【基本から】死亡退職金の受取人 規程がない時の3つの落とし穴
社長に万一があった直後の会社で、専務と経理担当者が顔を見合わせる場面があります。「退職金は、奥様に出すのでしょうか。それとも、相続人みんなで分けるのでしょうか」。
役員退職慰労金の規程を作っていなかった会社では、答えを探す資料がありません。規程があっても「遺族に支給する」としか書かれていなければ、「遺族」が誰を指すのかで迷います。
この記事では、死亡退職金の受け取り手が分からなくなる悩みを入口に、一般的な制度の考え方と、法人保険を使う場合のメリット・条件を解説します。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
結論
- 死亡退職金の受け取り手は、規程の有無と文言によって見え方が変わります。
- 規程で受給権者の範囲と順位を定めておくと、迷いと争いを減らしやすくなります。
- 規程などに別段の定めがない場合は、相続人が受給権者になると整理する行政の解釈例規があります。規程で別の範囲・順位を定めていれば、その定めが優先される例があります。弁護士・税理士への確認が必要です。
この記事で分かること
- 受け取り手が分からず困る3つの場面
- 規程の問題が見落とされる理由
- 規程で受給権者を定める考え方と、法人保険の使い方
- 備えが足りない場合と重すぎる場合の失敗場面
- 今週できる確認チェックリスト
1. 死亡退職金の受取人が分からず陥る3つの落とし穴
落とし穴は、規程がない・文言があいまい・認識がずれるの3つです。順に見ます。
1-1. 規程がなく、決める根拠がない
役員退職慰労金の規程がない会社では、死亡退職金を誰に、いくら、いつ支払うかを決める根拠がありません。
たとえば、専務が遺族に連絡しようとしても、「会社としてどう考えるのか」を示す文書がありません。遺族は見通しが立たず、会社への不信感を持つことがあります。
1-2. 規程に「遺族に支給する」としか書かれていない
規程があっても、「遺族」とだけ書かれていると、配偶者なのか、子なのか、相続人全員なのかが読み取りにくくなります。
「遺族に支給」とだけ定めた場合、遺族の範囲と順位は、労働基準法施行規則の遺族補償の定め(第42条〜第45条)に準じて考える例があり、その場合は配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にあった人を含む)が先に位置づけられます。ただし、会社の規程の文言次第で扱いが変わります。
「相続人」と書かれている場合も、遺産として分けるものなのか、受け取る人が固有に受け取るものなのかで、見方が分かれることがあります。
たとえば、経理担当者が支払いの準備をしても、受取人が確定しなければ振込先も決められません。
1-3. 会社と遺族の認識がずれる
社長は「妻に残すつもり」と考えていても、会社の規程には書かれていない、ということがあります。
そうすると、会社は規程どおりに動き、遺族は社長の意向を期待して、双方の認識がずれます。
要するに、規程がない・文言があいまい・意向が書かれていない、の3つが受取人の迷いを生みます。
2. 死亡退職金の受取人の問題が見落とされる理由
見落とされる理由は、「家族は分かっているはず」という思い込みと、規程を作る機会が少ないことの2つです。整理します。
2-1. 家族は分かっているはずと思い込む
社長が家族に話したつもりでも、会社の規程や決議として残っていなければ、会社はその意向に沿って支払えません。
口頭の意向と、会社の手続きは別のものです。
2-2. 規程を作る機会が少ない
退職金の規程は、社長本人が元気なうちは、急ぎの課題になりません。
取締役の報酬や退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)決議の手順は、規程と合わせて整えておくと動きやすくなります。
たとえば、決算のたびに「来期に整えよう」と先送りされ、数年が過ぎることがあります。
要するに、意向を口頭に頼ることと、規程の先送りが、見落としの理由です。
3. 受給権者の定め方の一般的な制度と、法人保険の使い方
一般的な制度は、役員退職慰労金規程や弔慰金支給規程で、受給権者の範囲と順位を定めておく方法です。まず全体を表で整理します。
| 状況 | 起きやすいこと | 確認する相手 |
| 規程がない | 受取人を決める根拠がない。別段の定めがなければ相続人が受給権者になると整理する解釈例規がある | 弁護士・税理士 |
| 「遺族に支給」と定めた | 範囲と順位は、労働基準法施行規則の遺族補償の定めに準じて考える例がある。会社の規程の文言次第で扱いが変わる | 弁護士・税理士 |
| 範囲と順位を定めた | 迷いが減りやすい。規程の文言や経緯が確認される | 顧問税理士・社会保険労務士 |
3-1. 判例の趣旨|規程で定めた場合の例
最高裁判所は、規程で受給権者の範囲と順位が定められている死亡退職金について、受給権者固有の権利とした例があります。(出所:最高裁判所 昭和55年11月27日判決)
ただし、この判決の趣旨がどの会社にも当てはまるとは限りません。
規程などに別段の定めがない場合、亡くなった方の相続人(民法の一般原則による遺産相続人)が受給権者になると整理する行政の解釈例規があります(出所:労働省の解釈例規 昭和25年7月7日 基収1786号)。ただし、規程で別の範囲・順位を定めていれば、その定めが優先される例があります。役員の場合や会社の事情によって扱いが変わることもあるため、弁護士・税理士に確認してください。
3-2. 進め方の手順
- 役員退職慰労金規程と弔慰金支給規程が、いまあるかを確かめます。
- 誰に支給したいのか、社長の意向を書き出します。
- 受給権者の範囲と順位の書き方を、弁護士・税理士と相談します。
- 株主総会の決議の手順を整えます。(出所:会社法第361条第1項)
3-3. 法人保険の使い方|原資を会社に置く
法人が契約する保険は、死亡退職金や弔慰金の原資を会社に用意する方法のひとつです。受け取った死亡保険金は、会社の益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)
ここで押さえる条件は3つです。
- 保険金が入っても、死亡退職金が自動で支払われるわけではありません。規程と決議が必要です。
