たとえば、長く会社を支えてきた社長が、決算の打合せで、顧問税理士から「後継者は、親族の中に決まっていますか」と尋ねられたとします。社長は、子どもに継ぐ意思がなく、古くから会社を支えてきた従業員か役員に会社を託したいと考えていることを、改めて自覚します。

ところが、その従業員や役員が、社長の株をまとめて買い取る資金を用意できるのかは、整理できていません。社長自身の退職金をどこから出すのかも、決まっていません。自分に万一があったときに、株が相続人に渡ってしまうのではないかという不安も、頭をよぎります。

この記事では、従業員や役員など、親族以外の人に会社を引き継ぐときの資金を、株の買取資金、社長の退職金、社長に万一があったときの備えの順に、4つの手順で整理します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

この記事は、法人保険への加入をお勧めするものではなく、承継の資金の現状を点検するためのものです。株の評価、税額の計算、契約書の作成は、税理士や弁護士などの専門家の領域です。

結論

  • 親族以外への承継で資金を考える手順は4つです。株の持ち主と買い方の整理、買取資金の出どころ、社長の退職金の位置づけ、社長に万一があったときの備えの順に確かめます。
  • 後継者が個人で株を買う場合も、会社が株を買い取る場合も、資金の出どころと、売る側・買う側の税の扱いを、税理士と先に確かめます。
  • 備えを削りすぎると、承継の途中で資金が空白になります。反対に、保険料を広げすぎると、毎期の資金繰りを圧迫します。両面を見て決めます。

この記事で分かること

  • 親族以外への承継で、資金の面で確認が漏れやすい3つの場面
  • 株の買取資金と社長の退職金を、どう分けて考えるか
  • FP1級が見る点検項目と、現場で起きやすい失敗の場面
  • 今週できる3ステップ
タップできる目次

1. 親族以外への承継で、資金の確認が漏れやすい3つの場面

親族以外への承継では、資金の面で確認が漏れやすい場面が3つあります。順に見ていきます。

1-1. 後継者が、株を買う資金を用意できるかを確かめていない

親族への承継では、贈与や相続で株が移ることが多くあります。親族以外の人が後継者になる場合は、株を買い取る形になることが多く、後継者に買取の資金が必要になります。会社の株の価値が大きいほど、後継者個人が用意できる資金との差が開きます。

たとえば、長年勤めた従業員を後継者にと考え、株の評価額を一度も試算しないまま、本人に意向を伝えたとします。その後、顧問税理士が株式の評価の試算を示した時期に、社長は、評価額が、後継者が自分で用意できそうな額を大きく上回ると気づき、話が止まってしまいます。社長は、税理士に、買い方の選択肢と資金の出どころを相談します。以後は、本人に意向を伝える前に、資金の見通しを一緒に整理します。

1-2. 社長自身の退職金と、株の売却代金を混ぜて考えている

社長が会社を離れるとき、手元に入るお金には、株を売った代金と、会社から受け取る役員退職金があります。性質が異なり、税の扱いも異なります。混ぜて考えると、会社の資金繰りと後継者の負担の見通しが、ずれていきます。

たとえば、社長が、退職金も株の売却代金も同じ手元に入るお金として考え、退職金は会社が払う分、売却代金は後継者が払う分だと区別していなかったとします。決算の打合せで、税理士が退職金の支払いが会社の資金繰りに与える影響を試算した時期に、社長は、退職金を厚くすると会社の手元資金が減り、後継者の借入の返済にも響くと気づきます。社長は、税理士に、退職金と株の売却代金の配分を、会社の資金繰りと合わせて試算してもらいます。以後は、二つの金額を別の表で管理します。

1-3. 承継の途中で社長に万一があった場合を、考えていない

承継の話し合いが進んでいる途中でも、売買契約が済む前に社長に万一があれば、遺言や契約がなければ、株は相続人に渡ります。相続人に会社を継ぐ意思がなければ、後継者として育ててきた人との約束は、そのままでは実現しにくくなります。

