【納税月が重なる方へ】法人保険の年払いと納税の月 資金繰りを整える3つの手順
たとえば、3月決算の会社の社長が、手元の資金に余裕のある月とない月を知りたいと考え、去年1年分の通帳を見返すことにしたとします。売上の入金と、仕入や給与の支払いの流れは、すぐにつかめました。
ところが、法人税や消費税を納める月と、法人保険の保険料が引き落とされる月を、同じ表に並べたことは一度もありませんでした。資金繰りのご相談では、この2つを別々に見ていた、という声を伺うことが少なくありません。
納税の月は、法律で決まっています。保険料の払込月は、契約の時に決めたままのことが多いものです。2つが同じ月に重なると、その月だけ手元の資金が薄くなります。
この記事では、法人保険の目的のうち「資金繰り」を扱います。納税の月と法人保険の年払いが重なる時に、資金繰りを整える3つの手順と、つまずきやすい場面を説明します。解説するのは、大手生命保険代理店で8年、1,100名以上のご相談を伺ってきた、FP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)の筆者です。
この記事は、保険への加入や解約をお勧めするものではありません。税務の判断、申告、経理処理の確定は税理士の領域です。
結論
- 1年の支払いの月の一覧
- 保険料の払込月と払込方法の確認
- 重なる月の手当てを先に決める段取り
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
この記事で分かること
- 今週できる3ステップ
- 資金繰りを整える3つの手順
- 納税の月と保険料で起こりやすい3つのずれ
- FP1級が見る点検項目と、失敗につながる場面
1. 納税の月と法人保険の年払いで起こりやすい3つのずれ
ずれは3つあります。どれも、納税と保険料を別々の予定として管理していることから起こります。
1-1. 決算の2か月後に、年払いの保険料が重なる
法人税の確定申告と納付の期限は、原則として事業年度が終わった日の翌日から2か月以内です(法人税法第74条第1項・第77条。出所:e-Gov法令検索)。3月決算なら5月末が期限になります。
法人住民税と法人事業税も、法人税と同じ時期に申告・納付するのが基本です(地方税法第53条・第321条の8・第72条の25。出所:e-Gov法令検索)。
たとえば、社長が、契約の時に「決算に合わせて払うと分かりやすい」と考え、年払いの保険料の払込月を5月にしていたとします。5月の中旬に給与の振込データを作っていた経理部長が、法人税と住民税と事業税の納付に、年払いの保険料が加わると、月末の給与の支払いに足りないと気づきます。
経理部長は、社長が会社に一時的に貸したお金で納付を済ませ、帳簿に役員借入金が残りました。
1-2. 資産計上の部分は、現金が出ていかないと思い込む
2019年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上の定期保険と第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超える契約は、一定の少額の契約を除き、保険料の一部を資産に計上します(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)。
資産に計上する部分も、保険料としては全額が口座から出ていきます。帳簿の上の費用と、手元の現金の動きは一致しません。
たとえば、経理担当者が、損益計算書の保険料の額をそのまま写して、資金繰り表の支出の欄を作っていたとします。決算賞与の額を決める役員会で、専務が、資金繰り表の期末残高なら払えるはずの賞与が、実際の預金では払えないと指摘します。
社長は、決算賞与を予定より少ない額に抑えました。
1-3. 中間納付の回数が増えたのに、保険料の月を見直していない
消費税の中間申告の回数は、直前の課税期間の消費税の年税額(地方消費税を除く)で決まります。48万円を超えると年1回、400万円を超えると年3回、4,800万円を超えると年11回です(消費税法第42条。出所:国税庁)。
法人税も、事業年度が6か月を超える会社で、前の事業年度の法人税額を6か月分に直した額が10万円を超える場合は、中間申告と納付が要ります(法人税法第71条。出所:e-Gov法令検索)。
たとえば、社長が、売上が伸びた年も、中間納付の通知は経理に任せ、保険料の引き落としの月と照らし合わせていなかったとします。消費税の中間申告書が税務署から届いた日に、顧問税理士が、今期から中間納付が年3回になると伝え、社長は、そのうち1回が保険料の払込月と重なると気づきます。
社長は、その月に予定していた社用車の入れ替えを、2か月後の納車に変えてもらいました。
要するに、決算後の納付との重なり、資産計上の部分の思い込み、中間納付の回数の変化、の3つが起こりやすいずれです。
2. 経営者が法人保険の資金繰りと納税を別々に見てしまう背景
背景は3つです。担当者が分かれていること、帳簿と通帳の違い、契約の時に決めた月が固定されることです。
2-1. 納税は税理士、保険は保険の担当者と、相談先が分かれる
納税の予定は顧問税理士と、保険料は保険の担当者と話すことが多く、2つを同じ場で見る機会が少ないものです。どちらの担当者も、自分の分野の予定は正しく伝えています。重なりに気づく役割の人がいないことが問題になります。
2-2. 決算書の数字で、資金を見てしまう
