更新の時期が近づいたころ、社長が経理担当者に漏らす場面があります。「いまの保険の担当者は、親身に話してくれる。ただ、ほかの選択肢を見せてもらったことがない気もする」。

経理担当者は、はっきりした答えを持っていません。契約の経緯を知っているのは、前任の担当者と社長だけだからです。

法人保険は、契約して終わりではありません。見直し、請求、名義や受取人の確認と、担当者との付き合いは長く続きます。そのため、相談先を選ぶときは、商品の中身だけでなく、相談の進め方そのものを確かめておく価値があります。

この記事では、保険代理店と担当者を選ぶ場面で、法人が確かめておきたい4つのチェック項目を整理します。特定の代理店を評価する記事ではありません。優劣は書きません。

解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 保険募集では、顧客の意向を把握して提案し、意向に合っているかを確認する機会を設けることが、保険業法第294条の2に定められています。
  • 専属か乗合かは、委託契約を結ぶ保険会社の数の違いです。どちらが良い悪いではなく、提案の範囲と説明の仕方を確かめます。
  • 複数の商品から絞って勧めるなら、その基準と理由の説明があるかを見ます。担当者への質問は、この記事の後半に例を示します。

この記事で分かること

  • 相談先選びでつまずきやすい3つの場面
  • 意向把握義務と、乗合・専属の違いの基本
  • 4つのチェック項目と、確認しすぎ・確認不足の失敗場面
  • 今週できる確認と、担当者に聞く質問例

1. 保険代理店の選び方で、法人が迷いやすい3つの場面

迷うのは、相談先を決める時・提案を聞く時・担当者が替わる時の3つです。順に見ていきます。

1-1. 紹介や付き合いで、相談先が決まっている

法人保険の相談先は、取引先や知人の紹介、金融機関の紹介などで決まることが多くあります。

紹介自体は悪いことではありません。ただ、他の相談先と比べないまま長く続けると、提案の範囲が自社の事情に合っているのかを確かめる機会がありません。

たとえば、創業期から付き合う担当者に任せきりだった会社が、世代交代を機に、今の契約が会社の状況に合っているのかを知りたくなる場面があります。

1-2. 提案を聞いても、なぜその商品なのかが分からない

提案書を受け取っても、「なぜこの保険なのか」「ほかに何を検討したのか」が分からないことがあります。

社長は専門用語に押されて、その場で判断できません。経理担当者は、資料の数字は追えても、提案の理由までは追えません。

たとえば、保険料の見積りだけが並んだ資料を受け取り、なぜその金額・その期間なのかを説明されないまま、決算の時期が迫る場面です。

1-3. 担当者が替わって、経緯が途切れる

担当者は、異動や退職で替わることがあります。

引継ぎが十分でないと、契約を結んだときの目的や、社長が伝えた事情が、新しい担当者に伝わりません。

たとえば、退職金の原資として結んだ契約を、新しい担当者が単なる保障の契約として扱ってしまうことがあります。契約の目的は、会社側でも記録しておくと、引継ぎで失われにくくなります。

要するに、相談先は「決める時」「提案を聞く時」「担当者が替わる時」の3つで、確かめる機会があります。

2. 担当者の説明が分かりにくくなる背景と、基本のルール

説明が分かりにくくなる背景には、仕組みの違いと、専門用語の壁があります。基本のルールを押さえると、質問の軸ができます。

2-1. 保険募集に関する基本のルール

保険業法では、保険募集のときの顧客への情報提供を第294条、顧客の意向の把握と確認を第294条の2、募集人の体制整備を第294条の3に定めています。(出所:金融庁)

意向把握義務(第294条の2)は、2014年の保険業法の改正で設けられ、2016年5月に施行された規定です。(出所:金融庁)

金融庁の監督指針では、保険会社や保険募集人が、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の提案と説明を行い、契約内容が意向に合っているかを顧客が確認する機会を設けているかを、確認の項目としています。(出所:金融庁)

ここで押さえたいのは、意向を「聞く」ことだけでなく、「意向に合っているかを確かめてもらう」ところまでが、求められる流れであるという点です。

2-2. 専属と乗合は、委託先の数の違い

1社の保険会社とだけ委託契約を結ぶ代理店を専属、複数の保険会社と結ぶ代理店を乗合と呼ぶのが一般的です。(出所:金融庁の資料に基づく一般的な整理)

専属は、その会社の商品に詳しく、細かな質問に答えやすい面があります。乗合は、複数社の商品を比べられる面があります。

ただし、複数社を扱っているからといって、客観的な提案になるとは限りません。金融審議会のワーキング・グループの資料でも、乗合代理店の推奨の仕方が、保険会社から受ける手数料などの影響を受けないかが論点として取り上げられています。(出所:金融庁)