たとえば、後継者に株を段階的に買い取ってもらう計画を、口頭だけで進めていたとします。売買契約を結ぶ前に社長に万一があれば、株は相続人が取得し、後継者の買取の約束は宙に浮きます。遺言や契約がなければ、この扱いになります。顧問弁護士が、承継の約束を書面にしているかを尋ねた時期に、社長は、このリスクに気づきます。社長は、弁護士と税理士に、契約書の作成と、万一のときの資金の備えを相談します。以後は、承継の約束を書面に残します。

要するに、後継者の買取資金、社長の退職金と売却代金の区別、承継の途中の万一の3つが、資金の面で漏れやすい点です。

2. 親族以外への承継で、資金の整理が先送りになる背景

先送りになる背景は、承継を話題にしにくいこと、確認する相手が分かれていること、後継者に資金の話を切り出しにくいことの3つです。順に整理します。

2-1. 承継の話題を、社内に出しにくい

後継者の候補に、承継の意向を伝えると、社内の空気が変わる場合があります。ほかの従業員や役員への影響を考えると、話題にしにくくなります。そのため、資金の整理も、社長の頭の中だけで止まりやすくなります。

2-2. 確認する相手が、分かれている

株の評価と税額は税理士、契約書の作成と相続の備えは弁護士、保険の仕組みと手続きは保険の担当者、会社の借入は金融機関と、確認する相手が分かれています。誰に何を聞くかが整理されていないと、どこから手を付けるかで迷います。

2-3. 後継者に、資金の話を切り出しにくい

後継者に株を買ってもらう話は、お金の話であり、信頼関係にも関わります。社長からは切り出しにくく、後継者からも言い出しにくい場面です。先に、社長側で、資金の見通しを数字で整理しておくと、話し合いが進めやすくなります。

要するに、話題にしにくいこと、相談先の分かれ方、お金の話の切り出しにくさが、整理を先送りにさせます。

3. 従業員など親族以外への承継の資金を整理する、4つの手順

整理する手順は4つです。まず次の表で全体を見ます。

手順 確かめること 主に確認する相手
1. 株の持ち主と買い方 株主名簿の整理、後継者が買う形か会社が買う形か 顧問税理士・弁護士
2. 買取資金の出どころ 後継者の自己資金、金融機関の借入、会社の資金 顧問税理士・金融機関
3. 社長の退職金 規程・決議の流れと、支払い後の資金繰り 顧問税理士
4. 社長の万一への備え 契約書の作成と、保険金の使い道 弁護士・保険の担当者

3-1. 手順その1:株の持ち主と買い方を整理する

最初に、株主名簿で、誰が何株を持っているかを確かめます。社長が大半を持っていても、親族や知人にも株が分かれている場合があります。後継者に会社を任せるには、議決権をまとまった形で渡す必要があります。

買い方には、大きく2つあります。後継者が個人で株を買い取る形と、会社が自社の株を買い取る形です。会社が買い取る場合は、会社法の財源規制があり、分配可能額の範囲に限られます(出所:会社法第461条第1項)。特定の株主である社長から買う場合は、株主総会の特別決議や、ほかの株主からの売主追加の請求の手続きが要る場合があります(出所:会社法第156条・第160条・第309条第2項第2号)。手続きは弁護士に確認します。売る側の税の扱いは、株を売った場合と、会社に買い取ってもらった場合で異なる場合があります(出所:国税庁タックスアンサー)。どちらの形が合うかは、税理士の領域です。

3-2. 手順その2:買取資金の出どころを確かめる

後継者が個人で買う場合の資金には、自己資金、金融機関からの借入などがあります。借入には返済の負担が伴い、後継者の暮らしにも影響します。会社が買い取る場合は、会社の手元資金から支払うため、会社の資金繰りに影響します。

いずれの形でも、資金の出どころが一つの財産に集中していないかを見ます。同じ預金を、運転資金、退職金、買取資金の三つに当てていると、実際には足りなくなります。資金の出どころは、金額と時期を並べた表で確かめます。

3-3. 手順その3:社長の退職金の位置づけを決める

社長が退任するときに会社から受け取る役員退職金は、株の売却代金とは別の性質のお金です。会社が退職金を支払うには、定款に定めがなければ株主総会の決議が必要です。退職慰労金も同条の報酬等に当たると解されています(出所:会社法第361条)。金額を取締役会に一任する運用もあり、進め方は弁護士・税理士の領域です。退職金が不相当に高額な部分は、会社の損金になりません(出所:法人税法第34条第2項、法人税法施行令第70条第2号)。金額の考え方は、税理士の領域です。

