【社長へ】法人保険の受取人が役員個人だと給与扱い?3つの注意点
決算の前に、経理担当者が保険の証券を広げて、首をかしげる場面があります。
「契約者は会社、被保険者は社長。でも、受取人の欄に社長ご本人の名前がある。この保険料は、経費のままでいいのでしょうか」。
法人保険の相談では、こうした「受取人を誰にしたかで、保険料の扱いが変わるのか」というお話をよくいただきます。
この記事では、法人保険の受取人を役員個人や遺族にした場合に、保険料が給与として扱われる考え方を、国税庁の案内と通達をもとに整理します。保険料を経費にする方法の紹介ではなく、契約の中身を見直すときの確認点をまとめたものです。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 受取人が被保険者本人や遺族だと、保険料は給与として扱われる場合があります。保険の種類と、誰を被保険者にしているかで結論が変わります。
- 確認する注意点は、受取人の組み合わせ・被保険者の範囲・契約した時期の3つです。
- 給与扱いを避けるために保障を削ると、万一の資金が足りなくなります。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 保険料が給与として扱われる3つの場面
- 見落としやすい理由
- 確認する3つの注意点と、削りすぎ・過剰の失敗場面
- 今週できる確認チェックリスト
1. 法人保険の受取人が役員個人だと保険料が給与になる3つの場面
給与として扱われやすいのは、養老保険で受取人が本人や遺族の場合、養老保険で特定の役員だけが被保険者の場合、定期保険で受取人が遺族かつ特定の役員だけが被保険者の場合の3つです。順に見ていきます。
1-1. 養老保険で、保険金の受取人が被保険者本人や遺族の場合
会社が契約者になり、役員や使用人を被保険者とする養老保険で、満期の保険金も万一の保険金も、受取人が被保険者本人またはその遺族のときは、会社が支払った保険料は、その役員や使用人への給与として扱われます。(出所:法人税基本通達9-3-4、国税庁タックスアンサーNo.5360・No.5363)
たとえば、会社が払う保険料なのに、受取人が社長ご本人になっている養老保険があったとします。会社の経費にしている決算書は、見直しの対象になります。
1-2. 養老保険で、特定の役員だけが被保険者の場合
万一の保険金の受取人が被保険者の遺族で、満期の保険金の受取人が会社という組み合わせでは、保険料の2分の1を資産に計上し、残りを期間に応じて損金にするのが原則です。ただし、役員または部課長その他特定の使用人(これらの方の親族を含む)だけが被保険者のときは、その残りも給与とされます。(出所:法人税基本通達9-3-4、国税庁タックスアンサーNo.5360)
たとえば、加入者が社長と専務だけの養老保険は、この形に当たるかどうかを確認する必要があります。
1-3. 定期保険で、受取人が遺族かつ特定の役員だけが被保険者の場合
定期保険は、保険金の受取人が被保険者の遺族のとき、保険料は原則として期間の経過に応じて損金にします。ただし、役員または部課長その他特定の使用人(これらの方の親族を含む)だけを被保険者とする場合は、その保険料は当該役員や使用人への給与とされます。受取人が会社のときの扱いは通達の別の定めによるため、この記事では扱いません。(出所:法人税基本通達9-3-5、国税庁タックスアンサーNo.5361)
受取人が遺族だから損金、と考えて処理していた会社が、被保険者の範囲を見落としている例があります。
要するに、受取人の欄だけでなく、被保険者が誰なのかを同時に見ることが、給与扱いの入口の確認です。
2. 受取人と被保険者の組み合わせが見落とされる理由
見落とされる理由は、契約したときの設計が引き継がれにくいことと、福利厚生と役員の保障の線引きがあいまいなことの2つです。整理します。
2-1. 契約のときの設計が、経理に伝わっていない
受取人の欄は、契約のときに一度決めると、その後は見る機会が少なくなります。社長が決めた内容が経理担当者に伝わらず、月々の保険料が一律に経費として処理されることがあります。
2-2. 福利厚生のつもりで入ったが、実態は役員だけの加入になっている
