【解説】法人保険とは?中小企業が持つ4つの目的と基本の見方
決算の打ち合わせで、顧問税理士から「法人保険は何件入っていますか」と聞かれ、社長が言葉に詰まる場面があります。
「何件かは入っている。けれど、何のための保険だったか、正確には説明できない」。経理担当者が書類をめくっても、答えは見つかりません。
法人保険のご相談では、こうした「そもそも法人保険とは何か、自社には何のためにあるのか」という整理のお話をよくいただきます。
法人保険は、会社が契約者になる保険の総称です。商品名や種類で覚えるより、「何のために持つのか」という目的から見ていくほうが、全体がつかめます。
この記事では、中小企業の社長に向けて、法人保険の基本と4つの目的、契約者・被保険者・受取人の見方、メリットと注意点を、要点に絞って解説します。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 法人保険は、会社が契約者になって備えを用意する仕組みです。商品の種類より先に、目的を決めると迷いにくくなります。
- 中小企業の目的は、事業保障・役員退職金・福利厚生・承継や相続の資金の4つに整理できます。
- 備えが足りなければ万一の際に資金が不足し、備えが重ければ平時の資金繰りを圧迫します。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 法人保険の仕組みと、個人の保険との違い
- 中小企業が法人保険を持つ4つの目的
- 契約者・被保険者・受取人の基本の見方
- メリットと注意点、今週できる確認
1. 法人保険とは何か|仕組みと個人保険との違い
法人保険とは、会社が契約者となり、保険料を会社が負担する保険のことです。まず、つまずきやすい3つの場面から見ます。
1-1. 加入した理由を、社内で説明できない
創業期に勧められて入ったまま、目的を書き残していない会社は少なくありません。
たとえば、社長が代替わりした直後に、後継者が証券の束を見つけたとします。誰のための、何に使う保険なのかが分からず、続けるか見直すかの判断ができません。
1-2. 個人の保険と同じ感覚で考えてしまう
個人の保険は、家族の生活を守るために世帯主が入るのが基本です。
法人保険は、守る対象が会社の事業・取引・従業員の雇用にも広がります。保険料は会社の資金から出るため、経理の処理や決算への影響も一緒に考える必要があります。
たとえば、経理担当者が個人の保険と同じ感覚で「保険料は経費」と処理したとします。契約の内容によっては、資産に計上する扱いになることがあり、決算の数字がずれます。
1-3. 契約者・被保険者・受取人の組み合わせを把握していない
保険には、契約者(保険料を払い契約を結ぶ人)、被保険者(保険の対象になる人)、受取人(保険金を受け取る人)の3つの立場があります。
法人保険では、契約者が会社、被保険者が役員や従業員、受取人が会社か遺族、という組み合わせが基本の形です。
この組み合わせが変わると、お金の行き先も経理の扱いも変わります。しかし、証券を確認しないと、自社がどの組み合わせなのか答えられない社長もいます。
契約者以外の人を被保険者として、その人が他界した場合に保険金が支払われる契約を結ぶときは、被保険者の同意が必要です。(出所:保険法第38条)
要するに、目的が言えない・個人の感覚で考える・三者の組み合わせが不明、の3つが入口でつまずく場面です。
2. 法人保険の基本が見落とされやすい理由
見落とされる理由は、商品の話から入りやすいことと、経理の扱いと目的が混ざることの2つです。順に整理します。
2-1. 商品の説明が先に来て、目的が後回しになる
保険の相談は、どうしても「どんな商品があるか」から始まりがちです。
けれど、会社が備えたい場面は、会社ごとに違います。借入金が重い会社、社長が営業の中心の会社、従業員の退職金が未整備の会社では、考えるべきことが変わります。
2-2. 経理上の扱いと、備えの目的が混ざる
法人保険は、保険料の経理処理が話題になりやすい分野です。
ただ、経理上の扱いは、契約の内容と受取人で決まる結果であり、備える目的とは別の話です。経理の処理を先に考えて契約を選ぶと、本来の目的から外れた備えになるおそれがあります。
たとえば、専務が「決算の数字を整えたい」という理由だけで契約を増やしたとします。万一の際の資金は十分でも、毎期の保険料が資金繰りを圧迫するかもしれません。
要するに、商品より先に目的を決め、経理の扱いは後から確かめます。
3. 法人保険の4つの目的と、基本の見方
