【実務の目線】自社株の生前贈与後に相続が起きたら 3つのチェック項目
社長が数年前から、毎年少しずつ後継者に自社株を贈与してきた会社があります。贈与の契約書は金庫にしまわれ、経理担当者は年に一度、株主名簿を書き換えるだけです。
「もう贈与は進めているから、相続の心配は小さい」。社長も専務もそう考えています。
ところが、贈与の途中で相続が起きると、すでに渡した株が相続の計算に戻ってくる場合があります。贈与したから終わり、とは限りません。
この記事では、自社株の生前贈与をすでに行っている会社が、相続が起きたときに確かめておきたい3つのチェック項目を、実務の目線で整理します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 暦年課税の贈与は、相続開始前の一定期間分が、相続財産に加算されます。
- 確認する項目は、贈与の記録・加算される期間・相続後の資金の見立ての3つです。
- 期間は法改正で段階的に延びています。個別の税務判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 生前贈与の途中で相続が起きたときの3つの場面
- 贈与済みと思い込みやすい理由
- 確かめる3つのチェック項目と、進め方
- 確認が足りない場合と、慎重すぎる場合の対比
1. 自社株の生前贈与の途中で相続が起きたときの3つの場面
贈与の途中で相続が起きると、計算・資金・家族の3つの場面で想定とのずれが出ます。順に見ていきます。
1-1. 贈与した株が、相続の計算に戻ってくる
相続開始前の3年以内に暦年課税で受けた贈与は、相続財産に加算されます。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、加算される期間が段階的に7年へ延長されています。(出所:相続税法第19条、国税庁)
つまり、贈与した時期によっては、すでに渡した株が、相続税を計算するときの財産に含まれます。
たとえば、社長が数年のあいだ毎年株を贈与していたところで亡くなったとします。後継者は「贈与で済んだ株」と考えていても、相続の計算では加算される場合があります。
1-2. 納税の資金が、想定より足りない
贈与を重ねて、相続の財産を減らしたつもりでも、加算の対象になれば、思ったほど課税の対象は減っていません。
後継者は、相続税の納税資金を、想定していた額より多く用意しなければならない場合があります。
たとえば、贈与で相続税の負担が軽くなると見込んでいた後継者が、申告の段階で納税資金の不足に気づく場面です。
1-3. 贈与を受けた人と、受けていない人の間で気持ちがずれる
後継者に株を贈与していると、他の相続人は「すでに多くを渡している」と感じる場合があります。
贈与の経緯が共有されていないと、遺産分割の話し合いで言い分が食い違います。
書類が残っていても、何のための贈与だったかが伝わっていないと、不信感につながります。
要するに、贈与した株の持ち戻し・納税資金の見立て・家族の納得の3つで、想定とのずれが起きやすくなります。
2. 贈与済みだから大丈夫と思い込みやすい理由
思い込みやすい理由は、贈与の時点で手続きが完了したように見えることと、期間の変更が知られていないことの2つです。整理します。
2-1. 名義が変わると、終わった感覚になる
株主名簿を書き換え、贈与の契約書を作ると、手続きとしては一区切りです。
経理担当者の作業も、そこで終わります。そのため、社内には「贈与は完了した」という雰囲気が残ります。
しかし、相続税の計算では、贈与の時期と相続の時期の関係が問われます。名義の変更とは別の話です。
2-2. 加算の期間が変わったことが、知られていない
加算の期間は、以前は3年でした。制度の改正で、段階的に7年へ延びています。(出所:相続税法第19条、国税庁)
数年前に聞いた知識のまま、「3年たてば関係ない」と考えている社長もいます。
期間の延長は、贈与の時期によって適用が分かれます。自社の贈与がどの扱いになるのかは、税理士に確認します。
要するに、名義が変わった安心感と、期間の変更の見落としが、確認を後回しにさせます。
3. 生前贈与のあとに確かめる3つのチェック項目
確かめる項目は、贈与の記録・加算される期間・相続後の資金の見立ての3つです。まず全体を表で整理します。
| チェック項目 | 確かめること | 主な相談先 |
| 1. 贈与の記録 | いつ、誰に、どの株を贈与したかの一覧 | 社長・経理担当者・税理士 |
| 2. 加算される期間 | 贈与の時期と、相続税法の加算の扱い | 税理士 |
| 3. 相続後の資金 | 納税の資金と、他の相続人への配慮 | 税理士・FP1級 |
3-1. チェック項目1|贈与の記録を一覧にする
贈与した年・株数・相手・契約書の有無を、年表の形で一覧にします。
金庫の契約書や、申告の控えを集めると、全体の流れが見えます。記録が抜けている年があれば、早めに拾っておきます。
この一覧が、税理士に相談するときの土台になります。贈与税の申告の有無も、あわせて確かめます。
3-2. チェック項目2|加算される期間を、贈与の時期ごとに確かめる
相続開始前の一定期間に暦年課税で受けた贈与は、相続財産に加算されます。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、加算期間が段階的に7年へ延長されています。(出所:相続税法第19条、国税庁)
贈与の時期によって、加算の対象になるかどうかが分かれます。一覧にした贈与のそれぞれについて、税理士に確認してもらいます。
