【基礎知識】社長個人名義の土地を会社が使う相続 4つのポイント
創業のころ、社長が自分の名前で土地を買い、その上に会社の工場や店舗を建てた。そういう会社は少なくありません。登記簿を見ると、土地の所有者は会社ではなく社長個人になっています。
決算書には出てこないので、普段は誰も気にしません。ところが社長に世代交代や相続の話が出ると、顧問税理士から「あの土地はどなた名義ですか」と聞かれて、はじめて気づくことがあります。
社長個人名義の土地を会社が使っている場合、相続では「会社の財産」ではなく「社長個人の財産」として扱われます。この土地には、条件を満たすと評価額を小さくできる特例(特定同族会社事業用宅地等)があります。ただし、要件が細かく、当てはまらない場面も多い制度です。
この記事では、国税庁の案内で確認できた範囲の要件を4つに整理し、納税や他の相続人への配慮の面で社長が見ておく点をまとめます。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 社長個人名義の土地は、会社が使っていても社長個人の相続財産です。まず登記と、会社への貸し方を確かめます。
- 特例の要件は、会社の株の持ち方・事業の種類・土地の貸し方・取得者の立場の4つです。1つでも外れると使えない場合があります。
- 特例が使えると決めつけず、使えなかった場合の納税資金も並べて見ます。適用の可否は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 社長個人名義の土地を会社が使うと、相続で何が起きやすいか
- 特定同族会社事業用宅地等の4つの要件(国税庁の案内で確認できた範囲)
- 特例に頼りすぎる場合と、何も確かめない場合の失敗場面
- 今週できる確認チェックリスト
1. 社長個人名義の土地を会社が使うと相続で起きやすい3つの場面
土地が個人名義のままだと、相続の場面で「評価」「分け方」「納税」の3つが同時に動きます。順に見ます。
1-1. 土地は社長個人の財産として評価される
会社の工場が建つ土地でも、名義が社長なら、相続税を計算するときは社長個人の財産に含まれます。会社の株の評価とは別に、土地の評価が加わります。
たとえば、後継者が会社を継ぐと決まっていても、土地の評価額が大きければ、相続全体の評価額も大きくなります。会社の価値と土地の価値を別々に見ておかないと、後で全体像がずれます。
1-2. 土地と株の両方が後継者に集まる
事業を続けるには、土地と自社株の両方を後継者が持つのが自然です。ところが、そうすると他の相続人に渡せる財産が少なくなります。
たとえば、相続人が長男と長女の2人で、長男が会社を継ぐとします。会社の土地と株を長男が取得すると、長女に渡す財産が不足しやすくなります。長女の側から見れば、不公平に映る場面です。
1-3. 特例の可否が分かるのは、手続きの終盤になりやすい
特例が使えるかどうかは、相続が始まってから、土地の使い方・会社の株主構成・取得者の立場などを調べて判断します。
準備をしていないと、申告の直前に「使えると思っていたのに使えない」と分かることがあります。納税の資金は、その時点から探すことになります。
要するに、評価・分け方・納税の3つが、個人名義の土地を抱える会社で同時に動きます。
2. 社長個人名義の土地が見落とされやすい理由
見落とされる背景は、決算書に載らないことと、貸し借りの形が曖昧なことの2つです。
2-1. 会社の帳簿に土地が出てこない
会社の貸借対照表には、会社が所有する資産だけが載ります。社長個人の土地は載りません。経理担当者が毎月の仕訳を見ても、気づく機会がありません。
固定資産税の通知書は社長個人のもとに届くため、会社の担当者は存在を知らないことも多くあります。社長自身も、長年の習慣で「会社の土地」と呼んでいるうちに、名義を意識しなくなります。
2-2. 地代を払っているのか、無償なのかが曖昧
社長と会社のあいだで、土地の貸し借りの取り決めを書面にしていない会社は多くあります。地代を払っているのか、無償で使っているのかが、曖昧なままになっていることがあります。
この貸し方の違いが、特例の使えるかどうかに関わります(詳しくは3章で触れます)。たとえば、地代の振込が長年なく、書面もない場合、どういう関係だったのかを後から説明するのは簡単ではありません。
要するに、帳簿に出ないことと、貸し方の曖昧さが、個人名義の土地を見えにくくします。
3. 特定同族会社事業用宅地等の4つの要件
この特例は、小規模宅地等の特例のうち、同族会社の事業に使われている土地を対象にした区分です。国税庁のタックスアンサーNo.4124(相続した事業の用や居住の用に供されていた宅地等の価額の特例)に、区分ごとの要件が整理されています。ここでは、国税庁の案内や解説で整理されている4つの要件を並べます。詳細な条件や例外は、国税庁の原文と税理士の確認が欠かせません。