中小企業が法人保険を持つ目的は、事業保障・役員退職金・福利厚生・承継や相続の資金の4つに整理できます。全体を表にまとめます。
| 目的 | 備える場面 | 主に考えること |
| 1. 事業保障 | 社長や幹部が欠けたときの、返済・運転資金・引き継ぎ | 借入金の残高、運転資金の月数 |
| 2. 役員退職金 | 勇退や退任のときの、退職金の支払い | 規程、株主総会の決議、支払い時期 |
| 3. 福利厚生 | 従業員の退職や万一のときの、会社としての備え | 加入範囲、規程、公平性 |
| 4. 承継や相続の資金 | 代替わりや相続のときの、納税や株の買い取りの資金 | 自社株、相続人の人数、納税の時期 |
3-1. 目的1|事業保障:会社の事業を止めないための資金
社長が売上の中心を担う会社では、万一の際に取引や資金繰りが揺らぎます。
事業保障は、その間の返済や運転資金、後任の体制づくりの時間を確保するための備えです。借入金の残高と、運転資金の何か月分を手元に置くかが、考える出発点になります。
3-2. 目的2|役員退職金:勇退の日の財源
取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)
不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)
退職金は、払う時期が見えているぶん、毎期の積み上げで準備しやすい性格があります。規程と決議の手順も同時に整えます。
3-3. 目的3|福利厚生:従業員への備えを会社として用意する
従業員の退職金や、万一の際の遺族への支払いを、会社として整えておく目的です。
一部の人だけを対象にすると、不公平感や経理上の扱いの問題が出ることがあります。加入の範囲は、規程で明らかにしておきます。
3-4. 目的4|承継や相続の資金:代替わりで必要になるお金
自社株を持つ社長の相続では、相続人が納税の資金に困ることがあります。
株の買い取りや、相続人への分け方の調整にも、資金が必要です。会社が備えを用意しておくと、選べる手段が増えます。
ただし、相続税の計算や自社株の評価は専門性が高く、税理士の領域です。
3-5. 契約者・被保険者・受取人は、要点だけ押さえる
- 契約者:保険料を払う人。法人保険では会社です。
- 被保険者:保険の対象になる人。役員や従業員です。
- 受取人:保険金を受け取る人。会社か、遺族です。
法人が受け取った保険金や解約返戻金は、会社の収益(益金)になります。(出所:法人税法第22条第2項)
受取人の決め方で、お金の行き先と経理の扱いが変わります。くわしくは、次の記事にまとめています。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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3-6. 目的から決める進め方
- 守りたいものを書き出す:事業、役員の退職、従業員、承継のうち、気がかりな順に並べます。
- 契約を一覧にする:契約者・被保険者・受取人・保険期間を1枚にまとめます。
- 目的と契約を対応させる:どの契約がどの目的かを書き込み、目的のない契約を見つけます。
- 税理士に経理の扱いを確かめる:保険料の処理は、契約の内容と受取人で変わります。
保険の種類ごとの違いは、次の記事で整理しています。法人保険の種類の違いを、目的との対応で確かめられます。
要するに、4つの目的に分けて、契約を目的に結び付けることが基本の見方です。
4. 法人保険のメリットと注意点|備え不足と、備え過ぎ
法人保険のメリットは、万一や節目の資金を会社の中に用意できる点です。ただし、少なすぎても多すぎても、問題が出ます。
4-1. 法人保険のメリット
万一の際の返済や運転資金、退職金の財源を、会社として用意しやすくなります。借入れに頼らず、選べる手段を残せるという考え方です。
ただし、メリットには条件があります。保険金額が実際の必要額に合っていること、保険料を払い続けられること、受取人が目的に合っていることです。
4-2. 法人保険のデメリットと、中小企業が見落とす点
保険料は、会社の資金から出続けます。
解約すれば、保障はなくなります。解約返戻金は会社の収益になるため、受け取る年度の決算にも影響します。(出所:法人税法第22条第2項)
