【2026年版】新任役員の退職金 就任時に確かめる4つのチェック項目
今春、営業部長だった方が取締役に就任しました。社長は「これからは経営を一緒に担ってほしい」と声をかけ、新任の取締役は意気込んで新しい名刺を受け取ります。
数日後、経理担当者がふと気づきます。「新しい取締役の退職金は、規程のどこに書かれているのだろう。従業員のときの勤続は、どう扱うのだろう」。
役員の就任は、会社にとって喜ばしい出来事です。ただ、退職金の扱いは、就任のタイミングで確かめておかないと、何年も先に食い違いとして表に出てきます。
この記事では、最近役員が就任した会社が、就任時に確認しておきたい退職金のチェック項目を、2026年10月時点の考え方で解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 新任役員の退職金は、就任のときに、規程と在任年数の扱いを確かめておくと後で揉めにくくなります。
- 確認するチェック項目は、規程の適用・在任年数の数え方・従業員時代の勤続の扱い・財源の積み上げの開始の4つです。
- 確認を飛ばすと、退任の時期に認識が食い違います。税務の個別判断は税理士の領域、労務の個別判断は社会保険労務士・弁護士の領域です。
この記事で分かること
- 新任役員の退職金で、あとから困りやすい3つの場面
- 就任時の確認が抜けやすい理由
- 就任時に確かめる4つのチェック項目
- 確認不足と、決めすぎの失敗場面
1. 新任役員の退職金で、あとから困りやすい3つの場面
就任時に確認を省くと、数年後の退任・昇格・財源づくりの3つの場面で困ります。順に見ていきます。
1-1. 退任の日に、金額の認識が食い違う
就任したときに、退職金について何も話していないと、退任の日に双方の認識がずれます。
たとえば、新任の取締役は「従業員時代の勤続も含まれる」と思っていたのに、会社は「役員になってからの在任期間で計算する」と考えていたとします。
金額に大きな差が出て、気まずい話し合いになります。
1-2. 規程が、新しい役員を想定していない
古い規程を使っている会社では、規程の対象や計算の考え方が、新任の役員の立場に合っていないことがあります。
たとえば、規程が社長と専務だけを想定して書かれており、新任の取締役には何を適用するのか読み取れないとします。決議のたびに、解釈で金額を決めることになります。
1-3. 財源の積み上げが、スタートできない
新任役員の退職金は、在任期間が長くなるほど金額が大きくなる方向にあります。
就任時に財源の考え方がないと、積み上げを始める時期が遅れます。数年後にまとめて用意しようとすると、その期の資金繰りに響きます。
要するに、金額の食い違い・規程のずれ・財源の出遅れの3つが、確認を省いたときの困りごとです。
2. 就任時に、退職金の確認が抜けやすい理由
確認が抜けるのは、退任が遠く感じられることと、就任の手続きに目が向きがちなことの2つが理由です。順に説明します。
2-1. 退任は、ずっと先のことに見える
就任したばかりの役員にとって、退任は遠い話です。会社も本人も、「いまは仕事に集中したい」と考えます。
ところが、退職金の取り決めは、時間が経つほど話し出しにくくなります。就任の時点なら、「会社の制度として確認しておきましょう」と自然に切り出せます。
2-2. 就任の手続きに、気持ちが向いている
役員の就任では、株主総会の決議、登記、報酬の決定、名刺や社内への周知など、やることが多くあります。
報酬の金額は決めても、退職金までは手が回りません。報酬は毎月の話で、退職金は将来の話だからです。
役員報酬は、定期同額給与として損金になるのが基本です。(出所:法人税法第34条第1項第1号)報酬の確認のついでに、退職金の確認も並べて行うと、抜けが減ります。
要するに、退任の遠さと就任手続きの忙しさが、退職金の確認を後回しにします。
3. 新任役員の退職金で確かめる4つのチェック項目
規程の適用・在任年数の数え方・従業員時代の勤続の扱い・財源の積み上げの開始の4つを、就任のときに確かめます。全体を表にまとめます。
| チェック項目 | 確かめること | 相談する相手 |
| 1. 規程の適用 | 新任役員にも規程が当てはまるか、計算の考え方は明確か | 社長・税理士 |
| 2. 在任年数の数え方 | いつから数えるか、前の退職手当等との関係はどうか | 税理士 |
| 3. 従業員時代の勤続 | 従業員としての勤続の退職金をどう扱うか | 社長・社会保険労務士・税理士 |
| 4. 財源の積み上げ | いつから、どの方法で、いくらの目安で準備するか | 経理担当者・税理士 |
3-1. チェック項目1|規程が新任役員に当てはまるか
まず、役員退職慰労金規程を開き、新任役員にも適用される書き方になっているかを確かめます。
規程がない場合は、就任を機に作ることを検討します。退職金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)決議の拠り所となる規程があると、判断がぶれにくくなります。
規程の整え方は、役員退職金の規程と株主総会決議を整える方法で説明しています。
3-2. チェック項目2|在任年数の数え方を確かめる
次に、在任年数を、いつから数えるかを確かめます。
役員等としての勤続年数が5年を超えない場合の退職手当等は「特定役員退職手当等」とされ、退職所得の2分の1課税の適用がありません。(出所:所得税法第22条第2項、国税庁タックスアンサー No.2732)
つまり、在任の年数が、受け取る側の税金の扱いに関わります。
また、以前に別の退職手当等を受け取っていて、勤続期間が重なる場合は、重複期間の調整があります。年数の細かい判定は複雑なため、税理士に確認してください。
3-3. チェック項目3|従業員時代の勤続の扱いを決める
従業員から役員になった方は、従業員だった期間の退職金をどう扱うかを、就任のときに決めておきます。
従業員としての退職金制度がある会社では、その分を役員就任時に区切るのか、役員の退職金に通算するのか、取り扱いを明確にします。
