【社長の備え】社長の傷病手当金はもらえる?確認する4つのポイント
検査入院が長引いて、数か月は現場に出られない。そう告げられた社長が最初に考えるのは、病状よりも、先に「会社の給与と自分の収入はどうなるのか」ということかもしれません。
会社員なら傷病手当金がある、という話は聞いたことがあっても、「社長は対象外ではないか」という声も耳にします。実際はどうなのでしょうか。
この記事では、社長の傷病手当金がもらえるかどうかを、公的な制度の考え方に沿って整理します。確認できた範囲だけを書き、決めきれないところは、窓口で確かめる項目として残します。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
結論
- 「経営者だから対象外」とは言えません。健康保険に加入している役員は、条件を満たせば対象になり得ます。
- 国民健康保険には、傷病手当金の制度がありません。業務上の傷病は、労災保険の領域になります。
- 休業中に役員報酬が出ていると、支給に影響します。公的な給付で足りない部分は、会社の資金繰りの側で考えます。
この記事で分かること
- 病気で働けなくなった社長が直面する3つの場面
- 社長の傷病手当金が誤解されやすい理由
- 確認する4つのポイントと進め方
- 備えが足りない場合と、重すぎる場合の失敗場面
- 今週できる確認チェックリスト
1. 社長が病気で働けなくなったときの3つの場面
困りごとは、収入、会社の支払い、手続きの3つの場面で起きます。順に見ます。
1-1. 自分の収入が止まる
社長の収入は、多くの場合、役員報酬に頼っています。療養が長くなっても住宅ローンや教育費の支払いは続くため、報酬が止まったときの家計を想像しておく必要があります。
1-2. 会社の固定費は待ってくれない
家賃、給与、リース料といった固定費は、社長が現場にいなくても発生します。社長が営業を担っている会社では、売上のほうが先に落ちることもあります。
固定費をどの財源で払うかは、賃料や給与など固定費を払う財源のチェック項目で整理しています。
1-3. 申請の窓口がどこか分からない
病気なのかけがなのか、仕事中なのか私生活なのかで、使える制度が変わります。窓口も、健康保険の側と労災の側で別々です。
体調が悪い中で窓口を探すのは負担が大きいため、元気なうちに入口だけでも知っておくと動きやすくなります。
要するに、収入・固定費・窓口の3つが、社長の療養中に重なる困りごとです。
2. 社長の傷病手当金が誤解されやすい理由
誤解の原因は、「役員は労働者ではない」という話と、「健康保険の被保険者かどうか」という話が混ざることです。整理します。
2-1. 労働者かどうかと、被保険者かどうかは別の話
労災保険は、原則として労働者を対象にした制度です。一方、傷病手当金は健康保険の給付で、見るのは「被保険者かどうか」です。法人の代表取締役や取締役でも、健康保険の被保険者であれば、一般の会社員と同じ枠組みで考えます。
分かれ目は役職ではなく、被保険者かどうかです。全国健康保険協会(協会けんぽ)の案内では、傷病手当金は、業務外の病気やけがで療養し、仕事に就けず、休んだ期間に給与が支払われていないことなどが要件とされています。
2-2. 報酬が出ているかどうかが論点になる
社長は、あらかじめ役員報酬が決まっていて、欠勤しても報酬が支払われ続けることがあります。その場合は、支給の要件に影響します。給与の一部が出ている場合は、差額が支給されるという案内もあります。細かい調整の計算は、加入している協会けんぽの支部に確認します。
2-3. 国保の社長には制度自体がない
国民健康保険には、傷病手当金の制度がありません。(出所:全国健康保険協会)同じ社長でも、法人化して健康保険に加入している場合と、国民健康保険に加入している場合とで、受けられる給付が違います。
要するに、社長かどうかではなく、加入している保険と、休業中の報酬の有無が分かれ目です。
3. 社長の傷病手当金で確認する4つのポイントと進め方
確認するのは、加入先、原因が業務かどうか、報酬の扱い、支給期間の4つです。表にまとめます。
| ポイント | 見ること | 問い合わせ先 |
| 1. 加入先 | 健康保険か、国民健康保険か | 保険証、年金事務所 |
| 2. 原因 | 業務外の病気やけがか、業務上か | 協会けんぽ、労働基準監督署 |
| 3. 報酬 | 休業中の役員報酬をどう決めているか | 税理士、社会保険労務士 |
| 4. 期間 | 支給される期間の長さと数え方 | 協会けんぽの支部 |
3-1. ポイント1|保険証で加入先を確かめる
手元の保険証が、協会けんぽなどの健康保険なのか、国民健康保険なのかを確かめます。国民健康保険の場合は傷病手当金の制度がないため、公的な給付だけで暮らしを支えることが難しくなります。
3-2. ポイント2|業務外か業務上かを分ける
傷病手当金は、業務外の病気やけがが対象です。業務上の傷病は労災保険の領域になります。ただし、中小事業主や役員は労働者ではないため、特別加入をしている場合に、労災保険の対象になります。特別加入には、雇用する労働者がいて、労働保険の事務を労働保険事務組合に委託していることなどの条件があるとされています。(出所:厚生労働省)ひとりで経営している社長は、加入できるかどうかを労働基準監督署に確認します。
なお、健康保険の被保険者が5人未満の適用事業所で、法人の代表者等が一般の従業員と著しく異ならない業務に従事している場合に、業務上の傷病でも健康保険の給付の対象とする取扱いを示した、厚生労働省保険局長の通知(平成15年7月1日付、法人の代表者等に対する健康保険の適用について)があるとされています。労災保険に特別加入している場合は労災保険が優先されるともされています。当てはまるかどうかや、傷病手当金の扱いは、協会けんぽに確認してください。
3-3. ポイント3|休業中の報酬を事前にどう決めておくか