決算書は1年の損益を見るための書類です。保険料のうち資産に計上した部分は、費用の欄に出てきません。決算書の数字だけで資金を見ると、現金の出入りとずれます。
2-3. 契約の時に決めた払込月が、そのまま続く
払込月や払込方法は、契約の時に決めると、見直す機会がほとんどありません。会社の売上や納税額は年ごとに変わりますが、保険料の月は変わらずに続きます。
要するに、相談先の分かれ、決算書と通帳の違い、払込月の固定、の3つが背景です。
3. 納税の月と法人保険の資金繰りを整える3つの手順
手順は3つです。1年の支払いの月を並べる、保険料の払込月と方法を確かめる、重なる月の手当てを決める、の順に進めます。まず次の表で全体を見ます。
| 手順 | 中身 | 確かめる資料の例 |
| 1. 支払いの月を並べる | 納税・賞与・保険料を12か月の表に | 納付書の控え・保険証券 |
| 2. 払込月と方法を確かめる | 払込月・年払いか月払いか・変更の可否 | 契約内容のお知らせ・約款 |
| 3. 重なる月の手当てを決める | 毎月の積み立て・借入の相談・使う順番 | 資金繰り表・借入の契約書 |
3-1. 手順1 1年の支払いの月を、12か月の表に並べる
最初に、12か月の表を作り、納税と保険料の月を書き込みます。並べる主なものは次のとおりです。
- 賞与の支給月
- 法人保険の払込月
- 消費税の中間納付の月
- 法人税・住民税・事業税の納付月
- 源泉所得税と住民税の特別徴収の納付月
源泉所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納めます(所得税法第183条第1項。出所:e-Gov法令検索)。給与の支払いを受ける人が常時10人未満の事業所は、納期の特例の承認を受けると、年2回にまとめて納める形にできます(所得税法第216条。出所:国税庁)。年2回にまとめると、その月の納付額が大きくなります。
3-2. 手順2 保険料の払込月と払込方法を確かめる
次に、保険証券や契約内容のお知らせで、契約ごとの払込月と払込方法を確かめます。年払いか、半年払いか、月払いかで、1回の金額と引き落としの月が変わります。
払込月や払込方法を変えられるかどうかは、契約と保険会社の取扱いで異なります。払込方法を変えると、1年あたりの保険料の総額が変わる場合があります。変更の前に、変更後の金額と、変更できる時期を保険の担当者に確かめます。
払い忘れにも気をつけます。払込の猶予期間を過ぎても払い込まないと、契約が失効する場合があります。猶予期間の長さは約款で決まっています。
3-3. 手順3 重なる月の手当てを、先に決めておく
最後に、表で重なりが見えた月について、どの資金で払うかを先に決めます。考えられる手当ては、次のようなものです。
- 借入の事前の相談
- 納税と保険料の毎月の積み立て
- 保険料の払込月や払込方法の変更
解約返戻金のある契約では、契約者貸付を使える場合があります。契約者貸付には利息がかかり、貸付の残高と利息が解約返戻金を超えると、契約が失効して保障がなくなる場合があります。手元の資金の手当ての中では、最後に考える手段として位置づけます。
保険を解約して納税にあてる考え方もありますが、解約すると保障はなくなります。解約返戻金を受け取ると、資産に計上していた額との差額が益金または損金になり、その年度の税額にも関わります。年度の判断は顧問税理士に確かめます。
重なる月の手当てを先に決めておくと、その月になってから慌てて保険を動かす必要がなくなります。
要するに、支払いの月を並べる、払込月と方法を確かめる、重なる月の手当てを先に決める、の3つを順に進めます。
ここまでで、納税の月と法人保険の資金繰りの要点を解説しました。法人保険と会社の資金繰りについて、全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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4. FP1級が見る、納税の月と法人保険の資金繰りの点検項目
見る点は4つです。FP1級の筆者が最初に見るのは、保険証券よりも、通帳の1年分の動きです。残高が薄くなる月がどこかが分かると、保険の話はそのあとで整理しやすくなります。
4-1. 残高が最も薄くなる月が、どこか
通帳の月末の残高を12か月並べ、最も少ない月を探します。その月に、納税と保険料のどちらが重なっているかを見ます。
4-2. 保険料のうち、資産に計上している部分がいくらか
決算書の保険積立金の増え方を見て、費用にならずに出ていっている現金を確かめます。資金繰り表にその分が入っているかを見ます。
4-3. 保険の目的と、保険料の大きさが合っているか
借入金の返済や退職金の準備など、契約ごとの目的を確かめます。目的に比べて保険料が重い契約がないかを見ます。目的を決めずに続けている契約は、整理を考える価値があります。
4-4. 相談先の役割分担が決まっているか
納税額の見込みと経理処理は顧問税理士、保険の手続きは保険の担当者です。FPは、納税と保険料を1枚の表に並べ、重なる月と目的のずれを整理する役割で関わります。
要するに、残高が薄い月、資産計上の部分、目的と保険料、相談先の役割分担、の4つを見ます。
5. 今週できる、納税の月と法人保険の資金繰りを整える3ステップ
今週できるのは3ステップです。重なりが見えても、すぐに保険を解約したり、新しく契約したりする必要はありません。
