
社長から会長へ|分掌変更と退職給与の考え方
中小企業では、社長が会長になり、経営の一線から退くことがよくあります。社長から会長への変更が退職給与として扱えるかは、個別の事情で変わります。
この点は、個別の事情による判断が必要です。自己判断で進めず、税理士などの専門家に早めに確認してください。
所得税基本通達36-37の2021年改正|名義変更時の権利の評価
2021年の改正で、名義変更した保険契約の権利の評価が見直されました。出所は国税庁です。
会社が役員に、保険契約の権利(契約者の地位)を支給することを、名義変更といいます。このとき、役員が受け取る権利は、いくらと評価するのかが問題になります。
所得税基本通達36-37に、その評価の考え方があります。内容を表にまとめます。
| 項目 | 内容 |
| 原則の評価 | 解約返戻金相当額(前納保険料や剰余金の分配額を含む) |
| 2021年の改正 | 解約返戻金が資産計上額の70%に満たない場合は、資産計上額で評価する |
| 解約返戻金が資産計上額の70%以上の場合 | 解約返戻金で評価する |
| 適用の時期 | 2021年7月1日以後に行う権利の支給から |
つまり、解約返戻金が資産計上額に比べて低い時期に名義変更をしても、評価は資産計上額になる場合があります。
資産計上額とは、会社が保険料のうち資産として計上している額のことです。経理上の扱いは、経理処理と損金算入ルールの解説で整理しています。
権利の評価額を退職金として支給した場合の課税は、個別の事情で変わります。ここでは、退職所得の一般的な計算式だけを示します(所得税法第22条第2項)。
- 退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×2分の1
退職所得控除額は、勤続年数で決まります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
| 20年までの場合 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| 20年を超える場合 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
役員等としての勤続年数が5年までの特定役員退職手当等には、2分の1課税の適用がありません(出所は国税庁タックスアンサー)。
具体的な数字への当てはめは、契約の内容や勤続年数で変わります。個別のご相談でご説明します。
改正の内容は、国税庁の公表資料で確認できます。自社の契約が、いつ、どの評価になるのかは、設計書と税理士でご確認ください。
受取方法の違い|財源にする方法と名義変更で現物支給する方法
退職金の準備に保険を使う方法は、大きく二つに分かれます。保険金や解約返戻金を財源にする方法と、名義変更で保険の権利そのものを渡す方法です。
| 項目 | 保険金・解約返戻金を財源にする | 名義変更で現物支給する |
| 流れ | 会社が保険金や解約返戻金を受け取り、退職金を現金で支給する | 契約者を会社から役員へ変更し、保険の権利を退職金として渡す |
| 会社への入金 | 保険金や解約返戻金は会社の益金になる(法人税法第22条第2項) | 解約返戻金は会社に入らない |
| 役員が受け取るもの | 現金 | 保険契約の権利(名義変更後は役員が契約者) |
| 評価の論点 | 退職金の金額の相当性(法人税法第34条第2項) | 権利の評価(所得税基本通達36-37) |
| 確認したいこと | 規程と決議、支給の時期と財源の見通し | 契約を続ける費用の負担、評価額と退職所得の計算 |
どちらが良い、悪いという話ではありません。会社の資金の状況と、役員の考え方で選び方が変わります。
名義変更の場合、契約者は役員個人になります。名義変更のあとは、保険料も個人が負担することになります。
解約したときの返戻金の扱いや、会社解散時の考え方は、解約返戻金の扱いと出口の考え方で詳しく解説します。
退職金を保険で準備する意味|税金面以外の理由
保険で退職金を準備する意味は、財源の確保、保障との両立、資金繰りの計画性にあります。税金の面だけで決めるものではありません。
- 財源の確保:退職の時期に、まとまった資金を用意しやすくなること
- 保障との両立:社長の万一の際の保障を持ちながら、退職金の準備も進められること
- 資金繰りの計画性:毎年の保険料として、準備の負担を平準化できること
- 退職金規程との連動:準備した財源と、規程で定めた支給額を結び付けられること
とくに中小企業の退職金の準備では、社長が在任中に万一のことがあった場合の備えが気になります。
会社の借入や存続の備えは、事業保障と社長の万一の借入金の考え方で整理しています。退職金の準備と、事業保障は、役割が違います。
両方を一つの保険で兼ねるのか、分けて考えるのか。ここは会社の状況によって変わる部分です。
税負担を軽くすることを目的に、保険に入るものではありません。守りたい人と会社の事情から、考えるものです。