どちらの形でも、確かめるのは「自社の意向をどう聞き取ったか」「提案の理由をどう説明したか」の2点です。

2-3. 比較推奨販売の考え方

比較推奨販売は、金融庁が監督指針の改正案として示してきた考え方です。案では、乗合代理店が、複数の比較できる同種の保険契約から選んで提示・推奨するとき、提示する保険契約の概要と、選んだ基準や理由を説明しているかが問われるとされています。確定した内容と時期は、金融庁の最新の公表で確認してください。(出所:金融庁)

また、特定の契約を推奨するときは、顧客の最善の利益を考えた基準によるべきで、代理店側の都合で選んでいないかに留意する、という方向性が示されています。(出所:金融庁)

要するに、確認の軸は、意向の聞き取りと、提案の基準の説明の2つです。

3. 法人が確かめる4つのチェック項目

確かめるのは、取り扱いの範囲・意向の聞き取り・提案の基準・担当者が替わったあとの対応の4つです。まず表で整理します。

チェック項目 確かめること 質問の例
1. 取り扱いの範囲 専属か乗合か。提案できる商品の範囲 「何社の商品を扱っていますか。今回の提案は、その中から選んだものですか」
2. 意向の聞き取り 会社の目的・資金計画を聞いたうえでの提案か 「私たちの話のどこを、提案に反映しましたか」
3. 提案の基準 勧める理由と、選ばなかった案の説明 「ほかに比べた案と、それを選ばなかった理由を教えてください」
4. 担当者が替わった後 引継ぎ・連絡窓口・契約後の対応 「担当が替わる場合、契約の目的は誰が引き継ぎますか」

3-1. チェック項目1|取り扱いの範囲を聞く

最初に、専属か乗合かを聞きます。聞くこと自体は失礼ではありません。

専属であれば、「他社の商品との比較は、この場ではできないこと」を理解したうえで話を聞けます。乗合であれば、「どの会社の商品を扱っているのか」「今回の提案は、そのうちどれと比べたのか」を聞けます。

取り扱いの範囲を知ると、提案の見え方が変わります。範囲が狭いこと自体が問題なのではなく、範囲の外の選択肢は、別の窓口で確かめる必要があるということです。

3-2. チェック項目2|意向の聞き取りが、提案の前にあったかを見る

意向把握義務の趣旨からみると、提案の前に、会社の目的や困りごと、資金の見通しを聞かれているはずです。(出所:保険業法第294条の2)

たとえば、社長が「借入金の返済に備えたい」と話したのに、提案書が退職金の積立ての話ばかりだったとします。聞き取りと提案が、つながっていません。

聞き取りの内容は、会社側でもメモに残しておくと、提案との照らし合わせに使えます。

相談先を選んだあとは、契約をどう管理するかも大切になります。保険金の行き先から契約の管理まで、全体像を知りたい方は、次の記事をご覧ください。

【まるっと解説】法人保険の受取人|保険金の行き先と契約管理

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3-3. チェック項目3|提案の基準と、選ばなかった案の説明を聞く

複数の案から1つを勧められたときは、勧める理由と、選ばなかった案の説明を求めます。

金融庁が示した考え方では、代理店側の都合、たとえば手数料の水準の高さなどで、勧める商品を選ぶことがないよう留意するとされています。(出所:金融庁の監督指針案)

代理店は、保険会社から手数料を受け取る仕組みで成り立っています。そのこと自体は、通常の形です。大切なのは、手数料がどうであれ、会社の目的に合う理由を説明できるかです。

手数料について聞くときは、「その案は、私たちの目的に対して、どの点で合っていますか」と、目的の側から質問します。

比較推奨販売の規律は検討・整備が続いており、施行や適用の時期を含めて、最新の内容は金融庁の公表で確認してください。

3-4. チェック項目4|担当者が替わったときの対応を確かめる

契約後の付き合いは長く続くため、担当者が替わったときの対応を事前に聞いておきます。

  • 担当が替わるとき、誰が、どの内容を引き継ぐのか
  • 契約の目的や、社長が伝えた事情は、記録として残るのか
  • 担当者に連絡がつかないとき、代わりの窓口があるのか

会社側でも、契約ごとに「何のために結んだか」を1行で台帳に残しておくと、担当者が替わっても説明がぶれません。

税務や会計の個別の処理は、担当者ではなく、顧問税理士の領域です。保険の提案と税務の判断は、窓口を分けて確かめます。

要するに、取り扱いの範囲・意向の聞き取り・提案の基準・引継ぎの4つを、質問に置き換えて確かめます。

4. 確認不足と確認のしすぎ、2つの失敗場面

相談先の選び方にも、確認が足りない失敗と、確認が過ぎる失敗の両方があります。対にして見ていきます。

4-1. 確認が足りない場合

確認不足の場面の例です。

  • 社長が、担当者との付き合いの長さだけを理由に、提案の根拠を聞かないまま更新を重ねる。
  • 経理担当者が、見積りの保険料だけを見比べて、保障の目的と合っているかを確かめない。
  • 専務が、担当者の異動を知らされないまま、契約の目的を伝える機会を逃す。