従業員のための制度として始めたのに、実際の被保険者が社長と家族役員だけになっていることがあります。
たとえば、始めたときは従業員にも案内したものの、退職や入れ替わりで、いつの間にか役員だけが残ったとします。この場合、通達の「役員のみを被保険者」の形に近づきます。
加入範囲の考え方は、養老保険を福利厚生に使うときの加入範囲の記事で整理しています。
要するに、「契約の経緯が引き継がれない」と「福利厚生のつもりが役員だけになる」の2つが、見落としの原因です。
3. 受取人が役員個人のときの保険料の扱いを確認する3つの注意点
確認する注意点は、受取人と被保険者の組み合わせ・被保険者の範囲・契約した時期の3つです。まず全体を表で整理します。
| 契約の形 | 通達の考え方 | 確認する相手 |
| 養老保険:満期・万一とも受取人が本人または遺族 | 保険料は当該役員や使用人への給与(9-3-4) | 顧問税理士 |
| 養老保険:万一は遺族、満期は会社 | 2分の1を資産計上、残りは損金。ただし役員・特定の使用人のみが被保険者なら、残りも給与(9-3-4) | 顧問税理士 |
| 定期保険:受取人が被保険者の遺族 | 原則は期間に応じた損金。ただし役員・特定の使用人のみが被保険者なら給与(9-3-5) | 顧問税理士 |
(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-4・9-3-5)
3-1. 注意点1|受取人と被保険者の組み合わせを、証券で書き出す
まず、証券から契約者・被保険者・受取人(万一の保険金と満期の保険金)を1行ずつ書き出します。
通達の分類は、保険の種類と受取人の組み合わせから始まります。養老保険か定期保険か、定期付養老保険かで、読むべき通達と国税庁のタックスアンサーが変わります。(出所:国税庁タックスアンサーNo.5360〜5365)
3-2. 注意点2|被保険者の範囲が「特定の者だけ」になっていないか確かめる
通達の但し書きは、役員や部課長その他特定の使用人だけを被保険者としている場合を対象にしています。親族も含まれる点に注意します。(出所:法人税基本通達9-3-4・9-3-5)
被保険者が役員だけのとき、あるいは役員とその家族だけのときは、給与として扱われる可能性を前提に、処理を税理士に確認します。
給与として扱う場合の税務の細部は、ここでは述べません。国税庁の定期保険等に関するFAQには、役員の給与とされる保険料を会社が経常的に負担する場合は定期同額給与に当たるという考え方が示されています。(出所:国税庁FAQ)源泉徴収や年末調整の扱いは、確認できた範囲を超えるため、顧問税理士に処理の方法を尋ねてください。
3-3. 注意点3|契約した時期で、案内の番号が分かれる
定期保険・第三分野保険の保険料の取扱いは、令和元年7月8日以後の契約から改正後の通達が適用されており、国税庁のタックスアンサーも契約時期に応じて別のページで案内されています。どの番号がどちらに当たるかは、国税庁のタックスアンサー一覧で確認してください。(出所:国税庁、法人税基本通達の令和元年改正)
受取人の組み合わせから給与とされる考え方を確認するときも、まず契約日を証券で見ます。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、組み合わせ・被保険者の範囲・契約日の3つを、証券の1枚目で確かめます。
4. 受取人まわりで起きやすい失敗|削りすぎと過剰
給与扱いを意識しすぎて保障を削る失敗と、反対に保険料を重ねすぎる失敗の、両方があります。対にして見ます。
4-1. 削りすぎ|給与扱いを避けて、備えが空白になる
- 場面1:たとえば、社長が「給与扱いになるなら」と、役員向けの保障を一度に外したとします。万一のとき、借入金の返済や家族の暮らしの資金が足りなくなり、会社と家族の両方が困ります。
- 場面2:たとえば、経理担当者が処理の疑問を相談せずに放置していたとします。数年後の調査や代替わりのときに、まとめて見直すことになり、判断が重くなります。
4-2. 過剰|保険料を重ね、資金繰りが重くなる
- 場面1:たとえば、社長が「受取人を家族にすれば家族の備えになる」と、役員向けの契約を増やしたとします。給与として扱う保険料と役員報酬の合計が大きくなり、会社の資金繰りが重くなります。
