社長が突然の入院になり、医師からは「復帰まで数か月かかる」と言われた。会社の売上は落ち始めているのに、役員報酬は毎月、変わらず出ていく。そんなとき、経理担当者が口にするのは「報酬を下げてもいいのでしょうか」という一言です。

会社の資金繰りを守りたい気持ちと、税務上の取扱いのあいだで、手が止まりやすいところです。役員報酬は、期の途中で自由に変えられるとは限りません。

この記事では、社長の入院と役員報酬の減額について、国税庁の考え方を軸に、進め方と注意点を整理します。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

結論

  • 役員報酬は、毎月同額で支給する定期同額給与が基本で、期の途中の減額には要件があります。
  • 国税庁のQ&Aには、役員が病気で入院して職務の一部または全部を執行できなくなった場合の減額を、臨時改定事由と認める例が示されています。ただし、入院なら自動的に認められるわけではありません。
  • 決議と記録を残し、個別の判断は税理士に確認します。

この記事で分かること

  • 社長の入院で会社に起きやすい3つの場面
  • 役員報酬が簡単に動かせない理由
  • 減額を考えるときの4つの注意点と進め方
  • 減らしすぎの場面と、そのままにしすぎる場面
  • 今週できる確認チェックリスト

1. 社長が入院したときの役員報酬と会社に起きる3つの場面

困りごとは、報酬を払い続ける負担、決め方の迷い、社長本人の収入の3つで起きます。順に見ます。

1-1. 売上が落ちるのに報酬は同じ

営業や現場を社長が担っている会社では、入院の直後から受注が細ります。それでも役員報酬は、前の月と同じ額が口座から出ていきます。

数か月のあいだ続くと、運転資金の減り方が速くなります。

1-2. 誰が、どこで決めるのかが分からない

社長が決める立場なのに、社長が動けない。この状態で、役員報酬の見直しを誰が提案し、どの場で決めるのかが決まっていない会社は少なくありません。

取締役が複数いれば取締役会、社長ひとりの会社であれば、家族や顧問税理士と手順を確かめる必要があります。

1-3. 社長本人の生活費は止まらない

報酬を下げると、社長の家計に響きます。公的な給付が使えるかどうかで、下げられる幅の考え方も変わります。傷病手当金の仕組みは加入先ごとの傷病手当金の違いで整理しています。

要するに、会社の負担・決め方・家計の3つが、入院直後に一度に表れます。

2. 役員報酬の減額が簡単ではない理由

減額が難しいのは、毎月同額で支給する給与でなければ、損金に算入できないという仕組みがあるからです。整理します。

2-1. 定期同額給与が基本になっている

役員への給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに当たらないものは、損金に算入されません。(出所:法人税法第34条第1項。国税庁タックスアンサーNo.5211)このうち毎月の報酬は、定期同額給与として扱うのが基本です。(出所:法人税法第34条第1項第1号)

支給額が途中で変わると、定期同額給与に当たらない部分が出て、その部分が損金にならない可能性があります。

2-2. 例外として認められる改定の型がある

期の途中でも、一定の改定は定期同額給与として認められます。解説では、事業年度の開始から3か月以内に行う通常の改定、臨時改定事由による改定、業績悪化による減額の3つの型に分けて説明されています。(出所:法人税法施行令第69条第1項第1号に関する国税庁の解説)

臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情による改定を指します。

2-3. 「入院」は例として示されているが、条件つき

国税庁の「役員給与に関するQ&A」(平成20年12月、平成24年4月改訂版)では、代表取締役などの役員が病気で入院し、当初予定していた職務の一部または全部を執行できなくなったときの減額が、臨時改定事由による改定と認められるとされています。また、退院後に従前の職務が可能になって、入院前と同額に戻す改定も、同様に臨時改定事由に当たるとされています。

ただし、入院したという事実だけで自動的に認められるという意味ではありません。職務の執行にどの程度の影響が出たのかなど、事実関係で判断されます。個別の判断は税理士に確認してください。

要するに、減額は例外の要件に当てはまるかどうかで決まり、入院はその一つの例にすぎません。

3. 社長の入院で役員報酬を減額するときの4つの注意点と進め方

注意するのは、時期、理由の整理、決議と記録、戻すときの扱いの4つです。表にまとめます。

注意点 見ること 相談先
1. 時期 期の開始から3か月以内か、それより後か 顧問税理士
2. 理由の整理 職務の一部または全部が執行できないと言えるか 顧問税理士、医師の診断書など
3. 決議と記録 誰が、いつ、どの額に決めたか 取締役会、株主総会、税理士
4. 戻す時期 職務に戻れた時点で、元の額に改定するか 顧問税理士

3-1. 注意点1|期の開始から3か月以内かを確かめる

期の開始から3か月以内であれば、通常の改定として扱える場合があります。(出所:法人税法施行令第69条第1項第1号に関する国税庁の解説)それより後に入院した場合は、臨時改定事由に当たるかどうかが論点になります。