| 要件 | 確かめること | 確認する相手 |
| 1. 会社の株の持ち方 | 相続の開始の直前に、社長と親族などで発行済株式の総数の50%を超えて持っていたか | 税理士(株主名簿) |
| 2. 会社の事業の種類 | 土地を使う事業が、不動産貸付業・駐車場業などの貸付けの事業ではないか | 税理士 |
| 3. 土地の貸し方 | 会社に有償で貸していたか(無償の使用ではないか)。書面や地代の実態はどうか | 税理士・社長 |
| 4. 取得者の立場 | 土地を取得する親族が、申告期限に会社の役員で、申告期限まで土地を持ち、会社の事業での利用も続くか | 税理士・後継者 |
3-1. 要件1|会社の株の持ち方
対象になる会社は、被相続人と親族などが、発行済株式の総数の50%を超える株式を持つ法人とされています。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)
この判定は相続の開始の直前の株主構成で行います。株主名簿が整っていないと、判定そのものができません。名義株や、過去に譲渡した株の記録が曖昧な会社は、先に整理が必要です。
どの親族までを合算するかなど、細かな判定は個別の事情で分かれます。税理士に確認してください。
3-2. 要件2|会社の事業の種類
国税庁の案内では、この区分は貸付事業を除く事業が対象とされています。貸付事業には、不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業・準事業が含まれるとされています。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)
製造・販売・サービスなど、通常の事業に使われている土地が想定されています。会社の一部の敷地を駐車場として貸しているような場合は、使い方で扱いが分かれるため、全体の使い方を整理しておきます。
3-3. 要件3|土地の貸し方
実務の解説では、この区分は被相続人が土地を会社に有償で貸していることが前提とされています。国税庁の質疑応答事例にも、被相続人が建物を相当の対価で会社に貸していた事例が載っています。(出所:国税庁 質疑応答事例〔小規模宅地等の特例〕)
無償で使わせていた場合の扱いは、対象外とする解説もありますが、この記事では国税庁の原文で確認できていないため、断定しません。個別の事情を添えて税理士に確認してください。
地代の水準が「相当の対価」に当たるかどうかは、この記事では判断できません。実際の地代と取り決めを税理士に見てもらってください。
また、建物の所有者が社長か会社か、賃貸借か使用貸借かによって、土地の扱いが変わることがあります。登記と契約書、地代の振込の記録を並べて確かめます。
3-4. 要件4|取得者の立場
土地を取得する親族は、相続税の申告期限に、その会社の役員であることが求められます。さらに、申告期限まで土地を持ち続け、会社の事業での使用も申告期限まで続くことが挙げられています。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)
つまり、取得者が決まらない間や、取得後すぐに売却や事業の廃止がある場合は、特例の対象から外れる場合があります。
限度面積と減額の割合も、国税庁の案内に書かれています。特定事業用宅地等と合わせて400平方メートルまで、減額割合は80%とされています。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)ただし、他の区分の宅地等と併せて使う場合の面積の調整や、制度の改正があるため、適用の年の内容を国税庁の原文で確認する必要があります。
この記事では要点に絞って解説しました。自社株と納税資金を、法人保険を含めて全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【社長へ】自社株の相続税 納税資金を法人保険で備える3つの視点
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要するに、株の持ち方・事業の種類・貸し方・取得者の立場の4つが、そろって確認できてはじめて検討の入口に立ちます。
4. 社長個人名義の土地の相続でありがちな失敗場面
特例に頼りすぎる場合と、何も確かめない場合の両方に、失敗の形があります。対にして見ます。
4-1. 備えが足りない場面
- 名義を確かめていない:たとえば、社長が「会社の土地だ」と思い込んでいたとします。相続の手続きではじめて個人名義と分かり、後継者への引き継ぎ方を急いで考えることになります。
- 貸し方が書面になっていない:たとえば、地代の取り決めがなく、無償で使っていた会社があったとします。相続の後で「有償だったか」を後継者が説明しなければならず、特例の検討の前提が揃いません。