- 場面2:たとえば、役員だけ保障を手厚くした結果、従業員との間に不公平感が出たとします。社内の信頼に影響し、退職金や福利厚生の見直しの話が進みにくくなります。
どちらの失敗も、「何のための保険か」を先に決めると防ぎやすくなります。
要するに、給与扱いの有無だけで決めず、保障の必要額と保険料の負担の両方を見ます。
5. 今週できる受取人の確認チェックリスト
今週できることは、証券を並べて書き出すことと、疑問を税理士に渡すことの2つです。
- 加入中の保険の証券を集め、契約者・被保険者・受取人を一覧にした
- 養老保険と定期保険を分けて、受取人の組み合わせを確かめた
- 被保険者が役員や家族だけになっていないか、確かめた
- 契約日が令和元年7月8日の前か以後かを、証券で確かめた
- 決算書での処理の仕方を、顧問税理士に尋ねる質問を作った
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6. 法人保険の受取人と給与に関するよくある質問
Q1. 受取人を社長の家族にすると、保険料はいつも給与になりますか。
保険の種類と受取人の組み合わせで変わります。養老保険は、満期の保険金と万一の保険金の受取人がともに被保険者または遺族なら、保険料は給与とされます(出所:法人税基本通達9-3-4、国税庁タックスアンサーNo.5360・No.5363)。定期保険は、受取人が遺族でも原則は期間に応じた損金ですが、役員や特定の使用人だけが被保険者だと給与とされます(出所:同通達9-3-5)。個別の契約は税理士にご確認ください。
Q2. 定期保険で受取人が遺族なら、保険料は損金になるのではないですか。
原則はそのとおりです(出所:法人税基本通達9-3-5、国税庁タックスアンサーNo.5361)。ただし、役員または部課長その他特定の使用人(これらの方の親族を含む)だけを被保険者にしている場合は、その保険料が当該役員や使用人への給与とされます。被保険者の範囲が決め手になります。
Q3. 保険料が給与になると、源泉徴収はどうなりますか。
源泉徴収や年末調整の具体的な扱いは、今回の確認の範囲では裏づけを取れていないため、この記事では述べません。給与として扱う契約があるときは、顧問税理士に処理の方法を確認してください。
Q4. 給与とされた保険料は、役員本人の生命保険料控除の対象になりますか。
給与とされた保険料が、役員本人の生命保険料控除の対象になるかどうかは、本記事では判断しません。契約内容と本人の申告に関わるため、税理士にご確認ください。
Q5. 役員と従業員の全員を加入させている場合も、給与の扱いになりますか。
通達の但し書きは、役員や特定の使用人「のみ」を被保険者にしている場合を対象にしています。全員を対象にする福利厚生としての加入は別の論点があり、加入範囲などの要件は、養老保険を福利厚生に使う場合の記事で整理しています。個別の判断は税理士に確認してください。
Q6. 2019年7月8日より前の契約は、扱いが違いますか。
定期保険・第三分野保険の保険料の取扱いは、令和元年7月8日以後の契約から改正後の通達が適用されており、契約時期で扱いが分かれます。受取人が被保険者の遺族で特定の役員だけが被保険者のときに給与とされる考え方は、改正後の通達でも引き継がれていますが、細部は契約ごとに異なります。契約日は証券で確認し、処理は税理士に確認してください。
7. まとめ
- 受取人が被保険者本人や遺族だと、保険料が給与として扱われる場合があります(出所:法人税基本通達9-3-4・9-3-5、国税庁タックスアンサーNo.5360〜5365)。
- 確認する注意点は、受取人の組み合わせ・被保険者の範囲・契約した時期の3つです。
- 保障を削りすぎれば万一の資金が不足し、保険料を重ねすぎれば資金繰りが重くなります。
- 源泉徴収などの個別の処理と税務の判断は、税理士の領域です。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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