退職金の引下げは、労働条件の不利益変更に当たる場合があり、原則として労働者の同意が必要です。(出所:労働契約法第8条)就業規則の変更による場合は、変更の合理性が求められます。(出所:労働契約法第9条・第10条)個別の判断は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。
3-4. チェック項目4|財源の積み上げを、就任のときから考える
最後に、新任役員の退職金の財源を、いつから、どの方法で準備するかを考えます。
在任の見込み期間が長いほど、毎期に分ければ負担が軽くなります。逆に、就任から数年は金額が小さいため、最初は簡単な目安だけで足ります。
確認の流れは、次の順が目安です。
- 規程を開き、新任役員に当てはまるかを確認します。
- 在任年数の起点と、従業員時代の勤続の扱いを書面に残します。
- 顧問税理士に、税金の扱いと損金の考え方を確かめます。
- 財源の積み上げの目安を、経理担当者と決めます。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順
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要するに、規程・在任年数・従業員時代の勤続・財源の4点を、就任のうちに書面にして残します。
4. 新任役員の退職金で起きやすい失敗
失敗は、確認が足りない場合と、先に決めすぎる場合の両方で起きます。場面を対にして見ます。
4-1. 確認が足りない場面
- 就任時に何も話さない:たとえば、社長が「信頼しているから大丈夫」と、退職金の話を省いたとします。数年後、新任だった役員が退任するとき、双方の期待が食い違います。
- 従業員時代の扱いが口約束:たとえば、社長が「従業員のときの分も考えるよ」と口頭で伝えたとします。書面がなく、社長の代替わりのあと、後継者が経緯を知らないままになります。
- 古い規程のまま運用する:たとえば、経理担当者が、役員が増えても規程を見直さずにいたとします。決議のたびに解釈が割れ、説明に時間がかかります。
4-2. 先に決めすぎる場面
- 就任時に金額を約束してしまう:たとえば、社長が人材をつなぎとめるため、就任時に高い金額を約束したとします。会社の業績が変わっても、約束が重荷になります。
- 新任のうちから財源を厚く積む:たとえば、新任役員の分まで、財源を急いで大きく積み上げたとします。在任が短く終わる場合もあり、その間の資金が寝てしまいます。
就任時に決めるのは、考え方と起点です。金額は、在任期間や貢献に合わせて、後から決議で決めます。
要するに、何も決めないことも、金額まで決めてしまうことも、後の自由度を下げます。
5. 今週できる新任役員の退職金チェックリスト
今週のうちに、次の5項目を確かめます。
- 最近就任した役員の名前と、就任の日を一覧にしましたか。
- 役員退職慰労金規程が、その役員にも当てはまる書き方か確かめましたか。
- 従業員から役員になった方について、従業員時代の勤続の扱いを書面にしていますか。
- 以前に別の会社などで退職手当等を受け取った方がいないか、本人に確かめましたか。
- 顧問税理士に、在任年数と税金の扱いについて相談する日を決めましたか。
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要するに、役員の一覧・規程・従業員時代の扱い・以前の退職手当等・税理士への相談が、今週の5つの確認です。
6. よくある質問
Q1. 役員に就任したばかりでも、退職金の話をしておいてよいですか。
むしろ就任のときが話しやすい時期です。規程の適用と在任年数の起点を確認しておくと、退任の時期に認識が食い違いにくくなります。
Q2. 役員としての勤続が短いと、税金の扱いは変わりますか。
役員等としての勤続年数が5年を超えない場合の退職手当等は、特定役員退職手当等とされ、退職所得の2分の1課税の適用がありません。(出所:所得税法第22条第2項、国税庁タックスアンサー No.2732)個別の判断は税理士に確認してください。
Q3. 従業員だった期間の退職金は、役員の退職金に含められますか。
会社の取り決め次第です。区切るのか通算するのかを、就任のときに書面で決めておきます。制度の変更を伴う場合は、社会保険労務士や弁護士にも確認します。
Q4. 以前に別の会社で退職金を受け取っていると、何か影響がありますか。
前に退職手当等を受け取っていて勤続期間が重なる場合は、重複期間の調整があります。年数の判定は複雑なため、税理士に確認してください。
Q5. 新任役員の退職金の金額は、就任のときに決めるのですか。
金額まで決める必要はありません。就任のときに決めるのは、規程の適用と在任年数の起点です。金額は、在任期間や貢献に合わせて、株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)
Q6. 不相当に高額だと、損金にならないのは新任の役員でも同じですか。
同じです。役員退職給与の不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)金額の水準は、顧問税理士と確かめます。
7. まとめ
- 新任役員の退職金は、就任のときに規程と在任年数の扱いを確かめておくと、後で揉めにくくなります。
- チェック項目は、規程の適用・在任年数の数え方・従業員時代の勤続の扱い・財源の積み上げの開始の4つです。
- 役員等としての勤続が5年を超えない場合は、退職所得の2分の1課税の適用がありません(出所:国税庁タックスアンサー No.2732)。
- 就任時に決めるのは考え方と起点で、金額は後から決議で決めます。個別の判断は専門家に確認します。
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筆者は、社長にとっての『その時』は突然訪れるとは限らず、勇退の日もそのひとつだと考えています。長年会社を支えてきた社長が、準備した財源で安心して次の暮らしに進めるよう、数字に載らない想いも伺いながら一緒に整理します。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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