退職金は会社の資金から出るため、支払い後の資金繰りを試算します。保険金や解約返戻金を原資に当てる場合も、会社が受け取る金額と支払う金額、時期が合うかを確かめます。退職金が株の評価に与える影響は、税理士に確認します。

法人保険の保険料の経理は、契約の内容で変わります。定期保険・第三分野保険のうち、2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上し、のちの期間に取り崩して費用にします(年換算保険料の額などによる例外や、資産計上の割合・期間の違いがあります。出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)。2019年7月8日より前の契約は取扱いが異なります。実際の処理は、顧問税理士の領域です。

3-4. 手順その4:承継の途中で社長に万一があった場合に備える

売買契約が済む前に社長に万一があると、遺言や契約がなければ、株は相続人に渡ります。承継の約束を書面にして、万一のときの扱いを決めておく必要があります。契約書の作成は、弁護士の領域です。

会社が社長を被保険者とする保険の保険金を受け取る場合は、その使い道を決めておきます。死亡退職金の支払い、株の買取の資金、会社の運転資金などの候補を並べ、優先する順番を決めます。保険金は会社が受け取るため、契約者・被保険者・受取人の組み合わせで、課税の扱いが変わります。組み合わせは、契約前に税理士に確認します。

要するに、株の持ち主と買い方、買取資金の出どころ、社長の退職金の位置づけ、万一への備えの4つを、この順に整理します。

ここまでで、4つの手順を解説しました。もっと詳しく知りたい方は、次の記事で、承継・相続の資金を解説しています。

【まるっと解説】承継・相続の資金 自社株から貸付金まで7つの視点

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。まずは、株の持ち主と、資金の出どころを、一緒に並べて確かめます。

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4. FP1級が見る、親族以外への承継の資金の点検項目

見る点は4つです。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険の種類よりも、株の買取資金と社長の退職金と運転資金が、同じ資金を当てにしていないかどうかです。

4-1. 資金の出どころの表

株の買取資金、社長の退職金、会社の運転資金を、金額と時期で並べた一つの表にします。同じ預金や同じ入金を、複数の目的に当てていないかを見ます。

4-2. 後継者の負担の大きさ

後継者が借入で株を買う場合、返済の負担が、後継者の暮らしと会社の経営の両方に響きます。後継者が無理なく担える範囲かを見ます。担えない場合は、買い方や時期を見直します。

4-3. 保障の空白と資金繰り

備えを何も用意しないと、承継の途中の万一で、資金が空白になります。反対に、保険料を広げすぎると、毎期の資金繰りを圧迫します。両面を見て、無理のない範囲を決めます。

4-4. 専門家の役割分担

株の評価と税額は税理士、契約書と相続の備えは弁護士、保険の仕組みと手続きは保険の担当者です。FPは、3者の確認事項を並べて、決める順番を整理する役割で関わります。