税務の個別判断・申告は、税理士の領域です。自分で期間を計算して判断することは、避けます。
3-3. チェック項目3|相続後の納税資金と家族への配慮を見立てる
加算の結果、相続税の課税の対象が想定より増えることがあります。納税の資金を、後継者がどこから用意するかを、早めに見立てておきます。
承継・相続の資金を法人保険で備える選択肢もありますが、必要な額を見立てる前に、手段を決めることは避けます。会社の資金繰りへの影響も、あわせて確かめます。
他の相続人には、贈与の目的と経緯を、社長の言葉で伝えておきます。書面に残すと、後から説明しやすくなります。
3-4. 進め方|4つの手順
- 書類を集める:贈与の契約書・申告の控え・株主名簿を、1か所にまとめます。
- 年表にする:贈与の年・株数・相手を、時間の順に並べます。
- 税理士に確認する:加算の扱いと、納税資金の見立てを依頼します。
- 家族に伝える:贈与の目的を、社長の考えとして整理します。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、記録を揃え、期間を確かめ、相続後の資金を見立てる3つを、贈与済みの会社でも順に進めます。
4. 生前贈与のあとに起きやすい失敗|確認不足と慎重すぎる対応
失敗は、確認しない側と、慎重になりすぎる側の両方で起きます。対にして見ていきます。
4-1. 備えが足りない場面
- 贈与を終わった話にする:たとえば、社長が「株は全て渡したから、もう相続とは関係ない」と考えていたとします。相続が起きて加算の対象と分かり、後継者は納税資金の確保に追われます。
- 記録が散らばっている:たとえば、経理担当者が贈与の契約書の保管場所を知らないとします。万一のあと、申告の準備に時間がかかります。
- 家族に経緯を伝えていない:たとえば、社長が後継者への贈与を、他の相続人に説明していなかったとします。遺産分割の席で言い分が食い違い、話が長引きます。
4-2. 備えが重すぎる場面
- 加算を恐れて贈与を急ぐ:たとえば、社長が相続の計算を気にして、まとまった株を一度に贈与したとします。後継者の資金や、他の相続人との関係を考える余裕がなくなります。
- 納税の財源を大きく積みすぎる:たとえば、社長が最悪の場合を想定し、必要以上に大きな保険料の契約を結んだとします。毎月の資金繰りが重くなります。
贈与の進め方と財源の大きさは、税理士の試算をもとに、会社の資金繰りと並べて決めます。贈与のたびに、記録と見立てを更新します。
要するに、贈与を終わった話にせず、かといって急ぎすぎず、記録と試算に合わせて整えます。
5. 今週できる生前贈与後の確認チェックリスト
今週のうちに、次の5項目を確かめます。計算は税理士に任せて構いません。
- 贈与の契約書と、申告の控えを1か所に集めましたか。
- 贈与の年・株数・相手を、年表にしましたか。
- 相続開始前の贈与が加算される扱いを、税理士に確認しましたか。
- 相続後の納税資金の見立てを、後継者と話しましたか。
- 贈与の目的を、他の相続人にどう伝えるかを考えましたか。
答えにくい項目は、税理士に相談する出発点になります。
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6. 生前贈与についてよくある質問
Q1. 贈与した株は、相続のときに関係ありますか。
暦年課税の贈与は、相続開始前の一定期間分が相続財産に加算されます。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、期間が段階的に7年へ延長されています。(出所:相続税法第19条、国税庁)
Q2. 以前は何年だったのですか。
相続開始前3年以内の贈与が、加算の対象でした。(出所:相続税法第19条、国税庁)現在は段階的に7年へ延びているため、贈与の時期を一覧にして、税理士に確認してください。
Q3. 贈与から何年たてば、加算されませんか。
贈与の時期によって扱いが変わるため、一律には答えられません。自社の贈与がどの扱いになるのかは、税理士に確認してください。
Q4. 贈与の記録がそろっていません。どうすればよいですか。
契約書や、贈与税の申告の控え、株主名簿から、分かる範囲で年表を作ります。抜けている部分は、税理士に相談して補います。
Q5. 加算されると、納税資金はどうなりますか。
課税の対象が増える場合があり、納税資金も想定より多く必要になる可能性があります。具体的な額は、税理士に試算してもらってください。
Q6. 他の相続人に、贈与の経緯を伝えたほうがよいですか。
経緯が共有されていないと、遺産分割で言い分が食い違うことがあります。社長の言葉で、贈与の目的を書面に残しておくと、後から説明しやすくなります。
7. まとめ
- 暦年課税の贈与は、相続開始前の一定期間分が相続財産に加算されます。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、期間は段階的に7年へ延長されています(出所:相続税法第19条、国税庁)。
- 確認する項目は、贈与の記録・加算される期間・相続後の資金の見立ての3つです。
- 贈与は、名義が変わったあとも確認が続きます。
- 税務の個別判断・申告は、税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。贈与の年表をもとに、相続後の資金の見立てを一緒に整理します。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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