【経営者必見】社長の営業力と人脈に頼る会社の事業保障 3つの視点
長年の取引先との会食は、社長が顔を出すからこそ続いてきた。そんな会社は少なくありません。
ある日、社長が入院して数か月は戻れないと分かったとします。取引先の担当者から、経理担当者に電話が入ります。「しばらく社長と連絡が取れないようですが、来月以降のお取引はどうなりますか」。
売上の多くが、社長の営業力・人脈・信用に支えられている会社では、社長が動けなくなったとき、数字より先に「相手の見る目」が変わることがあります。
この記事では、社長への依存が大きい会社が、万一や就業不能のときに取引先や銀行から条件の見直しを求められる場面と、平時に整理しておく3つの視点を解説します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 社長の信用で成り立つ取引は、社長が動けなくなると、取引先や銀行が条件を見直す理由になり得ます。
- 備える視点は、依存の度合いを知ること・条件変更を先に想定すること・受け皿と財源を用意することの3つです。
- 備えは、足りなくても重すぎても会社を苦しくします。個別の税務は税理士、労務は社会保険労務士に確認します。
この記事で分かること
- 社長が不在になったとき、取引先や銀行が気にする3つの場面
- 依存の大きさが、社内で見落とされやすい理由
- 備えを考える3つの視点と、進め方の手順
- 削りすぎ・重すぎ、両方向の失敗場面と、今週の確認項目
1. 社長の営業力に頼る会社で、万一のとき起きやすい3つの場面
社長への依存が大きい会社では、取引先・銀行・社内の3方向から、同時に確認の連絡が届きます。場面ごとに見ていきます。
1-1. 主要な取引先が、発注の継続を見直す
取引先にとって、社長は「この会社に任せられる」と判断する材料そのものです。
たとえば、新規案件の見積りを社長が一人で取りまとめてきた会社があるとします。社長が不在になると、担当者は「次の発注を待ったほうがよいか」と社内で相談します。
発注が止まれば、売上の入金も遅れます。経理担当者が気づくのは、入金予定表の空白です。
1-2. 銀行が、融資の更新や条件を確認する
金融機関は、返済の見通しを会社の収益力から判断します。収益力の中心に社長がいる会社では、社長の状況が確認の対象になります。
たとえば、融資の更新時期が社長の入院と重なったとします。銀行の担当者から、今後の売上の見通しと、社長に代わる責任者について説明を求められます。
説明の資料が用意されていないと、更新の話し合いが長引くことがあります。条件が変わるかどうかは、会社の状況と金融機関の判断によります。
1-3. 社内で、判断できる人がいなくなる
価格の決定、値引きの承認、クレームの最終判断を社長が一手に引き受けている会社もあります。
社長が動けない間、営業担当者は決められずに案件を持ち帰ります。取引先から見れば、対応が遅れた会社に映ります。
経理担当者は、支払いの承認者が不在で、振込の手続きが止まる場面に直面します。
要するに、取引先の見直し・銀行の確認・社内の判断停止の3つが、同じ時期に重なることが課題です。
2. 社長への依存が、社内で見落とされやすい理由
見落とされる理由は、売上が順調なときほど依存が数字に表れないからです。2つの背景があります。
2-1. 好調なときは、依存が「強み」に見える
社長の人脈で仕事が取れている間は、社内の誰もそれを問題とは感じません。むしろ会社の強みです。
決算書にも「社長への依存度」という項目はなく、利益が出ていれば確認の機会がありません。
たとえば、売上上位の取引先が、すべて社長の個人的な付き合いから始まった会社があるとします。数字は良好でも、窓口が社長一人に集中しています。
2-2. 「自分は元気だから」と、考えること自体を先送りする
社長ご自身が、自分の不在を想定することには抵抗があるものです。
病気やけがは、年齢にかかわらず起こり得ます。亡くなる場合だけでなく、働けない期間が長引く場合も、会社にとっては同じ「社長の不在」です。
就業不能の期間が長くなる場合は、公的な制度も確認します。会社員向けの健康保険には、病気やけがで働けないときの傷病手当金があり、支給期間は通算1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)
国民健康保険には、この制度はありません。(出所:全国健康保険協会)社長がどの保険に入っているかで、公的な支えの有無が変わります。
ただし、役員の場合は報酬の受け取りとの関係で扱いが変わることがあります。個別の判断は、加入先の窓口や社会保険労務士に確認してください。
要するに、好調さと「自分は大丈夫」という気持ちが、依存の大きさを見えにくくします。
3. 売上を社長に頼る会社が備えを考える3つの視点
備えの視点は、依存の度合い・条件変更の想定・受け皿と財源の3つです。まず全体を表で整理します。
| 視点 | 確かめること | 話し合う相手 |
| 1. 依存の度合い | 売上上位の取引先ごとに、窓口が社長だけになっていないか | 社長・営業責任者 |
| 2. 条件変更の想定 | 取引先・銀行から求められそうな内容と、その時に要る資金 | 社長・経理担当者・顧問税理士 |
| 3. 受け皿と財源 | 代わりに動く人と、立て直しの間の支払いをまかなう財源 | 社長・金融機関・専門家 |
3-1. 視点1|依存の度合いを、取引先ごとに書き出す
最初の作業は、売上上位の取引先を並べ、窓口が誰かを書くことです。
社長だけが連絡を取れる取引先には印を付けます。印が多いほど、不在の影響は大きくなります。
書き出すだけでも、社内で「誰が引き継げるか」を話し合う材料になります。
3-2. 視点2|条件変更を想定し、必要な資金を見積もる
万一のとき、取引先から求められやすい変更は、支払いの期日を早める、現金での取引に切り替える、といった内容です。銀行からは、追加の説明や資料を求められることがあります。
