決算が終わり、顧問税理士から報告を受けたとします。「今期も黒字です。ただ、自社株の評価額は前期より上がっています」。社長は「よい話じゃないか」と答えながら、どこか引っかかります。

経理担当者も、土地の含み益が増えた貸借対照表を見て気づきます。会社が育つほど、将来の自社株の評価額も上がり得ることに。

この記事では、自社株の評価額が上昇傾向にある会社が、将来の納税資金で慌てないための3つの視点を解説します。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

結論

  • 会社の成長は喜ばしいことですが、自社株の評価額の上昇は、将来の納税資金の必要額にも影響します。
  • 視点は、評価額の動き・必要資金の幅・資金の置き場所の3つです。
  • 評価の計算と税の確定は税理士の領域です。法人の保険は、置き場所の選択肢のひとつにとどまります。

この記事で分かること

  • 評価額が上がる会社で起きやすい3つの場面
  • 気づくのが遅れる2つの理由
  • 納税資金を考える3つの視点
  • 足りない場合と重すぎる場合の失敗
  • 今週できる確認事項

1. 自社株の評価額が上がる会社の納税資金で、見落としやすい3つの場面

評価額の上昇は、決算・資産・承継の時期の3つの場面で、資金の話に変わります。順に見ます。

1-1. 黒字が続いて、評価額がじわじわ上がる

利益が積み上がると、会社の純資産が増え、自社株の評価額にも反映される場合があります。

社長は経営の成果として受け止め、経理担当者は決算の数字として扱います。誰も「承継のときの金額」に結びつけていない、という状態です。

1-2. 土地の時価が上がり、含み益が膨らむ

事務所や工場の土地が値上がりすると、帳簿に出ない含み益が増え、評価額に影響することがあります。

たとえば、創業時に買った土地が今は大きく値上がりしていても、決算書の数字は変わらず、現預金も増えません。評価額だけが上がり、手元の資金は増えない、というずれが生まれます。

1-3. 後継者に渡す時期が近づいて、初めて金額を知る

承継の時期が近づいてから評価額を試算すると、想定より大きな数字に驚くことがあります。

たとえば、社長が70代に入り、後継者への引き継ぎを考え始めた時点で、はじめて試算を頼んだとします。資金を用意する期間が、短くなっています。

要するに、評価額の上昇と、手元資金の増加は別々に動きます。

2. 自社株の評価額の上昇に気づくのが遅れる理由

遅れる理由は、決算書に表れにくいことと、試算を頼む習慣がないことの2つです。整理します。

2-1. 決算書には、評価額が載っていない

決算書は会社の損益と財産を示しますが、自社株の評価額は載りません。評価額は、別の計算で求めます。

そのため、利益が出ていても、社長にも経理担当者にも評価額の動きが見えません。

2-2. 試算を頼むきっかけがない

顧問税理士は、頼まれなければ自社株の評価の試算を出さないことが多いです。

決算の報告の場で「今期の評価額も出してください」と一言伝えるだけで、毎年の数字がそろいます。

たとえば、5年分の試算が並んでいれば、上昇の傾きが見え、将来の資金の見積もりが立てやすくなります。

要するに、頼む一言が、評価額を見える数字に変えます。

3. 自社株の評価額が上がる会社が納税資金を備える3つの視点

視点は、評価額の動き・必要資金の幅・資金の置き場所の3つです。全体を表で整理します。

視点 確かめること 頼る相手
1. 評価額の動き 毎年の決算後の評価額と、上昇の理由(利益・土地など) 顧問税理士
2. 必要資金の幅 評価額の上昇が続いた場合の、納税資金の見込みの幅 税理士
3. 資金の置き場所 手元の預金・退職金の原資・法人の保険金・自社株の買取などの比較 税理士・FP1級
  1. 決算が終わるたびに、自社株の評価額の試算を顧問税理士へ頼みます。
  2. 評価額が上がった理由を、利益・土地・その他に分けて聞きます。
  3. 上がり続けた場合の納税資金を、幅を持たせて試算してもらいます。
  4. 資金を用意する手段を、会社と個人の両面から並べて比べます。

3-1. 資金の置き場所は、複数を並べて比べる

置き場所の候補は、おもに次のとおりです。

  • 社長や後継者の個人の預金
  • 会社の内部留保(ただし、運転資金とのバランスが前提)
  • 死亡退職金の原資として、法人が契約する保険の保険金
  • 自社株の一部を会社に買い取ってもらう方法

