【要点整理】中退共だけの会社が福利厚生を見直すときの4つの視点
創業から二十年を超えた会社の決算説明で、社長が顧問税理士に尋ねる場面があります。「退職金は、ずっと中退共に掛けてきたよ。それで十分だよね」。税理士は頷いたあと、少し言葉を選んで答えます。「掛金の枠と、社長が従業員に伝えている水準を、一度並べてみませんか」。
中小企業退職金共済制度(中退共)は、中小企業が従業員の退職金の準備に使える国の制度です。手間が少なく続けやすい一方で、「中退共だけで足りるのか」を確かめないまま年月が過ぎている会社も少なくありません。
この記事では、中退共のみに加入している会社が、制度の特徴を踏まえて福利厚生を見直すときの要点を整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
この記事で分かること
- 中退共の基本的な仕組みと、その特徴
- 中退共だけの会社で、見落とされやすい3つの場面
- 見直しで押さえる4つの視点
- 今週できる確認項目と、よくある質問
結論
- 中退共は国の制度で、退職金は従業員に直接支払われます。掛金月額には範囲があります。
- 中退共だけで足りるかは、掛金の範囲、会社の約束する水準、在職中の保障の3つを並べて確かめます。
- 上乗せや保障の追加は、足りない部分が分かってから、目的を決めて考えます。
1. 中退共のみに加入している会社で、見落とされやすい3つの場面
中退共だけの会社では、掛金の枠・退職時の説明・在職中の万一の3つの場面が見落とされがちです。
1-1. 勤続の長い従業員が退職を申し出たとき
たとえば、勤続が長いベテランの従業員が退職を申し出たとします。社長が口頭で「退職金はちゃんと出すから」と伝えていたとします。
中退共から支払われる額が、従業員が期待していた水準と違うと、気持ちの行き違いが生まれます。長年の信頼関係に、傷がつきかねません。
1-2. 従業員が在職中に病気やケガで働けなくなったとき
たとえば、働き盛りの従業員が長期の入院になったとします。
中退共は退職金の制度で、退職金は従業員に直接支払われます。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)在職中の病気やケガ、万一の備えは、別に考える必要があります。
1-3. 給与や役割が上がったのに、掛金が据え置きのまま
たとえば、入社時に決めた掛金を、昇給や昇格のあとも変えていなかったとします。
給与や役割は上がっているのに、退職金の積み上がり方が当時のままだと、後から差に気づくことになります。
要するに、退職時の説明・在職中の万一・掛金の据え置きの3つが、中退共だけの会社で見落とされやすい場面です。
2. 中退共の掛金の枠と会社の約束が、ずれやすい理由
ずれやすい理由は、制度に枠があることと、会社の言葉による約束が記録に残りにくいことの2つです。
2-1. 掛金には、決まった範囲がある
中退共の掛金月額は、5,000円〜30,000円の範囲で決める仕組みです(短時間労働者の特例を除く)。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)
範囲があるため、会社が従業員に約束したい水準が高い場合、中退共だけでは届かないことがあります。
届くかどうかは、勤続年数や掛金の選び方で変わります。個別の金額は、機構の案内で確認してください。
2-2. 口頭の約束が、記録に残っていない
退職金は、制度を設けるなら就業規則への記載が必要です。(出所:労働基準法第89条第3号の2)
ところが、中退共に加入しているからと、規程を作らないままの会社もあります。社長の口頭の約束だけが残り、退職時に認識の違いが表に出ます。
規程がない状態は、公平に説明できない状態でもあります。
要するに、制度の枠と、記録に残らない約束の2つが、ずれの原因です。
3. 中退共に加えて福利厚生を充実させるための4つの視点
見直しの視点は、中退共の確認・会社の約束との差・在職中の保障・上乗せの目的の4つです。表で整理します。
| 視点 | 確かめること | 確認先 |
| 1. 中退共の確認 | 従業員ごとの掛金月額と加入状況 | 中退共の事業本部・社会保険労務士 |
| 2. 会社の約束との差 | 規程や口頭で伝えた水準と、中退共で見込める額の差 | 社会保険労務士・FP |
| 3. 在職中の保障 | 病気・ケガ・万一のとき、会社として何を用意するか | FP・社会保険労務士 |
| 4. 上乗せの目的 | 何のために、誰に対して、どの水準で上乗せするか | 社長・税理士・FP |
3-1. 視点1|中退共の加入状況を、従業員ごとに確かめる
中退共は、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が運営する国の制度です。
従業員ごとに、いまの掛金月額と加入の状況を一覧にします。掛金は、5,000円〜30,000円の範囲で設定します(短時間労働者の特例を除く)。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)
法人の場合、掛金は全額が損金として扱われます。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)経理処理の個別の判断は、顧問税理士に確認してください。
3-2. 視点2|会社の約束と中退共の差を、言葉にする
社長が従業員に伝えている水準と、中退共で見込める額を並べます。
差がなければ、現状の維持で足ります。差が小さいと分かること自体が、大切な確認結果です。差があれば、埋める方法を考える材料になります。
3-3. 視点3|在職中の保障を、退職金と切り分けて考える
退職金の準備と、在職中の病気・ケガ・万一への備えは、目的が違います。
前者は退職後の生活、後者は働いている間に起きる事態への備えです。混ぜて考えると、どちらも中途半端になります。
保障を考える場合は、福利厚生として扱うときの加入範囲も確かめます。
3-4. 視点4|上乗せは、目的と範囲を決めてから考える
中退共に加えて退職金の財源を用意するなら、「誰に、何のために、どの水準で」を決めます。
