通院を続けている社長が、顧問税理士に尋ねる場面があります。「会社の万一資金として保険を考えたいが、持病があると入れないのではないか」。

加入できるかどうかは、保険会社の審査で決まります。ですから、外から断定はできません。ただ、「入れないかもしれない」と思った時点で、会社の備えを考えること自体をやめてしまう社長が少なくありません。

この記事では、持病や通院歴のある社長が、法人保険の加入を考えるときの告知の考え方と、加入が難しい場合の代わりの備えを整理します。保険に入れることが前提の話でも、入れないことが前提の話でもありません。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 加入できるかは保険会社の審査で決まり、持病があるというだけでは決まりません。告知は、質問に事実のとおり答えることが基本です。
  • 加入が難しい場合でも、備えは保険だけではありません。被保険者の見直し・運転資金の準備・借入金の見直し・公的保障の確認の4つの方法があります。
  • 入れないことは、備えができないことを意味しません。不安を抱えたまま先送りせず、会社の数字から整理します。

この記事で分かること

  • 持病のある社長が、法人保険で迷う3つの場面
  • 迷いが長引く理由と、告知の基本的な考え方
  • 加入が難しい場合の4つの方法と、確認の手順
  • 備えすぎ・備えなさすぎの失敗場面と、今週できる確認

1. 社長の持病と法人保険の加入で迷う3つの場面

迷う場面は、検討を始めるとき・告知書を前にしたとき・結果を受け取ったときの3つです。順に見ていきます。

1-1. 検討を始める前に、あきらめてしまう

借入金の返済が続く会社では、社長に万一があったときの資金を考える機会が出てきます。

たとえば、通院歴のある社長が「どうせ入れないから」と、話を聞く前に検討をやめたとします。実際に審査を受けたら引き受けられる可能性が残っていたとしても、確かめないままでは、その機会を逃します。

反対に、期待しすぎるのも禁物です。どちらかに決めつけず、まず状況を確かめる、というのが出発点です。

1-2. 告知書を前に、どこまで書くかで手が止まる

告知書には、過去の病気や通院、服薬、検査での指摘などを尋ねる質問があります。

たとえば、数年前に治療を終えた病気を書くべきか迷う場面があります。質問の対象期間と内容に当てはまるかどうかを、質問文に沿って確かめます。自己判断で省くのは避けます。

告知の義務や、解除の考え方については、次の記事で詳しく整理しています。

法人保険の告知義務違反と解除

1-3. 審査の結果が、望んだ形にならない

審査の結果は、加入できる場合もあれば、条件がつく場合、加入できない場合もあります。結果は保険会社の判断で、社長の努力や言い分では動きません。

たとえば、条件がついて保険料が重くなる、または加入できないという結果が出たとき、備えをどう組み替えるかが次の課題になります。

要するに、検討前・告知書・結果の3場面で、どこまでが確かめられることで、どこからが保険会社の判断かを分けて考えます。

2. 迷いが長引く理由と、告知の基本的な考え方

迷いが長引く理由は、結果が分からないことへの不安と、告知の扱いへの不安の2つです。整理します。

2-1. 結果を決めつけると、動けなくなる

「入れるはず」「入れないはず」と先に決めると、確認の行動が止まります。

加入の可否は、病名だけでなく、病状、治療の経過、検査結果などをもとに、保険会社が判断します。外から言い当てることはできません。分からないことは分からないまま、確かめる手順に進みます。

2-2. 告知は、質問に事実のとおり答えること

保険法の定める告知義務は、保険会社が告知を求めた事項に答える義務です。(出所:保険法第37条。生命保険文化センターの解説による)

故意または重大な過失により、事実を告げなかった、または事実と異なることを告げたときは、保険会社が契約を解除できる場合があるとされています。(出所:保険法第55条第1項)

持病があるときに、「入れるように書く」ことは、本来の目的に反します。契約が成立しても、万一の際に保険金が受け取れなくなるおそれがあれば、備えとして意味を持ちません。

反対に、「事実のとおり答えて、結果を受け止める」ことは、会社の備えを確かなものにします。書き方の相談で迷うときは、募集人だけでなく、告知書の質問文そのものに戻ります。

2-3. 引受基準を緩やかにした保険の考え方(一般論)

健康状態に不安がある人向けに、引受基準を緩やかにした保険や、告知の項目を限定した保険が、各社から出されていると説明されています。

一般に、告知項目が少ない分、標準的な保険に比べて保険料が割高になりやすい、と説明されています。また、商品によっては、契約後の一定期間、支払われる額が抑えられる場合があるとされています。