退職金の準備は、今の資金繰りと、将来の財源の両方を見て、無理のない形で進めることが大切です。
売り込みはしません。お断りいただいて構いません。ご相談では、役員退職金規程の整備状況と、保険の出口の選択肢を、一緒に整理できます。
役員退職金の準備について、相談で整理できること
ご相談では、退職の時期から逆算して、規程・財源・保険の出口を順に整理します。
ご相談の場では、役員退職金の準備について、次の点を順にご一緒に確認します。
- 役員退職慰労金規程の有無と、内容の確認
- 退職金の財源と、保険契約の現状の確認
- 名義変更と、保険金・解約返戻金を財源にする方法の比較
- 社長から会長への変更など、退職の時期の考え方の整理
- 今の資金繰りと、将来の財源の両立の考え方
名義変更の評価や損金の扱いなど、税務に関わる点は、契約の内容によって異なります。個別のご相談でご説明します。
税理士など、顧問の専門家と一緒に進める場合も、保険の設計書をもとに、論点の整理をお手伝いします。
保険の設計書や、役員退職慰労金規程があれば、お話がスムーズです。なくても、ご心配には及びません。
役員退職金の準備が向く中小企業と、急がなくてよい会社
この記事は、保険の入り直しを勧めるものではなく、出口を確認する機会を提案するものです。
退職金の準備について、次のような状況の会社では、現状を整理する意味があるかもしれません。
- 社長の退職の時期が、数年から十数年のうちに見えてきた会社
- 退職金を保険で準備しているが、出口を決めていない会社
- 役員退職慰労金規程が、まだ整っていない会社
- 社長から会長への変更を、検討している会社
- 会社の解散や事業の整理も、選択肢に入れている会社
一方で、急ぐ必要のない場合もあります。
- 規程と財源がそろい、定期的に見直している会社
- 退職の時期がまだ遠く、保険による準備を検討する段階の会社
加入を急ぐ必要はありません。まずは、現状を知ることから始めれば十分です。
ご不安を煽るつもりもありません。確認してみて、「今の準備で足りている」と分かることもあります。
今日からできる退職金準備の確認|最初の一歩
最初の一歩は、退職金の財源になる保険を一覧にして、規程の有無を確認することです。
次の順で進めると、短い時間で現状が見えてきます。
- 退職金の準備に使っている保険の証券の収集
- 契約者・被保険者・受取人・保険期間の書き出し
- 役員退職慰労金規程の有無と、内容の確認
- 社長や役員の、退職の時期の見通しの書き出し
- 気になる点への印付けと、相談材料の整理
書き出すとき、迷いやすい点があります。保険が、退職金の準備のためなのか、事業保障のためなのかという目的です。
目的が分かれば、出口の考え方も絞られます。分からなくても、そのまま持ち寄っていただいて構いません。
名義変更の評価や退職金の税務は、契約の種類や、名義を変える時期によって変わります。詳細は税理士等の専門家にご確認ください。
売り込みはしません。お断りいただいて構いません。契約一覧と規程の確認から、お話を始められます。
よくある質問
Q. 保険を名義変更して役員に渡すとき、権利はどう評価されますか
原則は、解約返戻金相当額で評価します。2021年の改正で、解約返戻金が資産計上額の70%に満たない場合は、資産計上額で評価することになりました。
2021年7月1日以後に行う権利の支給に適用されます(出所は国税庁)。個別の数字は、個別のご相談でご説明します。
Q. 退職や会社解散のとき、保険は名義変更と解約のどちらがよいですか
どちらが良いと一概には言えません。名義変更は、保険の権利を役員に渡す方法です。解約は、返戻金を会社が受け取り、退職金の財源にする方法です。
役員の考え方と会社の資金状況で、選び方が変わります。出口の考え方は、解約返戻金の扱いと出口の記事も参考にしてください。
Q. 社長から会長になるとき、退職金は支給できますか
支給できるかどうかは、役職の変更だけでは決まらず、個別の事情で判断が変わります。
自己判断で進めず、税理士などの専門家に早めにご確認ください。
Q. 保険で退職金を準備する意味は、税金の面だけですか
税金の面だけではありません。財源の確保、社長の万一の際の保障との両立、毎年の資金繰りを計画的に進められることが、主な意味です。
今の資金繰りと、将来の財源の両方を見て、無理のない形で準備することが大切です。
Q. 役員退職金を支給するには、何が必要ですか
定款に定めがなければ、株主総会の決議が必要です(会社法第361条第1項)。役員退職慰労金規程で、支給の根拠と金額の考え方を定めておく方法もあります。
不相当に高額な部分は損金にならないため(法人税法第34条第2項)、金額の決め方は専門家と確認して進めてください。
売り込みはしません。お断りいただいて構いません。役員退職金の準備について、現状の整理をお手伝いします。
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