対象を一部の人に限るなら、その理由を説明できる必要があります。規程に書き、従業員に伝え、必要な同意の手続きを踏みます。
3-5. 進め方|4つの順番で確かめる
- 加入状況を一覧にする:従業員ごとの掛金月額を書き出します。
- 約束の水準を書き出す:規程や口頭で伝えた水準を確かめます。
- 差を言葉にする:中退共で見込める額との差を、社会保険労務士・FPと確かめます。
- 目的を決める:差や在職中の保障の空白があれば、誰に何のためかを決めてから考えます。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】中退共だけで足りる?従業員退職金を上乗せする4つの手順
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。まずは、いまの中退共の加入状況と、従業員に伝えている水準をお聞かせください。
\無料相談(30秒で予約)/
要するに、加入状況・約束との差・在職中の保障・上乗せの目的を、順に確かめます。
4. 中退共だけの会社の福利厚生で起きやすい失敗|備え不足と備えすぎ
備えは、削りすぎても重ねすぎても、あとで社長が困ります。
4-1. 見直さず、備えが足りなくなる場面
- たとえば、社長が「中退共に入っているから」と、掛金を創業時のまま据え置いたとします。従業員が増え、給与が上がっても、退職金の水準が追いつかなくなります。
- たとえば、社長が退職金を口頭で約束したまま、規程を作らなかったとします。退職の場面で、金額の認識が食い違います。
- たとえば、在職中のケガによる長期休業に、会社の資金だけで対応する羽目になったとします。想定外の支出が運転資金を圧迫します。
4-2. 重ねすぎて、会社が苦しくなる場面
- たとえば、社長が不安から退職金の上乗せを何本も重ねたとします。毎月の支払いが重く、賞与や設備の資金が削られます。
- たとえば、社長が中退共の掛金に加えて、別の仕組みでも同じ従業員の退職金に備えていたとします。経理担当者は支払いを続けるだけで重複に気づかず、無駄な負担が続きます。
- たとえば、一部の役職者だけに手厚い備えを設けたとします。一般の従業員の不満が表に出ます。
どちらの場面も、中退共で足りている部分と足りない部分を分けずに、動いたことが原因です。
要するに、足りない部分を特定してから動けば、削りすぎも重ねすぎも避けやすくなります。
5. 今週できる中退共の確認チェックリスト
今週のうちに、次の5つを確かめます。
- 従業員ごとの中退共の掛金月額と加入状況を、一覧にした
- 従業員に伝えている退職金の水準を、書き出した
- 就業規則や退職金規程に、退職金の定めがあるかを確かめた
- 在職中の病気・ケガ・万一の備えについて、会社の考え方を書き出した
- 税理士と社会保険労務士に、確認したい項目をまとめた
あわせて読みたい
要するに、掛金・約束・規程の3つを紙に並べるところから、見直しが始まります。
6. 中退共についてよくある質問
Q1. 中退共は、誰が運営している制度ですか。
独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が運営する国の制度です。手続きや最新の内容は、事業本部の案内で確認してください。
Q2. 中退共の掛金は、いくらから掛けられますか。
掛金月額は5,000円〜30,000円の範囲です(短時間労働者の特例を除く)。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)従業員ごとの設定は、事業本部や社会保険労務士に確認してください。
Q3. 退職金は、会社に支払われるのですか。
退職金は従業員に直接支払われます。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)会社を経由しないため、会社が受け取った退職金を従業員に渡す形にはなりません。
Q4. 中退共の掛金は、法人の経費になりますか。
法人の場合、掛金は全額が損金として扱われます。(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)個別の経理処理は顧問税理士にご確認ください。
Q5. 中退共に加えて、保障も用意したほうがよいですか。
一概には言えません。退職金と在職中の保障は目的が違うため、会社として何を補いたいかを先に決めます。そのうえで、必要な範囲を税理士・社会保険労務士・FPと確認します。
Q6. 規程がなくても、中退共から退職金は出ますか。
中退共の仕組みと、会社の就業規則は別です。退職金制度を設けるなら、就業規則への記載が必要です。(出所:労働基準法第89条第3号の2)社会保険労務士に確認してください。
7. まとめ
- 中退共は国の制度で、掛金月額は5,000円〜30,000円の範囲です(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)。退職金は従業員に直接支払われます。
- 中退共だけで足りるかは、加入状況・会社の約束との差・在職中の保障・上乗せの目的の4つの視点で確かめます。
- 規程がない口頭の約束は、退職時のすれ違いのもとになります。
- 税務は税理士、労務は社会保険労務士・弁護士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。中退共の加入状況をもとに、足りない部分があるかを一緒に整理します。
\無料相談(30秒で予約)/
社長が守っているのは、ご家族だけではありません。毎日一緒に働く従業員と、そのご家族の暮らしも、社長の肩にかかっています。筆者はそう考えて、必要なものを、必要な分だけ整える相談を心がけています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
\経営者さま向け 法人保険のご相談/
「社長交代を機に保険を見直したい」「役員・従業員の退職金や福利厚生を整えたい」「万一のときの資金繰りが心配」――会社を守る備えについて、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)がお話を伺います。