- 不相当に高額な死亡退職金の部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)
- 保険料の損金算入は2019年(令和元年)の通達改正後の扱いで、契約の種類により変わります。税理士に確認します。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、規程で範囲と順位を定め、決議の手順を整えるのが基本です。法人保険は、その原資を会社に置く方法のひとつです。
4. 規程を整えるメリットと、よくある失敗場面
メリットは、迷いと争いを減らしやすくなることです。ただし、条件があり、削りすぎも過剰も失敗につながります。
4-1. メリットと条件
- 受取人の迷いが減りやすくなる:範囲と順位を規程に書くことが条件です。文言は専門家と確かめます。
- 支払いの準備が進めやすくなる:決議の手順が整っていることが条件です。
- 原資を会社に置く選択肢が持てる:法人保険の保険金額や保険料は、会社の資金繰りに合わせて決めることが限度です。
4-2. 削りすぎ|備えが足りない場面
- 規程を作らないまま先送りする:社長に万一があったあと、専務が受取人の根拠を示せず、遺族との話が止まります。
- 「遺族」とだけ書いて放置する:経理担当者が支払う場面で、範囲を巡って意見が分かれます。
- 保障を減らして原資がない:決議はできても、支払いの資金が足りません。
4-3. 過剰|備えが重すぎる場面
- 保険料の重ね持ち:社長が心配のあまり契約を重ね、毎月の保険料が平時の資金繰りを圧迫します。
- 退職金の金額の上乗せ:不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)
金額は、毎年の決算の数字を見ながら、税理士と見直します。
要するに、規程を作らないことも、備えを重ねすぎることも、会社と遺族の負担になります。
5. 規程の整備で描ける未来と、今週できる確認
規程と決議の手順が整うと、遺族と会社の間に受け取り手の迷いを残さないという選択肢が持てます。
社長に万一があったときも、専務や経理担当者が規程を開いて、落ち着いて手続きを進めやすくなります。遺族も、会社の考えを文書で確かめやすくなります。ただし、規程の効力や受給権者の扱いは、役員の場合や会社の事情によって変わることもあります。
今週は、次の5つを確かめます。
- 役員退職慰労金規程と弔慰金支給規程が、いまあるか確かめた。
- 規程に「遺族」「相続人」の文言があるか、確かめた。
- 社長が誰に支給したいか、考えを書き出した。
- 株主総会の決議の手順を、顧問税理士に確かめた。
- 弁護士・税理士に確認したい点を、メモにした。
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6. 死亡退職金の受取人に関するよくある質問
Q1. 規程がない場合、死亡退職金は誰が受け取りますか。
規程などに別段の定めがない場合、亡くなった方の相続人(民法の一般原則による遺産相続人)が受給権者になると整理する行政の解釈例規があります(出所:労働省の解釈例規 昭和25年7月7日 基収1786号)。ただし、規程で別の範囲・順位を定めていれば、その定めが優先される例があります。役員の場合や会社の事情によって扱いが変わることもあるため、弁護士・税理士に確認してください。
Q2. 規程に「遺族に支給する」と書けば足りますか。
「遺族に支給」とだけ定めた場合、遺族の範囲と順位は、労働基準法施行規則の遺族補償の定め(第42条〜第45条)に準じて考える例があり、その場合は配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にあった人を含む)が先に位置づけられます。ただし、会社の規程の文言次第で扱いが変わるため、範囲と順位を具体的に書いておくと迷いを減らせます。文言は専門家と確かめてください。
Q3. 規程があれば、遺産分割の対象にならないのですか。
最高裁は、規程で受給権者の範囲と順位が定められている死亡退職金を受給権者固有の権利とした例があります。(出所:最高裁判所 昭和55年11月27日判決)ただし、規程の文言や経緯により判断が分かれるため、弁護士に確認してください。死亡退職金には、遺族の生活を守る性質(受け取った人の固有の財産とされる方向)と、賃金の後払いの性質(遺産分割の対象とされる方向)の2つがあるとされ、支給の根拠や経緯、支給基準などの事情を総合して判断されます。固有の財産とされる場合でも、他の相続人から特別受益として相続財産に加えるべきだと主張される可能性があります。
Q4. 死亡退職金の支払いに、株主総会の決議は必要ですか。
取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)手順は顧問税理士と確かめてください。
Q5. 法人保険の保険金で、死亡退職金を払えますか。
法人が受け取る死亡保険金は益金になり、原資にする考え方があります。(出所:法人税法第22条第2項)支払いには規程と決議が必要で、金額の相当性は会社ごとに判断されます。税理士に確認してください。
Q6. 規程は、いつ見直せばよいですか。
役員の交代や家族の状況の変化があったときが、見直しの機会です。決算のタイミングで、規程の文言と実態が合っているかを確かめます。
7. まとめ
- 死亡退職金の受け取り手は規程の有無と文言で見え方が変わり、範囲と順位を定めておくと迷いと争いを減らしやすくなります。
- 規程などに別段の定めがない場合は、相続人が受給権者になると整理する解釈例規があり、規程で別の定めがあればそれが優先される例があります。弁護士・税理士に確認します。
- 法人保険は原資を会社に置く方法のひとつです。規程・決議・金額の相当性が条件です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。いまの規程と保険の状況をもとに、受取人の決め方を一緒に整理します。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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