こうした保険の有無や条件、法人契約で使えるかどうかは、商品ごとに大きく違います。この記事では、特定の商品や条件は取り上げません。比べる場合は、保障の内容・保険料・制限の期間を、設計書と約款で確認します。

要するに、結果を決めつけず、質問に事実のとおり答えることが、告知の基本です。

3. 加入が難しい場合に考える4つの方法

代わりの備えは、被保険者の見直し・運転資金の準備・借入金の見直し・公的保障の確認の4つです。まず表で整理します。

方法 考え方 注意すること
1. 被保険者の見直し 後継者や役員など、ほかの人を被保険者にする 本人の同意が必要。その人にも告知がある
2. 運転資金の準備 万一や休業の期間を乗り切る現預金を持つ 積み立てには時間がかかる
3. 借入金の見直し 借入金の額や返済の計画を見直す 金融機関ごとに対応が違う
4. 公的保障の確認 加入している公的制度で受けられる給付を知る 制度ごとに条件が違う

3-1. 方法1|被保険者の見直し

契約者以外の人を被保険者として、その人の万一の際に保険金が支払われる契約を結ぶには、被保険者の同意が必要とされています。(出所:保険法第38条)

社長以外に会社を支える後継者や幹部がいる場合、その人を被保険者とする備えが考えられる、という一般論です。ただし、その人にも告知があり、加入できるとは限りません。また、社長の万一に備える目的と、後継者の万一に備える目的は異なります。目的が合わないまま被保険者を変えると、必要な資金に届かないことがあります。

加入を勧めるものではありません。会社に必要な保障の額は、次の記事の考え方で先に出します。

社長の必要保障額の出し方

3-2. 方法2|運転資金の準備

保険に代えて、あるいは保険に加えて、会社の手元資金を厚くする考え方があります。

万一や長期の休業の期間にも、給与・家賃・仕入先への支払いは続きます。何か月分を手元に置くかは、会社の固定費の大きさと、社長が担っている役割によって変わります。

たとえば、毎月の固定費の月数を一度数えてみると、必要な額の見当がつきます。具体的な額や月数の目安は、会社ごとに違うため、ここでは書きません。

手元資金を積むには時間がかかります。決算ごとの利益から、無理のない範囲で、計画的に進めます。

3-3. 方法3|借入金の見直し

社長に万一があったとき、借入金の返済と連帯保証が、残された人の負担になることがあります。

借入金の額が、会社の返済力に対して重すぎないか、返済の期間が適切かを、顧問税理士と点検します。借入金と連帯保証をめぐる国の考え方としては、日本商工会議所と全国銀行協会が中心となって策定し、2013年12月に公表した、経営者保証に関するガイドラインがあります。個別の金融機関との交渉内容は、この記事では扱いません。

借入金と連帯保証から家族を守る事業保障の全体像は、次の記事で詳しく解説しています。

借入金と連帯保証から家族を守る事業保障

3-4. 方法4|公的保障の確認

病気やけがで働けないときの公的な給付として、健康保険の傷病手当金があります。条件を満たすと、働けない期間に支給され、支給期間は通算して1年6か月とされています。国民健康保険には、原則としてこの制度がありません。(出所:全国健康保険協会)

社長や役員が、どの健康保険に加入しているか、役員報酬を受けている間の扱いはどうなるかは、個別の事情で変わります。社長の傷病手当金については、次の記事で整理しています。

社長は傷病手当金をもらえるのか

また、中小事業主や役員も、条件を満たせば労災保険に特別加入できる制度があります。(出所:厚生労働省)

公的な給付の対象になるか、金額がいくらかは、加入先に直接確認します。社会保険の個別の判断は、社会保険労務士の領域です。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】社長が売上を支える会社の事業保障 5つの備え

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4. 持病のある社長が陥りやすい備えの失敗場面

備えは、あきらめて何もしない側にも、不安から重ねすぎる側にも、失敗が起こります。対にして見ます。

4-1. 備えなさすぎの場面

  • 入れないと決めて、検討をやめた:たとえば、社長が確かめないまま先送りし、運転資金も借入金の整理も手つかずのまま数年が過ぎます。
  • 告知を省いて、入れた形にした:たとえば、治療歴を書かないまま契約したとします。後で事実との食い違いが分かると、解除の対象になり得ます。備えにならないばかりか、保険料も無駄になります。
  • 公的な給付を調べないまま、全額を会社の資金で賄う前提にした:たとえば、経理担当者が、傷病手当金の対象かどうかを確かめずに計画を作ると、見込みが合わなくなります。