要するに、資金の出どころの表、後継者の負担、保障の空白と資金繰り、専門家の役割分担の4つを見ます。

5. 今週できる、承継の資金を整理する3ステップ

今週できるのは3ステップです。後継者への打診や保険の契約などの大きな決断は、後に回して構いません。

5-1. 株主名簿を確かめる

株主名簿を取り寄せ、誰が何株を持っているかを確かめます。社長の持ち分に印を付けます。

5-2. 資金の出どころを一覧にする

株の買取、社長の退職金、運転資金に使える資金を、金額と時期で一覧にします。分からない金額は、税理士に試算を依頼する項目として書き出します。

5-3. 失敗しやすい3つの場面を、先に確かめる

次の3つの場面が起きないかを、先に確かめます。親族以外への承継の資金で起きやすい失敗は、備えの削りすぎ、保険料の過剰、資金の時期のずれの3つの場面です。

  • 備えの削りすぎ:たとえば、保険料を抑えるために、承継の途中の万一への備えを何も用意していなかったとします。決算の打合せで、税理士が、万一のときの株の買取資金と退職金の財源を尋ねた時期に、社長は、どちらも確保できていないと気づきます。社長は、税理士と保険の担当者に、万一のときの資金の備え方を相談します。以後は、毎年の決算の打合せで、承継の資金の備えを見直します。
  • 保険料の過剰:たとえば、承継の資金のために、保険料の高い契約を重ねたとします。決算の打合せで、税理士が保険料の合計を示した時期に、経理担当者が、保険料が毎期の資金繰りを圧迫し、手元資金が薄くなっていると気づきます。社長は、減額や払済などの選択肢(契約の内容により選べない場合があります)を、保険の担当者と検討します。以後は、契約を増やす前に、必要な資金の額を税理士と試算します。
  • 資金の時期のずれ:たとえば、後継者が、金融機関から借り入れて株を買う計画を立て、返済の原資を役員報酬や配当に頼る見込みだったとします。金融機関の面談で、返済計画の説明を求められた時期に、後継者は、社長の退職金の支払いで会社の利益や配当が減ると、返済が滞りかねないと気づきます。社長は、税理士に、退職金の時期と金額を、後継者の返済計画と合わせて試算してもらいます。以後は、退職金の時期を、後継者の返済計画と並べて確かめます。

要するに、株主名簿を確かめる、資金の出どころを一覧にする、失敗の場面を先に確かめる、の3つを今週のうちに進めます。

6. 親族以外への承継の資金に関するよくある質問

親族以外の後継者には、どのように株を渡しますか。

多くは、後継者が株を買い取る形です。後継者が個人で買う形と、会社が株を買い取る形があります。どちらが合うかは、会社の状況と税の扱いで変わるため、顧問税理士に確認します。

会社が株を買い取るときの制限はありますか。

会社が自社の株を買い取る場合は、財源規制があり、分配可能額の範囲に限られます(出所:会社法第461条第1項)。特定の株主である社長から買う場合は、株主総会の特別決議や、ほかの株主からの売主追加の請求の手続きが要る場合があります(出所:会社法第156条・第160条・第309条第2項第2号)。手続きは弁護士に確認します。

社長の退職金は、どう決めますか。

会社が退職金を支払うには、定款に定めがなければ株主総会の決議が必要です(出所:会社法第361条)。不相当に高額な部分は、会社の損金になりません(出所:法人税法第34条第2項、法人税法施行令第70条第2号)。金額の考え方は、顧問税理士に確認します。

社長に万一があった場合、承継の約束はどうなりますか。

売買契約が済む前に社長に万一があると、遺言や契約がなければ、株は相続人に渡ります。承継の約束を書面にして、万一のときの扱いを決めておく必要があります。契約書の作成は、弁護士に相談します。

保険金は、承継の資金に使えますか。

会社が受け取る保険金を、死亡退職金の支払いや運転資金などに使う設計は考えられます。使い道は、契約者・被保険者・受取人の組み合わせと、会社の資金繰りで決まります。契約前に、顧問税理士に確認します。

保険料は、損金になりますか。

契約の内容によります。定期保険・第三分野保険のうち、2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上し、のちの期間に取り崩して費用にします(年換算保険料の額などによる例外や、資産計上の割合・期間の違いがあります。出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)。2019年7月8日より前の契約は取扱いが異なります。実際の処理は、顧問税理士の領域です。

7. まとめ|株の持ち主から、承継の資金を整理する

この記事のまとめ
  • 親族以外への承継の資金は、株の持ち主と買い方、買取資金の出どころ、社長の退職金の位置づけ、万一への備えの4つの手順で整理します。
  • 後継者が買う形でも会社が買う形でも、資金の出どころと税の扱いを、税理士と先に確かめます。
  • 備えを削りすぎると資金が空白になり、保険料を広げすぎると資金繰りを圧迫します。両面を見て決めます。
  • 株の評価と税額は税理士の領域、契約書の作成と相続の備えは弁護士の領域です。

筆者がお客さまから教わった言葉に、「自分に何かあったその時、そしてその後も、従業員や家族がずっと安心して暮らせる未来」があります。社長が守るのは、家族だけでなく、従業員とそのご家族です。承継の資金の現状を、一緒に整理します。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。株の持ち主と資金の一覧を、一緒に確かめます。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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