- 株主名簿が古い:たとえば、昔の出資者の名義が残ったままだとします。持株の割合の判定が難しくなり、税理士の確認に時間がかかります。
4-2. 備えが重すぎる場面
- 特例を前提に納税資金を決める:たとえば、「特例で評価が小さくなるはず」と見込み、納税の資金を用意しなかったとします。要件に合わなければ、申告の直前に資金が足りなくなります。
- 特例のために貸し方や事業を急に変える:たとえば、相続の直前に地代を決めたり、事業の使い方を変えたりしたとします。実態と合わない形になり、かえって説明が難しくなります。
- 必要以上に資金を寝かせる:たとえば、納税の見込みが固まらないまま、会社の現預金や保険料の負担を大きくしたとします。平時の資金繰りや設備投資に余裕がなくなります。
特例は、使えるかどうかを確かめた「後」の話です。まず、使えなかった場合の納税額を見立て、そのうえで、使える場合の見通しを重ねる順番にします。
要するに、確かめない失敗と、期待しすぎる失敗の両方を避けるため、特例なしの見通しから先に立てます。
5. 社長個人名義の土地について今週できる確認チェックリスト
難しい計算は要りません。次の5つを、今週のうちに確かめます。
- 会社が使っている土地と建物の登記を取り、所有者を確かめましたか。
- 土地を会社に貸している取り決め(地代の有無・書面)を確かめましたか。
- 会社の株主名簿を最新にし、社長と親族の持株の割合を一覧にしましたか。
- 後継者が会社の役員に就く予定と時期を、社長と話しましたか。
- 特例が使えない場合の納税額の見立てを、税理士に依頼しましたか。
この5つが揃うと、税理士に相談するときの話が早く進みます。揃わない項目があれば、それが次の宿題です。
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要するに、登記・貸し方・株主名簿・後継者の立場・納税額の見立ての5つを、まず手元にそろえます。
6. よくある質問
Q1. 社長個人名義の土地を会社が使っていると、相続税はどうなりますか。
名義が社長個人であれば、会社が使っていても社長個人の相続財産として評価されます。評価額を小さくできる特例がありますが、要件が細かく、当てはまらない場合もあります。適用の可否は税理士に確認してください。
Q2. 特定同族会社事業用宅地等とは、どんな土地ですか。
被相続人と親族などで発行済株式の総数の50%を超えて持つ会社の事業(貸付事業を除く)に使われている土地を対象にした区分です。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)実務の解説では、会社への貸し方は有償であることが前提とされています。
Q3. 会社に土地を無償で使わせていた場合も、この特例を使えますか。
対象外とする解説もありますが、国税庁の原文では確認できていないため、この記事では断定しません。地代の有無と書面を整理して、税理士に確認してください。
Q4. 後継者は、いつまでに会社の役員になっていればよいですか。
国税庁の案内では、土地を取得する親族が、相続税の申告期限に会社の役員であることが求められるとされています。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)就任の時期や手続きは、会社の状況によって異なるため、税理士と確認します。
Q5. 特例が使えるとき、どれくらい評価が減りますか。
国税庁の案内では、特定事業用宅地等と合わせて400平方メートルまで、減額の割合は80%とされています。(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)ただし、他の区分との併用や制度の改正があります。実際の金額は、適用の年の内容にもとづいて税理士が試算します。
Q6. 特例が使えなかったとき、納税の資金はどう用意しますか。
特例なしの評価額で納税額を見立てておくと、準備の量が分かります。現預金・会社からの支払い・保険の活用など、手段は会社の状況で変わります。加入を急ぐ必要はなく、まず見立てを作ることが先です。
7. まとめ
- 社長個人名義の土地は、会社が使っていても社長個人の相続財産です。まず登記と貸し方を確かめます。
- 特定同族会社事業用宅地等の要件は、株の持ち方・事業の種類・土地の貸し方・取得者の立場の4つです(出所:国税庁タックスアンサー No.4124)。
- 特例が使えると決めつけず、特例なしの納税額を先に見立てます。
- 適用の可否や細かな要件は、税理士の領域です。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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