これらは確定した結果ではなく、起こり得る場面です。実際の条件は、取引先や金融機関との関係で変わります。
そのうえで、条件が厳しくなった場合に、どの程度の資金が追加で要るかを試算しておきます。試算は、顧問税理士と一緒に行うと進めやすくなります。
算出の考え方は、次の記事で扱っています。
3-3. 視点3|受け皿と財源を、分けて用意する
受け皿とは、社長に代わって取引先と話せる人と、承認の権限を決めておくことです。
財源とは、立て直すまでの間の支払いをまかなう資金です。自己資金の積み立て、融資の枠、法人契約の保険など、手段は複数あります。
どの手段が合うかは、会社の資金繰りと社長の年齢・健康状態で変わります。加入を急ぐ必要はなく、まず必要な金額を知ることから始めます。
手順は、次の流れで進めると整理しやすくなります。
- 書き出す:売上上位の取引先と、窓口になっている人を一覧にします。
- 想定する:取引先・銀行から求められそうな変更を、場面ごとに書きます。
- 見積もる:条件が厳しくなったときに追加で要る資金を、税理士と試算します。
- 決める:代理の担当者と、財源の手段を決め、年に一度見直します。
要するに、依存を見える化し、条件変更を想定し、受け皿と財源を分けて用意する3つの視点です。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. 現場で起きやすい失敗|備え不足と備えの重すぎ
失敗は、削りすぎて足りなくなる場合と、備えすぎて平時が苦しくなる場合の両方向で起きます。対にして見ていきます。
4-1. 削りすぎて備えが足りない場面
- 代理を決めていない:社長が「自分がいれば回る」と考え、承認の権限を誰にも渡していません。不在の間、経理担当者は振込の承認を得られず、仕入先への支払いが遅れます。
- 固定費を理由に財源を減らす:社長が経費の見直しで、万一時の資金に回していた積み立てを取り崩しました。いざというとき、取引先から現金取引を求められても、手元の資金で対応できません。
- 銀行への説明を後回しにする:社長が「状況が落ち着いてから話す」と考えます。連絡が遅れた分、銀行の担当者は不安を強め、確認の資料を細かく求めます。
4-2. 備えすぎて重くなる場面
- 必要額を超える準備:社長が不安から、必要な金額を試算しないまま大きな備えを積み増しました。経理担当者は毎月の負担の重さに気づきますが、賞与や設備の更新に回す資金が減っています。
- 手段を一つに絞りすぎる:社長が一つの手段だけに資金を集中させました。会社の資金繰りが厳しい時期でも、継続の負担が減らせず、経理担当者が支払いを調整する羽目になります。
備えの量は、依存の度合いと、条件変更で要りそうな資金を並べて決めます。決算期ごとに、数字が変わっていないかを確かめます。
要するに、足りなくても重すぎても会社を苦しくするため、必要額を試算してから決めます。
5. 今週できる確認チェックリスト
大きな決断は要りません。今週中に、次の5つを確かめます。
- 売上上位の取引先を並べ、窓口が社長だけのものに印を付けたか
- 社長が不在のときの、承認と取引先対応の代理を決めたか
- 銀行の担当者に伝える、会社の現状資料の項目を話し合ったか
- 社長が加入している健康保険の種類を確かめたか
- 追加で要る資金の試算を、顧問税理士に頼む日を決めたか
確認の結果を持ち寄ると、次に相談する相手が見えてきます。
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6. よくある質問
Q1. 社長が入院すると、取引先は本当に取引を見直しますか。
見直すとは限りません。ただ、窓口が社長だけの取引では、確認の連絡が入ることがあります。事前に代理の担当者を伝えておくと、取引先の不安を和らげやすくなります。
Q2. 銀行に社長の健康状態を伝える必要はありますか。
伝える範囲は、融資の契約内容と会社の状況によって変わります。個別の判断は、顧問税理士や取引金融機関に相談して決めてください。
Q3. 社長が長く働けなくなったとき、公的な支えはありますか。
健康保険の傷病手当金は、条件を満たせば支給され、期間は通算1年6か月です。(出所:全国健康保険協会)国民健康保険にはありません。役員の扱いは個別に違うため、加入先に確認してください。
Q4. 小さな会社でも、代理の担当者を決める必要がありますか。
規模にかかわらず、決めておくと動きやすくなります。社長が一人で判断している範囲を書き出し、そのうち一部だけでも他の人に任せる練習から始められます。
Q5. 備えの手段は、保険だけですか。
保険だけではありません。自己資金の積み立て、融資の枠の確保、取引先との契約の見直しなど、複数の手段があります。会社の資金繰りに合うものを組み合わせます。
Q6. どのくらいの資金を用意すればよいか分かりません。
会社ごとに違います。支払いの期日が早まった場合や、売上が減った場合を想定して、不足しそうな額を試算します。試算は顧問税理士と進めると整理しやすくなります。
7. まとめ
- 社長の営業力・人脈・信用に頼る会社は、社長が動けなくなると、取引先や銀行が条件を見直す理由になり得ます。
- 備える3つの視点は、依存の度合い・条件変更の想定・受け皿と財源です。
- 備えが足りなくても、重すぎても、会社は苦しくなります。必要額は試算してから決めます。
- 税務の個別判断は税理士、労務の個別判断は社会保険労務士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。社長の役割を書き出した一覧をもとに、備えの全体像を一緒に整理します。
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筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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