休業中に役員報酬を下げたり止めたりする場合は、会社として決議をして、記録を残す形が一般的です。ただし、役員報酬は期の途中で変えると、税務上の取扱いに影響する場合があります。税務の考え方は社長が入院したときの役員報酬の記事で整理しています。
3-4. ポイント4|支給期間は、数え方を知っておく
協会けんぽの案内では、支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)2022年1月の改正で、復職をはさんでも、実際に支給を受けた日を通算して数える考え方になったと案内されています。細かい数え方は、支部に確認します。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、加入先・原因・報酬・期間の4つを確かめると、公的な給付で足りる部分と足りない部分が見えます。
4. 傷病手当金を当てにするときの失敗場面
失敗は、公的制度を知らないまま備える場合と、公的制度があるのに重ねすぎる場合の両面で起きます。対にして見ます。
4-1. 削りすぎ|備えが足りない場面
- 社長だから対象外と思い込む:健康保険に加入していても、確かめないまま申請の機会を逃します。
- 国民健康保険なのに給付があると思う:いざ療養に入ってから、手当金の制度自体がないと知ります。
- 期間が終わった後を考えていない:長引いたとき、支給期間が通算で区切られていることに気づいて、資金繰りが詰まります。
4-2. 過剰|備えが重すぎる場面
- 公的給付を確かめずに民間の商品を重ねる:必要な額を計算する前に、保険料の高い契約を持ってしまいます。
- 休業中も報酬を満額払い続ける:会社の資金繰りが細くなり、給付との関係も整理しにくくなります。
民間の就業不能の商品の比較は、この記事では扱いません。まず公的な給付で賄える部分を確かめます。
要するに、公的な制度を知らないことも、確かめる前に重ねることも、社長と会社の負担になります。
5. 公的な給付の範囲を知って描ける見通しと、今週の確認
公的な給付で賄える範囲を知っておくと、足りない部分だけを具体的に考えられるようになります。
療養が長引いたときの家計と会社の資金繰りについて、数字で話し合いやすくなります。ただし、実際に受けられるかどうかは、加入状況や休業中の報酬、病気の原因によって変わります。
今週は、次の5つを確かめます。
- 自分の保険証が、健康保険か国民健康保険かを確かめた。
- 休業中の役員報酬をどうするかを、税理士と話す項目にした。
- 中小事業主の労災の特別加入の有無を確かめた。
- 療養が長引いた場合の、家計の月々の支出を書き出した。
- 会社の固定費を、数か月分払える資金があるかを確かめた。
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6. 社長の傷病手当金に関するよくある質問
Q1. 社長(代表取締役)でも傷病手当金はもらえますか。
健康保険に加入している役員は、条件を満たせば対象になり得ます。見るのは役職ではなく、被保険者かどうかです。休業中の報酬の有無などで扱いが変わるため、加入先の協会けんぽに確認してください。
Q2. 国民健康保険に入っている社長はどうなりますか。
国民健康保険には、傷病手当金の制度がありません。(出所:全国健康保険協会)公的な給付で足りない部分は、貯蓄や会社の資金で考えることになります。
Q3. 仕事中のけがや、業務が原因の病気はどうなりますか。
傷病手当金は、業務外の病気やけがが対象です。業務上の傷病は労災保険の領域で、中小事業主や役員は、特別加入をしている場合に対象になります。(出所:厚生労働省)加入できるかどうかと範囲は、労働基準監督署などに確認してください。
Q4. 休業中も役員報酬をもらっていたら、どうなりますか。
給与が支払われている期間は、支給に影響します。一部が支払われている場合は差額が支給されるという案内もありますが、計算は個別に変わります。報酬を変えるときは、税務への影響もあるため、税理士にも確認します。
Q5. 支給期間はどのくらいですか。
協会けんぽの案内では、支給を開始した日から通算して1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)復職をはさんだ場合の数え方など、細かい点は支部に確認してください。
Q6. 公的な給付で足りない部分は、どう備えますか。
まず、療養中の家計の支出と、会社の固定費を書き出して、公的な給付との差を見ます。そのうえで、貯蓄、会社の資金、保険のどれで賄うかを検討します。商品の選び方より先に、差の大きさを確かめます。
7. まとめ
- 社長でも、健康保険に加入していれば、傷病手当金の対象になり得ます。
- 国民健康保険には制度がなく、業務上の傷病は労災の領域です。(出所:全国健康保険協会、厚生労働省)
- 休業中の報酬の扱いは、支給と税務の両方に関わるため、事前に確認します。
- 支給期間は通算1年6か月です。公的な給付で足りない部分を書き出して、備え方を考えます。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。加入状況と会社の固定費を伺い、公的な給付で足りない部分を一緒に整理します。
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筆者は、保険を、人が一番つらい『その時』に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話に入る前に、公的な制度で賄える範囲と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。制度は改正される場合があります。実行前に社会保険労務士・顧問税理士等の専門家と、加入先の窓口にご確認ください。
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