4-2. 確認が過ぎる場合

確認が過ぎる場面の例です。

  • 社長が、相談先を次々に替え、そのたびに話を一から説明して、検討が進まない。
  • 経理担当者が、複数の相談先の提案書を取り寄せ過ぎて、比べる軸が決まらず、判断が先送りになる。
  • 専務が、代理店の肩書や規模だけで判断し、会社の目的に合うかどうかの確認を省く。

確認は、質問を4つに絞れば足ります。窓口を増やすことが目的ではありません。会社の目的を先に言葉にして、その目的に答えてくれる説明かどうかを見ます。

なお、複数の相談先から意見を聞くこと自体は、有効な方法です。その場合も、比べる軸(目的・資金計画・予算)を先に決めておきます。

要するに、聞き取らないまま任せるのも、窓口を増やして迷い続けるのも、判断を遅らせます。

5. 今週中にできる確認チェックリスト

相談先を替える決断までは要りません。まず、いまの関係を確かめます。

  • いまの担当者の代理店が、専属か乗合かを聞いた。
  • 加入中の契約ごとに、「何のために結んだか」を1行で台帳に書いた。
  • 直近の提案について、勧めた理由と、選ばなかった案の有無を確認した。
  • 担当者が替わった場合の連絡窓口と引継ぎ方法を聞いた。
  • 税務・会計の確認は、顧問税理士に分けて依頼する段取りを決めた。

担当者に聞く質問は、責める調子にする必要はありません。「社内で説明するために教えてください」と伝えると、答えてもらいやすくなります。

関連する記事も参考にしてください。

要するに、いまの関係を確かめる5つの確認から始めれば、相談先を替えるかどうかの判断の材料がそろいます。

6. よくある質問

Q1. 意向把握義務とは、何を求める決まりですか。

保険募集のときに、顧客の意向を把握し、それに沿った提案をして、意向に合っているかを顧客が確認する機会を設けることを求める決まりです。(出所:保険業法第294条の2、金融庁の監督指針)

Q2. 乗合代理店と専属代理店は、どちらが良いのですか。

優劣はつけられません。専属は1社の保険会社とだけ、乗合は複数の保険会社と委託契約を結ぶ形です。どちらの形でも、意向の聞き取りと、提案の理由の説明を確かめます。

Q3. 比較推奨販売とは、何のことですか。

乗合代理店が、複数の比較できる保険契約から選んで提示・推奨する場面で、選んだ基準や理由を説明することなどを求める考え方です。(出所:金融庁)確定した内容や時期は、金融庁の最新の公表で確認してください。

Q4. 担当者が替わると言われたら、何を確かめればよいですか。

引継ぎの内容、契約の目的の記録、代わりの連絡窓口の3点を確かめます。契約ごとに、会社側でも「何のために結んだか」を残しておくと、説明がぶれません。

Q5. 保険の手数料について、聞いてもよいですか。

聞いて構いません。ただ、金額そのものより、「その提案が会社の目的に合う理由」を聞くほうが、判断の役に立ちます。金融庁が示した考え方も、代理店側の都合で勧める商品を決めないよう留意することを挙げています。(出所:金融庁の監督指針案)

Q6. 今の代理店を変えたほうがよいか、どう判断しますか。

変えるかどうかは、意向の聞き取り、提案の基準の説明、引継ぎの対応の3つを確かめたうえで考えます。説明が得られない項目が多い場合に、別の相談先の意見を聞く選択肢が出てきます。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 保険募集では、顧客の意向を把握して提案し、確認の機会を設けることが保険業法第294条の2に定められています(出所:金融庁)。
  • 専属と乗合は、委託契約を結ぶ保険会社の数の違いです。優劣ではなく、提案の範囲と説明を確かめます。
  • 複数の案から勧めるときは、基準と理由の説明があるかを見ます。比較推奨販売の規律の内容と時期は、金融庁の最新の公表で確認します。
  • 確かめる4つは、取り扱いの範囲・意向の聞き取り・提案の基準・引継ぎです。
  • 税務・会計の個別の判断は、税理士の領域です。

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筆者より

筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品や特定の代理店の推奨・個別の勧誘ではありません。制度は改正される場合があります。実行前に、金融庁の最新の公表や、顧問税理士等の専門家にご確認ください。

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