4-2. 備えすぎ・重ねすぎの場面

  • 割高でも、とにかく入ろうとした:たとえば、条件を比べずに保険料の重い契約を結び、毎月の資金繰りを圧迫します。
  • 手元資金を、必要以上に積み上げた:たとえば、不安から設備投資や従業員への還元を止めて、現預金だけを積み上げます。事業の成長の機会を失うことがあります。
  • 後継者に、負担の大きい備えを割り当てた:たとえば、本人の同意や健康状態を確かめずに被保険者に決め、後で組み替えになります。

どの方法も、単独で完結させず、組み合わせて考えます。保険に入れる場合でも、運転資金と借入金の整理は役に立ちます。

要するに、あきらめず、重ねすぎず、4つの方法を会社の数字に合わせて組み合わせます。

5. 今週できる確認チェックリスト

今週の目標は、結果を決めつけずに、会社の数字から整理を始めることです。

  • 毎月の固定費(給与・家賃・返済など)を、1枚に書き出した
  • 借入金の残高と、連帯保証の有無を一覧にした
  • 加入中の保険契約と、被保険者・保障額を確かめた
  • 自分と役員が加入している健康保険の種類を確かめた
  • 申込みを考えるなら、告知書の質問文を先に読み、手元の記録と並べた

通院や服薬の記録は、診察券やお薬手帳、健康診断の結果票などで確かめられます。医療や健康に関する判断は、主治医に相談してください。

あわせて読みたい記事です。

要するに、固定費・借入金・既存の契約・健康保険の4つを書き出すことが、今週の一歩です。

6. よくある質問

Q1. 持病があると、法人保険には入れませんか。

持病があるというだけで決まるわけではありません。加入できるかは、病状や治療の経過などをもとに、保険会社が判断します。外から言い当てることはできないため、告知書の質問に事実のとおり答えて、結果を確かめます。

Q2. 通院歴を書かなければ、入りやすくなりますか。

書かないことはおすすめしません。故意または重大な過失で事実を告げなかったときは、保険会社が契約を解除できる場合があるとされています。(出所:保険法第55条第1項)万一の際に保険金が受け取れなくなるおそれがあります。

Q3. 引受基準を緩やかにした保険なら、入れますか。

一般に、告知項目を限定した保険があると説明されていますが、加入できるかは商品ごとの条件によります。保険料が割高になりやすい点や、支払いが抑えられる期間がある場合がある点も、あわせて確かめます。特定の商品の可否は、この記事では判断しません。

Q4. 社長が入れない場合、後継者を被保険者にできますか。

契約者以外の人を被保険者として、その人の万一の際に保険金が支払われる契約を結ぶ場合は、被保険者の同意が必要とされています。(出所:保険法第38条)その人にも告知があり、加入できるとは限りません。目的に合うかどうかも、先に確かめます。

Q5. 社長が病気で働けなくなったとき、公的な給付はありますか。

健康保険に加入していれば、条件を満たすと傷病手当金が支給され、支給期間は通算して1年6か月とされています。国民健康保険には、原則としてこの制度がありません。(出所:全国健康保険協会)社長や役員の扱いは個別の事情で変わるため、加入先に確認してください。

Q6. 保険に入れなくても、会社を守る方法はありますか。

被保険者の見直し・運転資金の準備・借入金の見直し・公的保障の確認という4つの方法があります。組み合わせは会社ごとに違うため、固定費と借入金の数字から整理します。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 加入できるかは保険会社の審査で決まり、持病の有無だけでは決まりません。告知は、質問に事実のとおり答えることが基本です(出所:保険法第37条・第55条第1項)。
  • 引受基準を緩やかにした保険は、一般に保険料が割高になりやすく、条件は商品ごとに違います。
  • 加入が難しい場合の方法は、被保険者の見直し・運転資金の準備・借入金の見直し・公的保障の確認の4つです。
  • 入れないことは、備えが不可能という意味ではありません。会社の数字から整理し、個別の判断は専門家に確認します。

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筆者は、健康に不安があるときほど、保険の話より先に、会社の数字と守りたい人の話を整理することが大切だと考えています。入れるかどうかの前に、できる備えを一緒に確かめていきます。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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