自己株式の取得は、分配可能額の範囲内で認められています。(出所:会社法第461条)株を譲った人には、みなし配当として課税される場合があります。(出所:所得税法第25条)詳細は税理士にご確認ください。

法人が契約する保険は、承継・相続の資金を用意する目的のひとつです。保険料の損金算入は、2019年(令和元年)の通達改正後の扱いで、契約の種類により変わります。経理処理は税理士の領域です。

手段の優劣ではなく、運転資金を減らさずに用意できるかで選びます。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

自社株の相続税 納税資金を法人保険で備える視点

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。直近の決算書と、お手元の自社株の評価額の資料があれば、拝見しながら整理します。

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要するに、評価額・資金の幅・置き場所を、毎年の決算後に点検します。

4. 評価額が上がる会社の資金準備で起きやすい失敗

失敗は、何もしない場合と、しすぎる場合の2方向にあります。社長は決める側、経理担当者は支払い額を見て気づく側です。

4-1. 備えが足りない場面

  • 評価額を確認しないまま数年が過ぎる:承継の直前に試算を頼み、必要な資金を急いで工面することになります。金融機関への相談が、納税の直前になります。
  • 土地の含み益を見落とす:決算書上の現預金は少ないままで、評価額だけが大きくなっている会社があります。経理担当者が資金表を見ても、気づけません。

4-2. 備えが重すぎる場面

  • 将来の最大額に合わせて、大きな積立をしてしまう:運転資金が薄くなり、設備更新や賞与の原資が削られます。
  • 保険料の負担が重い契約を重ねる:経理担当者が毎月の支払いを見ると、資金繰りが苦しい月が出てきます。評価額は変わるため、一度決めた金額も見直しが必要です。

将来の額は変動するため、一度で決めず、毎年の試算を見ながら調整します。

要するに、確認しないことも、先走って積むことも、会社の負担になります。

5. 今週できる自社株の評価額の確認チェックリスト

今週は、顧問税理士への一言から始めます。

  • 直近の決算で、自社株の評価額の試算を依頼する日を決めた。
  • 過去数年の評価額の推移を、並べて見られるようにした。
  • 会社が持つ土地や有価証券の含み益を、一覧にした。
  • 自社株を継がせる人と、その時期の目安を、社長が口にした。
  • 納税資金の手段を、個人と会社の両面で書き出した。

あわせて読みたい

6. 自社株の評価額に関するよくある質問

Q1. 自社株の評価額は、黒字が続くと上がるのですか。

上がる場合があります。利益や純資産が積み上がると評価額に反映されやすく、会社が持つ土地の時価が上がっても影響します。具体的な評価は税理士が計算するため、決算ごとに試算を依頼してください。

Q2. 自社株の評価額は、どのくらいの頻度で確認すればよいですか。

決算が終わるたびに、顧問税理士へ試算を依頼する方法があります。毎年確認すると、変化の幅が分かり、将来の資金の見積もりに役立ちます。

Q3. 評価額が上がると、相続税はすぐに高くなりますか。

相続税は、自社株を含む相続財産の全体や相続人の状況で決まります。評価額の上昇だけで判断せず、税理士に全体の試算を依頼してください。(出所:国税庁)

Q4. 会社に自社株を買ってもらう方法はありますか。

自己株式の取得は、分配可能額の範囲内で認められています。(出所:会社法第461条)株を譲った人には、みなし配当として課税される場合があります。(出所:所得税法第25条)詳細は税理士にご確認ください。

Q5. 納税資金に法人の保険を使う場合の注意点は何ですか。

保険は、承継・相続の資金を用意する手段のひとつです。保険料の損金算入は2019年(令和元年)の通達改正後の扱いで契約の種類により変わるため、税理士と確認し、会社の資金繰りに無理のない範囲にとどめます。

Q6. 自社株を生前に贈与すれば、評価額の上昇を避けられますか。

時期によって有利不利が分かれ、一概には言えません。相続開始前3年以内の暦年課税の贈与は相続財産に加算され、2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から加算期間が段階的に7年へ延びています。(出所:国税庁、相続税法第19条)

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 自社株の評価額は、黒字の継続や土地の時価の上昇で上がる場合があり、手元の資金とは別に動きます。
  • 視点は、評価額の動き・必要資金の幅・資金の置き場所の3つです。
  • 毎年の決算後に試算を頼むと、見通しが立てやすくなります。
  • 評価と税の確定は、税理士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。決算書をもとに、評価額の動きと資金の見通しを一緒に整理します。

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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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