5-1. 去年の納付書の控えと、保険証券を集める
法人税・消費税・源泉所得税の納付書の控えと、法人保険の保険証券を1か所に集めます。納付した月と、保険料が引き落とされた月に印を付けます。
5-2. 12か月の表に、重なる月を書き込む
12か月の表に、納税と保険料の月と金額を書き込みます。重なる月が見えたら、その月の売上の入金と並べます。
5-3. 失敗につながる3つの場面を、先に確かめる
納税の月と法人保険の資金繰りで失敗につながる場面は、保障の削りすぎ、保険料の過剰、契約者貸付の返し忘れの3つです。次の場面が起きないかを、先に確かめます。
削りすぎの場面
たとえば、社長が、決算の数字で法人税の見込み額を知った日に、金額の大きさに驚き、借入金の返済に備えて入っていた定期保険の保険金額を、半分に減らす手続きを出したとします。翌年の融資の更新の面談で、取引銀行の担当者から社長の万一への備えを尋ねられ、社長は、保険金額が借入の残高を下回っていると気づきます。
減らした保険金額を元に戻すには、あらためて告知が必要になる場合があります。社長は、その間に健康診断で再検査の通知を受けていたため、元の保険金額には戻せませんでした。
過剰の場面
たとえば、社長が、保険の担当者から「納税の資金の備えに」と、解約返戻金が貯まる保険を勧められ、すでにある契約に加えて新しく契約したとします。翌期の年間の支払予定表を作り直した総務部長が、新しい契約の保険料が加わったことで、毎月の積み立てに回せる額が減り、納税の月に備える資金がかえって少なくなっていると気づきます。
社長は、新しい契約の払込方法を年払いから月払いに変え、納税の月の引き落としを小さくしました。
契約者貸付を返し忘れた場面
たとえば、経理課長が、法人税の納付期限の前日に、社長の了解を得て契約者貸付で資金を借り、納付を済ませたとします。返済は、保険会社から案内が来てから考えればよいと思っていました。
翌年、保険会社から届いた貸付残高のお知らせを読んだ監査役が、利息が加わって残高が増え、解約返戻金に近づいていると気づきます。経理課長は、翌月に入金した売掛金で、貸付の一部を繰り上げて返しました。
要するに、納付書と保険証券を集める、12か月の表に書き込む、失敗の場面を先回りする、の3つが今週の一歩です。
6. 納税の月と法人保険の資金繰りのよくある質問
Q1. 法人税は、いつまでに納めますか。
原則として、事業年度が終わった日の翌日から2か月以内に申告し、納めます(法人税法第74条第1項・第77条。出所:e-Gov法令検索)。定款の定めなどで申告期限の延長を受けた場合でも、延長した期間の分は利子税がかかります(法人税法第75条の2。出所:e-Gov法令検索)。具体的な期限と金額は顧問税理士に確かめます。
Q2. 消費税の中間納付は、何回ありますか。
直前の課税期間の消費税の年税額(地方消費税を除く)で決まります。48万円を超えると年1回、400万円を超えると年3回、4,800万円を超えると年11回です(消費税法第42条。出所:国税庁)。売上が伸びた年は、回数が変わっていないかを確かめます。
Q3. 保険料の払込月は、変えられますか。
契約と保険会社の取扱いで異なります。払込方法を年払いから月払いに変えるなどの方法もありますが、1年あたりの保険料の総額が変わる場合があります。変更の前に、変更後の金額と時期を保険の担当者に確かめます。
Q4. 資産に計上している保険料も、資金繰り表に入れますか。
入れます。2019年7月8日以後の契約で、最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険は、一定の少額の契約を除き、保険料の一部を資産に計上しますが(法人税基本通達9-3-5の2。出所:国税庁)、口座からは全額が出ていきます。資金繰り表には、引き落とされる月に実額で書きます。
Q5. 納税のために、契約者貸付を使ってもよいですか。
使える場合はありますが、利息がかかり、貸付の残高と利息が解約返戻金を超えると、契約が失効して保障がなくなる場合があります。使う時は、返済の予定を資金繰り表に入れます。手元の資金の手当ての中では、最後に考える手段です。
Q6. 納税のために保険を解約すると、税金はどうなりますか。
解約返戻金を受け取ると、資産に計上していた額との差額が益金または損金になります。その年度の税額にも関わるため、解約の時期と経理処理は、顧問税理士に確かめてから決めます。解約すると保障もなくなるため、保険の目的もあわせて確かめます。
7. まとめ|納税の月と法人保険は、1枚の表で見る
- 支払いの月の一覧
- 税務と経理は税理士の領域
- 払込月と払込方法、総額の変化
- 資産計上の部分も全額が現金の支出
- 契約者貸付は利息と失効に注意し最後の手段
- 削りすぎは保障の空白、過剰は資金繰りの圧迫
筆者は、社長が守るものは家族だけではなく、従業員とそのご家族の暮らしでもあると教わってきました。納税の月に慌てて保険を動かさずに済むことも、会社で働く人の安心につながると考えています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。12か月の表を作るところから、一緒に進めます。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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