3-2. 注意点2|職務がどこまでできなくなったかを整理する

国税庁のQ&Aが示すのは、職務の一部または全部が執行できなくなった場合です。入院していても、病室から会社の判断を続けられる場合は、事情が異なる可能性があります。

判断のよりどころとして、入院の期間、診断書、実際にできなくなった仕事の内容を記録として残しておきます。

3-3. 注意点3|決議と記録を残す

減額する額、適用の期間、理由を、取締役会や株主総会の議事録に記します。取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で定めるのが原則です。(出所:会社法第361条第1項)議事録には、理由と新しい額を書いておくと、あとで説明しやすくなります。形式の細部は、顧問税理士と一緒に整えます。

一度支給した報酬を後から返す形については、別の論点になります。取り扱いは税理士に確認してください。

3-4. 注意点4|戻すときも手順を踏む

退院後に職務に戻れたときの増額も、臨時改定事由として扱われる例が示されています。ただし、戻す時期や額は、実際の復帰の状況と合わせて決めます。復帰の日付を記録しておくと、あとで説明しやすくなります。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

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要するに、時期・理由・記録・戻し方の4つを、税理士と事前に確かめます。

4. 役員報酬の減額で起きやすい失敗場面

失敗は、資金繰りを守れない側と、手順を急ぎすぎる側の両方で起きます。対にして見ます。

4-1. 削りすぎ|備えが足りない場面

  • 何も決めずに満額を払い続ける:入院が長引き、運転資金が先に尽きます。
  • 固定費の支払い順を考えていない:給与や家賃の支払いが重なる月に、手元の資金が足りなくなります。
  • 社長の家計の見通しがない:報酬を下げたあとの生活費を、家族が把握していません。

4-2. 過剰|手順を急ぎすぎる場面

  • 入院した月にすぐ減額して記録を残さない:あとで税務の確認を受けたときに、理由を説明できません。
  • 必要以上に大きく下げる:復帰後に戻す手順も整えないと、社長本人の生活と会社の運営の両方が不安定になります。
  • 入院なら通ると決めてかかる:実際の職務の状況を整理せず、損金にならない部分が出る可能性があります。

固定費をどの財源で払うかは固定費を万一時に払う財源のチェック項目が参考になります。

要するに、動かなければ資金が尽き、急ぎすぎれば説明がつかなくなります。

5. 入院に備えて今週できる確認と、描ける見通し

減額の考え方と記録の残し方を知っておくと、入院が決まった場面で慌てずに手順を進めやすくなります。

会社の資金繰りを守りつつ、税務上の説明もしやすい形を選びやすくなります。ただし、臨時改定事由に当たるかどうかは、事実関係で判断されます。

今週は、次の5つを確かめます。

  • いまの役員報酬が、毎月同額で支給されているかを確かめた。
  • 決算月と、期の開始から3か月の区切りを確かめた。
  • 入院時に、誰が報酬の見直しを提案するかを決めた。
  • 社長の家計の月々の支出と、使える公的な給付を書き出した。
  • 社長が不在の間、家賃や給与を何か月分まかなえるかを試算した。

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6. 社長の入院と役員報酬の減額に関するよくある質問

Q1. 社長が入院したら、役員報酬を下げてもよいですか。

国税庁のQ&Aでは、役員が病気で入院し、職務の一部または全部を執行できなくなった場合の減額を、臨時改定事由による改定と認める例が示されています。ただし、入院という事実だけで自動的に認められるわけではなく、事実関係で判断されます。税理士に確認してください。

Q2. 期の途中で報酬を変えると、どうなりますか。

毎月の役員報酬は、定期同額給与として扱うのが基本です。(出所:法人税法第34条第1項第1号)要件に当たらない改定をすると、定期同額給与に当たらない部分が損金にならない可能性があります。

Q3. 退院して復帰したら、元の額に戻せますか。

国税庁のQ&Aには、従前の職務が可能になったことで入院前と同額に戻す改定も、臨時改定事由に当たるとする例が示されています。戻す時期や額は、復帰の状況に合わせて決め、税理士に確認します。

Q4. 決議は、どの場で行えばよいですか。

取締役会や株主総会など、会社の機関設計によって変わります。議事録に、理由、新しい額、適用の期間を記しておくと、あとで経緯を説明しやすくなります。形式は顧問税理士と整えてください。

Q5. 報酬を下げたら、傷病手当金は出ますか。

健康保険に加入している場合は、休業中の報酬の有無が給付に関わります。支給の可否は加入先の協会けんぽに確認してください。なお、国民健康保険の側には傷病手当金の制度が設けられていません。(出所:全国健康保険協会)

Q6. 保険は、この場面で役に立ちますか。

一般論としては、社長が働けない期間の資金を、貯蓄、会社の資金、保険などのどれで賄うかを考える材料のひとつです。まず報酬の扱いと固定費の財源を整理し、足りない部分があるかを確かめてから検討します。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 役員報酬は定期同額給与が基本で、期の途中の減額には要件があります。(出所:法人税法第34条第1項第1号)
  • 国税庁のQ&Aには、病気入院による減額と、復帰後に戻す改定を臨時改定事由と認める例があります。入院なら自動的に認められるわけではありません。
  • 決議と記録を残し、時期や理由の整理は税理士と確かめます。
  • 公的な給付と会社の固定費を書き出して、足りない部分があるかを確認します。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。入院の見込みと会社の資金繰りを伺い、報酬の扱いを一緒に整理します。

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筆者は、保険を、人が一番つらい『その時』に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より、まず会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士等の専門家にご相談ください。

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