保険料の経理の扱いは、種類によって変わります。保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50%を超える定期保険や第三分野保険は、保険料の一部を資産に計上する扱いがあります。年換算保険料が少額のものなど、対象外となる契約もあります。(出所:法人税基本通達9-3-5の2。2019年7月8日以後の契約が対象)
養老保険は、別の通達で扱いが定められています。(出所:法人税基本通達9-3-4)
詳しい処理は、法人保険の経理処理の記事に任せ、ここでは判断は税理士の領域であることだけ押さえます。
4-3. 現場で起きやすい失敗|2つの対比
- 備えが足りない場合:たとえば、社長が保険料の負担を気にして、数年前に保障を大きく減らしたとします。万一の際に借入金の返済が重なり、後任が資金の手当てに追われます。
- 備えが重すぎる場合:たとえば、社長が「会社の保険は多いほうがよい」と契約を重ねたとします。毎期の保険料が運転資金を圧迫し、賞与や設備更新の余裕が減ります。
法人保険は、加入を急ぐものでも、不要と決めつけるものでもありません。会社の状況を並べて、必要な分を決めます。
要するに、メリットを活かすには、目的・金額・保険料の負担の3つを揃えます。
5. 今週中にできる法人保険の確認チェックリスト
難しい作業は要りません。次の5点を、今週のうちに確かめます。
- 加入中の契約を、すべて一覧にしたか
- 各契約の契約者・被保険者・受取人を書き出したか
- 各契約について「何のための備えか」を一言で言えるか
- 借入金の残高と、運転資金の月数を把握しているか
- 保険料の経理の扱いを、顧問税理士に確かめたか
言えない契約が見つかったら、それが見直しの最初の候補です。解約や減額は、保障が空白にならないか確かめてから進めます。
あわせて読みたい記事です。
要するに、一覧にして、目的を一言で言えるか確かめることが、今週の一歩です。
6. 法人保険に関するよくある質問
Q1. 法人保険とは、結局何のための保険ですか。
会社が契約者になり、事業・役員の退職・従業員・承継の場面に備えるための保険です。商品の種類ではなく目的で整理すると、自社に必要かどうかを判断しやすくなります。
Q2. 法人保険は、中小企業にも必要ですか。
必要かどうかは、会社の状況で変わります。借入金が重い、社長が事業の中心にいる、退職金が未整備といった場合は検討の余地がありますが、加入を急ぐ必要はありません。まずは現状を一覧にして確かめます。
Q3. 法人保険と個人保険は、何が違いますか。
契約者と保険料の負担者が違います。法人保険は会社が契約者で、保険料を会社が負担します。受け取った保険金は会社の収益になります。(出所:法人税法第22条第2項)個人の保険の税金とは、仕組みが異なります。
Q4. 契約者・被保険者・受取人は、どう決めますか。
備える目的から決めます。会社の資金に使うなら受取人は会社、遺族への支払いを想定するなら遺族、といった形です。経理の扱いも変わるため、決める前に税理士に確かめてください。
Q5. 保険料は、全額が経費になりますか。
契約の種類と受取人で扱いが異なり、一律には言えません。保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50%を超える定期保険等は、保険料の一部を資産に計上する扱いがあります。少額のものなど対象外の契約もあります。(出所:法人税基本通達9-3-5の2)個別の判断は顧問税理士に確認してください。
Q6. 加入中の法人保険が多すぎる気がします。どうすればよいですか。
まず契約を一覧にして、目的を一言で言えるか確かめます。解約や減額は、保障の空白や解約返戻金の収益計上が生じることがあるため、実行前に税理士と契約先に相談します。
7. まとめ
- 法人保険は、会社が契約者になる備えです。商品の種類より先に、目的を決めます。
- 中小企業の目的は、事業保障・役員退職金・福利厚生・承継や相続の資金の4つに整理できます。
- 契約者・被保険者・受取人の組み合わせで、お金の行き先と経理の扱いが変わります。受け取った保険金は会社の収益です(出所:法人税法第22条第2項)。
- 備えが足りなければ資金の空白が、重ければ平時の資金繰りの圧迫が起きます。税務の個別判断は税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。加入中の契約の一覧をもとに、目的ごとの仕分けを一緒に進めます。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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